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クリスの受難
62 脱出準備
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クリスは右手で顔を覆い、がっくりと頭をうなだれて話す。
「ああっ……やっぱりややこしくなった……」
「クリス助けてくれっ!」
「あの話はあたしの知らないところで決めたんでしょ?」
「2人がこうして出会えてる。俺は運命じゃないかと思うんだよ」
「あたしにだって、選ぶ権利があるんだからね?」
「じゃあ、お前はどう思ってるんだ? カーソン君の事」
「それは……そのぅ……えーっと……」
クリスに助けを求めに来たセルゲイ。
クリスはその場の雰囲気を読み、自分までカーソンの嫁と主張するのは得策では無いと判断し、セルゲイの援護をせずに言葉を濁した。
カーソンはみんなが何の話をしているのか全く分からない。
薄々自分がどうにかされるとは感付いているが、話の内容がさっぱり読めなかった。
カーソンは一番相談しやすいクリスの前に行き、何がどうなっているのか聞く。
「なあ、みんな何の話してるんだ?」
「あんたには関係ないでしょっ!」
「……いや、カーソン君こそ関係しているんだけどなぁ」
「そもそもお父様の早とちりが原因なんだからね!」
「……すまねえ」
「あたしが貰いたいって主張したいけど、こんな雰囲気で言えるワケ無いでしょ!」
「……言ってくんねえか?」
「やだよ! みんなからワガママな女って思われちゃうでしょ!」
「ああ……またやっちまった。何で俺はいつもこうなんだ?」
「それがお父様だからよ!」
「返す言葉もねぇ……」
「なあ? 俺、みんなの話分かんない。クリス、教えてくれ」
「問題が沢山ありすぎて、あたしもあんたに説明出来ないわ」
「クリスもよく分かんないのか?」
「うん。あたしにもさっぱり分かんない」
「カーソン君、クリス……ホントにすまんっ!」
「お父様、ちゃんと責任取って話纏めてね!」
「? 何でクリスの父さん、俺に謝るんだ?」
カーソンは頭を下げてきたセルゲイに、何で自分に謝ってきたのかを全く理解出来なかった。
カーソンはセルゲイに聞く。
セルゲイは将来義理の息子になる予定のカーソンに印象を損なわせる事が無いよう、なるべく丁寧な口調で答える。
「なあ、クリスの父さん? ここからどうやったら谷に帰れる?」
「うーん、俺達も軟禁されているままだからなぁ……」
「軟禁…って何だ?」
「ある程度は自由に動き回れるけど、行動を監視されて制限喰らってる状態を、軟禁って言うんだよ」
「ふーん。ゴハンとかは食えるのか?」
「ああ。食事はちゃんとまともなの出してくれるし、トイレも監視付きだが我慢させられる事も無い」
「ゴハンもトイレも困ってないのか?」
「下着と服も毎日新しいのを出してくれるし、洗濯もしてくれる」
「そうなのか?」
「寝床もちゃんとしたベットだし、朝叩き起こされる事も無い。その気になればいつまでも寝ていられるんだ」
「え? それって……いいんじゃないのか?」
「そうさ。俺達は何の不自由もさせられて無いんだ」
「へー……」
「この部屋の出入りを監視してる島の兵士達とも仲良しになってな。家から仕送り沢山来たからお裾分けって言って、差し入れもよく貰ったりしてるんだ」
「へーっ、仲良しになったのか」
「皇帝もたまに様子を見に来る。病気になってないかって気にして声をかけてくるんだ」
「島の奴らって、いい奴多いのか?」
「本当にいい奴らだったら、俺達谷から連れ出さないって。やっぱどっか信用出来ないよ」
「うん。あいつら俺とクリス、殺そうとしたしな」
「ソーマとグスタフ、それと執政連中は駄目だ。俺達を目の敵にしてるんだ」
「そいつら、みんなの事嫌ってるのか?」
「そうさ。しょっちゅうココに来ては裏切り者やら早く死ねやら散々暴言吐いて帰ってくよ」
「俺もグスタフ、大嫌い!」
「俺達もだよ。嫌味言いに来るほど、あいつらよっぽどヒマなんだろうな」
「俺、あいつら殺していいか?」
「そいつは願ったり叶ったりだけどな、あんな連中の為にカーソン君が危ない目に遭う必要は無いぞ?」
セルゲイはカーソンの話を聞き、優しそうな子だと思っていたが、意外と好戦的な性格をしているのかと若干驚いた。
カーソンはソーマとグスタフの顔を思い出し、込み上がる怒りを顔に出しながらセルゲイに話す。
「俺、あいつら殺したい」
「やめてくれよ。君が死んだら、クリスが泣くぞ?」
「う……俺、クリス泣かせたくない」
「だろ? 君がクリスの事守ってくれると、父親の俺としては嬉しいなぁ」
「うん、分かった。俺、クリスの事守る」
「出来ればそのまま、クリスの事貰ってくれないかい?」
「? 俺、クリス貰ってもいいけど……俺、もうクリスにあげたぞ?」
「あげたって……どういう事だい?」
「俺、クリスに俺の事貰ってってお願いした。クリス、いいよって言って、俺の事貰ってくれた」
「…………」
「? クリスの父さん、どうした?」
「うおぉい聞いたかみんなっ! もうとっくにカーソン君はクリスに貰われてたーー」
「また話ややこしくすんなっ! 馬鹿親父っ!」
「す…すまんクリス」
「……もうっ!」
セルゲイの再々暴走を察知したクリスは、再び騒動を起こさぬように怒鳴り付け、争いの火種を消した。
部屋の会話をヒマそうに聞いていたセイレーンは、カーソンへ話しかける。
「ねえ? そろそろ谷に帰らない?」
「でも、どうやって帰るんだ?」
「アタシの力を使いなさいよ」
「セイレーンの力?」
「ほら、念じてみてよ」
「うん。セイレーン」
カーソンはセイレーンと念じる。
何かが起こると思っていたカーソンは、何も起こらないと不思議に思いながら周囲を見渡す。
カーソンの視界には、驚きながら周囲をキョロキョロと探し回っている谷の男達の姿があった。
クリスも慌てて何かを探している。
どうしたのかと聞こうとカーソンが口を開きかけた時、周囲が騒ぎだす。
「うおおっ!? カーソン君が消えたっ!」
「ちょっ!? カーソンどこっ!?」
「え? 俺、ずっと動かないでここにいるぞ?」
「ここって……どこっ!?」
「俺、動いてない。同じとこに居るぞ?」
「…………あっ、居た!」
「? クリス、俺見えないのか?」
「うん、全然見えない。身体触ってやっと居るって分かったよ」
「俺、みんなから見えてないのか?」
「うん。全然見えないよ?」
カーソンはこれがセイレーンの力なのかと驚きながら、術を解いた。
見えない筈のクリスが何故か自分の股間を探り当て、もぞもぞといじったのが少し不思議であったが、セイレーンの力は姿を消す能力だと知る。
セイレーンは腕を組みながら、カーソンに話しかける。
「アタシの力は幻惑の力。相手の視覚や聴覚を自由に操れるわよ?」
「それじゃあ、衛兵に見付からずに逃げられるのか?」
「そうよ。ただし、音を立てちゃ駄目よ?」
「音、立てたら駄目なのか?」
「見えるものは何でも消せるけど、音は別のトコにしか飛ばせられないの。誰かに音聞かれたらバレちゃうからね?」
「あ、音出すと俺の位置知られなくても、誰か居るってバレるのか?」
「そういう事よ。極力音は出さないでね?」
「うん、分かった。あ、クリスはどうすればいいんだ?」
「クリスと手を繋いでちょうだい。効果がクリスにも届くから」
「じゃあ、みんなと手を繋いだら、みんなでココから逃げれるのか?」
「やって出来なくは無いけど、今のあなたじゃオドが全然足りないわよ?」
「あ。俺のオド足りないのか……」
部屋に居る谷のみんな全員で逃げようと提案したカーソンは、自らのオド総量不足の現実を突き付けられ、がっかりと頭を下げる。
谷の男達はカーソンを気遣い、優しく声をかける。
「カーソン君、俺達は大丈夫だ」
「別に不自由してないしな」
「まずは先に君達だけで谷に帰ってくれ」
「女達に、俺達は誰一人も死なずに元気で生きてるって伝えてくれ」
「……君は、とても優しい子なんだな?」
「こんな状況でも、全員を助けようとするなんてなぁ」
「やっぱ婿に欲しいぜ」
「なあ? クリスちゃんに捨てられたらよ、俺の娘と一緒になってくんねえか?」
「いや、いっその事谷の娘全員貰ってくれ」
「お! それいいな!」
「誰の婿って喧嘩になんねえな。いい考えだ」
「谷に帰ったら各自、自分の娘説得しろよ?」
「おう、任しとけ!」
「……ってなワケでクリスちゃん。谷の独身娘全員、カーソン君の嫁にさせてくんねぇか?」
「……嫌ですっ!」
「そこを何とかさ……頼むよ?」
「絶対に嫌ですっ!」
「むう……恋する乙女にゃ、全く通用しねえなぁ……」
「しゃあねえ、クリスちゃんが許してくれるまで待つか」
(絶対に……許すもんかっ!)
クリスはカーソンが谷の娘連中どころか、父親連中にまで狙われたと知り、絶対にこの子を手放すものかと決意を固める。
老人達が谷のしきたりを言いたそうにしていたが、クリスの立場を想いお互いに目配せして黙った。
セルゲイが島から支給されている下着と服を持ち、カーソンへ話しかける。
「カーソン君。その鎧脱いで、この服を着てってくれ」
「え、いいのか?」
「音出しちゃマズイんだろ? 鎧なんか着てちゃバレるぞ?」
「あ、そうか。ありがとう、クリスの父さん」
「脱いだ鎧は俺達で隠すから、身軽になってくれ」
「うん、分かった」
カーソンは鎧を脱ぎだし、素っ裸となる。
谷の男達は素っ裸になったカーソンの股間を見つめ、絶句する。
「うおっ……何だこりゃ?」
「……でけえな」
「このでかさで……まだ全然起ってねぇのか?」
「これ、もっとでかくなんのか?」
「俺、余裕で負けたわ」
「俺も負けた」
「こりゃ反則なでかさだろ」
「こんなの突っ込まれたら……女死んじまうんじゃねぇのか?」
「牛のよりもでけえぞ、これ」
「こんな色男で巨根……だと?」
「こんなの味わったらよ、もう他の男無理だろ」
「こりゃ今の世代、相当荒れちまうぞ?」
「上の世代もやべぇだろ、これは」
「おいおい、このまま谷に返しちまって大丈夫か?」
「イザベラ様が女にしてくれてたから、今まで平和だったんだろうな」
「18年も男が居ねぇトコに……大丈夫かよ?」
「俺らの嫁さん達、奪い取らねぇでくれよ?」
「頼むぜ、ほんと」
「俺ら帰ったら、隠し子出来てたとかシャレんなんねぇぞ」
「自分達の嫁さん信じて……送り返すしかねぇなこりゃ」
「谷帰ったらクリスちゃんに、きちんと監視して貰わねぇとな」
「いや…ホントすげぇな、カーソン君のは」
「? 俺のちんちん、そんなに凄いのか?」
(うひゃぁ……男の人から見てもあのおちんちんって……凄いのかぁ)
谷の男達はカーソンの股間にぶら下がっている物体を絶賛する。
クリスは顔を真っ赤にし、背中を向けて両手で目を隠しながらも、しっかりと聞き耳を立てていた。
カーソンは部屋に支給されている島の下着と服を譲り受け、身に着ける。
クリスは剣の収まっている鞘をベルトで腰にしっかりと固定していた。
カーソンは剣を持って行こうとしているクリスに話す。
「クリス、剣は置いて行け。音でバレるかも知れないぞ?」
「駄目よ。もし見付かったら戦わなきゃならないんだから!」
「誰にも見られないから、戦わないと思うぞ?」
「念の為よ、念の為!」
(だってこれ、あたしを助けてくれたあんたの剣。もうあたしの宝物なんだから、絶対置いてけないのよ)
クリスは心の中で思い、剣の柄をそっと撫でた。
出発の準備を整えたカーソンとクリスは、顔をパンパンと叩いて気合いを入れる。
「それじゃ、行くぞクリス」
「うん! 無事に帰れますようにっ!」
「それじゃ、アタシはそろそろ消えるわね?」
「うん、分かった」
「あなたのオドはこれから補充無しで使い続けても夜まで充分足りるわ。たぶん大丈夫よ?」
「よろしく、セイレーン」
「無事に脱出するんだぞ? 俺達は全員無事だって、谷のみんなに伝えてくれ」
「クリスちゃん。カーソン君が浮気しないよう、監視してくれよ?」
「はい! ずっと監視します!」
「? クリス、何を監視するんだ?」
「あんたが騒動の火種になんないようによ」
「? 俺……まあ、いっか」
カーソンはクリスの言葉に首をかしげながらも、理解したフリをした。
きっとクリスは自分を守ってくれる為に、何かをしてくれるのであろう…と。
靴を脱いで裸足になったカーソンとクリスは手を繋ぐ。
カーソンはセイレーンと念じ、クリスと共に姿を消した。
谷の男達は5人組になり、姿を消したカーソンとクリスを囲むと部屋の出入口へと向かう。
2人を囲みながら、谷の男達は出入口に立っている兵士に話しかける。
「ええと、5人便所に行きます」
「はい、分かりました。お供します」
「いつもすみませんね」
「いえいえ、我々こそ長い事皆さんを監視し続けて、申し訳ありません」
「監視のお仕事、ご苦労様です」
「皆さん早く、谷に帰れるといいですね?」
監視役の兵士2人のうち、ひとりが共に付き添う。
谷の男達は陣形を崩し、カーソンとクリスをトイレの反対方向の通路へと促した。
カーソンとクリスは男達の輪から外れ、通路へと歩き出す。
途中振り返ると2人は、気付かれないように小さく手を振っている男達に手を振り返した。
部屋に残った谷の男達は、カーソンとクリスが脱ぎ捨てて行った鎧と靴を集めながら話す。
「カーソン君、セイレーンと契約したんだな」
「あの穴の中に居らしたのか」
「そりゃ俺達が見付けらんねぇワケだわ」
「帰ってセイレーンと会うイザベラ様とローラ様、何て思われるかな?」
「……分かんねぇ」
「……お気の毒に」
谷の男達はどうやらセイレーンと契約していた死体を知っている様子であった。
谷の男達は鎧と靴を穴の中に捨て、石を組み直して元通りに戻した。
「ああっ……やっぱりややこしくなった……」
「クリス助けてくれっ!」
「あの話はあたしの知らないところで決めたんでしょ?」
「2人がこうして出会えてる。俺は運命じゃないかと思うんだよ」
「あたしにだって、選ぶ権利があるんだからね?」
「じゃあ、お前はどう思ってるんだ? カーソン君の事」
「それは……そのぅ……えーっと……」
クリスに助けを求めに来たセルゲイ。
クリスはその場の雰囲気を読み、自分までカーソンの嫁と主張するのは得策では無いと判断し、セルゲイの援護をせずに言葉を濁した。
カーソンはみんなが何の話をしているのか全く分からない。
薄々自分がどうにかされるとは感付いているが、話の内容がさっぱり読めなかった。
カーソンは一番相談しやすいクリスの前に行き、何がどうなっているのか聞く。
「なあ、みんな何の話してるんだ?」
「あんたには関係ないでしょっ!」
「……いや、カーソン君こそ関係しているんだけどなぁ」
「そもそもお父様の早とちりが原因なんだからね!」
「……すまねえ」
「あたしが貰いたいって主張したいけど、こんな雰囲気で言えるワケ無いでしょ!」
「……言ってくんねえか?」
「やだよ! みんなからワガママな女って思われちゃうでしょ!」
「ああ……またやっちまった。何で俺はいつもこうなんだ?」
「それがお父様だからよ!」
「返す言葉もねぇ……」
「なあ? 俺、みんなの話分かんない。クリス、教えてくれ」
「問題が沢山ありすぎて、あたしもあんたに説明出来ないわ」
「クリスもよく分かんないのか?」
「うん。あたしにもさっぱり分かんない」
「カーソン君、クリス……ホントにすまんっ!」
「お父様、ちゃんと責任取って話纏めてね!」
「? 何でクリスの父さん、俺に謝るんだ?」
カーソンは頭を下げてきたセルゲイに、何で自分に謝ってきたのかを全く理解出来なかった。
カーソンはセルゲイに聞く。
セルゲイは将来義理の息子になる予定のカーソンに印象を損なわせる事が無いよう、なるべく丁寧な口調で答える。
「なあ、クリスの父さん? ここからどうやったら谷に帰れる?」
「うーん、俺達も軟禁されているままだからなぁ……」
「軟禁…って何だ?」
「ある程度は自由に動き回れるけど、行動を監視されて制限喰らってる状態を、軟禁って言うんだよ」
「ふーん。ゴハンとかは食えるのか?」
「ああ。食事はちゃんとまともなの出してくれるし、トイレも監視付きだが我慢させられる事も無い」
「ゴハンもトイレも困ってないのか?」
「下着と服も毎日新しいのを出してくれるし、洗濯もしてくれる」
「そうなのか?」
「寝床もちゃんとしたベットだし、朝叩き起こされる事も無い。その気になればいつまでも寝ていられるんだ」
「え? それって……いいんじゃないのか?」
「そうさ。俺達は何の不自由もさせられて無いんだ」
「へー……」
「この部屋の出入りを監視してる島の兵士達とも仲良しになってな。家から仕送り沢山来たからお裾分けって言って、差し入れもよく貰ったりしてるんだ」
「へーっ、仲良しになったのか」
「皇帝もたまに様子を見に来る。病気になってないかって気にして声をかけてくるんだ」
「島の奴らって、いい奴多いのか?」
「本当にいい奴らだったら、俺達谷から連れ出さないって。やっぱどっか信用出来ないよ」
「うん。あいつら俺とクリス、殺そうとしたしな」
「ソーマとグスタフ、それと執政連中は駄目だ。俺達を目の敵にしてるんだ」
「そいつら、みんなの事嫌ってるのか?」
「そうさ。しょっちゅうココに来ては裏切り者やら早く死ねやら散々暴言吐いて帰ってくよ」
「俺もグスタフ、大嫌い!」
「俺達もだよ。嫌味言いに来るほど、あいつらよっぽどヒマなんだろうな」
「俺、あいつら殺していいか?」
「そいつは願ったり叶ったりだけどな、あんな連中の為にカーソン君が危ない目に遭う必要は無いぞ?」
セルゲイはカーソンの話を聞き、優しそうな子だと思っていたが、意外と好戦的な性格をしているのかと若干驚いた。
カーソンはソーマとグスタフの顔を思い出し、込み上がる怒りを顔に出しながらセルゲイに話す。
「俺、あいつら殺したい」
「やめてくれよ。君が死んだら、クリスが泣くぞ?」
「う……俺、クリス泣かせたくない」
「だろ? 君がクリスの事守ってくれると、父親の俺としては嬉しいなぁ」
「うん、分かった。俺、クリスの事守る」
「出来ればそのまま、クリスの事貰ってくれないかい?」
「? 俺、クリス貰ってもいいけど……俺、もうクリスにあげたぞ?」
「あげたって……どういう事だい?」
「俺、クリスに俺の事貰ってってお願いした。クリス、いいよって言って、俺の事貰ってくれた」
「…………」
「? クリスの父さん、どうした?」
「うおぉい聞いたかみんなっ! もうとっくにカーソン君はクリスに貰われてたーー」
「また話ややこしくすんなっ! 馬鹿親父っ!」
「す…すまんクリス」
「……もうっ!」
セルゲイの再々暴走を察知したクリスは、再び騒動を起こさぬように怒鳴り付け、争いの火種を消した。
部屋の会話をヒマそうに聞いていたセイレーンは、カーソンへ話しかける。
「ねえ? そろそろ谷に帰らない?」
「でも、どうやって帰るんだ?」
「アタシの力を使いなさいよ」
「セイレーンの力?」
「ほら、念じてみてよ」
「うん。セイレーン」
カーソンはセイレーンと念じる。
何かが起こると思っていたカーソンは、何も起こらないと不思議に思いながら周囲を見渡す。
カーソンの視界には、驚きながら周囲をキョロキョロと探し回っている谷の男達の姿があった。
クリスも慌てて何かを探している。
どうしたのかと聞こうとカーソンが口を開きかけた時、周囲が騒ぎだす。
「うおおっ!? カーソン君が消えたっ!」
「ちょっ!? カーソンどこっ!?」
「え? 俺、ずっと動かないでここにいるぞ?」
「ここって……どこっ!?」
「俺、動いてない。同じとこに居るぞ?」
「…………あっ、居た!」
「? クリス、俺見えないのか?」
「うん、全然見えない。身体触ってやっと居るって分かったよ」
「俺、みんなから見えてないのか?」
「うん。全然見えないよ?」
カーソンはこれがセイレーンの力なのかと驚きながら、術を解いた。
見えない筈のクリスが何故か自分の股間を探り当て、もぞもぞといじったのが少し不思議であったが、セイレーンの力は姿を消す能力だと知る。
セイレーンは腕を組みながら、カーソンに話しかける。
「アタシの力は幻惑の力。相手の視覚や聴覚を自由に操れるわよ?」
「それじゃあ、衛兵に見付からずに逃げられるのか?」
「そうよ。ただし、音を立てちゃ駄目よ?」
「音、立てたら駄目なのか?」
「見えるものは何でも消せるけど、音は別のトコにしか飛ばせられないの。誰かに音聞かれたらバレちゃうからね?」
「あ、音出すと俺の位置知られなくても、誰か居るってバレるのか?」
「そういう事よ。極力音は出さないでね?」
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「じゃあ、みんなと手を繋いだら、みんなでココから逃げれるのか?」
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「あ。俺のオド足りないのか……」
部屋に居る谷のみんな全員で逃げようと提案したカーソンは、自らのオド総量不足の現実を突き付けられ、がっかりと頭を下げる。
谷の男達はカーソンを気遣い、優しく声をかける。
「カーソン君、俺達は大丈夫だ」
「別に不自由してないしな」
「まずは先に君達だけで谷に帰ってくれ」
「女達に、俺達は誰一人も死なずに元気で生きてるって伝えてくれ」
「……君は、とても優しい子なんだな?」
「こんな状況でも、全員を助けようとするなんてなぁ」
「やっぱ婿に欲しいぜ」
「なあ? クリスちゃんに捨てられたらよ、俺の娘と一緒になってくんねえか?」
「いや、いっその事谷の娘全員貰ってくれ」
「お! それいいな!」
「誰の婿って喧嘩になんねえな。いい考えだ」
「谷に帰ったら各自、自分の娘説得しろよ?」
「おう、任しとけ!」
「……ってなワケでクリスちゃん。谷の独身娘全員、カーソン君の嫁にさせてくんねぇか?」
「……嫌ですっ!」
「そこを何とかさ……頼むよ?」
「絶対に嫌ですっ!」
「むう……恋する乙女にゃ、全く通用しねえなぁ……」
「しゃあねえ、クリスちゃんが許してくれるまで待つか」
(絶対に……許すもんかっ!)
クリスはカーソンが谷の娘連中どころか、父親連中にまで狙われたと知り、絶対にこの子を手放すものかと決意を固める。
老人達が谷のしきたりを言いたそうにしていたが、クリスの立場を想いお互いに目配せして黙った。
セルゲイが島から支給されている下着と服を持ち、カーソンへ話しかける。
「カーソン君。その鎧脱いで、この服を着てってくれ」
「え、いいのか?」
「音出しちゃマズイんだろ? 鎧なんか着てちゃバレるぞ?」
「あ、そうか。ありがとう、クリスの父さん」
「脱いだ鎧は俺達で隠すから、身軽になってくれ」
「うん、分かった」
カーソンは鎧を脱ぎだし、素っ裸となる。
谷の男達は素っ裸になったカーソンの股間を見つめ、絶句する。
「うおっ……何だこりゃ?」
「……でけえな」
「このでかさで……まだ全然起ってねぇのか?」
「これ、もっとでかくなんのか?」
「俺、余裕で負けたわ」
「俺も負けた」
「こりゃ反則なでかさだろ」
「こんなの突っ込まれたら……女死んじまうんじゃねぇのか?」
「牛のよりもでけえぞ、これ」
「こんな色男で巨根……だと?」
「こんなの味わったらよ、もう他の男無理だろ」
「こりゃ今の世代、相当荒れちまうぞ?」
「上の世代もやべぇだろ、これは」
「おいおい、このまま谷に返しちまって大丈夫か?」
「イザベラ様が女にしてくれてたから、今まで平和だったんだろうな」
「18年も男が居ねぇトコに……大丈夫かよ?」
「俺らの嫁さん達、奪い取らねぇでくれよ?」
「頼むぜ、ほんと」
「俺ら帰ったら、隠し子出来てたとかシャレんなんねぇぞ」
「自分達の嫁さん信じて……送り返すしかねぇなこりゃ」
「谷帰ったらクリスちゃんに、きちんと監視して貰わねぇとな」
「いや…ホントすげぇな、カーソン君のは」
「? 俺のちんちん、そんなに凄いのか?」
(うひゃぁ……男の人から見てもあのおちんちんって……凄いのかぁ)
谷の男達はカーソンの股間にぶら下がっている物体を絶賛する。
クリスは顔を真っ赤にし、背中を向けて両手で目を隠しながらも、しっかりと聞き耳を立てていた。
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「クリス、剣は置いて行け。音でバレるかも知れないぞ?」
「駄目よ。もし見付かったら戦わなきゃならないんだから!」
「誰にも見られないから、戦わないと思うぞ?」
「念の為よ、念の為!」
(だってこれ、あたしを助けてくれたあんたの剣。もうあたしの宝物なんだから、絶対置いてけないのよ)
クリスは心の中で思い、剣の柄をそっと撫でた。
出発の準備を整えたカーソンとクリスは、顔をパンパンと叩いて気合いを入れる。
「それじゃ、行くぞクリス」
「うん! 無事に帰れますようにっ!」
「それじゃ、アタシはそろそろ消えるわね?」
「うん、分かった」
「あなたのオドはこれから補充無しで使い続けても夜まで充分足りるわ。たぶん大丈夫よ?」
「よろしく、セイレーン」
「無事に脱出するんだぞ? 俺達は全員無事だって、谷のみんなに伝えてくれ」
「クリスちゃん。カーソン君が浮気しないよう、監視してくれよ?」
「はい! ずっと監視します!」
「? クリス、何を監視するんだ?」
「あんたが騒動の火種になんないようによ」
「? 俺……まあ、いっか」
カーソンはクリスの言葉に首をかしげながらも、理解したフリをした。
きっとクリスは自分を守ってくれる為に、何かをしてくれるのであろう…と。
靴を脱いで裸足になったカーソンとクリスは手を繋ぐ。
カーソンはセイレーンと念じ、クリスと共に姿を消した。
谷の男達は5人組になり、姿を消したカーソンとクリスを囲むと部屋の出入口へと向かう。
2人を囲みながら、谷の男達は出入口に立っている兵士に話しかける。
「ええと、5人便所に行きます」
「はい、分かりました。お供します」
「いつもすみませんね」
「いえいえ、我々こそ長い事皆さんを監視し続けて、申し訳ありません」
「監視のお仕事、ご苦労様です」
「皆さん早く、谷に帰れるといいですね?」
監視役の兵士2人のうち、ひとりが共に付き添う。
谷の男達は陣形を崩し、カーソンとクリスをトイレの反対方向の通路へと促した。
カーソンとクリスは男達の輪から外れ、通路へと歩き出す。
途中振り返ると2人は、気付かれないように小さく手を振っている男達に手を振り返した。
部屋に残った谷の男達は、カーソンとクリスが脱ぎ捨てて行った鎧と靴を集めながら話す。
「カーソン君、セイレーンと契約したんだな」
「あの穴の中に居らしたのか」
「そりゃ俺達が見付けらんねぇワケだわ」
「帰ってセイレーンと会うイザベラ様とローラ様、何て思われるかな?」
「……分かんねぇ」
「……お気の毒に」
谷の男達はどうやらセイレーンと契約していた死体を知っている様子であった。
谷の男達は鎧と靴を穴の中に捨て、石を組み直して元通りに戻した。
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