翼の民

天秤座

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序章 双子の神

5 翼の民

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 戦場はしんと静まり返る。


 十三の分身達は静かに話す。

 「……終わったな」
 「勝ったな…」
 「これでやっと…我等が主に顔見せ出来る」
 「じきに我等の主が降りて来られるな」
 「この命、全う出来て良かったわ」
 「ああ。これで我等が主の元へ肉体をお返し出来る」
 「…我はお前達と共に戦えた事、誇りに思うぞ」
 「奇遇だな、我もそう思っておる」
 「我もだ。十三柱神の兄弟姉妹達よ」
 「もうお前達と会えねえのかぁ。終わってみりゃ寂しいモンだ」
 「あーあ。つまんなくなるなぁ」
 「人間臭い事言うでない」
 「後は我等が主にお任せするのみだ。ネロスと共に我等の命も、ここで終焉となる」


 少し遅れ、戦場には割れんばかりの喜びの声が巻き起こる。

「うぉぉぉーっ! 勝ったっ! 勝ったぞおぉぉぉっ!」
「父さぁぁぁん! 仇は討ったよぉぉぉっ!」
「積年の悲願成就じゃぁぁぁぁっ!」
「良かったっ! 生きててっ…良かっ……うぇぇぇーんっ!」

 神の一族と人間達は抱き合って飛び跳ねながら喜ぶ。

 中にはその場にへたり込んで大泣きする者。
 天に向かって張り裂けんばかりの大声で叫び続ける者。
 故郷に伝わる歓喜の舞いを踊り続ける者。
 戦場に居る全ての者が勝利に感情を爆発させた。
 
 十三の分身達はその光景を、目を細めながら見守った。



 3人の光の精霊バルキリーはカールソンの元へと空から舞い降り、帰還を報告する。

「カールソン様。任務完了致しました」
「誰も消滅せず、無事に戻って参りました」
「えへへー。やってやったよぉー」
「すっ…凄いっ! 凄いぞお前達っ! ありがとうっ! ありがとぉぉぉっ!」
 
 カールソンはエトラに飛び付き、ぎゅっと抱きしめる。
 

 エトラは困惑しながらカールソンに話す。

「カールソン様。ワタシ達は任務を遂行しただけでございます。抱きしめられるなど、非常に畏れ多い行為でございます」
「いやもうホント! 嬉しいっ! みんなにぶっちゅしちゃっていい? ぶっちゅっ!」
「? カールソン様、ぶっちゅとは何でございま…んぐぅっ!?」
「かっ、カールソン様っ!? そっ、それはっ…ひっ!? んんぅっ!?」
「口と口を合わせるなんてっ!? そそそんなっ!? うひゃぁっ!? んむぅっ!?」

 カールソンは3人に次々と抱き付き、その唇を自分の唇で塞いでいった。


 カールソンから熱いキスを受け取った3人は、今まで感じた事の無い感情に戸惑いながら話す。

「こっ…これは……せ、精霊に行なっても良い行為なので…ございますか?」
「なっ…何でしょう。この…不思議な気持ちは……」
「何これ…? 何もしてないのに胸がドキドキしちゃってる……何で?」
「もう大好きっ! 俺、3人の事大好きだぁぁぁっ!!」
「ひぃっ!?」
「ひゃぁっ!?」
「んきゃぁっ!?」
 
 カールソンは3人をまとめて抱きしめ、何度も唇や頬にキスを続けた。

 3人は心の奥から湧き上がる不思議な感情に、悪くない気持ちだと感じつつカールソンからのキスを受け続ける。
 知らず知らずのうちに3人の凛々しい顔は、どんどんとだらしない表情へと変わっていった。


 アルフレッドとヒルダは呆れながらカールソンに近付き、話しかける。

「おいおいカールソン。そんなにキスしまくったら彼女達が困って…なさそうだな」
「あらあら、精霊がそんな顔をなさるなんて…今まで知りませんでしたわ」
「あへぇぇ……」
「ふへぇ……」
「はふぅ……」
「あ、3人とも大丈夫? もしかして疲れが出てきちゃった?」

 3人は全身の力が抜け、くたっとしながらだらしない吐息を漏らしてカールソンに寄りかかった。
 やがて立っていられなくなり、3人はへなへなと地面にぺたんと座り込んだ。
 3人とも目の焦点は合わず、口を半開きにして恍惚の表情をしながら心配しているカールソンを見つめ返していた。


 カールソンは容態の急変した3人を心配し、一緒にしゃがみ込みながら話しかける。

「さっ、3人とも大丈夫っ!? 疲れてるのにぶっちゅなんてしちゃってごめんっ!」
「だ…大丈夫ですカールソン様ぁ……」
「か…身体に力が入らないだけでございますぅ……」
「た…立てないよぅ……」
「ホントごめんっ! 俺、どうすればいいっ?」
「では…もっと……ぶっちゅを所望致し…ます」
「よしきた!」


 アルフレッドとヒルダはエトラ達に再びキスを始めたカールソンに呆れながら話す。

「いや…何と言うか……コイツのキスは精霊を殺せるんじゃないのか?」
「あれ程勇敢に戦ってらっしゃった3人を骨抜きになさるなんて…くすっ」
「もしかして…コイツなら精霊とも子供作れるんじゃないのか?」
「うふふ…そうかも知れませんわね?」



 戦場に歓声が飛び交う中、突如頭上に影が現れる。
 空中要塞がいつの間にか来ていた。


 アルフレッドは要塞を見上げ、無事生き残った26人の仲間に叫ぶ。

「みんな! 迎えに来てくれたぞ! さぁ、帰ろう!」
「やったっ! これで帰れるっ!」
「誰ひとりも死ななかったなんて最高の帰還だなっ!」
「それもこれもヒルダが来てくれたお陰だよ!」
「いいえ、わたくしは皆さんの命を守っていただけですわ。戦った皆さんのほうが素晴らしいですわっ!」
「そんな事無いって!」
「ヒルダが居たから僕達安心して戦えたんだ!」
「嬉しいですわっ! わたくしも皆さんと一緒に戦えた事、とても誇りに思いますわっ!」
「さあさあ、帰るぞ! 準備が出来てる者は順次帰還せよ! 私は人間と少し話をしてから帰る!」
「はいっ!」

 神の一族達は喜び勇んで空の要塞へと飛び立って行った。



 アルフレッドは人間達の指揮官とガッチリ握手しながら話す。
 
「俺達はあなた達と共に戦い、勝利出来た事を非常に嬉しく思う」
「我々もです! 神の一族殿に不満を持っていた者も居ましたが、此度の戦いでその素晴らしさ、全員が身を以て知りました!」
「これからも共に共存し、繁栄していきたいと思う」
「我々もそう願っております! 神の一族の勇猛さ、我々人間は末代まで語り継ぎましょうぞ!」
「では、またどこかで会おう。さらばだ友よ!」
「末永く健やかあれ、アルフレッド殿!」
「では、帰ろうかヒルダ」
「はいっ! 兄上もきっと帰還を待ちわびていらっしゃいますわっ!」
「……おいカールソン、帰るぞ?」


 カールソンは必死にエトラ達を介抱しながらアルフレッドに話す。

「ごめん! エトラ達がまだ立てないんだ。もう少し待って治ったら追いかけるよ」
「調子に乗ってキスしまくるからだ。責任もって彼女達を介抱しろよ?」
「分かってるって!」
「じゃあ、先に行くからな?」
「あいよぉ!」

 アルフレッドとヒルダは要塞に向けて飛び立っていった。



 カールソンはエトラ達に話しかける。

「大丈夫? もう立てそう?」
「申し訳ございませんカールソン様。ぶっちゅを頂けた感情が大変心地良過ぎて…」
「ぶっちゅを沢山要求してしまいました。しもべとして大変反省しております…」
「ぶっちゅ、すっごく気持ち良かったですー…」
「そお? オドを分けてあげるだけじゃ申し訳なかったんで、気に入ってくれたんなら俺も嬉しいよ」
「………? カールソン様、何やら空で揉めているようです」
「え? 何かあったのかな?」

 エトラに指摘され、カールソンは上空を見上げる。


 空中要塞の端では、帰還しようとする者達と要塞に留まっていた者達の間で言い争いが始まっていた。


 カールソンは動けるようになったエトラ達と共に、先に来ていたアルフレッド達に合流する。
 そして、信じられない光景を目にした。

 中央に立つルドロスと共に、左右に分散している男達が全員弓を構えて自分達を狙っていたのである。


 カールソンは慌ててアルフレッドとヒルダの横に行き、どんな事になっているのか聞く。

「アルフレッド! ヒルダ! 何これ…どうなっちゃってんの?」
「ルドロスが……俺達の帰還を拒否した」
「兄上が…ご乱心なされてしまわれました…」
「へっ!? 何でよ? 何で帰っちゃ駄目なのよ!?」
「こっちが聞きたいくらいだ」
「兄上っ! 何故この様な事をなされるのですかっ!?」


 ヒルダの問いかけにルドロスは叫び返す。

「ヒルダとカールソン! お前達2人だけは帰還を許す! 他の者は帰還を絶対に許さないっ!」
「ちょっ、ちょっと待ってよルドロス!? 俺達全員無事に帰って来れたんだよ!? 何で帰還させてくんないのさ!?」
「カールソン! お前は種の維持に必要な存在だ! 早くヒルダと一緒に帰って来い!」
「俺への答えになってないよ! 何でみんな帰っちゃ駄目なのさ!?」
「…………」
「黙ってちゃ分かんないって! ルドロス答えてよ!」
「……何故……何故俺に内緒でヒルダを連れてった!」
「ちっ、違います兄上っ! わたくしが勝手に付いて行っただけですわっ!」
「そんなハズあるかっ! 虫も殺せぬお前が戦争に赴くなどあり得ないっ!」
わたくしの判断で行きました! 皆さんの誰かにたぶらかされた訳ではありません!」
「嘘つくんじゃ無いっ! どうせアルフレッドがたぶらかしたんだろうっ!」
「違いますっ!」
「うるさいヒルダっ! 反論などしてないで早く帰って来いっ!」
「兄上っ!」


 カールソンはルドロスに叫ぶ。

「ルドロス! 何で俺とヒルダ以外は帰れないのさ!」
「全員ヒルダだと気付いたハズだ! 何で気付いた時点で連れ帰さなかったんだ!」
「そ…そりゃヒルダが一緒に戦うって言ったからだよ!」
「お前まで嘘に加担するなっ!」
「嘘じゃないってばっ!」
「もしヒルダが死んででもしてみろ! どうしてくれたのだっ!?」
「だから死なせないようにみんなで守ったんだってばっ!」
「連れ帰しておけばそんな必要無かった!」
「ヒルダが来てくれたお陰で俺達誰も死なないで帰ってこれたんだよっ! みんなヒルダに助けられたんだよっ!」
「ほう! ならばヒルダが居なかったらお前達は全滅していた! そういう事だな!」
「その可能性はあったと思うよ!」
「ならばお前達の命はもう無かった! ココに帰っても来れなかった! そうだな!?」
「何が言いたいんだよルドロスっ!」
「ヒルダを連れ帰さなかったお前達全員同罪だっ! 既に死んだ者など絶対に帰還させないっ!」
「死んでないって!」
「聞く耳持たんっ!」


 ルドロスは叫ぶ。

「聞けぃアルフレッドぉ! 俺達はヒルダとカールソン以外の帰還を絶対に許さない! とっとと消えてどこかで野垂れ死ねぇっ!」
「ルドロス……頼む! 俺以外の帰還を許してくれ!」
「断るっ!」
「俺達仲間だろっ!」
「ヒルダを危険に晒したお前達など仲間なものかっ! さっさと消え去れっ!」
「ルドロス……」


怒りで我を忘れているルドロスに、カールソンは覚悟を決めて話す。

「ルドロス、ちょっと……聞いてくんないかな?」
「何だ、言ってみろカールソン!」
「実は…ヒルダ連れ出したのって…俺だったんだ! ごめんっ!」
「……何だと?」
「ヒルダってアルフレッドが大好きだろ? 一緒に行ったらもっと親密な仲になれるってさ、ヒルダの事そそのかしちゃったんだ! 本当にごめんっ!」
「カールソン……お前だったのかっ!?」
「だから…俺以外のみんなに罪はないんだよ。アルフレッドなんて、とんだとばっちりなんだ」
「…………」
「ヒルダ一人ならさ、光の精霊バルキリーに守って貰えば死なせる事は無いって思っちゃったんだ」
「……確かに、彼女達なら確実に守り通せただろうな」
「だからさ、責任は全部俺にあるんだ。追放するのは俺だけで、みんなは帰還させてよ」
「カールソン……」
「お願いだよルドロス。何だったらこの場で俺の事殺しちゃっていいから、みんなの事帰してあげてよ」
「……分かった」
「ありがとう……ルドロス」


 ルドロスは引き絞った弓を下げさせ、男達に叫ぶ。

「お前達! ヒルダとカールソンだけ連れ戻して来い! 他の奴らは殺しても構わない!」
「あっ、兄上ぇぇっ!」
「ルドロスっ! どこが分かったんだよっ!」
「お前が大嘘つきだって事だっ! 俺を騙せると思ったら大間違いだっ!」
「兄上っ! わたくし、もう我慢なりませんっ!」

ヒルダは風の精霊魔法を使い、降りて来て身柄を拘束しようとした男達を吹き飛ばしながら要塞に戻した。


 ルドロスはヒルダに叫ぶ。

「ヒルダっ! 何をするっ!」
「……分かりました兄上! わたくしはもう、絶対に要塞の地を踏みませんわ! ここに居る皆さんと一緒に…アルフレッドと共に一生添い遂げますっ!」
「ばっ…馬鹿な事を言うなっ!」
「馬鹿は兄上ですっ! 人間達は神の一族に大いなる感謝をして下さいましたわっ! 要塞でのほほんと過ごされた兄上では絶対に無理ですっ!」
「ヒルダっ! 兄を馬鹿にするのかっ!」
「ええ! 大いに馬鹿に致しますわっ! アルフレッドのほうが正しいんですものっ!」
「ヒルダぁぁぁっ!」
「行きましょうアルフレッド。あのような馬鹿に説得なさるのは時間の無駄! わたくし達の住む安住の地を探す時間が勿体ないですわっ!」
「お、おい…ヒルダ」
「さあ皆さんっ! 行きましょうっ!」

 ヒルダはアルフレッドの手を掴み、強引にその場から離れようとする。


 ルドロスは狼狽しながらヒルダに叫ぶ。

「とっ、止まれヒルダっ! さもないと矢を射るぞっ!」
「射ってご覧なさいっ! そっくりそのまま跳ね返して差し上げますわっ!」
「ほっ、本当に射るぞっ!」
「射ったら最後ですわよっ! もう金輪際、あなたを兄などと呼びませんわっ!」
「くっ……」
「さ、皆さん。あんな腰抜けの脅しに屈してなどなりませんわ。わたくし達は勇敢な戦士なのです。神の一族などという恥ずかしい名を捨て、別の名を名乗りましょう」
「ヒルダ……何もそこまでしなくても…」
「アルフレッド、わたくしはもう神の一族という名に虫唾が走って仕方がありません。別の名を名乗りたいのです」
「別の名…とは?」
「……そうですわね。翼を持つ民………そうですわ! 『翼の民』という名はいかがでしょう?」
「翼の民か…悪くないな。いや待て待てヒルダ! それは…」
「まぁっ! アルフレッドも気に入って下さいましたのねっ! では……こほん」


 ヒルダはルドロスに向かって大声で叫ぶ。

「聞けいっルドロスっ! 我等はもう神の一族という腑抜けの名など捨てたっ! 今より我等は翼の民と名乗るっ!」
「ヒルダっ! 勝手な真似するなぁっ!」
「問答無用っ! 弓引くならお前達全て敵ぞっ! 容赦などせぬから覚悟なさいっ!」
「ひ…ヒルダぁ……」
「弓引くなら勝手に引けいっ! わたくしが跳ね返し、光の精霊バルキリーが反撃するから覚悟なさいっ!」
「えっ? ……ってエトラぁぁっ!?」
「既にワタシ達は反撃準備が済んでおります、カールソン様」
「姉上ほど上手くありませんが、ワタクシも弓を扱えます」
「ボク、じゃんじゃん射っちゃうもんねー」
「ちょっとぉ……何で3人ともそんなに好戦的なのさぁ? 俺…泣きそう」

 ヒルダの怒声に呼応し、エトラ達は既に弓を構えて威嚇をしていた。
 カールソンは右手で目を隠し、天を仰いだ。


 颯爽とその場を離れるヒルダと、手を引っ張られているアルフレッドを追いかけるように、翼の民と強制的に改名された24人は後を追う。
 

 カールソンも帰還を諦め要塞に背を向けたところ、背後から叫び声を聞いて振り返る。

「カールソーンっ!」
「わたしも行くぅーっ!」
「連れてってぇぇぇーっ!」

 要塞から3人の女が飛び降りて来た。

 よく見ると他にも飛び降りようとしている女達が居る。
 飛び降りようとしている女達は男達に羽交い絞めにされ、強引に連れ戻されていた。


 飛び降りて来た3人の女は一斉にカールソンへ抱き付いた。

「カールソンっ! お帰りっ!」
「ずっと待ってたんだよっ!」
「私っ、あなたとの子供だけしか欲しくないっ!」
「うわっ!? あっ…お…落ちるっ…落ちちゃうぅぅ……」
 
 3人の女に抱き付かれたカールソンは浮力を失い、4人まとまって錐揉みしながら落下してゆく。

 あっという間に降下しているアルフレッド達を追い抜き、落ちてゆく4人を見て、慌てて全員で助けに追いかけた。


 アルフレッドとヒルダはカールソンの手を掴み、浮力を補助しながら話す。

「ほらほらお前達、このままではカールソンと一緒に墜落するぞ?」
「折角無事に生き延びられた男と心中なさるおつもりですか?」
「ごっ、ごめんなさい!」
「だって…カールソン帰って来れないって…」
「もう私も一緒に行くしかないって思っちゃった…」
「本当にお前って奴は…女に好かれるな?」
「女には堪らない程素敵な男ですもの。わたくしのアルフレッドには到底敵いませんけどね」
「嫌われるよりは好かれるほうがいいけどさ…俺、何でこんなに好かれちゃってんの?」
「だって嫌いなところがひとつも無いんだもん」
「だからみんなカールソンの事が好きなの」
「本当は独り占めしたいけど…流石にそれは無理って諦めてる」
「じゃあ俺、これからもみんなから嫌われないように頑張りまーっす」
「そうそう、頑張ってね?」
「子供沢山作ろうね?」
「私達3人だけ来れたけど…他のみんな可哀そう……」


 アルフレッドは話す。

「さて……これからどうする? 俺達が住める土地を探さなくてはな」
「そうですわね。ついカッとなって馬鹿ルドロスの喧嘩を買ってしまいましたが…どうしましょう?」
「ヒルダも怒るんだね? 俺、ビックリしちゃったよ」
「もうあのような軟弱者、兄でも何でもありませんわ。わたくしはアルフレッドと共に生きて参りますわ」
「何かホント……女の行動力って凄いね、アルフレッド」
「……全くだ。実は男のほうが軟弱かも知れないな」
「うふふっ。女を見直しまして?」
「見直しましたとも。そりゃもう絶対怒らせちゃいけないと思いましたです、はい」


 再び地上へと降り立ったアルフレッド達を不思議に思い、人間達が集まって来た。

 
 人間達を率いた指揮官が近寄り、アルフレッドに話しかける。

「アルフレッド殿、どうかなされたのですか?」
「いや、情けない話なのだが……要塞から追放されてきた」
「なっ…何ですとっ!? 戦争の功労者を追放などと…神の一族は正気でございますかっ!?」
「分からん。一時の迷いであればいいのだが……」
「我等は明日までこの地に留まります。撤収するまでの間、どうぞこの地でお過ごし下さいませ」
「感謝する」
「食事はお済みでございますか?」
「いや……」
「では、我等が最高の礼を以ておもてなし致します。実は今日撤収しないのは、この地で盛大な宴を催す為でございましてな」
「宴?」
「はい。戦争に勝利した記念でございます。いやこれは…いえ、何でもありませぬ」
「いい。言ってくれても構わん」
「…はい。多大な貢献をして下さった皆様抜きで宴をする事にいささか残念でおったのです。追放なされたお陰…失礼、お戻り下さったお陰で宴は大いに盛り上がるでしょう」
「そうか。俺達も宴に参加させて貰ってもいいのか?」
「勿論でございますとも! 十三柱神殿にも伺いましたが、食事する事は無いそうですが宴は見て楽しんで下さるそうでございます」
「では、世話にならせて頂く」
「はい! 是非お楽しみ下さいませ!」

 指揮官は喜び勇んで宴の準備に向かって行った。



 アルフレッド達はその場に力無く座り込む。

 全員、要塞を追われた事に精神的なショックを受けていた。

 未だ歓喜に沸く人間達の中、その場所だけは沈痛な空気が流れる。



 アルフレッドは力ない声でぼそりと呟く。

「宴…か。要塞でやりたかったな……」
「俺の事酔い潰すんだったっけか?」
「……今日は人間達の好意に甘えよう。みんな、飲んで食って騒ごうじゃないか?」
「そうですわ! 今日は大変おめでたい日ですのよ!」
「そうだな。俺達が翼の民になった、めでたい日だ!」
「うんうん! みんなぁー! 今日は楽しもーっ!」
「おおーっ!」

 翼の民は空元気で声を張り上げた。


 自分達の帰るべき場所を失い、この先どうなるか不安を隠しながら。

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