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マリル、事件に遭遇する
魔女見習いは王女の復讐の依頼を受けた
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サンサの結界から外に出たマリルは、野鳥たちに魔法をかけて人のいそうな方角を探した。俯瞰魔法が働き、南西へ300キロメートルほど行くと国境の見張り小屋が建っていることが分かる。転移魔法は使えないから、どうしようと周りを見渡すと、大きな角を持った鹿が若木の葉を食んでいるのを見つけた。
「あの鹿を馬代わりにすれば……う~ん。無理。振り落とされそう」
ここからひとっ飛びするには、やはり鳥の力を借りるしかない。ただ問題は見張り小屋にいる兵は周囲を望遠鏡で見張っているから、マリルを乗せた巨大鳥が飛んできたら、大騒ぎになって、警備兵士たちに撃ち落されないとも限らない。
「見つからないように飛ぶには、どうすればいいかしら?」
空を見上げたときに、トビが飛んでいくのが見えた。
閃いた!
マリルは腕を上げてトビを指さし、魔法をかける。方向転換をしたトビが、木の枝の間を縫って飛び、マリルの足元に着地した。
マリルはハンカチを取り出して三角に折り、トビの首に巻いて胸の方で結ぶと、トビに優しく語り掛けた。
「ちょっと失礼。まだ動かないでね」
マリルはトビをまたいでから、今度は自分に向けて指を振った。
高いところから落ちていくような感覚を覚えながら、マリルの身体がどんどん小さくなる。気がつけばトビの背中に載っていた。
首から背中に向けて三角に垂れたハンカチを潜り、首と布の隙間から顔と腕を出した。こうすれば、背中全体がハンカチで支えられて安定する。これなら空の上で、風に吹き飛ばされる心配もないだろう。
「国境まで飛んでちょうだい」
トビが上昇する。迫る大枝を躱すように羽ばたくトビの背で、マリルは首を竦めたり、両腕で頭を囲ったりしたが、気がつけば遮るものもない空で、眩しい太陽を身体全身に浴びていた。森の木が足元からどんどん遠ざかっていく。
「ひゃっほ~っ! 最高だわ。風が気持ちいい!」
斜め上を向いていたトビの身体が前に倒され、水平飛行に入る。ぐんぐんスピードを増していくうちに、息をするのが苦しくなったので、マリルは自分の周りに空気溜まりを作った。
トビが最高速度で飛べるように力を与えたおかげで、約二時間ほど経ったときには遠くに道らしきものが目に入った。
更にずっと向こうの方に見えるのは、切り立った山肌に固定するように作られた背の高い門。多分あれが国境で間違いないだろう。その辺り道幅だけが広くなっている様子が、まるで小さな広場のようだ。
遠すぎて定かではないが、門が閉鎖されているように見えるのは目の錯覚だろうか。
もう少し近寄れば状況が分かるのだが、もし本当に門が閉ざされていたとしたら、通行証を手にした商人や旅人の閉ざされた列ができているかもしれない。
最初に会った人物の依頼を聞くという条件が無ければ、待機中の人に何か困ったことは無いかと聞けるのに……。
多分聞いた途端に、水や食べ物、手紙を国境の向こうの待ち人に届けて欲しいというような所望が、一度に発せられるに違いない。
でもそんな状況では、最初に会った人を特定するのは難しい。きっとどこかでサンサ師匠が見ているだろうから、失格にならないように他の場所を探さなければ。
マリルはトビの進路を変えて、国境を背にして道沿いに飛んでいく。切り立った山肌の傾斜が緩やかになっていき、道が両側から伸びた枝葉で覆い隠されるようになった頃、マリルは木々の間に輝く白と金色で装飾された屋根らしきものを見つけた。
馬の声もすることから、馬車だと分かる。遠目にも美しいその馬車がどうして道の真ん中に止まっているのか不思議に思い、マリルは馬車から少し離れた森の中に降り、元の大きさに戻った。
トビに別れを告げ、足音を忍ばせながら馬車の方へ歩いていくと、馬車の中から男の声が聞えた。
「アルバート、お前のせいだ。お前がエリザ王女を殺したんだ」
驚いたマリルは足を止めたが、枯れ枝を踏んでしまい、パキッと乾いた音が辺りに響いた。
「しっ。ハインツ、静かに。誰かくる。仕方がない。一旦ここから引き揚げよう」
男たちはマリルの立つ位置の反対側の扉から外に出て、駆けて行った。姿を見ようにも男たちの会話が頭に残り、怖くて足が動かない。
足音が聞こえなくなってから、マリルは勇気を出して、金色のユリの花の紋章があしらわれた白い馬車の扉を開いた。
覚悟はしていたものの、目にした光景と生臭い匂いに悲鳴を上げそうになる。
目に飛び込んできたのは、赤!
艶のある生地で覆われた座席の赤い色。
腰かけた薄桃色の絹のドレスに身を包んだ美しい少女の胸に突き刺さった矢の周囲から滲んで流れだす真っ赤な血!
「ど、ど、どうしてこんなこと……ねっ、ねぇ、あなた大丈夫?」
大丈夫なわけがない。心臓に矢が突き刺さっているのだから。
だが、パニックになっているマリルにはどうしていいか分からない。
傷口を塞ぐ? でもこんなに血が流れてしまっていては、例え息の根があったとしても、間に合わないかもしれない。
外傷は治せても、流れた血を作って戻すことはできないし、本人に生きる力が無ければ魔法でどんなに傷口を治しても、助かりはしないのだ。
時間があれば、少女ハンナに生きる気力を持たせたのと同じ療養魔法を、サンサ師匠に施してもらえるのだが、この状態では……。
マリルは悲し気に首を振った。
「あの鹿を馬代わりにすれば……う~ん。無理。振り落とされそう」
ここからひとっ飛びするには、やはり鳥の力を借りるしかない。ただ問題は見張り小屋にいる兵は周囲を望遠鏡で見張っているから、マリルを乗せた巨大鳥が飛んできたら、大騒ぎになって、警備兵士たちに撃ち落されないとも限らない。
「見つからないように飛ぶには、どうすればいいかしら?」
空を見上げたときに、トビが飛んでいくのが見えた。
閃いた!
マリルは腕を上げてトビを指さし、魔法をかける。方向転換をしたトビが、木の枝の間を縫って飛び、マリルの足元に着地した。
マリルはハンカチを取り出して三角に折り、トビの首に巻いて胸の方で結ぶと、トビに優しく語り掛けた。
「ちょっと失礼。まだ動かないでね」
マリルはトビをまたいでから、今度は自分に向けて指を振った。
高いところから落ちていくような感覚を覚えながら、マリルの身体がどんどん小さくなる。気がつけばトビの背中に載っていた。
首から背中に向けて三角に垂れたハンカチを潜り、首と布の隙間から顔と腕を出した。こうすれば、背中全体がハンカチで支えられて安定する。これなら空の上で、風に吹き飛ばされる心配もないだろう。
「国境まで飛んでちょうだい」
トビが上昇する。迫る大枝を躱すように羽ばたくトビの背で、マリルは首を竦めたり、両腕で頭を囲ったりしたが、気がつけば遮るものもない空で、眩しい太陽を身体全身に浴びていた。森の木が足元からどんどん遠ざかっていく。
「ひゃっほ~っ! 最高だわ。風が気持ちいい!」
斜め上を向いていたトビの身体が前に倒され、水平飛行に入る。ぐんぐんスピードを増していくうちに、息をするのが苦しくなったので、マリルは自分の周りに空気溜まりを作った。
トビが最高速度で飛べるように力を与えたおかげで、約二時間ほど経ったときには遠くに道らしきものが目に入った。
更にずっと向こうの方に見えるのは、切り立った山肌に固定するように作られた背の高い門。多分あれが国境で間違いないだろう。その辺り道幅だけが広くなっている様子が、まるで小さな広場のようだ。
遠すぎて定かではないが、門が閉鎖されているように見えるのは目の錯覚だろうか。
もう少し近寄れば状況が分かるのだが、もし本当に門が閉ざされていたとしたら、通行証を手にした商人や旅人の閉ざされた列ができているかもしれない。
最初に会った人物の依頼を聞くという条件が無ければ、待機中の人に何か困ったことは無いかと聞けるのに……。
多分聞いた途端に、水や食べ物、手紙を国境の向こうの待ち人に届けて欲しいというような所望が、一度に発せられるに違いない。
でもそんな状況では、最初に会った人を特定するのは難しい。きっとどこかでサンサ師匠が見ているだろうから、失格にならないように他の場所を探さなければ。
マリルはトビの進路を変えて、国境を背にして道沿いに飛んでいく。切り立った山肌の傾斜が緩やかになっていき、道が両側から伸びた枝葉で覆い隠されるようになった頃、マリルは木々の間に輝く白と金色で装飾された屋根らしきものを見つけた。
馬の声もすることから、馬車だと分かる。遠目にも美しいその馬車がどうして道の真ん中に止まっているのか不思議に思い、マリルは馬車から少し離れた森の中に降り、元の大きさに戻った。
トビに別れを告げ、足音を忍ばせながら馬車の方へ歩いていくと、馬車の中から男の声が聞えた。
「アルバート、お前のせいだ。お前がエリザ王女を殺したんだ」
驚いたマリルは足を止めたが、枯れ枝を踏んでしまい、パキッと乾いた音が辺りに響いた。
「しっ。ハインツ、静かに。誰かくる。仕方がない。一旦ここから引き揚げよう」
男たちはマリルの立つ位置の反対側の扉から外に出て、駆けて行った。姿を見ようにも男たちの会話が頭に残り、怖くて足が動かない。
足音が聞こえなくなってから、マリルは勇気を出して、金色のユリの花の紋章があしらわれた白い馬車の扉を開いた。
覚悟はしていたものの、目にした光景と生臭い匂いに悲鳴を上げそうになる。
目に飛び込んできたのは、赤!
艶のある生地で覆われた座席の赤い色。
腰かけた薄桃色の絹のドレスに身を包んだ美しい少女の胸に突き刺さった矢の周囲から滲んで流れだす真っ赤な血!
「ど、ど、どうしてこんなこと……ねっ、ねぇ、あなた大丈夫?」
大丈夫なわけがない。心臓に矢が突き刺さっているのだから。
だが、パニックになっているマリルにはどうしていいか分からない。
傷口を塞ぐ? でもこんなに血が流れてしまっていては、例え息の根があったとしても、間に合わないかもしれない。
外傷は治せても、流れた血を作って戻すことはできないし、本人に生きる力が無ければ魔法でどんなに傷口を治しても、助かりはしないのだ。
時間があれば、少女ハンナに生きる気力を持たせたのと同じ療養魔法を、サンサ師匠に施してもらえるのだが、この状態では……。
マリルは悲し気に首を振った。
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