翼の民

天秤座

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幼少~少年時代

12 惨劇

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 暗い谷の底に松明の明かりがゆらゆらと揺れる。

 グスタフの部下が持つ松明の明かりは、やがて2人の男女と赤子を照らし出した。


 グスタフは槍を手に2人へと近付く。
 お供の兵士はバルボアとミモザの背後に回り込み、逃げ場を封じる。


 グスタフはニヤニヤしながら話す。

「やっと見つけたぞ。世界を破滅に導く子と、その愚かな両親よ」


 バルボアは両手を広げ、顔色を真っ青にしながらグスタフを止める。

「やめてくれ! ウチの子が何したってんだ!? 頼むっ、殺さないでくれ!」
「その子は神のお告げによって禍をもたらす子とされた。よって殺さねばならぬ。お前達には気の毒だが、次の子を宿すまで待つが良い」


 バルボアはグスタフに怒る。

「冗談じゃないっ! 80年近く経って、やっと神様から授かった子だぞ! それをグブゥッ!?」
「貴様の話など聞く耳持たぬ。とっとと死ね」

 バルボアが話す途中、突然グスタフの槍はバルボアの胸を貫いた。


 プシュゥゥゥ

 グスタフが槍を引き抜くと、バルボアの胸からは血飛沫が上がる。

 バルボアは何かを言いかけ、口から血の泡を出しながら膝をガクリと落として崩れ落ちた。

 バルボアはそのままうつぶせに倒れ込み、事切れる。
 心臓を貫かれ、即死であった。


 何の前触れもなく突然グスタフに目の前で夫を殺されたミモザは泣き叫ぶ。

「いやぁぁぁーっ! あなたっ、あなたぁぁぁぁーっ!」


 血の海に倒れる夫に近付き泣き叫ぶミモザの目の前に、グスタフは再び槍を構える。
 
 ミモザは泣きながらグスタフに懇願する。

「おっ、お願いします! この子…カーソンだけは助けて下さい!」
「ふむ。その子、カーソンという名を付けたのだな?」
「わたしは殺してもいいです! でもっ! この子だけはっ! この子だけはぁぁぁっ!」
「…出来ぬな」
「嫌よっ! 死んでもこの子は殺させやしないっ!」
「お前達、こいつを逃がすな」
「はっ!」

 ミモザは翼を広げ、その場から飛び立とうとする。


 ミモザの背後に回り込んでいた兵士は、手にした剣を振り下ろす。

「あうっ!?」

 プシュゥ

 ミモザは右の翼を斬り落とされ、翼からは血飛沫が吹き上がる。

 翼を失ったミモザは地へ落ち、よろよろとその場にうずくまる。


 グスタフは冷酷な目をしたままミモザに言い放ち、槍を振り上げる。

「慈悲など無い。これからは親子3人、あの世で仲良く暮らすがよい」
「くっ! 死んでもこの子だけはっ!」
「……ん? お前……ミモザか?」
「だとしたら何っ!?」
「ほほう……お前だったのか。ふはは、これは愉快だ」
「くっ……グスタフっ!」
「出産直後の女は脆いと聞いておったが……そうかそうか、ミモザか。ははははは!」
「グスタフ……どうか……慈悲を……」
「いやこれは愉快だ。あの悪名高き『暴風の美魔女』へ…このような形で仕返し出来るとはな!」
「お願い致します……慈悲を……」
「積年の恨みだ。なぶり殺してやる」
「くっ……おのれっ!」
「今の貧弱なお前などに儂が負けるか、馬鹿め」
「お願い風の精霊シルフっ! 守ってっ!」

 ミモザはグスタフに背中を向け、カーソンを必死に庇う。


 ドスッ

 鈍い音を立てた槍はミモザの背中に矛先を食い込ませた。


 ミモザは痛みに顔を歪め、グスタフは冷徹に話す。

「うぐぅっ!?」
「……ふむ、風の精霊魔法『障壁』か?」
「お…お前なんかに…カーソンは……うっ!? ぐっ!?」
「どうした? いつぞやのように『暴風』で儂を吹き飛ばさんのか?」
「あぐっ!? がっ!? うぐっ!?」
「その程度の力しか出せぬ魔法など無駄だ、諦めろ。さもなければラクには…死ねぬぞ?」
「死ん……でもっ……守っ……あぐっ!?」

 ドスッ
 ドスッ
 ドスッ
 ドスッ

 グスタフは何度もミモザの背中に槍を突き刺す。


 ミモザは何度も背中を刺されながら、目に涙を浮かべて自分の腕の中でスヤスヤと眠り続けるカーソンに話しかける。

「カーソン……だい……じょうぶ…だから…ね?
 わたしが……守って……あげるから……ね?
 ママはね……とっても強いのよ?
 こんなの……痛くなんか……ないんだから……。
 ごめんね? パパ……死んじゃった。
 ママ……頑張るよ?
 だからカーソン……大丈夫……大丈夫。
 もうちょっとの辛抱よ?
 きっとイザベラ様……助けに来て……くれるから。
 だいじょうぶ……だいじょうぶ…………」

 ミモザはぼろぼろと涙を流し、泣きながら必死に耐える。


 グスタフはうんざりしながら槍を突き落とし続ける。

「意外としぶといな。流石は『暴風の美魔女』と言いたいところだが……さっさと死ね」
「死ねない……カーソンを置いて……死ねなぁぁぐっ!?」
「おっ? 魔法の効果が弱くなったな。深く刺さるようになってきおったわ」
「がふっ…ごふっ……がーぞん……ごべんだざぃ…………」
「ふむ……もう一息か」
「ごべんで……ま゛ま゛……も゛ぅ……だべ……びだ……ぃ」


 ドスゥゥゥ

 とうとうグスタフの槍は、ミモザの背中を突き抜けた。

「あ゛あ゛……が……ぞ…わだ……じ……ど……がぁ……ぞ…………」
「……ふぅっ。やっとくたばりおったか。なかなかしぶとかったのぅ」

 ミモザは擦れ行く声で我が子の名前を呼びながら、絶命した。

 ミモザの口からボタボタと流れる血は、カーソンを包む白い布を赤く染めてゆく。



 死しても尚、我が子を手放す事の無かったミモザから、カーソンを取り上げたグスタフ。

 カーソンは未だスヤスヤと眠っていた。


 グスタフはカーソンを気味悪がりながら話す。

「これだけの騒ぎでも、目覚めずに眠り続けるか……なんとも不気味な子よ」


 そして、カーソンを放り投げると槍を振り上げる。

「我が皇帝陛下の命令だ……許せよ」

 トスッ

 グスタフの突き落とした槍は、カーソンが地面へ落ちるとほぼ同時に、胸の中央を貫き地面へと突き刺さる。

 槍に突き刺されたカーソンは、眠り続けたまま呼吸を止めた。



 バルボア・ミモザ・カーソンの命は、グスタフの手によって無惨にも絶たれた。


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