翼の民

天秤座

文字の大きさ
19 / 271
幼少~少年時代

18 救助

しおりを挟む
 
 ソニア達は荷台に乗り込み、馬車は再び動き出す。


 ナタリーは男達にお礼を言いながら、問いかけた。

「どうもありがとう。ところで、この黒い布の下、何が入ってるの?」


 男達は動揺しながら、しどろもどろになって答える。

「あー、うん。ええと……そう! 猿だよ。獰猛どうもうな猿! だから触っちゃいけねぇよ、うん」
「えーっ! 猿っ!? あたしお猿さん見た事無いの! 見てみたぁーいっ!」
「い、いやっ! 駄目駄目っ! 獰猛どうもうな猿なんだから、指喰いちぎられちまうかもしんねぇぞ!?」
「そうなの!? 怖いわ! でも、やっぱり見せてね!」

 そう言いながら、クリスは黒い布を一気に剥ぎ取った。


 黒い布をはぎ取られた檻の中を見たソニア達は叫ぶ。

「なっ、何だとおっ!?」
「ええっ!? うそっ!?」
「ちょっ…えっ……えぇぇぇっ!?」

 ソニア達は驚いた。

 檻の中には同族の男の子が捕らわれていたのである。

 手足を縛られたまま檻に閉じ込められ、ぐったりとして、目が虚ろな少年を目撃してしまった。

 現場の判断に任せる。

 イザベラが何を任せたのかを、ソニア達は瞬時に理解した。


 ソニア達は一斉に抜刀する。


 男は馬車を止め、腰に下げていた剣を抜きながら話す。

「見られたからにはしょうがね――」
「人間めぇぇっ!」
「このっ! 外道がぁぁっ!」
「死んじまえぇぇっ!」

 男が振り向く前にソニアはその長大な剣を目にも止まらぬ速さで振り抜いた。

 男の頭は話し終える前に、天高く吹き飛ばされていた。

 高身長のソニアに肩を並べる程の長大な剣を目にも止まらぬ速さで振り抜いたのである。

 男の頭は空高く跳ね上がり、地上にドスンと落ちる間、滞空時間は長かった。

 男の首から吹き上がる血を避け、ソニアは男の身体を蹴飛ばして倒す。

 地面に倒された男の身体はビクビクと痙攣し、血を吹き出し続ける。

 やがて血を出しきり、痙攣も止まり動かなくなった。


 荷台の後ろから歩いて付いて来た男も、剥ぎ取った黒い布を頭から被せられ、怯んだ所をナタリー、クリスの剣を突き刺されて絶命していた。


 操り手を失った馬車はその場に停車し続ける。


 ソニア達は檻の中を覗き込み、少年をしげしげと観察する。

「まさか同族とは……これは驚いた……」
「お…男の子だ……」
「こんなちっちゃい男の子……初めて見た……」
「……う……うぅ……うー……」

 少年は全てを諦めた表情をしながら、ソニア達をじっと見つめた。


 ソニアはハッと我に返り、ナタリーとクリスに命令する。

「お前達、この子を檻から出すぞ。手伝え」
「はいっ!」
「鍵がかかっているようです」
「恐らく私が殺した男が持っているハズだ。少し待て」

 ソニアは首を跳ね飛ばした男の懐を探り、檻の鍵を手に入れた。


 ソニア達は檻の鍵を外し、少年を救い出す。

 手足の自由を解き、猿轡さるぐつわを外した。

 拘束を解かれた少年は訳が分からず、ソニア達を威嚇し始めた。

「うがっ! がうっ! うぎぃぃぃ! ごぁぁぁっ!」


 ソニア達はローブを脱ぎ、自分達の翼を少年に見せながら優しく話しかける。

「大丈夫。私達は君の仲間だ」
「もう大丈夫だからね?」
「怖かったでしょ? もう何も心配しなくてもいいんだよ?」
「うがっ……がっ!? あぁ? うぅ?」
 
 ソニア達の言葉を理解出来なかった少年だが、背中の翼を見て自分の仲間だと判断した。

 この人達は自分を助けてくれた、そう思った少年は恐怖から解放され、空腹でめまいがしている事を思い出す。

 少年はキョロキョロと周りを見渡し、荷台の隅にあった男達が残した食料を見付けると、一目散に飛び付いてガツガツと食べ始めた。

 余程空腹であったのだろうか、一言も話さず無心に食べ続ける少年の姿をソニア達は見守った。


 ソニア達は少年を優しい目で見つめながら話す。

「人間め……この子に全く食事を与えていなかったのか?」
「酷い……やっぱり人間って大嫌い!」
「可哀想に……よっぽどお腹が空いていたのね?」
「……ぐ……んぐぐ……」

 少年は突然動きを止め、苦しみ出した。


 クリスは少年が喉を詰まらせたのに気付き、自分が持っていた皮製の水袋を少年に渡す。

「はい、これ飲んで」
「……んく……う……くぅ……」
「? あ、もしかして水袋見た事無いの?」
「く……ん……くぅ……」
「見ててね? こうやって……んぐっ、んぐっ……ぷぅっ」
「………けはっ」
「はい、やってみて?」

 クリスは少年に水を飲んで見せ、水袋を手渡す。

 水袋を受け取った少年は、大急ぎで水をゴクゴクと、美味しそうに喉を鳴らしながら飲む。

「ゴクッ…ゴクッ……うあーっ! あいあぁぁー!」
「そうそう! 上手上手ぅー」
「あうあっ!」

 少年は水袋を左手に、食料を右手に持ってガツガツと、ゴクゴクと夢中になって食事を再開する。


 クリスは恐る恐る少年の頭に手を乗せ、そっと優しく撫でた。

「…………可愛い」


 少年はクリスに頭を触られ一瞬ビクッとするが、クリスの優しそうな瞳に敵意を感じなかった為、ニコツと微笑む。

 少年の屈託の無い笑顔に、ソニア達は女心をぎゅっと掴み取られた気分に陥る。

「うあっ! あうあうー!」
「ふむ…可愛い子だな……」
「あ…この子すんごく可愛い……」
「何だろう……この気持ち……可愛いだけじゃ……ない」

 少年に対して込み上げて来る不思議な感情に、3人は戸惑いを隠せなかった。


 ひとしきり食べ終えた少年は、ソニア達に興味がわいてきた。

「あー、あー! うー? あー、あー?
 あー? うー? うぇーあー、あいあいーえー」

 少年は言葉が話せなかった。

 自分以外の似たような存在を見るのも初めてだった。


 一方で、ナタリーとクリスも少年に興味津々だった。

 素っ裸の少年を目の前にして、2人とも前かがみになって股間を見つめながら話し合う。

「ねえナタリー、これっておちんちん……っていうんだよね?」
「う、うん。お父さん以外のおちんちん……見たの初めて」
「なんか…すっごくおっきくない?」
「うん。お父さんのより……すんごくおっきい……」
「でもこれ……もっとおっきくなるんだよね?」
「倍くらいになるらしいよ?」
「ばっ、倍っ!? いやこれ…倍になったらアソコ裂けちゃうよ?」
「うん……ただでさえこんなおっきいのに……どうやったら挿入はいるのかな?」
「多分あたしの……今のこれで充分な深さしかないと思うよ?」
「じゃあ、おっきくなったこれぶち込まれたら……小袋ぶっ壊されそうじゃん?」
「えーっ!? そしたら赤ちゃん作れなくなっちゃうよ……」
「いやほんとこれ……すんごいおちんちんだわ」
「うん……凄いよね……」

 2人の視線は少年の股間に釘付けで、顔を真っ赤に染めながら目の前の物体を観察していた。


 ソニアは呆れ返りながら2人をたしなめる。

「コラッ! お前達、任務中なのだぞ!」
「うひゃっ!? すっ、すみませんっ!」
「は、はいっ! 申し訳ございません!」

 ナタリーとクリスは慌てて立ち上がり、直立不動の姿勢でソニアに深々と頭を下げた。



 ソニア達は殺した男達の懐を漁り、所持していたお金を奪う。

 少年が残した食料を袋に集めながら、ソニア達は綺麗に残した食料を見て話す。

「この子……食い散らかしていないな」
「そうですね。食べかけの食糧が全くありませんね」
「意外と律儀な性格の子なのでしょうか?」


 ソニア達は男達の死体の傍で深呼吸を始める。

 深呼吸を終えると出発の準備をし、ソニアは話す。

「さて、これから谷へ帰るが、人間の弓矢を避ける為高く飛ぶぞ。飛べるな?」
「あー? うー?」
「……ナタリー、クリス。この子の両側に付いて、補助してあげなさい」
「分かりました。さ、行くよ?」
「お願いだから暴れないでね?」
「あぅっ!? うぁうぁっ! ううぁぁー!」

 ナタリーとクリスに両手を掴まれた少年は恐怖を感じ、腰を落として飛び立つのを拒否する。


 首をブンブンと振りながら嫌がる少年に、クリスは優しく話しかける。

「大丈夫よ? みんなが居る所に連れて行ってあげるね」
「うーあー? あいぇぇー……うぇー」
「大丈夫だから。もう怖くないからね?」
「うー……あー……」

 少年はクリスの優しい瞳に何かを感じ取り、連れて行かれても大丈夫そうだと思う。



 ナタリーとクリスに両腕を支えられて、少年は谷へと向かって翼を羽ばたかせた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...