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幼少~少年時代
10 異変
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その日の晩、谷には月が満ちていた。
谷には淡い月の光が差し込み、夜だというのに明るく感じられた。
谷の静寂は続くと思われた。
にわかに谷を照らす月の光が、大きな影に遮られ始める。
影はみるみる大きくなり、谷は瞬く間に暗闇へ包まれる。
影の正体は、空に浮かぶ巨大な島であった。
イザベラとローラは島を見上げながら顔を曇らせる。
「むっ……島か……」
「お姉様、もしや……」
「しまった……先手を打たれたか……」
「……いけませんわ。何とか…しなくては……」
2人は上空へ停滞している島を見上げながら、言葉を詰まらせた。
程無くして、島から武装した10人の男達が翼を広げ舞い降りて来た。
先頭に立つのは槍を手にした長身の大男。
口には髭をたくわえていた。
谷に降り立った大男と他の9人は、イザベラとローラに近寄って来る。
大男は2人の目の前で立ち止まり、跪きもせず頭だけぺこりと下げて話す。
「お久しぶりでございますな。イザベラ女王にローラ女王」
立ち上がろうとしたローラを手で制止し、イザベラは訝しげに聞き返す。
「こんな時分に何の用だ? グスタフ将軍」
将軍と呼ばれたグスタフは顔を上げると、もう分かっているだろうと言いたそうな顔つきで答える。
「女王。既にお告げは、知っておりましょうな?」
その言葉には威圧感が混じっていた。
イザベラとローラは動揺を悟られまいと、飄々とした態度でグスタフに話す。
「勿論だ。神のお告げで世界を救う者がこの世に現れるのであったな?」
「島にもお告げはお届きになっていらっしゃったのですか?」
「逆、ですな。世界を滅ぼす者です。谷は危機感が無さ過ぎでございますぞ?」
「……世を滅ぼす程の力で世を救う子ではないのか?」
「それ程の力でなければ、世を救えないのではありませんか?」
「もう一度言いましょう、谷は呑気過ぎる。我々は男の存在を否定します」
「で、何をしに来た?」
「このような夜更けに来られなければならない程のご用件ですか?」
「この谷に…男の子が産まれましたな?」
グスタフの問いかけにイザベラは、島は男の殺害に動いたと確信する。
お互い目配せし合い、2人はあえて曖昧な返事をグスタフに返す。
「さあ? 私達には何も知らされて無いが?」
「谷に子はまだ産まれておりませんよ? 島の早とちりではございませんか?」
2人の返答に、グスタフは笑いながら答える。
「ふはは! 女王達も嘘をつくのですな。男の子、産まれましたな?」
「……知らぬな」
「お待ち下さいませ。神は世界を救う者と仰られております。何故その子ーー」
「世界を滅ぼす者! このお告げを島は、我が皇帝陛下は見逃しなど致しませぬ」
ローラの言葉を遮り、グスタフは怒鳴った。
グスタフは威圧し、2人は反論する。
「我々は世界の秩序を守る様、神から仰せつかっております。後は…聡明な女王達ならお分かりでしょう?」
「分からぬな。私達はその男を救世主と認識したのでな」
「そうです。世を救う子ですよ?」
「意外と世間知らずなのですな? それとも…愚か者のフリをなされておいでですかな?」
「私達を愚弄するのか? 島も相変わらず間抜けよの」
「神のお告げ、早とちりなさって間違えた選択をなさってはいけません」
「いいえ、我々は正しい。早とちりをしているのは女王達だ」
「グスタフよ。お前のその馬鹿さ加減には呆れるぞ」
「もう一度、ルドルフに確認なさってからいらっしゃい」
「いえ結構。これから谷を調べさせて頂きます」
「断る」
「勝手に谷を徘徊なさる権利など、島にはございません」
「島の判断を止める権利など谷にもありませぬ」
グスタフは配下の者に命令を下す。
「お前達探せ! 谷中を探して赤子を見付けるのだ!」
「ははっ!」
「儂はここで2人が余計な事をせぬよう見張っている。歯向かう者がおったら痛めつけてやれ」
「はっ! では、行って参ります」
「うむ」
部下は谷の中へと探しに向かった。
イザベラとローラは慌てて立ち上がり、民達の居住区へ行こうとする兵士達を怒鳴り付ける。
「待て貴様ら! 勝手な真似は許さぬ!」
「民達に手を出してはなりません!」
「良い! 行け! こいつらより我等が皇帝陛下のほうが偉いのだ!」
「ふざけるな! あんなクソガキが私達よりも偉いだと!?」
「思い上がりもいい加減になさいっ!」
「谷は黙って邪神の封印だけしておれば良い! 口出しするな!」
「グスタフ貴様…ただの一兵卒の分際で私達を蔑ろにするなっ!」
「私達は貴方を殺しても一向に困らないのですよ?」
「おおっ、怖い怖い。やれるものならやって下され。我々も報復に谷の民を殺すだけです」
「……くっ!」
「封印の妨げをなさるおつもりですかっ!?」
グスタフは飄々とした態度で2人に話す。
「はははまさか。お2人の婿殿まで殺すつもりはございません。おおそうだ、婿殿の名を教えて下され」
「…………」
「おっと失礼。まだ婿殿はいらっしゃられませんのでしたな」
「……無礼な男…」
「失礼ではございますが、早く次の守り手をお作りになられてはいかがですかな?」
「おのれ…無礼も甚だしいわっ!」
「子を作れなどと…貴方から指図される謂れなどありません!」
「まあまあ、お2人とも落ち着いて下され。こうしている間に終わりますゆえ」
グスタフは女王2人を威圧し続ける。
女王から余計な事をされたくない為に。
谷には淡い月の光が差し込み、夜だというのに明るく感じられた。
谷の静寂は続くと思われた。
にわかに谷を照らす月の光が、大きな影に遮られ始める。
影はみるみる大きくなり、谷は瞬く間に暗闇へ包まれる。
影の正体は、空に浮かぶ巨大な島であった。
イザベラとローラは島を見上げながら顔を曇らせる。
「むっ……島か……」
「お姉様、もしや……」
「しまった……先手を打たれたか……」
「……いけませんわ。何とか…しなくては……」
2人は上空へ停滞している島を見上げながら、言葉を詰まらせた。
程無くして、島から武装した10人の男達が翼を広げ舞い降りて来た。
先頭に立つのは槍を手にした長身の大男。
口には髭をたくわえていた。
谷に降り立った大男と他の9人は、イザベラとローラに近寄って来る。
大男は2人の目の前で立ち止まり、跪きもせず頭だけぺこりと下げて話す。
「お久しぶりでございますな。イザベラ女王にローラ女王」
立ち上がろうとしたローラを手で制止し、イザベラは訝しげに聞き返す。
「こんな時分に何の用だ? グスタフ将軍」
将軍と呼ばれたグスタフは顔を上げると、もう分かっているだろうと言いたそうな顔つきで答える。
「女王。既にお告げは、知っておりましょうな?」
その言葉には威圧感が混じっていた。
イザベラとローラは動揺を悟られまいと、飄々とした態度でグスタフに話す。
「勿論だ。神のお告げで世界を救う者がこの世に現れるのであったな?」
「島にもお告げはお届きになっていらっしゃったのですか?」
「逆、ですな。世界を滅ぼす者です。谷は危機感が無さ過ぎでございますぞ?」
「……世を滅ぼす程の力で世を救う子ではないのか?」
「それ程の力でなければ、世を救えないのではありませんか?」
「もう一度言いましょう、谷は呑気過ぎる。我々は男の存在を否定します」
「で、何をしに来た?」
「このような夜更けに来られなければならない程のご用件ですか?」
「この谷に…男の子が産まれましたな?」
グスタフの問いかけにイザベラは、島は男の殺害に動いたと確信する。
お互い目配せし合い、2人はあえて曖昧な返事をグスタフに返す。
「さあ? 私達には何も知らされて無いが?」
「谷に子はまだ産まれておりませんよ? 島の早とちりではございませんか?」
2人の返答に、グスタフは笑いながら答える。
「ふはは! 女王達も嘘をつくのですな。男の子、産まれましたな?」
「……知らぬな」
「お待ち下さいませ。神は世界を救う者と仰られております。何故その子ーー」
「世界を滅ぼす者! このお告げを島は、我が皇帝陛下は見逃しなど致しませぬ」
ローラの言葉を遮り、グスタフは怒鳴った。
グスタフは威圧し、2人は反論する。
「我々は世界の秩序を守る様、神から仰せつかっております。後は…聡明な女王達ならお分かりでしょう?」
「分からぬな。私達はその男を救世主と認識したのでな」
「そうです。世を救う子ですよ?」
「意外と世間知らずなのですな? それとも…愚か者のフリをなされておいでですかな?」
「私達を愚弄するのか? 島も相変わらず間抜けよの」
「神のお告げ、早とちりなさって間違えた選択をなさってはいけません」
「いいえ、我々は正しい。早とちりをしているのは女王達だ」
「グスタフよ。お前のその馬鹿さ加減には呆れるぞ」
「もう一度、ルドルフに確認なさってからいらっしゃい」
「いえ結構。これから谷を調べさせて頂きます」
「断る」
「勝手に谷を徘徊なさる権利など、島にはございません」
「島の判断を止める権利など谷にもありませぬ」
グスタフは配下の者に命令を下す。
「お前達探せ! 谷中を探して赤子を見付けるのだ!」
「ははっ!」
「儂はここで2人が余計な事をせぬよう見張っている。歯向かう者がおったら痛めつけてやれ」
「はっ! では、行って参ります」
「うむ」
部下は谷の中へと探しに向かった。
イザベラとローラは慌てて立ち上がり、民達の居住区へ行こうとする兵士達を怒鳴り付ける。
「待て貴様ら! 勝手な真似は許さぬ!」
「民達に手を出してはなりません!」
「良い! 行け! こいつらより我等が皇帝陛下のほうが偉いのだ!」
「ふざけるな! あんなクソガキが私達よりも偉いだと!?」
「思い上がりもいい加減になさいっ!」
「谷は黙って邪神の封印だけしておれば良い! 口出しするな!」
「グスタフ貴様…ただの一兵卒の分際で私達を蔑ろにするなっ!」
「私達は貴方を殺しても一向に困らないのですよ?」
「おおっ、怖い怖い。やれるものならやって下され。我々も報復に谷の民を殺すだけです」
「……くっ!」
「封印の妨げをなさるおつもりですかっ!?」
グスタフは飄々とした態度で2人に話す。
「はははまさか。お2人の婿殿まで殺すつもりはございません。おおそうだ、婿殿の名を教えて下され」
「…………」
「おっと失礼。まだ婿殿はいらっしゃられませんのでしたな」
「……無礼な男…」
「失礼ではございますが、早く次の守り手をお作りになられてはいかがですかな?」
「おのれ…無礼も甚だしいわっ!」
「子を作れなどと…貴方から指図される謂れなどありません!」
「まあまあ、お2人とも落ち着いて下され。こうしている間に終わりますゆえ」
グスタフは女王2人を威圧し続ける。
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