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犯した過ち
119 コーヒーと招かれざる女
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カーソンとクリスがダルカンの街に着いてから1ヶ月後。
2人はダルカンの冒険者ギルドを拠点にし、いずれ行こうとしているヒノモトへの旅費を稼いでいた。
今日も2人は薄黄色のローブを身にまとい、朝から冒険者ギルドにやって来る。
入口に来ると頭からフードを深く被り、ギルド内を歩き出す。
カーソンは依頼掲示板の前に立ち、持ってきた紙束に依頼を見繕ってペンでメモ書きを始める。
クリスは受付カウンターへ行き、ギルド職員の男性に話しかける。
「おじさん、いつもの2つお願い」
「おっ、いらっしゃいクリス。すぐ淹れてくるから待っててくれ」
「ありがとう。はい、お金」
「貰わないよ。君達はギルドの看板冒険者だ。何度出されてもお金は取らないよ」
「他の冒険者からはお金取ってるのに、何であたし達はいいの?」
「そんくらいウチのギルドに貢献してくれてるからだよ。君達は何杯飲んでもタダさ」
「他の人達から文句言われるのやだもん。たまにはお金取ってよ」
「いいんだってば。お湯は沸いてるからスグ出来るよ」
「ごめんなさい、いつもありがとう」
「いくらでも飲んでくれよ。君達がこの街で仕事してくれてるだけでコッチは繁盛してるんだから」
「ご馳走になりまーす」
ギルド職員の男性は席を立ち、奥に移動してクリスに背中を向けながら何やらゴソゴソと作業を始める。
やがて受付の周辺に何やら香ばしい匂いが漂い始めた。
ギルド職員の男性は振り返り、お盆に乗せた2つの白いカップをクリスの前に運ぶ。
お盆の上には白いカップの他に、白い粉のようなものと白いトロッとした液体が入っている容器が2つ、スプーンと一緒に乗っていた。
白いカップの中に入っている黒い液体からは香ばしい匂いと湯気が漂う。
ギルド職員の男性はクリスにお盆を渡しながら話す。
「お待たせ。いつものコーヒーね」
「ありがとう。うーん、いい匂い」
「君達に出す時はいつも気合い入れて淹れさせて貰ってるよ」
「他の人の誰よりも、おじさんが淹れてくれるコーヒーが一番美味しいよ」
「おっ、嬉しい事言ってくれるじゃないか。飲みながらゆっくりと今日の仕事選んでくれよ」
「うん」
「ところでクリス、ちょっと聞いてもいいかい?」
「え? 何を?」
「最近2人とも、何でそんなカッコで来るんだい?」
「……ちょっとね、会いたくない人が居るの」
「もしかして彼女かい?」
「うん。いい加減しつこくて困ってるの」
「そう邪険にしないでやってくれないかい? 君達は彼女の命の恩人なんだからさ」
「それとこれとは話が別だよ。あたし達は何度頼まれてもパーティ組む気は無いもん」
ギルド職員の男性は腕を組みながらクリスに話す。
「いや、でもさぁ……君達も彼女の気持ち、察してやってくれないかな?」
「助けてあげただけで付きまとわれたら、あたし達も困るんですけど」
「助けたからこそだよ。ましてや彼女のパーティは全滅、頼れるのは君達だけなんだから」
「全滅したんだから、とっとと冒険者辞めちゃえばいいのに……」
「そうもいかないよ。何とかして仕事続けようって必死なのさ彼女も」
「殺されかけてたのに、何で続けたいのか分かんないなぁ……」
「あわよくばカーソンに気に入られたいって、下心もあるんだろうさ」
「……人間の女なんかにカーソンはあげないもん」
「え? 人間?」
「あっ、いや……何でも無いよ」
「なんか君達たまにおかしな事言うよね? 世の中じゃ当たり前な事知らなかったりするし、まるで人じゃないみたいだ」
「ごめんなさい。あたしもカーソンも田舎者でね、世間知らずなの」
「よっぽど人里離れた辺境の地から来たんだね? それじゃ知らなくてもしょうがないな」
「そそ。それじゃ、コーヒー頂きます」
「うん。熱々のうちに飲んだほうが旨いからね」
(危ない危ない。油断してたら翼の民ってバレちゃうかも知んない。気を付けなきゃ)
うっかり失言した事に焦りながら、クリスはそそくさとお盆を持って受付から離れた。
クリスはお盆を手にギルドのホール内を歩き、常設されているテーブル席の中から一番隅のテーブルを選ぶと、お盆を置いて椅子に腰かける。
掲示板からメモを取り終えたカーソンはホールを見渡し、自分に手を振っているクリスを見付けるとテーブルに向って歩き出す。
カーソンはクリスの対面に座り、テーブルの上に紙束とペンを置く。
紙束をちらっと見ながらクリスはカーソンに話しかける。
「どう? 何かいい仕事見付けた?」
「うん。いくつか書いてきた」
「んじゃ、コーヒー飲みながら選ぼっか?」
「うん。頂きます」
カーソンは白いカップへ一緒に持ってきた白い粉をスプーンで掬い、何の躊躇もせずにドバドバと入れ始める。
続けて白いトロッとした液体もドバドバ入れ、スプーンでグルグルとかき回した。
クリスは呆れながらカーソンに話す。
「……あんたコーヒーの飲み方間違ってる」
「コーヒーっていい匂いするから好きだけど、苦いのが嫌いだ」
「子供だなぁ。この苦いのがいいんじゃないの」
「こっちのほうが甘くて好きだ」
「あのおじさんが淹れてくれるとさ、そんなに苦くないでしょ?」
「うん。でも甘いのがいい」
「砂糖とミルク入れすぎよ。そんな甘ったるいの飲んでよく平気ね?」
「別にいいじゃないか。ギルドのおじさんだって、好きに飲めばいいって言ってる」
「まあね。あんたの自由に、あたしもとやかく言えないよね」
「ズズッ……うん、旨い」
「ズズッ……うん。人間って美味しいもの沢山知ってるよね」
「喉乾いたから飲み物頼んだら、この黒いお湯出されて最初は何だこりゃって思ったぞ」
「ただの豆炙ってお湯入れただけなのに、こんな美味しい飲み物になるなんてね」
「このミルクってのも味が濃くて牛乳より旨い」
「それも牛乳、生クリームだよ?」
「え? 生クリームってあのケーキってのに乗ってる、フワフワしてて美味しいヤツか?」
「そそ。あれは砂糖一緒に入れてうんとかき混ぜて空気含ませるとああなるんだよ」
「そうなのか? これ牛乳だったのか」
「牛乳を一晩置いたら生クリームが上澄みで表面に浮いてね、それ掬ってるんだよ」
「へー」
「生クリームってのは人間が付けた名前で、同じの谷でも食べてたでしょ」
「あれっていつもより美味しい牛乳なんだって思ってた」
カーソンは飲んで減ったコーヒーに再びミルクをドバドバと入れた。
クリスはカーソンの書いてきた紙束に手を伸ばし、1枚ずつ内容を確認しながら話す。
「どれどれ、どんなの書いてきた?」
「今日新しく出たやつと、ずっと気になってたやつ書いてきた」
「………………これとこれとこれは駄目」
「え? 何でだ?」
「迷子のペット探しはもうやめてって言ってるでしょ。何でこんなお金になんないの書いてくんのよ」
「だって……迷子になったペットも飼い主も困ってるだろ」
「んじゃせめてお金持ちが出したペット探しにしてよ」
「貰えるお金の多さじゃないだろ。飼い主もペットも両方寂しいんだぞ?」
「何でこんな100ゴールドとか……いかにも子供がお小遣い貯めて出しましたって依頼ばっかなのよ?」
「うー……寂しがってる子供、助けてやりたい」
「何の為に仕事してると思ってんの? ヒノモト行く為の資金稼ぎなんだよ?」
「ちょっとくらい行くの遅くなってもいいじゃないか」
「また30ゴールドの為に3日かけるとか嫌。そんなにやりたいならあんたひとりでやってよ」
「えー……それは嫌だ。クリスと一緒がいい」
「んじゃ諦めなさい。あたしは迷子のペット探しなんてもうコリゴリ」
「うー……分かった」
カーソンはしょんぼりとしながらクリスに従った。
クリスは1枚のメモをじっと見つめながら話す。
「あ、これまた報酬上がったのね」
「うん。依頼人がまたひとり増えてた」
「今までより3万ゴールド上乗せされてるね」
「でもそれ、いつも変な事書かれてるやつだぞ」
「そうだね。誰が書いたか分かんないけど、『誰も絶対にこの依頼は受けるな』って落書きされてるやつだよね」
「この間まで、朝に出ててもすぐ誰かが剥がしてた依頼だもんな」
「ギルドも剥がされないように紙じゃなく木の板に書いて釘で打ち付けたやつよね」
「どうする?」
「10万ゴールド……ヒノモト行く為の資金稼ぎにはもってこいな依頼だよね」
「でも……受けるなって書かれてるの気になる」
「何のつもりで誰が書いたか知らないけどさ、無視してあたしらで片付けちゃおうよ」
「うん」
「んじゃぁ、コーヒー飲ん……げっ!?」
「? どうした?」
「あいつ来たっ」
「えっ?」
「見るなっ! 気付かれるっ!」
カーソンは振り向こうとし、クリスに止められた。
ギルドの入口には、ひとりの女冒険者が立っていた。
背はそれ程高くなく、女性としては平均的な身長。
年齢は30代、若い女とは呼べない微妙な年頃である。
長くて真っ白な髪を後頭部でまとめ、まるで馬の尻尾のように髪紐で結っている。
やや色黒な地肌で、冒険者を名乗っている割にはさほど逞しい身体つきでは無い。
まんまるでくりっとした瞳は黒く、鼻はやや低めで細い唇からはどこか薄幸そうな印象を受ける。
決して美人とは言えないが、愛嬌がある顔をしていた。
女はギルド内をキョロキョロと見渡し、ローブを着た2人を見付けるとニヤリとし、小さくコクコクと頷いた。
クリスはカーソンにコソコソと話す。
「じっとしててよ? 見付けられたら大変」
「なあ? 何でそんなにあいつ嫌ってるんだ?」
「別に嫌ってるワケじゃないけどさ、絡まれると面倒くさいのよ」
「俺は別に、あいつと一緒に仕事してもいいと思うぞ?」
「仕事失敗して目の前で死なれちゃっちゃらどうすんのよ?」
「あ、それは嫌だな。死なれたくない」
「どう考えても一緒に仕事したら足引っ張りそうな奴、あたしは仲間にする気無いからね」
「じゃあ、俺があいつ守ってやればいいか?」
「やめてよ。何であんたそんなにあいつが気になんのよ?」
「だってあいつ、もう少しで盗賊に殺されーー」
「おっはよっ!」
「!?」
カーソンとクリスは声をかけられ、2人が居るテーブルの上に両手を着いて立っている女を見上げる。
クリスはニコニコと笑顔を振りまいている女を見上げながら眉間に皺を寄せて話しかける。
「……何か用? ヘレナ」
「クリスぅ? まずはおはようでしょぉ? 親しき仲にも礼儀ありだよぉ?」
「いつあたしとあんたが親しい仲になったのよ?」
「んもぅ、いけずぅ。3人で一緒にお風呂入った間柄じゃないのぉ?」
「あんたが勝手に2人で入ってたトコに邪魔しに来ただけじゃないのっ!」
「違うよぉ? カーソンがうちとも一緒に入りたいって……心の声を聴いたのよぉ?」
「コイツがそんな事思うかっ! あんたの妄想でしょっ!」
クリスはヘレナという名の、女冒険者の態度にイライラしていた。
2人はダルカンの冒険者ギルドを拠点にし、いずれ行こうとしているヒノモトへの旅費を稼いでいた。
今日も2人は薄黄色のローブを身にまとい、朝から冒険者ギルドにやって来る。
入口に来ると頭からフードを深く被り、ギルド内を歩き出す。
カーソンは依頼掲示板の前に立ち、持ってきた紙束に依頼を見繕ってペンでメモ書きを始める。
クリスは受付カウンターへ行き、ギルド職員の男性に話しかける。
「おじさん、いつもの2つお願い」
「おっ、いらっしゃいクリス。すぐ淹れてくるから待っててくれ」
「ありがとう。はい、お金」
「貰わないよ。君達はギルドの看板冒険者だ。何度出されてもお金は取らないよ」
「他の冒険者からはお金取ってるのに、何であたし達はいいの?」
「そんくらいウチのギルドに貢献してくれてるからだよ。君達は何杯飲んでもタダさ」
「他の人達から文句言われるのやだもん。たまにはお金取ってよ」
「いいんだってば。お湯は沸いてるからスグ出来るよ」
「ごめんなさい、いつもありがとう」
「いくらでも飲んでくれよ。君達がこの街で仕事してくれてるだけでコッチは繁盛してるんだから」
「ご馳走になりまーす」
ギルド職員の男性は席を立ち、奥に移動してクリスに背中を向けながら何やらゴソゴソと作業を始める。
やがて受付の周辺に何やら香ばしい匂いが漂い始めた。
ギルド職員の男性は振り返り、お盆に乗せた2つの白いカップをクリスの前に運ぶ。
お盆の上には白いカップの他に、白い粉のようなものと白いトロッとした液体が入っている容器が2つ、スプーンと一緒に乗っていた。
白いカップの中に入っている黒い液体からは香ばしい匂いと湯気が漂う。
ギルド職員の男性はクリスにお盆を渡しながら話す。
「お待たせ。いつものコーヒーね」
「ありがとう。うーん、いい匂い」
「君達に出す時はいつも気合い入れて淹れさせて貰ってるよ」
「他の人の誰よりも、おじさんが淹れてくれるコーヒーが一番美味しいよ」
「おっ、嬉しい事言ってくれるじゃないか。飲みながらゆっくりと今日の仕事選んでくれよ」
「うん」
「ところでクリス、ちょっと聞いてもいいかい?」
「え? 何を?」
「最近2人とも、何でそんなカッコで来るんだい?」
「……ちょっとね、会いたくない人が居るの」
「もしかして彼女かい?」
「うん。いい加減しつこくて困ってるの」
「そう邪険にしないでやってくれないかい? 君達は彼女の命の恩人なんだからさ」
「それとこれとは話が別だよ。あたし達は何度頼まれてもパーティ組む気は無いもん」
ギルド職員の男性は腕を組みながらクリスに話す。
「いや、でもさぁ……君達も彼女の気持ち、察してやってくれないかな?」
「助けてあげただけで付きまとわれたら、あたし達も困るんですけど」
「助けたからこそだよ。ましてや彼女のパーティは全滅、頼れるのは君達だけなんだから」
「全滅したんだから、とっとと冒険者辞めちゃえばいいのに……」
「そうもいかないよ。何とかして仕事続けようって必死なのさ彼女も」
「殺されかけてたのに、何で続けたいのか分かんないなぁ……」
「あわよくばカーソンに気に入られたいって、下心もあるんだろうさ」
「……人間の女なんかにカーソンはあげないもん」
「え? 人間?」
「あっ、いや……何でも無いよ」
「なんか君達たまにおかしな事言うよね? 世の中じゃ当たり前な事知らなかったりするし、まるで人じゃないみたいだ」
「ごめんなさい。あたしもカーソンも田舎者でね、世間知らずなの」
「よっぽど人里離れた辺境の地から来たんだね? それじゃ知らなくてもしょうがないな」
「そそ。それじゃ、コーヒー頂きます」
「うん。熱々のうちに飲んだほうが旨いからね」
(危ない危ない。油断してたら翼の民ってバレちゃうかも知んない。気を付けなきゃ)
うっかり失言した事に焦りながら、クリスはそそくさとお盆を持って受付から離れた。
クリスはお盆を手にギルドのホール内を歩き、常設されているテーブル席の中から一番隅のテーブルを選ぶと、お盆を置いて椅子に腰かける。
掲示板からメモを取り終えたカーソンはホールを見渡し、自分に手を振っているクリスを見付けるとテーブルに向って歩き出す。
カーソンはクリスの対面に座り、テーブルの上に紙束とペンを置く。
紙束をちらっと見ながらクリスはカーソンに話しかける。
「どう? 何かいい仕事見付けた?」
「うん。いくつか書いてきた」
「んじゃ、コーヒー飲みながら選ぼっか?」
「うん。頂きます」
カーソンは白いカップへ一緒に持ってきた白い粉をスプーンで掬い、何の躊躇もせずにドバドバと入れ始める。
続けて白いトロッとした液体もドバドバ入れ、スプーンでグルグルとかき回した。
クリスは呆れながらカーソンに話す。
「……あんたコーヒーの飲み方間違ってる」
「コーヒーっていい匂いするから好きだけど、苦いのが嫌いだ」
「子供だなぁ。この苦いのがいいんじゃないの」
「こっちのほうが甘くて好きだ」
「あのおじさんが淹れてくれるとさ、そんなに苦くないでしょ?」
「うん。でも甘いのがいい」
「砂糖とミルク入れすぎよ。そんな甘ったるいの飲んでよく平気ね?」
「別にいいじゃないか。ギルドのおじさんだって、好きに飲めばいいって言ってる」
「まあね。あんたの自由に、あたしもとやかく言えないよね」
「ズズッ……うん、旨い」
「ズズッ……うん。人間って美味しいもの沢山知ってるよね」
「喉乾いたから飲み物頼んだら、この黒いお湯出されて最初は何だこりゃって思ったぞ」
「ただの豆炙ってお湯入れただけなのに、こんな美味しい飲み物になるなんてね」
「このミルクってのも味が濃くて牛乳より旨い」
「それも牛乳、生クリームだよ?」
「え? 生クリームってあのケーキってのに乗ってる、フワフワしてて美味しいヤツか?」
「そそ。あれは砂糖一緒に入れてうんとかき混ぜて空気含ませるとああなるんだよ」
「そうなのか? これ牛乳だったのか」
「牛乳を一晩置いたら生クリームが上澄みで表面に浮いてね、それ掬ってるんだよ」
「へー」
「生クリームってのは人間が付けた名前で、同じの谷でも食べてたでしょ」
「あれっていつもより美味しい牛乳なんだって思ってた」
カーソンは飲んで減ったコーヒーに再びミルクをドバドバと入れた。
クリスはカーソンの書いてきた紙束に手を伸ばし、1枚ずつ内容を確認しながら話す。
「どれどれ、どんなの書いてきた?」
「今日新しく出たやつと、ずっと気になってたやつ書いてきた」
「………………これとこれとこれは駄目」
「え? 何でだ?」
「迷子のペット探しはもうやめてって言ってるでしょ。何でこんなお金になんないの書いてくんのよ」
「だって……迷子になったペットも飼い主も困ってるだろ」
「んじゃせめてお金持ちが出したペット探しにしてよ」
「貰えるお金の多さじゃないだろ。飼い主もペットも両方寂しいんだぞ?」
「何でこんな100ゴールドとか……いかにも子供がお小遣い貯めて出しましたって依頼ばっかなのよ?」
「うー……寂しがってる子供、助けてやりたい」
「何の為に仕事してると思ってんの? ヒノモト行く為の資金稼ぎなんだよ?」
「ちょっとくらい行くの遅くなってもいいじゃないか」
「また30ゴールドの為に3日かけるとか嫌。そんなにやりたいならあんたひとりでやってよ」
「えー……それは嫌だ。クリスと一緒がいい」
「んじゃ諦めなさい。あたしは迷子のペット探しなんてもうコリゴリ」
「うー……分かった」
カーソンはしょんぼりとしながらクリスに従った。
クリスは1枚のメモをじっと見つめながら話す。
「あ、これまた報酬上がったのね」
「うん。依頼人がまたひとり増えてた」
「今までより3万ゴールド上乗せされてるね」
「でもそれ、いつも変な事書かれてるやつだぞ」
「そうだね。誰が書いたか分かんないけど、『誰も絶対にこの依頼は受けるな』って落書きされてるやつだよね」
「この間まで、朝に出ててもすぐ誰かが剥がしてた依頼だもんな」
「ギルドも剥がされないように紙じゃなく木の板に書いて釘で打ち付けたやつよね」
「どうする?」
「10万ゴールド……ヒノモト行く為の資金稼ぎにはもってこいな依頼だよね」
「でも……受けるなって書かれてるの気になる」
「何のつもりで誰が書いたか知らないけどさ、無視してあたしらで片付けちゃおうよ」
「うん」
「んじゃぁ、コーヒー飲ん……げっ!?」
「? どうした?」
「あいつ来たっ」
「えっ?」
「見るなっ! 気付かれるっ!」
カーソンは振り向こうとし、クリスに止められた。
ギルドの入口には、ひとりの女冒険者が立っていた。
背はそれ程高くなく、女性としては平均的な身長。
年齢は30代、若い女とは呼べない微妙な年頃である。
長くて真っ白な髪を後頭部でまとめ、まるで馬の尻尾のように髪紐で結っている。
やや色黒な地肌で、冒険者を名乗っている割にはさほど逞しい身体つきでは無い。
まんまるでくりっとした瞳は黒く、鼻はやや低めで細い唇からはどこか薄幸そうな印象を受ける。
決して美人とは言えないが、愛嬌がある顔をしていた。
女はギルド内をキョロキョロと見渡し、ローブを着た2人を見付けるとニヤリとし、小さくコクコクと頷いた。
クリスはカーソンにコソコソと話す。
「じっとしててよ? 見付けられたら大変」
「なあ? 何でそんなにあいつ嫌ってるんだ?」
「別に嫌ってるワケじゃないけどさ、絡まれると面倒くさいのよ」
「俺は別に、あいつと一緒に仕事してもいいと思うぞ?」
「仕事失敗して目の前で死なれちゃっちゃらどうすんのよ?」
「あ、それは嫌だな。死なれたくない」
「どう考えても一緒に仕事したら足引っ張りそうな奴、あたしは仲間にする気無いからね」
「じゃあ、俺があいつ守ってやればいいか?」
「やめてよ。何であんたそんなにあいつが気になんのよ?」
「だってあいつ、もう少しで盗賊に殺されーー」
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「!?」
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クリスはニコニコと笑顔を振りまいている女を見上げながら眉間に皺を寄せて話しかける。
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「クリスぅ? まずはおはようでしょぉ? 親しき仲にも礼儀ありだよぉ?」
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「あんたが勝手に2人で入ってたトコに邪魔しに来ただけじゃないのっ!」
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