Silent Voice ~告白の行方~

マスカレード 

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トラブル

Silent Voice ~告白の行方~

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 祐樹は決心すると、二人の向いのソファーにどかっと座り、話の途中に割り込んだ。

「初めまして、如月成美さんですか? 【消えゆく泡の想い】で特殊メイクを担当させて頂く真野祐樹です」

 話の腰を折られた成美が、嫌そうな顔で祐樹を一瞥すると、僅かに顎を引いて、すぐに亮来に視線を戻す。
 何だこの女? 今のは挨拶のつもりか? 一体事務所はどんな礼儀を教えてるんだ? 
 驚きすぎて怒りが湧かない。有名人の二世かなにかで、周囲が親の顔色を窺うあまりに何も言えず、やりたい放題しているのだろうか?
 亮来もさすがに見かねたのか、成美の話を遮った。

「如月さん。テレビトークのレクチャーをありがとうございました。そろそろこちらのスタッフと合流する時間ですので、如月さんも俺のことは心配せず、ロスの滞在を楽しんでください。それと、彼は俺の大切なパートナーを務める人で、この業界では一目置かれている方ですので、改めて紹介させていただき……」

「私が彼の代わりに、今日の撮影に付き合ったらダメかしら? 日本での知名度なら私も負けていないと思うし、映画の宣伝を兼ねてなら、私たちが出る方が番組が盛り上がるんじゃない?」

 埒が明かないとと祐樹は思った。確かに映画の宣伝もあるが、番組は、外国で活躍する日本人を紹介するものだ。日本で活躍する二人が出てどうするんだと開いた口が塞がらない。
 それに、こんなに軽くあしらわれて黙っていられるほど、祐樹は寛容になれなかった。

「あんたね。今は売れっ子でチヤホヤされているかもしれないけれど、ほんの少し陰りが見えたら、総スカンされるよ。役者だけが偉いんじゃない。俺を含めてスタッフたちといい仕事をしようと思わなければ、あんたのために手間暇をかけて最高のものにしたいなんて気持ちは湧かない。いつか自分が見下していたものに、しっぺ返しを食らうぞ」

 ああ、これでこの映画の仕事はなくなっただろうなと思いつつ、そんなことよりも気になるのは亮来の反応だ。嫌われたかなとちらりと窺うと、亮来は笑いを堪えているようで、鼻がひくひく動いている。一先ず安心した祐樹に、成美の怒りの声が直撃した。

「な、何よあなた。アメリカでメイクアップアーティストなんかしているあなたに、日本の業界のことなんて分かるものですか。私が言えばあなたなんてスタッフから外れるかもしれないわよ」

「じゃあ、マナーも知らないお嬢さんに教えてあげよう。俺はこっちで働いているからはっきりと言いたいことはいう。まずは、番組の趣旨を誤解するな。あんたの出番はない。それと、あんたのマネージャーはどこだ? いきなり番組に出演すると言ってギャラはどうする?  俺は別に番組に出なくても構わないが、スタッフをバカにするあんたを撮影したいクルーはこっちにはいないぞ」

「その通り。僕もこんな世間しらずな女の子と一緒にランチはしたくないな~」

 祐樹の肩に背後から手が置かれ、少し訛りのある日本語が聞こえた。男性にしては高めの甘い声はミッシェルだ。振り向きたいのを我慢して、成美をひたと見据える。
 仕事がキャンセルになるとしても、言いなりになるつもりはない。山口プロデューサーにはどちらに非があるか説明して、如月からの中傷被害を受けないように、相手より上であることを態度で示しておく。

 最悪拗れれば弁護士という手もある。日本とは違う国で生き残ってきた祐樹は、こちらでのやり方で対応するつもりだった。
 背後に仲間がいることも有難い。状況を訊ねたスティーブが、ミッシェルの説明を受けて鼻を鳴らした後、おもむろに話し始めたのを、ミッシェルが通訳する。

「こちらのスタッフを雇わなければ、撮影許可が下りないのは知ってるかい? あなたは確かに日本では有名かもしれないけれど、こちらであなたをプリンセス気どりにさせてくれるクルーは一人もいないと思うよ」

 ミッシェルがスティーブの英語を少し辛辣な日本語に変えて話すのを、祐樹はハラハラしながらも、黙って耳を傾けた。
 フランス系アメリカ人のミッシェルは、祖先のフランス人以外にも、アフリカやアングロサクソンなどの血が混じった混血で、それぞれのいいとこ取りをしたような素晴らしい容姿をしている。象牙色の肌。くりくりの輝く大きな琥珀色の瞳。背がすらりと高く、フワフワと顔の周りで揺れる癖の強いハニーブラウンの髪でさえも、美しい顔を装飾しているように見える。

 年齢は祐樹と同じぐらいで、モデルからデザイナーへと転向し、十代後半から二十代の女性をターゲットにしたハイセンスな服や小物をネットショップで売り出したところ、すぐに完売。モデル時代からの幅広い人脈も功を奏して、知名度も売り上げもビッグな注目の新人デザイナーだ。

 誰もが見惚れるその顔で、チクッと棘を刺すのだが、にっこり笑われると、それが嫌味にも聞こえず、気の利いたブラックユーモアに受け取られてしまうのだから恐ろしい。ただ、自分の友人や親しい者に向けられることはないから、ミッシェルの仲間たちは彼をとても愛していた。

 成美が大人しいので、一瞬だけ背後に立つミシェルを仰ぎ見て、感謝の視線を送る。祐樹を守るためにミッシェルは、極上の笑みを浮かべながら、ダメ出しをするところだった。
 スティーブじゃないけれど、祐樹は心の中で、おお、ミッシェルと崇めたくなった。

「それとユウキは世界に通ようするカリスマであって、ただのメイクアップアーティストとじゃないから。ユウキをバカにすれば、例えあなたがアメリカに進出することになっても、メイクを担当するものは一人もいないよ」

 こんなにすごい援護射撃をしてくれるとは思わず、鼻の奥がツンとする。
 しかし、祐樹の時には気色ばんで突っかかってきた成美が、黙って聞いているのはどういうことだと思った時、成美が震える声で言った。
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