116 / 271
廃村復興支援
115 リンゴの木
しおりを挟む
村には夜遅くに到着し、2人は食事を軽く済ませると寝床につく。
翌朝、2人は目を覚ますと、村人達と共に仕事を再開した。
ダルカンからキャラバンが戻ってきたのは昼過ぎで、予定より遅れていた。
村へ帰る途中で盗賊に襲われたが、長右衛門と詩音のおかげで返り討ちにしたと報告された。
ダンヒルはこの日キャラバンを休ませる事を決め、次の到着が遅れる事を知らせる為にオスト、ダルカンへ使いの馬を走らせた。
クリスは盗賊と一戦交えた長右衛門と詩音を労いながら話す。
「長右衛門さん、詩音さん、お疲れさまでした。今日はゆっくり休んで下さいね?」
「そうはいかぬ。詩音、畑へ行ーー」
「駄目です! 今日は休んで下さいっ! いいですね?」
「う……うむ。承知致したでござる」
「……分かった。好きなだけ休ませて貰う」
クリスの気迫に負け、長右衛門と詩音は渋々と休みを取った。
カーソンは井戸端でマーシャに字を教えながら、水にウンディーネの魔法をかけ続ける。
「エート…………オ、ト、ウ、サ、ン、ダ、ン、ヒ、ル」
「そうだマーシャ。字書くの上手になったな」
「ウン! ワタシ、ガンバッテ、ジオボエル」
「よしよし、頑張れ」
「エヘヘ……」
マーシャはカーソンに頭を撫でられ、ニコッと微笑んだ。
カーソンは地面に大きな四角を描き、その内側へ更に線を引き10枠にすると、その中に数字を書きながらマーシャへ話す。
「マーシャ、数字の計算も覚えてみないか?」
「ウン! オボエタイ!」
「よしよし、ちょっと待ってろ」
「…………オニイチャン、ナニコレ?」
「計算のやりかたを書いてるんだ」
「タテトヨコニ……1カラ10?」
「マーシャ。1が1あったら、いくつだ?」
「1……ダヨネ?」
「そうだ。ほら、縦と横が1で重なるところ見てみろ」
「1ッテカイテルネ」
「じゃあ、3が6あったらいくつだ?」
「…………ワカンナイ」
「ほら、縦が3で横が6の重なるところ、いくつって書いてる?」
「エット……18」
「そうだ。3が6あったら18、6が3あっても18なんだ」
「エット……ワッ、ホントダ!」
「この数字を全部覚えたら、10が10で100になるまでの計算がすぐ出来るぞ?」
「オニイチャンスゴイ! ワタシコレオボエル!」
「8が5あったらいくつだ?」
「エット……40!」
「3が7あったら?」
「ウント……21!」
「よしよし、偉いぞマーシャ」
「オニイチャン! コレ、カミニモカイテ!」
「分かった。後で書いてやる」
「アリガトウ! コレスゴイ!」
カーソンは少し難しい問題を出す。
「じゃあマーシャ、13が13あったらいくつだ?」
「エット…………10マデシカナイヨ?」
「13が10でいくつだ?」
「ンーット…………130?」
「うん。それ、そこに書いとけ」
「ウン!」
「次、13が3でいくつだ? 10と3に分けて計算してみろ」
「エット……30ト……9デ……39?」
「全部足してみろ」
「ウント……169?」
「そうだ。13が13で169になるんだ」
「…………ナンデ?」
「13が10で130、13が3で39になるだろ?」
「ウン」
「13が13って事はな、13が10と、13が3あるんだよ」
「…………ア!」
「なっ? だから130に39を足すんだ」
「コノ13ガ、10ト3アルンダネ!」
「そうだ。よく分かったな、マーシャ」
「……あたしゼンゼン分かんないんだけど?」
「うわっ!? 居たのかクリス!」
「何でそうなんの?」
いつの間にかクリスが背後に居て、話しかけられたカーソンは背中を仰け反らせて驚いた。
マーシャはクリスへ計算の方法を教える。
「13ガ10ト、10ガ3ト、3ガ3アルンダヨ、オネエチャン」
「…………それが分かんない」
「クリスよりマーシャのほうが、頭いいのか……」
「うん、悔しいけど……認めるわ」
「難しくないぞ? この13の部分を、10と3の両方で計算するだけだぞ?」
「あんた達の頭ん中、どうなってんの?」
「ここの数字を10の部分の数字と、1の部分の数字に分けて計算すればいいだけだぞ?」
「あたしの頭では、そこからゼンゼン分かんないんだけど……」
「クリスには100が100で10000になるこれ、書いたほういいか?」
「いや、いいよ。計算が必要になったら、悩まず黙ってあんたに聞くわ」
「オニイチャン、ワタシソレホシイ」
クリスは頭から煙が出てきそうな程13が13ある問題の答えに悩みながら、カーソンとマーシャが自分には分からない計算方法を理解している事に愕然とした。
カーソンが次々と出す2桁の問題を、マーシャは教えられた計算方法で1桁の計算表を見ながら答えを導き出す。
クリスは計算方法を理解出来ず、頭を抱えて悩んでいる。
マーシャはおもむろに立ち上がり、2人へ話すと井戸端から駆け出す。
「ワタシ、オシッコイッテクル」
「そうか、行ってらっしゃい」
「ウン!」
「…………あれっ? マーシャ何か落としてったよ」
「ん? 袋?」
何処から落としたのであろうか、マーシャは小さな袋を落としていった。
カーソンは小さな袋を拾い上げ、中身を調べようとしてクリスに止められる。
「何が入ってんだ?」
「開けちゃ駄目だよ? マーシャが大事にしてるモンだったら、あんたマーシャに嫌われちゃうよ?」
「あ、そりゃ駄目だな。マーシャ戻ってきたら渡すだけにする」
「そうしてよ。女の子ってね、秘密が多いんだから」
「クリスも俺に秘密にしてる事、あるのか?」
「まあね。月のモノとかね、色々あんのよ」
「ふーん……」
「あんた女の子だった時あんのに、元が男の子だから生理無かったもんね」
「あ、それってクリスお腹痛くなる時の事か?」
「そそ」
2人が話し込んでいると、マーシャが何かを探しながらこちらへと戻ってくる。
困惑した表情で地面を見渡しながら戻ってきたマーシャへ、カーソンは小さな袋を見せながら話す。
「マーシャ、もしかしてこれ探してるのか?」
「ア! オニイチャンミツケテクレタノ?」
「そこに落ちてたぞ?」
「アリガトウ! ヨカッタァ……」
「マーシャの宝物なのねこれ?」
「ウン! リンゴノタネガハイッテルノ」
「リンゴの種?」
「オネエチャンカラモラッタリンゴ、タネトッテルノ」
「そうだったの?」
「ウン。リンゴノキニシタイノ」
「じゃあそれ、土に埋めて木にするか?」
「エ、イイノ!?」
「ねえマーシャ。リンゴの種、どこに埋めたい?」
「エット……ウント……アソコ」
マーシャは右手で北側の小高い丘を指差した。
クリスはカーソンとマーシャへ話す。
「じゃあ、あたしダンヒルさんにリンゴの木植えるよって言ってくるね。2人は先に行って種埋めててよ」
「うん、分かった。行こうか、マーシャ」
「デモ……イイノ?」
「いいんだよ? リンゴも実がなったら売れるだろうし、ダンヒルさんも駄目っては言わないよ?」
「じゃあ行くか」
「ウン! ヤッタァ!」
カーソンは木桶に水を汲み、マーシャと共に北の丘へと向かう。
クリスはダンヒルの元へ、これからリンゴの木を植えると報告に向かった。
丘の上まで来たカーソンは木桶を置き、適当な間隔を空けてディザードで浅めの穴を掘る。
マーシャはワクワクとしながら、カーソンの作業を見守った。
カーソンは穴の前でマーシャを手招きしながら話す。
「リンゴの種いくつあるか分かんないから、とりあえず3つ掘ったぞ?」
「アリガトウオニイチャン!」
「よし、その種入れろ。埋めるから」
「ウン!」
マーシャは右手で小さな袋を引っくり返し、左手の掌にリンゴの種を乗せる。
15粒の種が、マーシャの左手の掌に乗った。
マーシャはリンゴの種を1つの穴に5粒ずつ落とし、カーソンはディザードで上から土を被せた。
カーソンが手をかざしただけで、穴に土が盛り上がった光景を見たマーシャは、不思議がりながら聞く。
「オニイチャン。アナホレルシ、ウメレルノ?」
「ん? ああ、そうだぞ。土の精霊が掘った土持っててな、出してくれって頼めば土出してくれるんだ」
「オニイチャンスゴイ! カッコイイ!」
「凄いのは俺じゃないぞ? やってくれてるのはディザードっていう、土の精霊だぞ?」
「ディザード?」
「見たいか?」
「ウン! ミタイ!」
「ディザード、マーシャに姿見せてやってくれ」
(はいです、ご主人様)
カーソンはマーシャの前に右手の掌を差し出す。
ご主人様の求めに応じ、ディザードは小さな石人形の姿でマーシャの前に現れた。
ディザードはマーシャにペコリと頭を下げながら話す。
「ワシ、ディザードです」
「セイレイ……カッコイイ!」
「えへっ、ありがとうございます」
「俺、お前と契約した時、土の魔法苦手とか言ってごめんな?」
「いえいえ、ワシを使いこなせるご主人様ってそうそう居ませんです」
「ディザードは俺以外と契約した事あるのか?」
「ワシは無いです。でも、ご主人様と契約したワシと、クリス様が契約したワシ、他の誰かと契約しているワシは、全ての情報を共有してるんです」
「あ、それ言っても大丈夫なやつなのか?」
「大丈夫です。ワシはワシであり、他のワシもワシなんです」
「精霊ディザードは沢山居るけど、ひとりなのか?」
「そうです。シルフもウンディーネもサラマンダーもひとりです」
「へぇ……そうなのか?」
「ここまでは言っても大丈夫です。この先は怖いので言えませんです」
「うん、言わなくてもいいからな?」
「オニイチャン、セイレイサントナカヨシナンダネ!」
「俺はみんなと仲良くなりたいからな」
「ワタシトモ?」
「うん、マーシャとも仲良くなりたい」
「ウン! ワタシモ!」
「ありがとな?」
「エヘヘ……」
カーソンは左手でマーシャの頭を優しく撫でる。
右手の掌に居たディザードは、マーシャへ手を振りながら消えた。
カーソンは木桶を持ち上げ、マーシャに話す。
「さ、マーシャ。埋めた種に水かけてみろ」
「ウン!」
マーシャは両手で手酌を作り、木桶から水を掬うと埋めたリンゴの種へ水を撒く。
3ヶ所に撒いたマーシャはカーソンと共に少し離れ、リンゴの成長を待つ。
間も無く、水を吸ったリンゴの種は驚異の速度で成長を始める。
ミシッ
メキメキッ
ギシッ
リンゴの木は、カーソンとマーシャの視線と共に空高く伸び、あっという間に成木となる。
埋めたリンゴの種全てが他の種と共に成長し、複雑に絡み合いながら大木へと変わった。
リンゴの木には花が咲き、花弁を散らすとそこから実がなる。
実はどんどん大きくなり、赤・黄・緑の色鮮やかなリンゴとなった。
カーソンはリンゴの木を眩しそうに見上げ、マーシャは実ったリンゴを見て跳び跳ねながら喜んでいる。
クリスとダンヒルが丘を駆け登りながらやって来る。
5m程にまで成長したリンゴの木を見上げながら、ダンヒルは話す。
「もう……実をつけましたね」
「いやホント、豊穣の水って凄いわ」
「オトウサン! リンゴデキタヨ!」
「出来たけど……何でリンゴの色が違うんだ?」
カーソンは1本の木から、色の異なるリンゴの実が出来た事に首をかしげる。
ダンヒルは経緯を推測しながら話す。
「恐らくですが、複数の品種のリンゴの種が同時に成長し、それぞれが交配したのでしょう」
「交配?」
「ええ。ひょっとしたらこのリンゴ……今まで私達が食べた事の無い、新種となってるかも知れませんよ?」
「ふむふむ。じゃあ、みんなで食べてみよっか?」
「ウン! デキタリンゴタベタイ!」
「ちょっと待っててね? ほら、あんたも手伝ってよ」
「うん、分かった」
カーソンとクリスはピョンと跳び跳ね、木に実るリンゴを2つもぎ取る。
3m以上の高さにあるリンゴの実を、ジャンプひとつでもぎ取るカーソンとクリスの身体能力にダンヒルは唖然とし、マーシャは目を輝かせながら見つめた。
カーソンはマーシャに、クリスはダンヒルへリンゴを手渡しながら話す。
「旨そうなリンゴだな」
「オイシソウダネ! オニイチャン!」
「こんなに大きなリンゴ、これはいい値段で売れそうですね」
「味はどうかな? いただきまーす」
シャリッ
ショリッ
それぞれがリンゴにかじりつき、小気味良い音を鳴らす。
食べたリンゴの味に、4人は目を丸くしながら話す。
「……旨いな、このリンゴ」
「オイシイ! アマイ! ヤワラカイ!」
「私のは固めの歯切れ良いリンゴだ。しかも甘い」
「あたしのはちょっと酸っぱいかな? でも美味しい」
「マーシャ。そのリンゴ、俺のと交換な?」
「エッ!? アッ……」
「俺のも旨いぞ?」
「アノ、オニイチャン……イイノ?」
「おっ、マーシャの食ってたリンゴも旨いな」
「オニイチャン……」
マーシャは自分が口をつけていたリンゴをカーソンに奪われ、しかも自分がつけた歯形の部分を食べられて顔を赤らめる。
そして、自分もカーソンの歯形が残っているリンゴを舌でペロッと舐め、食べる。
「オニイチャンノリンゴモ……オイシイ」
「ん? マーシャ顔赤いぞ? どうした?」
「どうしたじゃないでしょ。あんた乙女心分かんないの?」
「? 俺、マーシャ食ってたリンゴ食っても気にならないぞ」
「カーソン君、女殺しだねぇ……」
「え? 俺、何か変な事したのか?」
「聞きましたダンヒルさん? この無神経さ」
「これは……いやいや、カーソン君は罪深い男だね」
「ほらもうマーシャ、リンゴの味分かんなくなってるよ?」
「オニイチャン……ワタシハズカシイヨ……」
マーシャの食べたリンゴを平気で食べるカーソンの奇行に、クリスとダンヒルは笑う。
マーシャはリンゴにも負けない程顔を赤くし、カーソンの歯形が残るリンゴを大事そうに持っていた。
翌朝、2人は目を覚ますと、村人達と共に仕事を再開した。
ダルカンからキャラバンが戻ってきたのは昼過ぎで、予定より遅れていた。
村へ帰る途中で盗賊に襲われたが、長右衛門と詩音のおかげで返り討ちにしたと報告された。
ダンヒルはこの日キャラバンを休ませる事を決め、次の到着が遅れる事を知らせる為にオスト、ダルカンへ使いの馬を走らせた。
クリスは盗賊と一戦交えた長右衛門と詩音を労いながら話す。
「長右衛門さん、詩音さん、お疲れさまでした。今日はゆっくり休んで下さいね?」
「そうはいかぬ。詩音、畑へ行ーー」
「駄目です! 今日は休んで下さいっ! いいですね?」
「う……うむ。承知致したでござる」
「……分かった。好きなだけ休ませて貰う」
クリスの気迫に負け、長右衛門と詩音は渋々と休みを取った。
カーソンは井戸端でマーシャに字を教えながら、水にウンディーネの魔法をかけ続ける。
「エート…………オ、ト、ウ、サ、ン、ダ、ン、ヒ、ル」
「そうだマーシャ。字書くの上手になったな」
「ウン! ワタシ、ガンバッテ、ジオボエル」
「よしよし、頑張れ」
「エヘヘ……」
マーシャはカーソンに頭を撫でられ、ニコッと微笑んだ。
カーソンは地面に大きな四角を描き、その内側へ更に線を引き10枠にすると、その中に数字を書きながらマーシャへ話す。
「マーシャ、数字の計算も覚えてみないか?」
「ウン! オボエタイ!」
「よしよし、ちょっと待ってろ」
「…………オニイチャン、ナニコレ?」
「計算のやりかたを書いてるんだ」
「タテトヨコニ……1カラ10?」
「マーシャ。1が1あったら、いくつだ?」
「1……ダヨネ?」
「そうだ。ほら、縦と横が1で重なるところ見てみろ」
「1ッテカイテルネ」
「じゃあ、3が6あったらいくつだ?」
「…………ワカンナイ」
「ほら、縦が3で横が6の重なるところ、いくつって書いてる?」
「エット……18」
「そうだ。3が6あったら18、6が3あっても18なんだ」
「エット……ワッ、ホントダ!」
「この数字を全部覚えたら、10が10で100になるまでの計算がすぐ出来るぞ?」
「オニイチャンスゴイ! ワタシコレオボエル!」
「8が5あったらいくつだ?」
「エット……40!」
「3が7あったら?」
「ウント……21!」
「よしよし、偉いぞマーシャ」
「オニイチャン! コレ、カミニモカイテ!」
「分かった。後で書いてやる」
「アリガトウ! コレスゴイ!」
カーソンは少し難しい問題を出す。
「じゃあマーシャ、13が13あったらいくつだ?」
「エット…………10マデシカナイヨ?」
「13が10でいくつだ?」
「ンーット…………130?」
「うん。それ、そこに書いとけ」
「ウン!」
「次、13が3でいくつだ? 10と3に分けて計算してみろ」
「エット……30ト……9デ……39?」
「全部足してみろ」
「ウント……169?」
「そうだ。13が13で169になるんだ」
「…………ナンデ?」
「13が10で130、13が3で39になるだろ?」
「ウン」
「13が13って事はな、13が10と、13が3あるんだよ」
「…………ア!」
「なっ? だから130に39を足すんだ」
「コノ13ガ、10ト3アルンダネ!」
「そうだ。よく分かったな、マーシャ」
「……あたしゼンゼン分かんないんだけど?」
「うわっ!? 居たのかクリス!」
「何でそうなんの?」
いつの間にかクリスが背後に居て、話しかけられたカーソンは背中を仰け反らせて驚いた。
マーシャはクリスへ計算の方法を教える。
「13ガ10ト、10ガ3ト、3ガ3アルンダヨ、オネエチャン」
「…………それが分かんない」
「クリスよりマーシャのほうが、頭いいのか……」
「うん、悔しいけど……認めるわ」
「難しくないぞ? この13の部分を、10と3の両方で計算するだけだぞ?」
「あんた達の頭ん中、どうなってんの?」
「ここの数字を10の部分の数字と、1の部分の数字に分けて計算すればいいだけだぞ?」
「あたしの頭では、そこからゼンゼン分かんないんだけど……」
「クリスには100が100で10000になるこれ、書いたほういいか?」
「いや、いいよ。計算が必要になったら、悩まず黙ってあんたに聞くわ」
「オニイチャン、ワタシソレホシイ」
クリスは頭から煙が出てきそうな程13が13ある問題の答えに悩みながら、カーソンとマーシャが自分には分からない計算方法を理解している事に愕然とした。
カーソンが次々と出す2桁の問題を、マーシャは教えられた計算方法で1桁の計算表を見ながら答えを導き出す。
クリスは計算方法を理解出来ず、頭を抱えて悩んでいる。
マーシャはおもむろに立ち上がり、2人へ話すと井戸端から駆け出す。
「ワタシ、オシッコイッテクル」
「そうか、行ってらっしゃい」
「ウン!」
「…………あれっ? マーシャ何か落としてったよ」
「ん? 袋?」
何処から落としたのであろうか、マーシャは小さな袋を落としていった。
カーソンは小さな袋を拾い上げ、中身を調べようとしてクリスに止められる。
「何が入ってんだ?」
「開けちゃ駄目だよ? マーシャが大事にしてるモンだったら、あんたマーシャに嫌われちゃうよ?」
「あ、そりゃ駄目だな。マーシャ戻ってきたら渡すだけにする」
「そうしてよ。女の子ってね、秘密が多いんだから」
「クリスも俺に秘密にしてる事、あるのか?」
「まあね。月のモノとかね、色々あんのよ」
「ふーん……」
「あんた女の子だった時あんのに、元が男の子だから生理無かったもんね」
「あ、それってクリスお腹痛くなる時の事か?」
「そそ」
2人が話し込んでいると、マーシャが何かを探しながらこちらへと戻ってくる。
困惑した表情で地面を見渡しながら戻ってきたマーシャへ、カーソンは小さな袋を見せながら話す。
「マーシャ、もしかしてこれ探してるのか?」
「ア! オニイチャンミツケテクレタノ?」
「そこに落ちてたぞ?」
「アリガトウ! ヨカッタァ……」
「マーシャの宝物なのねこれ?」
「ウン! リンゴノタネガハイッテルノ」
「リンゴの種?」
「オネエチャンカラモラッタリンゴ、タネトッテルノ」
「そうだったの?」
「ウン。リンゴノキニシタイノ」
「じゃあそれ、土に埋めて木にするか?」
「エ、イイノ!?」
「ねえマーシャ。リンゴの種、どこに埋めたい?」
「エット……ウント……アソコ」
マーシャは右手で北側の小高い丘を指差した。
クリスはカーソンとマーシャへ話す。
「じゃあ、あたしダンヒルさんにリンゴの木植えるよって言ってくるね。2人は先に行って種埋めててよ」
「うん、分かった。行こうか、マーシャ」
「デモ……イイノ?」
「いいんだよ? リンゴも実がなったら売れるだろうし、ダンヒルさんも駄目っては言わないよ?」
「じゃあ行くか」
「ウン! ヤッタァ!」
カーソンは木桶に水を汲み、マーシャと共に北の丘へと向かう。
クリスはダンヒルの元へ、これからリンゴの木を植えると報告に向かった。
丘の上まで来たカーソンは木桶を置き、適当な間隔を空けてディザードで浅めの穴を掘る。
マーシャはワクワクとしながら、カーソンの作業を見守った。
カーソンは穴の前でマーシャを手招きしながら話す。
「リンゴの種いくつあるか分かんないから、とりあえず3つ掘ったぞ?」
「アリガトウオニイチャン!」
「よし、その種入れろ。埋めるから」
「ウン!」
マーシャは右手で小さな袋を引っくり返し、左手の掌にリンゴの種を乗せる。
15粒の種が、マーシャの左手の掌に乗った。
マーシャはリンゴの種を1つの穴に5粒ずつ落とし、カーソンはディザードで上から土を被せた。
カーソンが手をかざしただけで、穴に土が盛り上がった光景を見たマーシャは、不思議がりながら聞く。
「オニイチャン。アナホレルシ、ウメレルノ?」
「ん? ああ、そうだぞ。土の精霊が掘った土持っててな、出してくれって頼めば土出してくれるんだ」
「オニイチャンスゴイ! カッコイイ!」
「凄いのは俺じゃないぞ? やってくれてるのはディザードっていう、土の精霊だぞ?」
「ディザード?」
「見たいか?」
「ウン! ミタイ!」
「ディザード、マーシャに姿見せてやってくれ」
(はいです、ご主人様)
カーソンはマーシャの前に右手の掌を差し出す。
ご主人様の求めに応じ、ディザードは小さな石人形の姿でマーシャの前に現れた。
ディザードはマーシャにペコリと頭を下げながら話す。
「ワシ、ディザードです」
「セイレイ……カッコイイ!」
「えへっ、ありがとうございます」
「俺、お前と契約した時、土の魔法苦手とか言ってごめんな?」
「いえいえ、ワシを使いこなせるご主人様ってそうそう居ませんです」
「ディザードは俺以外と契約した事あるのか?」
「ワシは無いです。でも、ご主人様と契約したワシと、クリス様が契約したワシ、他の誰かと契約しているワシは、全ての情報を共有してるんです」
「あ、それ言っても大丈夫なやつなのか?」
「大丈夫です。ワシはワシであり、他のワシもワシなんです」
「精霊ディザードは沢山居るけど、ひとりなのか?」
「そうです。シルフもウンディーネもサラマンダーもひとりです」
「へぇ……そうなのか?」
「ここまでは言っても大丈夫です。この先は怖いので言えませんです」
「うん、言わなくてもいいからな?」
「オニイチャン、セイレイサントナカヨシナンダネ!」
「俺はみんなと仲良くなりたいからな」
「ワタシトモ?」
「うん、マーシャとも仲良くなりたい」
「ウン! ワタシモ!」
「ありがとな?」
「エヘヘ……」
カーソンは左手でマーシャの頭を優しく撫でる。
右手の掌に居たディザードは、マーシャへ手を振りながら消えた。
カーソンは木桶を持ち上げ、マーシャに話す。
「さ、マーシャ。埋めた種に水かけてみろ」
「ウン!」
マーシャは両手で手酌を作り、木桶から水を掬うと埋めたリンゴの種へ水を撒く。
3ヶ所に撒いたマーシャはカーソンと共に少し離れ、リンゴの成長を待つ。
間も無く、水を吸ったリンゴの種は驚異の速度で成長を始める。
ミシッ
メキメキッ
ギシッ
リンゴの木は、カーソンとマーシャの視線と共に空高く伸び、あっという間に成木となる。
埋めたリンゴの種全てが他の種と共に成長し、複雑に絡み合いながら大木へと変わった。
リンゴの木には花が咲き、花弁を散らすとそこから実がなる。
実はどんどん大きくなり、赤・黄・緑の色鮮やかなリンゴとなった。
カーソンはリンゴの木を眩しそうに見上げ、マーシャは実ったリンゴを見て跳び跳ねながら喜んでいる。
クリスとダンヒルが丘を駆け登りながらやって来る。
5m程にまで成長したリンゴの木を見上げながら、ダンヒルは話す。
「もう……実をつけましたね」
「いやホント、豊穣の水って凄いわ」
「オトウサン! リンゴデキタヨ!」
「出来たけど……何でリンゴの色が違うんだ?」
カーソンは1本の木から、色の異なるリンゴの実が出来た事に首をかしげる。
ダンヒルは経緯を推測しながら話す。
「恐らくですが、複数の品種のリンゴの種が同時に成長し、それぞれが交配したのでしょう」
「交配?」
「ええ。ひょっとしたらこのリンゴ……今まで私達が食べた事の無い、新種となってるかも知れませんよ?」
「ふむふむ。じゃあ、みんなで食べてみよっか?」
「ウン! デキタリンゴタベタイ!」
「ちょっと待っててね? ほら、あんたも手伝ってよ」
「うん、分かった」
カーソンとクリスはピョンと跳び跳ね、木に実るリンゴを2つもぎ取る。
3m以上の高さにあるリンゴの実を、ジャンプひとつでもぎ取るカーソンとクリスの身体能力にダンヒルは唖然とし、マーシャは目を輝かせながら見つめた。
カーソンはマーシャに、クリスはダンヒルへリンゴを手渡しながら話す。
「旨そうなリンゴだな」
「オイシソウダネ! オニイチャン!」
「こんなに大きなリンゴ、これはいい値段で売れそうですね」
「味はどうかな? いただきまーす」
シャリッ
ショリッ
それぞれがリンゴにかじりつき、小気味良い音を鳴らす。
食べたリンゴの味に、4人は目を丸くしながら話す。
「……旨いな、このリンゴ」
「オイシイ! アマイ! ヤワラカイ!」
「私のは固めの歯切れ良いリンゴだ。しかも甘い」
「あたしのはちょっと酸っぱいかな? でも美味しい」
「マーシャ。そのリンゴ、俺のと交換な?」
「エッ!? アッ……」
「俺のも旨いぞ?」
「アノ、オニイチャン……イイノ?」
「おっ、マーシャの食ってたリンゴも旨いな」
「オニイチャン……」
マーシャは自分が口をつけていたリンゴをカーソンに奪われ、しかも自分がつけた歯形の部分を食べられて顔を赤らめる。
そして、自分もカーソンの歯形が残っているリンゴを舌でペロッと舐め、食べる。
「オニイチャンノリンゴモ……オイシイ」
「ん? マーシャ顔赤いぞ? どうした?」
「どうしたじゃないでしょ。あんた乙女心分かんないの?」
「? 俺、マーシャ食ってたリンゴ食っても気にならないぞ」
「カーソン君、女殺しだねぇ……」
「え? 俺、何か変な事したのか?」
「聞きましたダンヒルさん? この無神経さ」
「これは……いやいや、カーソン君は罪深い男だね」
「ほらもうマーシャ、リンゴの味分かんなくなってるよ?」
「オニイチャン……ワタシハズカシイヨ……」
マーシャの食べたリンゴを平気で食べるカーソンの奇行に、クリスとダンヒルは笑う。
マーシャはリンゴにも負けない程顔を赤くし、カーソンの歯形が残るリンゴを大事そうに持っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる