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幼少~少年時代
11 騒動
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時は少し遡り、谷に影が落ち始めた頃。
(バルボア、ミモザ。聞こえる?)
家でくつろいでいたバルボアとミモザの頭の中に、イザベラの囁き声が聞こえてきた。
2人は顔を見合わせながら話す。
「あ、イザベラ様の声だ」
「どうなされたんでしょ?」
囁き声は続く。
(よく聞いて! 今から島の連中があなた達の子を殺しにやってくるわ!)
(なっ…何ですって!? そんな馬鹿な!)
(島が…カーソンを?)
(名前、決めたのね? カーソンか……いい名前ね)
(ありがとうございます)
(あっといけない! 急いでどこかに隠れなさい! 私達が時間を稼いでる間に、早く!)
(は、はい! 分かりました!)
2人はスヤスヤと眠るカーソンを連れて家を飛び出した。
イザベラはグスタフと口論をしている間に、魔力と呼ばれる不思議な力を使ってバルボアとミモザに危険を知らせていた。
島の兵達に見付からない事を祈りながら。
2人は谷を駆け回り、逃げる場所を探した。
しかし螺旋状の谷は狭く、絶望的な程隠れる場所が無かった。
焦る2人はフレイムアースの家の前で、たまたま薪を取りに家から出て来たセルゲイと出会う。
セルゲイはこんな時分に外をうろついている2人を不思議がりながら話す。
「? どうしたんだ? バルボアにミモザ、赤ん坊風邪ひいちまうぞ?」
「セルゲイ助けてくれ! このままじゃ、ウチの子が殺される! 島の連中が殺しにやってきたんだ!」
「かっ、カーソンが殺されちゃうっ! 助けてセルゲイっ!」
「な、何だと!? 何の理由で島から赤ん坊殺しになんか来るんだよ!?」
「俺達が知るかよ! ああ…上はダメだ、島が来てる! お前ん家に隠れ…てもバレちまう!」
「嫌っ! この子が…カーソンが殺されちゃうなんて嫌っ!」
「落ち着け2人とも! そうだ、谷底へ隠れろっ! あそこなら見付けられねぇかも!」
「谷底か! 分かった! すまんセルゲイ!」
「ありがとうセルゲイっ!」
バルボアとミモザは翼を広げ、滑降しながら谷底へと降りて行った。
セルゲイは家へと飛び込み、グレイスと自分の娘に指示を出した。
「グレイス! クリス! お前達バルボアん家行って生活してるフリしろ! 無人の家があったらバレるかも知れねぇっ!」
「? 何でだよ?」
「詳しく話してるヒマはねぇっ! 島が赤ん坊殺しに来やがってんだ! 助けなきゃねぇっ!」
「はぁっ!? 何で…あっと、そりゃ急がなきゃないねっ!」
「2人とも急げっ!」
「あいよっ!」
「分かったっ!」
グレイスとクリスは家を飛び出し、バルボアの家へと走って行った。
グスタフに監視をされているイザベラとローラは魔力を使い、グスタフに気取られないよう平静を装いながら会話する。
(ローラ聞いて。民達にお願いして一騒動起こさせようと思うの)
(騒動ですか?)
(ええ。わざと混乱させて兵達の目を欺いている間にバルボア達を何とか保護しましょ!)
(はいっ! お姉様!)
(私はグスタフを連れ出してこの場から去るわ。民達と協力して、バルボア達をどうにか連れて来させるから、ローラは匿ってあげて頂戴!)
(はいっ!)
(ああ…こんな時に風の精霊だけでも帰って来てくれていたら……)
(彼女が戻っていても、私達の言う事は恐らく聞いてくれませんでしたわ)
(くっ…今日ほど私が女であった事が恨めしい日は無いわ!)
(お姉様、何とかして私達と谷の皆さんで切り抜けましょう!)
(そうね! じゃあ、始めるわよ!)
イザベラはすくっと立ち上がり、近くにある兵舎へ向かって歩き出す。
グスタフはイザベラの前に立ち塞がり、話す。
「女王、ここから動いてはなりませぬ」
「……用事があるのだ。通せ」
「なりませぬ。終わるまで動かないで下され」
「断る」
「なりませぬ」
「……貴様、私に恥をかかせる気か?」
「? 恥とは?」
「女に恥をかかせる気かと聞いている!」
「何の事か存じませぬ」
「……そうか。では、私がこの場で漏らすのを黙って見ておれ」
「あっ、便所でございましたか。これは失礼致しました。お供致します」
「何故、貴様と一緒に行かなくてはならぬのだ?」
「女王が余計な事をせぬようにでございます」
「ローラは放っておいても良いのか?」
「どちらもこの場を離れると、封印が解ける恐れがあるのではございませぬか?」
「……その通りだ」
「では、問題ありませぬな」
イザベラはグスタフを連れ、兵舎のトイレへと向かった。
トイレの前にグスタフを待たせ、扉を閉めるとイザベラは急いで民達に魔力で話しかける。
(みんな聞いてっ! 一大事よっ! 助けて頂戴っ!)
(!? イザベラ様、どうされたのですかっ!?)
(何か起きたのですかっ!?)
イザベラの声を聞いた民達は慌てながら聞き返した。
イザベラは魔力で民達に会話を続ける。
(このままでは島の愚か者共に谷の希望、あの赤子が殺される! 全員で助けなくてはならないの!)
(ええっ!? なっ、何であの子が殺されるんですかっ!?)
(詳しく説明している時間は無いわ! みんなスグに動いて頂戴っ!)
(はいっ!)
(みんな今から家を飛び出して殴り合いの喧嘩をして頂戴! 本気でっ!)
(けっ…喧嘩っ!?)
(理由は何でもいい! 怪我したらローラが治すから、本気でお願いっ!)
(はいっ! お任せ下さいっ!)
(島の兵共の行く手を遮ってっ! 近衛は騒動を止めるフリしてっ!)
(はっ! かしこまりましたっ!)
(お願いっ!)
(お任せ下さいっ! みんなっ、おっぱじめるぞっ!)
(おうよっ!)
(あいよぉっ!)
居住区へ赤子を探しにやって来た島の兵士達の前で、民達は突然家から飛び出してきて騒ぎ出す。
「おいこの野郎っ! よくも俺の妻に手ぇ出しやがったな!」
「うるせえっ! あんな可愛い嫁さんほったらかしたてめえがわりぃんだよ!」
「キィィィッ! このドロボウ猫っ! あたしの旦那に色目なんか使ってんじゃないよっ!」
「知ったこっちゃないねっ! あんたが女らしくないからあたしが誘ってやっただけだろっ!」
「この馬鹿女っ! もう我慢ならねぇっ!」
「うるさいこの甲斐性無しっ! コッチだってもう我慢の限界なんだよっ!」
「何で大事に取っといた肉勝手に食ったんだよっ!」
「腐る前に食ってやっただけだろ! 感謝しやがれ!」
「何で俺と結婚してくんねぇんだょ!」
「えっ……って、今言う話じゃねぇだろこの馬鹿野郎っ!」
民達は殴り合い、引っ掻き合い、髪を引っ張り合い、取っ組み合いの大喧嘩を始めた。
近衛兵達は民達の大喧嘩を止めに入る。
「やめろお前達! 喧嘩などするんじゃ無いっ!」
「うるせえっ! 邪魔すんならおめえもぶん殴ってやる!」
「やめろと言っている!」
「近衛だからって威張ってんじゃないよっ!」
「だから男にそっぽ向かれてんだろっ!」
「嫁に貰われないままババアになっちまえ!」
「……何だと? もう許さんっ!」
「いや……そこで怒られても……」
「むっ…すまん」
「頼むからその剣、抜かねぇでくれよ?」
「分かってるっ!」
居住区から聞こえる騒ぎ声に、グスタフはトイレに入っているイザベラを待ちながら首をかしげる。
島の兵士がひとり、駆け戻って来てグスタフに報告する。
「何が起きているのだ?」
「報告致します! 谷の民達が突然大喧嘩を始めました。巻き込まれて先に進めません!」
「何だと? 女王! 何とかして下さいませぬか!」
「……まだ、出ききっておらぬ」
「こんな時に糞などしている場合ではございませぬぞ!」
「久しぶりなのだ。もうしばらく待て」
イザベラはトイレの中で再び魔力で話しかける。
(バルボア! ミモザ! 聞こえる? この混乱に乗じて建物の陰に隠れながらローラの所まで行って!)
(イザベラ様……それが…その……)
(今わたし達、谷底に居ます)
(何ですって!?)
(申し訳ありません。逃げ場が無くて……下に逃げてしまいました)
(これから上に上がります)
(待って! そのまま待機しててっ! ヘタに上がると見付かってしまうわ!)
(はい)
(次の手を考える! それまでそこでじっとしててっ!)
イザベラはトイレの中でぼそっと呟く。
「……しまった。初手を打ち間違えたか……」
トイレの前で待っていたグスタフは、頭の中に届く声に耳を傾けていた。
やがて、ニヤリと笑いながらトイレの中に居るイザベラに話しかける。
「女王、只今島から命令が届きました」
「……何っ!?」
「所用が出来ましたので移動します。どうぞごゆっくり」
「!? まっ、待てっ!」
「いえ、待ちませぬ。糞が終わるまでじっくりとひり出し続けて下され」
「待てと言っておる!」
トイレの扉をバンと開け、中からイザベラが飛び出しグスタフを引き留める。
グスタフはイザベラを見ながらニヤニヤと笑い、話す。
「おや、終わりましたかな?」
(くっ……仕方ない)
「……グスタフ、ちょっと頼みを聞いてくれぬか?」
「何でございますかな?」
「……身体が疼いて困っておる。相手をしてくれぬか?」
「ははは。今まで糞をしていた女になど性欲が起きませぬな」
「糞などしておらぬ。今までずっと自分を慰めておったのだ」
「では、イクまで続けられて下され。年上の女などには全く興味などありませぬゆえ」
「まっ、待って。お…お願い……抱いて」
イザベラはローブの裾を捲り上げ、下半身の下着をグスタフの前に晒す。
グスタフはニヤニヤしながらイザベラに話す。
「どうぞ、溜まった欲情は自分で処理なされよ。では、これにて」
「まっ、待てっ! お…お願い。お前のアレが……ほ、欲しい」
「お断り致します。これ以上茶番には付き合いきれませぬ」
「茶番では無い。本当にお前が欲しくて堪らぬのだ。抱いてくれ」
「……かしこまりました。おいお前、儂の代わりにそこの盛っておるメスの相手をしてやれ」
「は? わ…私がでございますか?」
「ぐ、グスタフ! 私はお前が欲しいのだ!」
「何をおっしゃられますか。若いコイツなら何発でも出来ますぞ? どうぞお好きなだけなされよ」
「くっ……」
グスタフはトイレにイザベラと兵士を置き去りにし、居住区へと向かった。
民達の騒動現場までやって来たグスタフは島の兵士達に叫ぶ。
「お前達! 2人儂について来い! 残りはこいつらの茶番につき合ってやれ!」
「はっ、将軍!」
「儂は谷底へ行く。標的はソコに居る」
グスタフと部下達は谷の底へと降りていった。
空の島には騒動を見破る力を持つ者が居た様である。
(バルボア、ミモザ。聞こえる?)
家でくつろいでいたバルボアとミモザの頭の中に、イザベラの囁き声が聞こえてきた。
2人は顔を見合わせながら話す。
「あ、イザベラ様の声だ」
「どうなされたんでしょ?」
囁き声は続く。
(よく聞いて! 今から島の連中があなた達の子を殺しにやってくるわ!)
(なっ…何ですって!? そんな馬鹿な!)
(島が…カーソンを?)
(名前、決めたのね? カーソンか……いい名前ね)
(ありがとうございます)
(あっといけない! 急いでどこかに隠れなさい! 私達が時間を稼いでる間に、早く!)
(は、はい! 分かりました!)
2人はスヤスヤと眠るカーソンを連れて家を飛び出した。
イザベラはグスタフと口論をしている間に、魔力と呼ばれる不思議な力を使ってバルボアとミモザに危険を知らせていた。
島の兵達に見付からない事を祈りながら。
2人は谷を駆け回り、逃げる場所を探した。
しかし螺旋状の谷は狭く、絶望的な程隠れる場所が無かった。
焦る2人はフレイムアースの家の前で、たまたま薪を取りに家から出て来たセルゲイと出会う。
セルゲイはこんな時分に外をうろついている2人を不思議がりながら話す。
「? どうしたんだ? バルボアにミモザ、赤ん坊風邪ひいちまうぞ?」
「セルゲイ助けてくれ! このままじゃ、ウチの子が殺される! 島の連中が殺しにやってきたんだ!」
「かっ、カーソンが殺されちゃうっ! 助けてセルゲイっ!」
「な、何だと!? 何の理由で島から赤ん坊殺しになんか来るんだよ!?」
「俺達が知るかよ! ああ…上はダメだ、島が来てる! お前ん家に隠れ…てもバレちまう!」
「嫌っ! この子が…カーソンが殺されちゃうなんて嫌っ!」
「落ち着け2人とも! そうだ、谷底へ隠れろっ! あそこなら見付けられねぇかも!」
「谷底か! 分かった! すまんセルゲイ!」
「ありがとうセルゲイっ!」
バルボアとミモザは翼を広げ、滑降しながら谷底へと降りて行った。
セルゲイは家へと飛び込み、グレイスと自分の娘に指示を出した。
「グレイス! クリス! お前達バルボアん家行って生活してるフリしろ! 無人の家があったらバレるかも知れねぇっ!」
「? 何でだよ?」
「詳しく話してるヒマはねぇっ! 島が赤ん坊殺しに来やがってんだ! 助けなきゃねぇっ!」
「はぁっ!? 何で…あっと、そりゃ急がなきゃないねっ!」
「2人とも急げっ!」
「あいよっ!」
「分かったっ!」
グレイスとクリスは家を飛び出し、バルボアの家へと走って行った。
グスタフに監視をされているイザベラとローラは魔力を使い、グスタフに気取られないよう平静を装いながら会話する。
(ローラ聞いて。民達にお願いして一騒動起こさせようと思うの)
(騒動ですか?)
(ええ。わざと混乱させて兵達の目を欺いている間にバルボア達を何とか保護しましょ!)
(はいっ! お姉様!)
(私はグスタフを連れ出してこの場から去るわ。民達と協力して、バルボア達をどうにか連れて来させるから、ローラは匿ってあげて頂戴!)
(はいっ!)
(ああ…こんな時に風の精霊だけでも帰って来てくれていたら……)
(彼女が戻っていても、私達の言う事は恐らく聞いてくれませんでしたわ)
(くっ…今日ほど私が女であった事が恨めしい日は無いわ!)
(お姉様、何とかして私達と谷の皆さんで切り抜けましょう!)
(そうね! じゃあ、始めるわよ!)
イザベラはすくっと立ち上がり、近くにある兵舎へ向かって歩き出す。
グスタフはイザベラの前に立ち塞がり、話す。
「女王、ここから動いてはなりませぬ」
「……用事があるのだ。通せ」
「なりませぬ。終わるまで動かないで下され」
「断る」
「なりませぬ」
「……貴様、私に恥をかかせる気か?」
「? 恥とは?」
「女に恥をかかせる気かと聞いている!」
「何の事か存じませぬ」
「……そうか。では、私がこの場で漏らすのを黙って見ておれ」
「あっ、便所でございましたか。これは失礼致しました。お供致します」
「何故、貴様と一緒に行かなくてはならぬのだ?」
「女王が余計な事をせぬようにでございます」
「ローラは放っておいても良いのか?」
「どちらもこの場を離れると、封印が解ける恐れがあるのではございませぬか?」
「……その通りだ」
「では、問題ありませぬな」
イザベラはグスタフを連れ、兵舎のトイレへと向かった。
トイレの前にグスタフを待たせ、扉を閉めるとイザベラは急いで民達に魔力で話しかける。
(みんな聞いてっ! 一大事よっ! 助けて頂戴っ!)
(!? イザベラ様、どうされたのですかっ!?)
(何か起きたのですかっ!?)
イザベラの声を聞いた民達は慌てながら聞き返した。
イザベラは魔力で民達に会話を続ける。
(このままでは島の愚か者共に谷の希望、あの赤子が殺される! 全員で助けなくてはならないの!)
(ええっ!? なっ、何であの子が殺されるんですかっ!?)
(詳しく説明している時間は無いわ! みんなスグに動いて頂戴っ!)
(はいっ!)
(みんな今から家を飛び出して殴り合いの喧嘩をして頂戴! 本気でっ!)
(けっ…喧嘩っ!?)
(理由は何でもいい! 怪我したらローラが治すから、本気でお願いっ!)
(はいっ! お任せ下さいっ!)
(島の兵共の行く手を遮ってっ! 近衛は騒動を止めるフリしてっ!)
(はっ! かしこまりましたっ!)
(お願いっ!)
(お任せ下さいっ! みんなっ、おっぱじめるぞっ!)
(おうよっ!)
(あいよぉっ!)
居住区へ赤子を探しにやって来た島の兵士達の前で、民達は突然家から飛び出してきて騒ぎ出す。
「おいこの野郎っ! よくも俺の妻に手ぇ出しやがったな!」
「うるせえっ! あんな可愛い嫁さんほったらかしたてめえがわりぃんだよ!」
「キィィィッ! このドロボウ猫っ! あたしの旦那に色目なんか使ってんじゃないよっ!」
「知ったこっちゃないねっ! あんたが女らしくないからあたしが誘ってやっただけだろっ!」
「この馬鹿女っ! もう我慢ならねぇっ!」
「うるさいこの甲斐性無しっ! コッチだってもう我慢の限界なんだよっ!」
「何で大事に取っといた肉勝手に食ったんだよっ!」
「腐る前に食ってやっただけだろ! 感謝しやがれ!」
「何で俺と結婚してくんねぇんだょ!」
「えっ……って、今言う話じゃねぇだろこの馬鹿野郎っ!」
民達は殴り合い、引っ掻き合い、髪を引っ張り合い、取っ組み合いの大喧嘩を始めた。
近衛兵達は民達の大喧嘩を止めに入る。
「やめろお前達! 喧嘩などするんじゃ無いっ!」
「うるせえっ! 邪魔すんならおめえもぶん殴ってやる!」
「やめろと言っている!」
「近衛だからって威張ってんじゃないよっ!」
「だから男にそっぽ向かれてんだろっ!」
「嫁に貰われないままババアになっちまえ!」
「……何だと? もう許さんっ!」
「いや……そこで怒られても……」
「むっ…すまん」
「頼むからその剣、抜かねぇでくれよ?」
「分かってるっ!」
居住区から聞こえる騒ぎ声に、グスタフはトイレに入っているイザベラを待ちながら首をかしげる。
島の兵士がひとり、駆け戻って来てグスタフに報告する。
「何が起きているのだ?」
「報告致します! 谷の民達が突然大喧嘩を始めました。巻き込まれて先に進めません!」
「何だと? 女王! 何とかして下さいませぬか!」
「……まだ、出ききっておらぬ」
「こんな時に糞などしている場合ではございませぬぞ!」
「久しぶりなのだ。もうしばらく待て」
イザベラはトイレの中で再び魔力で話しかける。
(バルボア! ミモザ! 聞こえる? この混乱に乗じて建物の陰に隠れながらローラの所まで行って!)
(イザベラ様……それが…その……)
(今わたし達、谷底に居ます)
(何ですって!?)
(申し訳ありません。逃げ場が無くて……下に逃げてしまいました)
(これから上に上がります)
(待って! そのまま待機しててっ! ヘタに上がると見付かってしまうわ!)
(はい)
(次の手を考える! それまでそこでじっとしててっ!)
イザベラはトイレの中でぼそっと呟く。
「……しまった。初手を打ち間違えたか……」
トイレの前で待っていたグスタフは、頭の中に届く声に耳を傾けていた。
やがて、ニヤリと笑いながらトイレの中に居るイザベラに話しかける。
「女王、只今島から命令が届きました」
「……何っ!?」
「所用が出来ましたので移動します。どうぞごゆっくり」
「!? まっ、待てっ!」
「いえ、待ちませぬ。糞が終わるまでじっくりとひり出し続けて下され」
「待てと言っておる!」
トイレの扉をバンと開け、中からイザベラが飛び出しグスタフを引き留める。
グスタフはイザベラを見ながらニヤニヤと笑い、話す。
「おや、終わりましたかな?」
(くっ……仕方ない)
「……グスタフ、ちょっと頼みを聞いてくれぬか?」
「何でございますかな?」
「……身体が疼いて困っておる。相手をしてくれぬか?」
「ははは。今まで糞をしていた女になど性欲が起きませぬな」
「糞などしておらぬ。今までずっと自分を慰めておったのだ」
「では、イクまで続けられて下され。年上の女などには全く興味などありませぬゆえ」
「まっ、待って。お…お願い……抱いて」
イザベラはローブの裾を捲り上げ、下半身の下着をグスタフの前に晒す。
グスタフはニヤニヤしながらイザベラに話す。
「どうぞ、溜まった欲情は自分で処理なされよ。では、これにて」
「まっ、待てっ! お…お願い。お前のアレが……ほ、欲しい」
「お断り致します。これ以上茶番には付き合いきれませぬ」
「茶番では無い。本当にお前が欲しくて堪らぬのだ。抱いてくれ」
「……かしこまりました。おいお前、儂の代わりにそこの盛っておるメスの相手をしてやれ」
「は? わ…私がでございますか?」
「ぐ、グスタフ! 私はお前が欲しいのだ!」
「何をおっしゃられますか。若いコイツなら何発でも出来ますぞ? どうぞお好きなだけなされよ」
「くっ……」
グスタフはトイレにイザベラと兵士を置き去りにし、居住区へと向かった。
民達の騒動現場までやって来たグスタフは島の兵士達に叫ぶ。
「お前達! 2人儂について来い! 残りはこいつらの茶番につき合ってやれ!」
「はっ、将軍!」
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