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クリスの受難
53 突入
しおりを挟む島の入り口を管理している番兵達は、突如上空に現れた雷雲に戸惑いながら話す。
「なっ、何だ!? 雷が……ひゃあっ!」
「こっ、これって……谷からの攻撃じゃないのか?」
「俺、谷の女王どっちかが雷落とせるって確か聞いた事あるぞ」
「んじゃこれ、谷の女王からの攻撃じゃねーか」
「何で急に谷の女王から攻撃されなきゃねぇんだよ?」
「俺が知るかよ! もしかして、誰か女王を怒らせたんじゃねえのか?」
「って事は……さっき谷の娘連れて帰って来た将軍か?」
「あの将軍……今度は何やらかしたんだ?」
「分かんねぇ……頼むから俺達巻き込まねぇでくれよ!」
「うおぉっ!? 危ねぇっ!」
「下手すりゃ誰かに当たんぞこれ!」
「くそっ! あの将軍、また何かやらかしたんかよっ!?」
「巻き込まれる下っ端の事、少しは考えてくれっての!」
「ひぃぃっ!?」
「おっ、おいっ! 谷から誰か飛んで来てんぞっ!」
「どっ、どうする!?」
「止めるか?」
「止めんな止めんな! ぜってぇこっちが何かやらかしてんだ!」
「じゃなきゃ谷からは絶対に動かねえっ!」
「ほっとけ! 見てねえフリして通せっ!」
「将軍殺しに行ったらどうすんだよ!?」
「いいって別に! 殺されちまっても!」
「いや、まあそうだけどよ……」
「俺達懲罰喰らうだろうがよ!」
「そん時ゃそん時だろ?」
「またエルザ様が何とかしてくれるって!」
「おめぇら、ちったぁ冷静になって考えろ!」
「何だよ? おめえはどう考えてんだよ?」
「グスタフが殺されたらよ、次の将軍候補は誰になるよ?」
「そりゃぁ……エルザ様だろ?」
「おめぇら、どっちがいいんだよ?」
「俺、何も見てねえ。谷から誰も飛んで来てねえ」
「俺も知らねえ。雷避けるので精一杯だ」
「俺も」
「俺も知らん」
番兵達は背中を向け、ティナが飛んで来ているのを見ていない事に決めた。
島の高度まで上昇してきたティナは一旦立ち止まり、中央の宮殿の位置を確認すると、背中を向けて雷から逃げ惑う番兵達を横切り、宮殿目がけて猛スピードで飛び去っていった。
途中何度かティナに雷が命中したが、イザベラの放った闇の精霊が全て身代わりになって防いでいた。
島はローラの雷撃を避けようと、谷から北東に向かって移動を始めた。
ローラは島が移動を始めた事に激昂し、憤怒の表情をしながら髪の毛を逆立てて叫ぶ。
「おのれっ! クリスとティナを連れ去るつもりかっ! もう許さぬ!」
「ちょっと待ってローラっ!」
「止めないで下さいお姉様っ!」
「あいつらだって馬鹿じゃないっ! 攻撃されてるのに動かない訳無いでしょっ!」
「もう容赦など致しませんっ!」
「闇の精霊が守りきれなくて、ティナに当たったらどうするのっ!」
「あっ!?」
「冷静になりなさいローラっ!」
「わ……私とした事が……お姉様、申し訳ございません」
「大丈夫! 風の目で確認したら、ティナは兵共をすり抜けて宮殿へ向かってるわ!」
「もう、援護は宜しいのですか?」
「ええ! あなたも手伝って! ルドルフの馬鹿野郎に2人で怒鳴りつけてやるわよ!」
「はい!」
イザベラとローラはそれぞれ放った精霊魔法を解除し、島の皇帝ルドルフ=ラインハルトへ向けて魔力を放ち、猛抗議を始める。
皇帝ルドルフは宮殿内にある書庫、一番奥の皇帝しか立ち入ることの出来ない隠し部屋の中で書物を書き写していた。
隠し部屋の入り口には護衛隊長のエルザが立ち、たったひとりで護衛を続けている。
ルドルフはイザベラとローラが魔力を使い、自分に向けて何かを喚き散らしている事に気付き、右手に持ったペンを机に置きながら面倒臭そうに答え始める。
(ルドルフっ! 聞こえるかこのたわけっ!)
(聞こえるのなら返事をなさいっ!)
(……聞こえておる)
(今すぐ2人を帰せっ!)
(無事に帰さぬとタダでは済まさぬぞっ!)
(何を言っておるのだ?)
(しらばっくれるなっ!)
(今すぐ帰しなさいっ!)
(ああ、男達はもうじき帰そうと思っておる。もう少し待て)
(先に2人を帰せっ!)
(今すぐにっ!)
(……お前達は何を言っておるのだ?)
(あくまでとぼけるつもりかっ!)
(どちらかでも死なせてみなさいっ! 容赦しませんわよっ!)
(だから、何を言っておるのだと聞いている)
(ルドルフ! まさかお前、知らんのか!?)
(ソーマとグスタフが、谷の娘を拐ったのですよっ!)
(……何だと?)
(本当に知らんのか!)
(何故あなたが知らないのですかっ!)
(知らぬ。お前達、詳しく話せ)
(そんな時間など無いわっ!)
(早くしないと死者が出ますわよっ!)
(死者だと? 分かった、話は後で聞くとして……余は何をすれば良いのだ?)
(謁見の間でソーマに殺されかけている娘を早く保護しろっ!)
(谷から救助に向かった娘に手を出してはなりませんっ!)
(それをすれば良いのか?)
(私達の要望はあの2人の命の保証と、谷への帰還だ!)
(騒動の平定は皇帝の勤め! ご自身で何とかなさいっ!)
(お前もたまには谷の願いを聞き入れろっ!)
(先代が拗らせた仲を回復させたいと言ったのは嘘ですかっ!)
(……すぐ動く。状況は余が直接調べる)
息子が何やら勝手な事をやっていると知ったルドルフは、立ち上がり隠し部屋から出る。
ルドルフは入り口を警備しているエルザの背中に話しかける。
「エルザ、ちと厄介な事になった。お前も付き合え」
「はっ! お供致します!」
「……ソーマめ、何をしたのだ?」
「ソーマ皇子で、ございますか?」
「うむ。余の預かり知らぬところで、谷に迷惑をかけておるようだ」
「谷……でございますか?」
「たった今、イザベラとローラから罵倒されたわ」
「陛下を侮辱なさるとは、何と無礼なっ!」
「よい。聞いた限りでは一方的に此方が悪い」
「何があったのでございますか?」
「ソーマが谷の娘を拐い……殺そうとしておる」
「まさか……あれを実行なされたのでございますか?」
「お前は知っておったのか?」
「……皇子は常々、女が人間に犯されて死ぬさまを見てみたいと、願っておいででございました」
「……何を考えておるのだ、あいつは」
「臣民でお試しになられてはなりませぬよ、と申し上げておりましたが……まさか谷の娘を拐うとは」
「愚かな事を考えおって……」
「陛下……いえ、何でもありませぬ」
「何だ? 言って構わぬぞ」
「いえ、ご無礼な真似は決して致しませぬ」
「お前は余の忠実な家臣だが、余の機嫌を気にしすぎておる。言いたい事はちゃんと言え」
「はっ! では、ご進言致します。陛下はソーマ皇子を過保護になさっておられます」
「うむ。余も自覚しておる」
「皇子は他者を慈しむお心に少々難がございます。お早めに教育をなされたほうが宜しいかと」
「……そうだな。そうせねばなるまい」
「一兵卒の分際でご進言など働いた無礼、お許しを」
「良いのだエルザ。お前が危惧するほどソーマは傲慢になっておるのだと分かった。余も気を付けよう」
「はっ!」
「行くぞ。島を統べる者として、諌めねばならん」
「はっ!」
「お前も動いてくれ。配下の者を使い、谷から助けに来ている娘に危害を加えるなと指示せよ」
「は? まさかその娘、たったひとりで島に?」
「無謀だとは思うが、余程ソーマが拐った娘を大事にしておったのであろう」
「島に単騎で攻め込むとは……随分とナメた真似を」
「余はどちらも死なせたくない。協力してくれ、エルザ」
「はっ! 最善を尽くします!」
ルドルフとエルザは書庫を出て、騒ぎが起きているであろう謁見の間へと向かう。
エルザは通りすがる衛兵達に手短な指示を出し、皇帝の意向に添うような行動を命令を下していた。
宮殿の大広間、クリスは男達に囲まれ、服をビリビリに引き裂かれていた。
抵抗しようにも身動きの出来ないクリスは、せめて触られる部分を減らそうと両手両足の力を抜き、床へ這いつくばった。
体重が何倍もの重さになり、クリスの身体は床にへばりつく。
胸を触られたくないが為にとった行動であったが、余りの重さに肺が圧迫され、呼吸を苦しくさせた。
執拗に身体をまさぐり始めた男達にクリスは叫ぶ。
「触んなっ! やめろっ! やめてっ! くっ……やめ……てっ!」
「……いざ触ってみるとよ、あんまり興奮しねぇな」
「気持ちわりぃ身体だな。触っても面白くねぇ」
「筋肉でガチガチじゃねーか。まるで男みてぇだ」
「俺、萎えてきちまった」
「へへへ……俺はこんな筋肉質な身体、興奮するぜ?」
「んじゃ、おめぇ先にやれや」
「おう。足開いてくれ」
「おっ、重てぇ……」
「何て重さしてやがんだよ、こいつ」
「やめろっ……やだっ……誰か……助けて……」
男達はクリスの両足を左右に開き、クリスの大事な部分を広げる。
男達はクリスの股間に集まり、じろじろと観察する。
「おぉ……綺麗な色してんぜ」
「どれどれ?」
「お願い……見ないで…………見ないでよ…………」
「……こいつぁたまげた! こいつ、処女だ!」
「未使用か! そりゃ綺麗なワケだ!」
「そうかぁ、お嬢ちゃん破瓜で死んじまうのか」
「先に指突っ込んで、開通させちまうか?」
「そいつぁいい。俺らも生娘殺すってのは、ちょっと気が引けるしな」
「やめて……お願い……それだけは……許して……」
「いや、お嬢ちゃんよ。あんたもうじき死ぬんだ、死ぬ前に処女散らしてやるよ」
「人間のちんぽこよりは、指のほうがいいだろ?」
「お願いします……ソコは……あげる人決まってるん……です……」
「そいつは残念だが、諦めな」
「せ…せめて……おち……ち……で……指は…………嫌……」
「おっ、そうかそうか」
「お願いされちまったら、しょうがねぇなぁ」
「ほいじゃ予定通り、ケツの穴からおっぱじめるぜ?」
「………………ティナ…………ごめん……」
ソーマは嬉々としてクリスが今、正に犯されんとする光景を楽しんでいる。
男のひとりがクリスの身体にのしかかり、耳元で囁いた。
「へへへ、お嬢ちゃん。そろそろ……いくぜぇ?」
「ごめん……なさい……ティナ…………」
「そんな悲しそうな顔すんなよ? 萎えちまうだろ」
「ティナ……ごめん……あたし…………終わった……」
「まだ終わりじゃねぇよ? こっからが始まりだ」
「ティナ…………ごめん……………」
「お嬢ちゃん、挿入れるぜ? 力抜きな」
「………カーソン……ごめんなさい……もう……終わ……る」
「……ああ、くそっ。萎えちまったから上手くーー」
「クリスぅぅぅーっ!」
クリスが懐柔させられる寸前、広間に何者かの集団が飛び込んできた。
ティナを先頭に、侵入者を追いかけてきた衛兵達であった。
侵入者を目視したソーマは慌てず冷静に指をパチンと鳴らし、侵入者の身体を重くする。
滑空して広間に飛び込んできたティナは急に飛べなくなり、バランスを崩して床にびたんと落ちた。
ティナは急に身体が重くなって落ちた事に戸惑いながら話す。
「あだっ!? ……んっ! んっ! あれっ? 身体重い」
「あはははは! 玩具がまたやって来た!」
「んっ! んっ! これ、お前がやったのか?」
「どうだ? 動けるものなら動いてみろ」
「身体重い、何だこれ?」
「早くしないと、クリスとかいう間抜けは死んじゃうぞ? あはははは!」
「!? クリスっ! んがぁぁぁーっ!」
「あははは…………は?」
「ふんがぁーっ! クリスぅーっ!」
「は!? え!? なっ、何だこの娘!?」
ティナは何倍にも重くされた身体を引き起こし、何のお構いも無しに立ち上がった。
ソーマは立ち上がったティナを、信じられないという顔で見つめながら呆然とした。
目の前でクリスが人間に何かされようとしている。
きっとあれはクリスをいじめている、助けなければ。
ティナはクリスを助けたい一心で、重くされた身体を気合いで動かす。
ティナは駆け出し、クリスに覆いかぶさっている男めがけて突進する。
走りながら身体をかがめ、両腰の剣に手をかけ、男の目の前で抜刀した。
その瞬間、男の頭は宙を舞う。
ティナは頭の無くなった男の身体を使って宙返りをし、突進の勢いを相殺するつもりで思いきり蹴った。
しかし、重くされたティナの身体はその場に留まり、男の身体だけが遥か後方まで吹き飛んで行った。
結果としてはその場に留まる事が出来たが、ティナは思っていたようにならず首をかしげた。
男の首がドンと床に落ちたのと、吹き飛ばされた身体が広間の壁にドカンと叩き付けられたのは、ほぼ同時であった。
ティナは男達に向かって剣を振り下ろしながら叫ぶ。
「お前達! クリスいじめるなぁーっ!」
「うぎゃっ!?」
「ぐえぇっ!?」
「ひぎょぇーっ!?」
「おわわっ……うぎゃぁぁぁ……ぁ……ぁ」
普段よりも数倍重い身体から繰り出す一撃は苛烈で、男達の身体はひしゃげながら次々と断ち斬られる。
ティナはクリスの周りに居る他の男達を全て斬り伏せ、皆殺しにした。
クリスは全てを諦め、放心状態で遠くを見つめている。
虚ろな瞳で、しきりになにかブツブツと呟いていた。
ティナは駆け寄ると剣を床に置き、クリスの顔の前でしゃがみ込みながら話しかける。
「クリスっ! 大丈夫かっ? しっかりしろっ、クリスっ!」
「…………ごめん………………ごめ…………ん」
「クリスっ! しっかりしろっ!」
「………………え? …………ティナ?」
「俺、クリス助けに来た!」
「え…………本物? えっ…………助け…………に?」
「俺、風の目でクリス見てた! クリス、人間にいじめられそうだった!」
「ティナ……ごめん……あたし……犯されそうに…………」
「もう大丈夫! 俺、クリスいじめてた人間、全部殺した!」
「あたし……あ……挿入れられて……ない……みたい」
「クリス大丈夫かっ?」
「うん……うん……大丈夫……生きてる」
「良かったっ!」
クリスは自分の股間に意識を集中し、違和感を感じず貞操の無事を確認した。
ティナはクリスの両肩に手を差し込みながら話しかける。
「クリス、立てるか?」
「……ううん。身体が重くて……動けない」
「待ってろ……よいしょおっ!」
「うっ……んっ……」
「立てそうか?」
「……うん。その前に……寄りかかっても…………いい?」
「うん。俺、大丈夫」
「ティナ……助けてくれて……ありが…………とう」
「俺、クリス助ける。それ、当たり前」
「ティナぁ…………うぇぇぇーんっ…………」
「クリス……よしよし」
「うぇぇぇーん…………ふぇぇぇーん…………」
クリスはティナに全体重を預け、寄りかかりながら泣き出した。
ティナはクリスの全体重を受け止め、自分の首元に顔をうずめて泣き続けるクリスの頭を、優しく撫でて慰めた。
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