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クリスの受難
69 166年前のソニア
しおりを挟む臨戦一歩手前になった凶悪な物体に恐怖しつつも、ここまできたら最終形態まで見てみたくなった近衛達は、生唾をごくりと飲み込みながらカーソンに話しかける。
「ねえねえ、先っぽの皮引っ張ってみて?」
「? こうか?」
「違う違うっ! それ逆っ!」
「皮が伸びちゃうよ!」
「根元に向かって引っ張ってみて?」
「うん。……痛てっ!? 痛い……」
「わー……先っぽって、こんな色してるんだ?」
「ねえ? もっと引っ張ってよ」
「……痛い。やだ」
「あ、痛いんだ?」
「へぇーっ……最初は痛いのかぁ……」
「これって……男の破瓜になんの?」
「この皮……処女膜みたいなもんなのかな?」
「処女じゃなくて……処男?」
「何じゃそりゃ!?」
「童貞って言うんだよ、童貞って」
「童の貞操……で童貞かぁ、なるほど」
「ねえねえ? 私がその皮、剥くの手伝ってあげよっか?」
「やだ! 痛いからやだ!」
「そんな事言わないでさぁー、もう剥いちゃおうよ?」
「痛いのは最初だけだって! たぶん」
「ねー、亀頭っていうの見せてよ」
「見せてくれたらさ……あたし達全員で……ねっ?」
「気持ちいい事してあげーー」
「さぁて、みんなぶっ殺される準備は出来たかなぁ?」
「ひいっ!?」
「ちょっ! ちょっと待ってっ!」
「じょっ、冗談だってばクリスっ!」
「たっ、隊長までっ!?」
「……お前達、死ぬ覚悟は出来たか?」
「ごっ、ごごごごめんなさぁーいっ!」
凄まじい殺気を放ち、近衛達に剣を突き付けるソニアとクリス。
近衛達は腰を抜かし、慌ててカーソンから這いずって逃げ出した。
ソニアとクリスは剥き身の真剣を握りしめながら近衛達に話す。
「……人が黙っていれば、次々と余計な事をしおって」
「命まで取るのは勘弁してあげる。その両手両足切り落とすだけでいいよ?」
「心配するな。カーソンがヒーリングで治してくれるぞ?」
「さて、誰からにしよっかな?」
「お前はナタリーからやれ。私はチェイニーからやる」
「はい、隊長」
「ごっ、ごめんなさいっ! 許して下さいっ!」
「いやホントっ! 冗談ですからっ!」
「さっ、最初はクリスに譲ってあげ……ちがっ! ホントごめんなさいっ!」
「申し訳ございませんっ! 女の性が暴走しましたっ! どうかお許し下さいっ!」
「嫌ぁーっ! 痛いの嫌ぁーっ! お願いクリス見逃してぇーっ!」
「……お前達、近衛の掟を忘れたのか?」
「今日で全員、本気で近衛引退するつもりだったの?」
「ほっ、ほほほ本当にごめんなさいっ!」
「つっ、つい魔がさしちゃいましたっ!」
「ぼっ、勃起したチンチンなんて今まで一度も見た事無かったんでっ! ついムラムラっとしちゃったんですっ!」
「まっ、ましてやそれが今まで苦楽を共にしてきたティナ、カーソンだったんですっ!」
「こっ、こんな破廉恥な事、相手がこの子以外とてもじゃないけど出来ませんっ!」
近衛達は土下座し、必死になってソニアとクリスに謝罪と弁明を続けた。
カーソンはズボンを上げ、股間の物体をしまい込んでソニアとクリスに話す。
「? 何でソニアとクリス、そんなに怒ってるんだ?」
「……お前、今こいつらに何をされたか分からんのか?」
「ちんちん見せてくれって言われたから、見せただけだぞ?」
「あんたねぇ……知らなすぎるにも限度ってモンあるでしょ!」
「俺、みんなから何もされてないぞ?」
「……されたんだよ。男としての屈辱をな」
「? 屈辱って…何だ?」
「…………そこまで知らんのか? お前は」
「隊長……ダメですこいつ」
「? 俺、どこがダメなんだ?」
「……ああ、確かにダメだな、クリス」
「あたし……怒るのがとても馬鹿馬鹿しくなりました」
「私もだ。しょうがない、今回はカーソンの馬鹿さ加減に免じて、こいつら許してやるか?」
「そうですね」
「? 俺、馬鹿だからみんなの手足、切られなくて済んだのか?」
カーソンの素っ頓狂な返答にすっかり怒りをかき消されたソニアとクリスは、呆れ返りながら剣を鞘に納める。
近衛達は全員寄り添いながらブルブルと震えていたが、カーソンに救われて心の底からほっとした。
イザベラとローラは、目の前で繰り広げられた喜劇にお腹を抱えながら大爆笑し、笑いすぎて涙を溢していた。
近衛達の暴走を止めたソニアは、カーソンの髪が気になり話しかける。
「ところでカーソン。お前、その髪どうした?」
「え? ああ、セイレーンに欲しいって言われて、切ってセイレーンにあげた」
「お前……谷の禁忌を誰からも教えられていなかったのか?」
「あ、それなら大丈夫です隊長。あたし、全部燃えたの確認しました」
「そうか、それなら安心だ。しかし、男に戻ったのならその髪型はいかんな」
「? 俺の髪型、変か?」
「短くなったとはいえ、女の髪型だからな。男なら男らしい髪型にしたほうがいいだろう?」
「俺、髪型気にしない」
「周りが気になるんだよ。どれ、私が切ってやるか?」
「うん」
「分かった。お前達、兵舎に戻っーー」
「お風呂沸かしてきまーす!」
「もう速攻で!」
「急げぇーっ!」
「私もお掃除手伝ってきます!」
「みんなでやればすぐ終わります!」
「お前達反応が早すぎるだろうがっ!」
近衛達はソニアの命令を待たずに全員兵舎に向かって一目散に走り去って行った。
ソニアは走り去る近衛達の背中をため息混じりに見つめると、横に居るクリスへ話す。
「クリス、私が許す。お前、早く近衛を引退しろ」
「うぇっ!?」
「さもなくば、あいつらの誰かが先に引退してしまうぞ?」
「うっ……いや、でも隊長。隊長もこいつの……見ましたよね?」
「まぁ、意識して見てはいなかったが、視界には入った」
「あたしまだ……全然心の準備が出来ません」
「そうだろうな。私も幼い頃から兄貴のを見慣れていたつもりだったが……とてもじゃないが比べ物にならん」
「あんなの……ホントに挿入るんですか?」
「そこは気合いで挿入れろ」
「気合いで……ですか」
「大丈夫だ。もし裂けても壊した本人が、ヒーリングで治してくれるだろう」
「いや、アソコ裂けちゃうとか……すんごく怖いですってば」
「ならば先を越されぬよう、あの子の貞操を守り通せよ?」
「……はい。まだそっちの方が自信あります」
「お前、あの子の初めてが欲しいのだろう?」
「え、ええ。そりゃまぁ……あたしのあげるつもりですし、出来ればあたしが欲しいです」
「近衛の掟を忘れ、あいつらが暴走したという事は……どうなるか分かっているな?」
「はい。未婚の女達は……もっと見境い無くなっちゃうかなぁ……と」
「実に久しぶりの、年頃になった若い男だからな?」
「もう……壮絶な奪い合いですよね?」
「未だ独身の男連中よりも、ほぼ確実に奴等から狙われるからな? だからお前が誰よりも先にやってしまえ」
「……はい」
「でないと将来あの子と番になれたとしても、お前はそれで一生後悔する事になるぞ?」
「誰かのお手付きになったあいつを貰う事に……なりますよね」
「下手をすれば、お前より先に童貞をかっさらう女にそのまま奪われてしまうかも知れん。お前はあの子の姉貴のままの存在になってしまってもいいのか?」
「それは嫌です、絶対に」
「だったら尚更だな、あの子はお前が好きなのだ。あの子に男としての役割をしっかりと、お前の身体で丁寧に教えてやれ」
「……近日中にはその覚悟を決めたいと思います」
ソニアはクリスにカーソンの童貞は絶対にお前が貰えと促す。
クリスはカーソンの次に若い男が谷の誰なのか気になり、ソニアへ聞く。
「あの……カーソンの次に若い男って、谷の誰なんですか?」
「お前の父親、私の兄貴だよ」
「へっ!?」
「何故驚くのだ?」
「だってお父様……今年で311歳ですよ? あいつが産まれた時に270年ぶりの男の子って話でしたので、今年で288歳の男が居るハズでは?」
「もう死んだよ。丁度お前が2歳の頃だから、今から166年前か」
「えっ……何で死んだんですか?」
「何と言うか……その、まあ、アレだ」
「?」
「今のカーソンとな、状況が似ていたのだ」
「えっ……女同士の奪い合いか何か、あったんですか?」
「無理心中だ。ひとりの女からな、『結婚してくれないならあなた殺して私も死ぬ』……とな」
「えええ……」
「大した事無い顔構えの奴だったので、私は全く興味無かったのだがな……それはもう谷中の独身女にモテまくっていた」
「それで……男女の仲を拗らせ……?」
「好きになった意中の女からは全く見向きもされないまま、好きでも無かった女に殺されたらしい」
「その……意中の女って、誰だったんですか?」
「さあな? 名前を誰にも話さぬまま殺されたからな」
「隊長は……その男から、何かされました?」
「ああ。そいつに興味など全く無いのにな、毎日のようにしつこく言い寄って来られて非常に迷惑だった」
「…………え?」
「? どうした?」
「それって……隊長が……意中の女だったのでは?」
「…………は?」
「だって……そんな気がします」
「………………いや、それは無いと思うぞ?」
「何故ですか?」
「来る度に剣を振り回しながら蹴飛ばしていたのだ。あいつがそんな乱暴な私を好きだったハズが無い」
「いやそれ……隊長の行動がアレなだけでは?」
「近衛に成り立ての私にちょっかいをかけて来たのだぞ? 迷惑にもほどがある」
「あの? ちなみに、その男に意中の女が居たって話は……誰がしたんですか?」
「兄貴だ。あいつ、私を口説き落とせんから兄貴に近寄って根回しをしようとしたのだ」
「お父様へ?」
「ああ。当時赤ん坊だったお前まで出汁にして、私に近付こうとした。全く、卑怯な奴だったと思わんか?」
「い、いや……あたしはとても気の毒だったと思います」
「そうか? 谷中の女が死を悲しんだのだがな、私だけはもう剣術の道を邪魔されずに済んだと清々したな」
「……そうですね。でないと、今の隊長が存在してませんものね」
「やっと今でこそ気の毒に思えるのだがな、当時は本当に迷惑だった」
(隊長……その意中の女って十中八九、間違い無く、絶対、確実にあなたでしたよ?)
クリスは心の中で、非業の死を遂げた男の本命は叔母のソニアであったと4度も強調し、2人の哀しいすれ違いをとても気の毒に思った。
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