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イタリアン レストラン
ビビッドな愛をくれ
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それから二週間ほどの間、優吾はリアムの別荘で過ごすことになった。
午後の日差しが明るく差し込むリビングのソファーでお茶を飲んでいた優吾は、仕事に一息いれようとダイニングにやってきたリアムに促され、スマホの電話帳を開いた。
優吾が二週間契約で借りていたリゾートマンションを、リアムが解約しろというのだ。
振り込んだ家賃は戻らないだろうと覚悟しながら、優吾が持ち主にキャンセルを申し出ると、幸運にもキャンセル待ちがあるとかで、僅かなキャンセル料金を差し引いた残りの金額が戻ることになった。
それというのも、途中からリアムが電話を代わって交渉してくれたからだ。
バイトで稼いだお金を全て旅行に注ぎ込んでいた優吾は小躍りしたが、喜びに水を差すような質問がリアムの口から発せられた。
「お礼は?」
「え~っ。こんな別荘を持っていて、俺から小銭を巻き上げようとするなんて、リアムのドケチ!」
「ははは。冗談だ。優吾はすぐムキになるから面白い」
「人で遊ぶなよ。おい、ちょっと……あっ」
お礼はこれで十分だと、横に腰かけたリアムが、優吾に顔を寄せて口づける。
最初こそ抵抗したものの、熱く柔らかい舌で口蓋を舐め回されるうちに、鼻から抜けるような甘ったるい声がでてしまい、優吾は髪の毛の付け根まで赤くなった。
「ごちそうさま。代金は頂いた」
ペールブルーの瞳に正面から見つめられ、優吾がどぎまぎしているのに対し、リアムは涼し気な顔で、おまけのキスを優吾の鼻の頭に落とす。
甘くてくすぐったい気持ちをどうしていいのか分からずに、優吾はリアムの顔を押しやって、鼻の頭を掻いた。
―――俺、こんな風に、甘やかされたのは初めてかも。
いつも律に追いつこう、認められようとして、優吾は練習に一生懸命になるあまり、気持ちが張り詰めてピリピリしていたような気がする。
リアムの場合は多分優吾より7、8歳ぐらい年が離れているのと、音楽にしても才能や経験値があまりにも違い過ぎるから、張り合うこと自体が愚かだと思える。取り繕うことなく素のままでいられるのが、こんなに楽だなんて、優吾は知らなかった。
それに、このかっこよすぎるリアムの顔は、ほんと心臓に悪い。
ほんの少し表情が変わるだけで、何て絵になる奴なんだと、目が離せなくなってしまう。
「何だ? まだキスして欲しそうな顔をしているぞ」
再び顔を寄せようとするリアムを遮るように優吾は慌てて口を押えたが、その手をリアムに捉えられて、不覚にも心臓が高鳴った。
瞳をさまよわせる優吾の額に口づけを落とし、リアムがソファーから立ち上がり優吾の腕を引く。
さっきから煩いほどトクトクと鳴る心臓を、優吾は何とか落ち着かせようとしてはしくじったが、部屋に入った途端にショックを受けて急に冷静になった。
てっきりリアムの部屋に行くとばかり思っていた優吾が連れていかれたのは、ピアノやマイク、電子機器などが並ぶレッスン室だったのだ。羞恥のあまり頬が熱くなる。
元大物ミュージシャンからレッスンを受けられるなんて、願っても無い機会なのに、当てが外れてほんの少し残念がっている自分に気が付き、優吾は焦りと困惑を覚えた。
そんな優吾の胸中に気づいているのかいないのか、リアムはいつも通りピアノを弾いて、発生練習を始めるよう優吾に告げる。
口の形、舌の位置を変化させながら行う独特の発声練習をこなし、音の強弱の練習、どこで響かせるか、腹筋の使い方など専門的なレクチャーを受ける。
優吾は小学校の時から洋楽に興味を持っていたため、発音やアクセントはネイティブからも褒められることが多く、結構自信を持っていたが、リアムからは、rとLの違いはもちろんのこと、tとp 、bとv の発音や、リエゾンなどを指導された。
腹から声を出しながら、どうしてリアムは俺を抱かないのだろうと疑問が掠める。
本人が昔は遊んだと言うだけあって、リアムは男の身体を扱うのが上手かった。経験のない優吾を、とんでもないくらいの絶頂に追い上げ、気絶させるくらいに。
ただ翻弄されるだけで、何もできなかった。リアムを満足させられたかどうかというと全く自信がなくて、二度と手を出したくないほどつまらなかったのではないかと気落ちしそうだ。
ーーーいや、別に抱いて欲しいわけじゃないけどさ。俺に興味があるって口説いたくせに、たった一度抱いただけだし、良くなかったなら、放り出せばいいのに、ここに泊めてくれて、レッスンまでしてくれる。一体どういうつもりなんだ?
俺がフラれて失恋旅行をしているのを察したみたいだから、同情したんだろうか?
声にも気分が出てしまったのか、リアムがピアノを止めて厳しい目を優吾に注いだ。
「やる気がないなら、どこへでも行け。お遊びに付き合うほど俺は暇じゃない」
ピアノの蓋を閉めて、リアムが椅子から立ち上がる。部屋を出て行こうとするリアムの背中に、優吾は飛びついた。
「違う! やる気がないんじゃない。でも、考えごとをしていたのは確かだから謝るよ。ごめん。俺が悪かった。これからは二度としなし、真剣にレッスンを受けるから……見放さないでくれ」
語尾が不安に揺れ、リアムのシャツに吸収されてくぐもった。
胴に回った優吾の手を、リアムが掴んで解こうとする。優吾は行かせるものかと渾身の力を腕にこめ、リアムの背中に縋った。
「放せ。バカ。今日はレッスンは無しだ。せっかくフランスまで来て、レッスンばかりではお前も疲れるだろう。気分転換に隣の国までランチをしに行こう」
「隣の国って、イタリア?」
「そうだ。上手いパスタを食べさせる店がある。行くか?」
「行く! 南仏のパスタって、茹ですぎてでろっとした柔麺みたいだから、美味しいのを食べたかったんだ。パスポートを用意した方がいいかな」
一瞬動きを止めたリアムが、神妙な顔で頷いた。
「ああ、そうだな。用意しておくといい」
ところが、いいお終わらないうちに、リアムが腹を抱えて笑い出す。
「道路全てに検問所があって、パスポートチェックをするとでも思ったのか? 一体いつの時代の話だ」
ヒーヒー笑いながら、切れ切れに言うリアムの背中を、優吾は腹立ちまぎれに手の平で叩いてやる。それでも笑いを止めないリアムをレッスン室に残し、優吾は仕度をするために部屋に戻っていった。
高速道路で隣の国へ行けるなんて、島国に住んでいる優吾には考えられないことだった。
だが、国境を越えたあたりから建物がカラフルになるのを見て、イタリアに入ったんだと実感する。一時間半ほど走った後、観光客用の駐車場にリアムが車を停めた。
海辺に迫り出した丘は、色とりどりの建物でびっしり覆われていて、自己主張の塊のような光景を前に、優吾は唖然と立ち尽くす。その一方で、幼児が塗った絵のような面白さも感じ取り、優吾は変な街と言いながらスマホで写真を撮った。
先に歩き出したリアムの後を慌てて追い、こじんまりとしたレストランに着く。まだランチには早い時間のようで、店の中には親子連れが一組いるだけだった。
三歳ぐらいの女の子が口の周りを汚しながら、パスタを食べているのが愛らしい。と思ったのは一瞬で、優吾は大きな船型の器に大量に盛られたパスタを見て唖然とした。
これを、幼児が一人で食べるのか?
女の子の両親も平然と大盛パスタを食べているが、優吾には半分で丁度いいくらいの量だ。
案内された席でメニューを開いた優吾は、恐る恐るリアムに訊ねた。
「あのさ。俺の後ろの席の家族が食べているパスタって、あれが普通の一人前の量なのか?」
「ああ、足りなければ、肉や魚料理もあるし、好きなものを注文すればいい」
「りあむ~~~。本気で言ってる?」
「ハハハ……日本人は小食だからな。残したら俺が食ベてやるから、ここでしか食べられないものを注文しろ。小さな店だが味はいい。わざわざ遠いところから食べにくる客が多いんだ」
「そうなんだ。連れてきてくれて、ありがとう。すごく嬉しいよ。えっと……じゃあ、ペスカトーレにする。海辺に近い店だし、イタリアは海鮮ものが美味しいらしいから」
リアムはその通りだと頷いて、優吾と自分のパスタの他に、トマトとモッツアレラチーズのカプレーゼと、アクアパッツア、そして牛もも肉のタリアータを頼んだ。
優吾は後にサーブされるパスタを食べ切れるかどうか不安になり、サラダも魚料理も少しずつ皿に取り分ける。
前菜を口に入れた優吾をじっと見つめていたリアムが、どうだおいしいだろ? と訊ねるように目をきらきらさせて片眉を上げた。
そのいたずらっ子めいた顔も、リアムほど顔が整った男がやると破壊的な魅力になる。またもや心臓を直撃され、優吾がハッと息を飲んだ瞬間に、食べ物が気管に入りそうになり、大慌てで口の中のものを飲み込んだ。
「危なかった。むせるところだった」
「大丈夫か? そんなに急いで食べなくても沢山あるからゆっくり食べるといい」
誰のせいだと思ってるんだ。優吾は心の中で呟き、むくれてみせたが、リアムは楽しそうな様子で、まるで小さな子供の食事の世話をやく親のように、取り皿に肉料理を載せて優吾に勧める。
どの料理も美味しくて、頬が落ちそうだ。語彙の少ない優吾はどう表現していいか分からずに、ただ、味しい、これも美味しいと言いながら食べていく。
そんな優吾をリアムが目を細めて見つめていて、視線が合う度に優吾の胸の内でぽっぽっと幸福の蒸気が立ち上る。
リアムが喜んでくれるなら、もっと食べられそうと思ったのも束の間、ボーイが運んできたテーブルの上のペスカトーレを見るなり、優吾は言葉を無くして目を見開いた。
パスタの量も多いが、上に載った具の多いこと!
船型の器といい、まさに大漁だ。
具だけでお腹が一杯になりそうだと思いつつ、フォークですくって口に運ぶ。
「ん~~~~っ! んっ。おいしい! 何この味付け。美味しすぎる」
「後ろの幼児と同じ顔をして、食べてるぞ」
優吾は、おかしそうに笑うリアムを睨みつけたが、それも一瞬で、あまりの美味しさに文句を言う間も惜しんで、夢中で食べていく。気がつけば、あっという間に三分の二が無くなっていた。
午後の日差しが明るく差し込むリビングのソファーでお茶を飲んでいた優吾は、仕事に一息いれようとダイニングにやってきたリアムに促され、スマホの電話帳を開いた。
優吾が二週間契約で借りていたリゾートマンションを、リアムが解約しろというのだ。
振り込んだ家賃は戻らないだろうと覚悟しながら、優吾が持ち主にキャンセルを申し出ると、幸運にもキャンセル待ちがあるとかで、僅かなキャンセル料金を差し引いた残りの金額が戻ることになった。
それというのも、途中からリアムが電話を代わって交渉してくれたからだ。
バイトで稼いだお金を全て旅行に注ぎ込んでいた優吾は小躍りしたが、喜びに水を差すような質問がリアムの口から発せられた。
「お礼は?」
「え~っ。こんな別荘を持っていて、俺から小銭を巻き上げようとするなんて、リアムのドケチ!」
「ははは。冗談だ。優吾はすぐムキになるから面白い」
「人で遊ぶなよ。おい、ちょっと……あっ」
お礼はこれで十分だと、横に腰かけたリアムが、優吾に顔を寄せて口づける。
最初こそ抵抗したものの、熱く柔らかい舌で口蓋を舐め回されるうちに、鼻から抜けるような甘ったるい声がでてしまい、優吾は髪の毛の付け根まで赤くなった。
「ごちそうさま。代金は頂いた」
ペールブルーの瞳に正面から見つめられ、優吾がどぎまぎしているのに対し、リアムは涼し気な顔で、おまけのキスを優吾の鼻の頭に落とす。
甘くてくすぐったい気持ちをどうしていいのか分からずに、優吾はリアムの顔を押しやって、鼻の頭を掻いた。
―――俺、こんな風に、甘やかされたのは初めてかも。
いつも律に追いつこう、認められようとして、優吾は練習に一生懸命になるあまり、気持ちが張り詰めてピリピリしていたような気がする。
リアムの場合は多分優吾より7、8歳ぐらい年が離れているのと、音楽にしても才能や経験値があまりにも違い過ぎるから、張り合うこと自体が愚かだと思える。取り繕うことなく素のままでいられるのが、こんなに楽だなんて、優吾は知らなかった。
それに、このかっこよすぎるリアムの顔は、ほんと心臓に悪い。
ほんの少し表情が変わるだけで、何て絵になる奴なんだと、目が離せなくなってしまう。
「何だ? まだキスして欲しそうな顔をしているぞ」
再び顔を寄せようとするリアムを遮るように優吾は慌てて口を押えたが、その手をリアムに捉えられて、不覚にも心臓が高鳴った。
瞳をさまよわせる優吾の額に口づけを落とし、リアムがソファーから立ち上がり優吾の腕を引く。
さっきから煩いほどトクトクと鳴る心臓を、優吾は何とか落ち着かせようとしてはしくじったが、部屋に入った途端にショックを受けて急に冷静になった。
てっきりリアムの部屋に行くとばかり思っていた優吾が連れていかれたのは、ピアノやマイク、電子機器などが並ぶレッスン室だったのだ。羞恥のあまり頬が熱くなる。
元大物ミュージシャンからレッスンを受けられるなんて、願っても無い機会なのに、当てが外れてほんの少し残念がっている自分に気が付き、優吾は焦りと困惑を覚えた。
そんな優吾の胸中に気づいているのかいないのか、リアムはいつも通りピアノを弾いて、発生練習を始めるよう優吾に告げる。
口の形、舌の位置を変化させながら行う独特の発声練習をこなし、音の強弱の練習、どこで響かせるか、腹筋の使い方など専門的なレクチャーを受ける。
優吾は小学校の時から洋楽に興味を持っていたため、発音やアクセントはネイティブからも褒められることが多く、結構自信を持っていたが、リアムからは、rとLの違いはもちろんのこと、tとp 、bとv の発音や、リエゾンなどを指導された。
腹から声を出しながら、どうしてリアムは俺を抱かないのだろうと疑問が掠める。
本人が昔は遊んだと言うだけあって、リアムは男の身体を扱うのが上手かった。経験のない優吾を、とんでもないくらいの絶頂に追い上げ、気絶させるくらいに。
ただ翻弄されるだけで、何もできなかった。リアムを満足させられたかどうかというと全く自信がなくて、二度と手を出したくないほどつまらなかったのではないかと気落ちしそうだ。
ーーーいや、別に抱いて欲しいわけじゃないけどさ。俺に興味があるって口説いたくせに、たった一度抱いただけだし、良くなかったなら、放り出せばいいのに、ここに泊めてくれて、レッスンまでしてくれる。一体どういうつもりなんだ?
俺がフラれて失恋旅行をしているのを察したみたいだから、同情したんだろうか?
声にも気分が出てしまったのか、リアムがピアノを止めて厳しい目を優吾に注いだ。
「やる気がないなら、どこへでも行け。お遊びに付き合うほど俺は暇じゃない」
ピアノの蓋を閉めて、リアムが椅子から立ち上がる。部屋を出て行こうとするリアムの背中に、優吾は飛びついた。
「違う! やる気がないんじゃない。でも、考えごとをしていたのは確かだから謝るよ。ごめん。俺が悪かった。これからは二度としなし、真剣にレッスンを受けるから……見放さないでくれ」
語尾が不安に揺れ、リアムのシャツに吸収されてくぐもった。
胴に回った優吾の手を、リアムが掴んで解こうとする。優吾は行かせるものかと渾身の力を腕にこめ、リアムの背中に縋った。
「放せ。バカ。今日はレッスンは無しだ。せっかくフランスまで来て、レッスンばかりではお前も疲れるだろう。気分転換に隣の国までランチをしに行こう」
「隣の国って、イタリア?」
「そうだ。上手いパスタを食べさせる店がある。行くか?」
「行く! 南仏のパスタって、茹ですぎてでろっとした柔麺みたいだから、美味しいのを食べたかったんだ。パスポートを用意した方がいいかな」
一瞬動きを止めたリアムが、神妙な顔で頷いた。
「ああ、そうだな。用意しておくといい」
ところが、いいお終わらないうちに、リアムが腹を抱えて笑い出す。
「道路全てに検問所があって、パスポートチェックをするとでも思ったのか? 一体いつの時代の話だ」
ヒーヒー笑いながら、切れ切れに言うリアムの背中を、優吾は腹立ちまぎれに手の平で叩いてやる。それでも笑いを止めないリアムをレッスン室に残し、優吾は仕度をするために部屋に戻っていった。
高速道路で隣の国へ行けるなんて、島国に住んでいる優吾には考えられないことだった。
だが、国境を越えたあたりから建物がカラフルになるのを見て、イタリアに入ったんだと実感する。一時間半ほど走った後、観光客用の駐車場にリアムが車を停めた。
海辺に迫り出した丘は、色とりどりの建物でびっしり覆われていて、自己主張の塊のような光景を前に、優吾は唖然と立ち尽くす。その一方で、幼児が塗った絵のような面白さも感じ取り、優吾は変な街と言いながらスマホで写真を撮った。
先に歩き出したリアムの後を慌てて追い、こじんまりとしたレストランに着く。まだランチには早い時間のようで、店の中には親子連れが一組いるだけだった。
三歳ぐらいの女の子が口の周りを汚しながら、パスタを食べているのが愛らしい。と思ったのは一瞬で、優吾は大きな船型の器に大量に盛られたパスタを見て唖然とした。
これを、幼児が一人で食べるのか?
女の子の両親も平然と大盛パスタを食べているが、優吾には半分で丁度いいくらいの量だ。
案内された席でメニューを開いた優吾は、恐る恐るリアムに訊ねた。
「あのさ。俺の後ろの席の家族が食べているパスタって、あれが普通の一人前の量なのか?」
「ああ、足りなければ、肉や魚料理もあるし、好きなものを注文すればいい」
「りあむ~~~。本気で言ってる?」
「ハハハ……日本人は小食だからな。残したら俺が食ベてやるから、ここでしか食べられないものを注文しろ。小さな店だが味はいい。わざわざ遠いところから食べにくる客が多いんだ」
「そうなんだ。連れてきてくれて、ありがとう。すごく嬉しいよ。えっと……じゃあ、ペスカトーレにする。海辺に近い店だし、イタリアは海鮮ものが美味しいらしいから」
リアムはその通りだと頷いて、優吾と自分のパスタの他に、トマトとモッツアレラチーズのカプレーゼと、アクアパッツア、そして牛もも肉のタリアータを頼んだ。
優吾は後にサーブされるパスタを食べ切れるかどうか不安になり、サラダも魚料理も少しずつ皿に取り分ける。
前菜を口に入れた優吾をじっと見つめていたリアムが、どうだおいしいだろ? と訊ねるように目をきらきらさせて片眉を上げた。
そのいたずらっ子めいた顔も、リアムほど顔が整った男がやると破壊的な魅力になる。またもや心臓を直撃され、優吾がハッと息を飲んだ瞬間に、食べ物が気管に入りそうになり、大慌てで口の中のものを飲み込んだ。
「危なかった。むせるところだった」
「大丈夫か? そんなに急いで食べなくても沢山あるからゆっくり食べるといい」
誰のせいだと思ってるんだ。優吾は心の中で呟き、むくれてみせたが、リアムは楽しそうな様子で、まるで小さな子供の食事の世話をやく親のように、取り皿に肉料理を載せて優吾に勧める。
どの料理も美味しくて、頬が落ちそうだ。語彙の少ない優吾はどう表現していいか分からずに、ただ、味しい、これも美味しいと言いながら食べていく。
そんな優吾をリアムが目を細めて見つめていて、視線が合う度に優吾の胸の内でぽっぽっと幸福の蒸気が立ち上る。
リアムが喜んでくれるなら、もっと食べられそうと思ったのも束の間、ボーイが運んできたテーブルの上のペスカトーレを見るなり、優吾は言葉を無くして目を見開いた。
パスタの量も多いが、上に載った具の多いこと!
船型の器といい、まさに大漁だ。
具だけでお腹が一杯になりそうだと思いつつ、フォークですくって口に運ぶ。
「ん~~~~っ! んっ。おいしい! 何この味付け。美味しすぎる」
「後ろの幼児と同じ顔をして、食べてるぞ」
優吾は、おかしそうに笑うリアムを睨みつけたが、それも一瞬で、あまりの美味しさに文句を言う間も惜しんで、夢中で食べていく。気がつけば、あっという間に三分の二が無くなっていた。
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