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新たなる旅路
165 殺人的草刈り
しおりを挟む昼食を終えた一行は冒険者ギルドへと向かう。
道中でクリスはイザベラ達へ聞く。
「ちょっとこれから冒険者ギルドへ行きます。イザベラ様からの依頼完了報告もしたいですし」
「私からの依頼? あ、そういえば2年くらい前にソニアへ頼んでたわね」
「あ、ギルドへ依頼出したのって隊長だったんですね?」
「ああ。翼を消して頂き、この街へ来てお前達の行方を追ったのだがな。
冒険者になった程度の情報しか得られなかったのだよ。
ギルドへ行き、受付の人間にお前達の行方を聞いてみたのだがな。
まだ生きていれば必ず何処かのギルドへ現れる、そう言われてな。
何処かで依頼書を見た時に分かり易くと、陛下の名をお借りしたのだ」
「なるほど。確かに依頼書見て、すっ飛んで帰って来ました」
「俺達も谷の一大事が起こったのかと、慌てて帰りましたよ」
「今ではこうして、本当に一大事となっちゃったけどね」
「ソーマごとき若僧の為に呼び戻すなんて……失敗致しましたわ」
「だってあのクソガキ、いい加減しつこかったんだもの」
イザベラとローラは口を尖らせ、ソーマの所業に不満を漏らした。
カーソンとクリスは3人へ確認する。
「あ、それでですね。両陛下と隊長、冒険者に登録してみませんか?」
「あらそれいいわね! 面白そう!」
「冒険者としてお仕事すれば、お金を頂けるのですわよね?」
「ええ。仕事を終えれば報酬を貰えます。それに……」
「それに、何だ?」
「冒険者になったほうが、街の出入りが比較的自由に出来るんです」
「街を出入りする身分証明みたいなものです」
「そそ。行く先の街で何かあった時、身分を調べられたりする時がありまして、証を持ってないと出入りを厳しく制限されたりするんです」
「冒険者ならば、その身分をギルドが保証してくれるんです」
「ふむ……冒険者になっておけば、規制が緩いのだな?」
「そうです」
「なるわ私!」
「私も!」
「なっておかない理由は無いな」
「分かりました。では、登録しちゃいましょう」
話し込んでいる内に、一行は冒険者ギルドへと到着した。
ギルド内へ入ると、カーソンとクリスは受付のマッコイへ挨拶する。
「こんにちは。マッコイさん、今回はゆっくり挨拶に来ました」
「はい、念の為あたし達のギルド証」
マッコイはカーソンとクリスを見ると、大喜びでギルド証を預かりながら話す。
「おおっ! これはこれは!
我がトレヴァのギルドが生んだ伝説の冒険者さん達じゃねえか!
この前は突然やって来て、このクマ置いてっただけだったもんな。
で、どうだったんだ? 翼の民との交渉は」
「うん、上手く行きましたよ。報酬は先方から貰いました」
「でね、新しく冒険者登録をお願いしたい方達を連れて来ました」
「ほう! そりゃ大歓迎だ。そこの美人さん3人だな?
おやっ? ノッポのお姉さん、交渉の依頼持ってきた人じゃねえか」
「……私の事、覚えているのか?」
「勿論だとも。持ってきた依頼が珍しかったのもあるが、ノッポで切れ長の目、金髪にショートヘアーなんて俺の好みだからな!」
「……ありがとう」
好みの女性と言われたソニアは、照れながらマッコイへ話した。
マッコイは3人を席につかせ、書類を持ってくると話しかける。
「さあ、3人ともここにそれぞれ自分の名前を書いてくれ。
くれぐれも偽名じゃなく、本名で頼むぜ?
えーと……イザベラ、ローラ、ソニアだな。
うちのギルドの仕組みなんかはよ、カーソンとクリスから聞いてくれ」
「マッコイさん、俺達に丸投げ?」
「きちんとお仕事して下さいよ」
「別にいいじゃねえか。特命カード持たせてるくれぇの事はしてくれよ」
「いや、あのカードは好きで貰ったわけじゃ……」
「冒険者辞めたら、ギルドに顔出さないでそのまま姿消そうかな?」
「そいつぁ勘弁してくれ! またニセモノわんさか湧いてめんどくせえ!」
「まだニセモノって来てます?」
「お前さん達の生存は確認出来たしな。たまーに来やがるが門前払いだ」
「まだ来てるんだ……」
「馬鹿は居なくなんねぇもんさ。ほんじゃ、カード発行するぜ」
「宜しくお願いします」
別の職員へ申請書を渡したマッコイへ、カーソンは手にしたカードを渡しながら話す。
「マッコイさん、はいこれ」
「ん? 何だこりゃ?」
「ここへ来る途中で見つけた死体がありまして、そいつらが持ってました」
「どれどれ…………ああ、こいつらか。とうとうくたばったか」
「この3人、何か依頼受けてました?」
「いや、何も受けてねえよ」
「お気の毒です」
「あん? お前さん、こいつらの事覚えてねえのか?」
「え? いや、首から下だけの死体で……顔は見れませんでした」
「そうか。ほれ、こいつらクリスにぶちのめされた3人だぞ?」
「へっ? あたし?」
「えっ!? あ……8年前のあいつらだったんですか?」
「……あたし覚えてない」
「ほら、俺達が最初に受けた依頼のお金横取りしようとした奴等だよ」
「……あっ! 思い出した!」
「お前……ぶちのめした人多すぎて特定出来なかっただろ?」
「喧嘩売ってくる奴の顔なんて、いちいち覚えてられっか!」
カーソンとクリスは、イザベラに殺された3人が過去に自分達と因縁があった事を知った。
マッコイは3枚のカードを眺めながら話す。
「暫く見てなかったが……そうか、とんでもねえのに喧嘩売っちまったか」
「とんでもないの……って?」
「翼の民捕獲にでも行って、返り討ちにされたんじゃねえのか?」
「さ、さあ……どうでしょう……気の毒ですね」
「お前さんが気にやむ事ねえよ。遅かれ早かれ、そうなっただろうよ」
「そうなった……って言いますと?」
「ロクな仕事も出来ねえ奴等でよ、ギルドも出入り禁止にしたかったんだ。
いつも新入り冒険者連中に難癖つけては、金せびってたんだよ。
最近じゃ悪党とつるんでるって噂だったんだがよ……。
落ちぶれた冒険者は盗賊紛いの事おっ始めるってのが相場なんだ。
んでよ、そのうち本物の盗賊になっちまう奴等が多いんだよ」
「そいつら、落ちぶれたんですかね?」
「実力もねえのに口だけは達者でよ、冒険者連中からも鼻つまみにされてたんだ」
「冒険者の誰かに……殺されたんですかね?」
「それもあり得るな。冗談抜きでよ、こいつらにお世話になった冒険者ってなわんさか居るからな」
「へ、へえ……やっぱり気の毒だなぁ……」
「盗賊なんぞに堕ちたらこのカード悪用されちまうところだったしな。そうなる前に回収してきてくれて、ありがとよ」
「はぁ……はい」
カーソンとクリスは複雑な想いでマッコイの話を聞いていた。
3人の登録を済ませ、カードの発行を待つ間に仕事を探し始める。
依頼ボードを見ながら、カーソンとクリスはマッコイへ聞く。
「マッコイさん。あたし達指名の依頼ってなんかある?」
「ああ、あるぜ。とは言っても依頼は全部一緒、翼の民の捕獲だけどな。
報酬額が多いか少ないかだけだ」
「……マッコイさん。俺達、翼の民の捕獲だけは受ける気無いよ」
「んなこたぁ百も承知だよ。絶対に受けねえだろ」
「え? 何で絶対って言いきれるの?」
「……あ、いや……うん。特に深い意味なんざねぇよ?」
「? マッコイさん、なんか緊張してません?」
「そりゃおめぇ……俺が世話した冒険者がよ、伝説の異名引っ提げて戻ってきたら緊張だってすんだろうがよ」
「別に俺達、伝説になりたかったワケじゃないですよ?」
「ギルドが勝手に吹聴したんでしょ。あたし達にそんな自覚ないですよ?」
「まあそう言わねえでくれよ。お前さん達も満更じゃねえだろ?」
「いえ、変に名前売れて……ずっと困ってます」
「喧嘩売られたり仲間に入れろって迫られて、迷惑してるんだから」
「そりゃ済まねえな、勘弁してくれ」
マッコイは2人と話しながら、時々後ろの3人を見ては緊張しながら視線を逸らしていた。
依頼ボードに何の意味があるのか首をかしげているソニア。
カーソンが説明をしている間に、クリスは一般の依頼を見ながらマッコイへ話す。
「うーん……盗賊退治の依頼が無いなぁ。この辺平和になったの?」
「そりゃあ、伝説の冒険者が帰って来たんだ。
どいつもこいつも身辺整理して遠くに逃げちまったよ。
いくら盗賊だってよ、お前さん達に殺されたく無いわな」
「そうかぁ、残念だなぁ。まさか両陛下にドブ掃除なんてさせられないし」
「あら、何でもやるわよ私達。ね、ローラ?」
「ええ。ドブ掃除、やってみたいですわ」
「両陛下にドブ掃除を……だと……?」
「いえいえ、例え話ですよ隊長。汚ない仕事なんかさせられませんって」
「ドブ掃除がどんな仕事か、私もローラも知っているわよ? やるわ」
「やらせて下さいな」
「いけません陛下! 服が汚れてしまいます!」
ドブ掃除へ乗り気な女王達を押し留めていると、マッコイが話しかけてくる。
「それじゃあ、依頼に出てねえ仕事があんだけどよ、聞くだけ聞いてくれるか?」
「え? どんな仕事?」
「この建物の裏にある庭の草刈りだよ」
「庭の草刈り?」
「ああ。よく冒険者との親睦で食事会とかしてる場所なんだがよ、ここんとこずっと使ってねえから雑草が伸びてんだ」
「そこの雑草を刈ればいいの?」
「そうさ。夕方まででいい、刈れるだけ刈ってくんねえか?」
「隊長……ドブ掃除よりはいいですよね?」
「……ああ。お仕事をさせないのが一番ではあるのだが……」
「ソニア、私達の邪魔しないでね?」
「お仕事、してみたいですわ」
「……はい。どうかご無理だけはなさらないで下さい」
「よし、決まりでいいな? 案内すっから一緒に来てくれ」
「お願いします」
イザベラ達5人はマッコイの後ろを歩き、冒険者ギルド裏の庭へと向かった。
庭へとやって来たイザベラ達は、目の前一面に広がる膝下まで育った雑草が生い茂る風景を見ながら話す。
「あらま、結構広いわね」
「ここの雑草を刈り取ればいいのですわね?」
「伸び放題ではないか……」
「うわぁ……夕方までになんて、とてもじゃないけど終わらなそう……」
「マッコイさん。これ、報酬いくらになります?」
「引き受けてくれりゃ100ゴールド出すぜ。
全体の半分近くまで刈れたら200ゴールド。
全面刈ってくれたら500ゴールドでどうだ?」
「ええ、引き受けたわ」
「お任せ下さいな」
「陛下……腰を痛めませんか?」
「大丈夫、私とローラが刈るから」
「3人で刈った草を集めて下さいね?」
「は、はい」
「わ、分かりました」
「おっしゃ。それじゃあ、預かってるカードに依頼の受注記録しとくぜ?
草を刈る道具はほれ、そこの小屋に入ってっからよ、それを使ってくれ」
「ええ、分かったわ」
「では、始めましょうか」
マッコイはギルドへと戻り、イザベラとローラはお互い刈る場所の話し合いをする。
カーソン、クリス、ソニアの3人は小屋から草刈り鎌や草集め用の熊手を取り出した。
作業を始めようと草刈り鎌を手にしゃがみ込んだ3人の目の前で、イザベラとローラは両手で手刀を振り出した。
スパン
スパッ
イザベラとローラが繰り出した手刀から真空波が飛び、雑草は扇状に刈り取られた。
カーソンは凪ぎ払われた雑草を見て茫然としながら話す。
「なっ……何ですかそれ?」
「え? 魔力で刃を作って飛ばしただけよ?」
「この程度なら、簡単に出来ますわよ?」
「簡単にって……もし人に向けたらバラバラになるんじゃないですか?」
「うん、なるわね」
「切り刻めますわよ?」
「そ、そんな怖い事をしれっと言わないで下さい……」
「こっち半分は私がやるわね?」
「では、此方は私が」
「みんなは刈った草を集めてちょうだいね?」
「は、はい……分かりました」
目の前で手刀を振り回し、次々と雑草を凪ぎ払うイザベラとローラ。
カーソン達は雑草ごと捲き込まれないよう恐怖しながら、距離を置いて草集めを始めた。
手刀を振り回すイザベラはふと足元に光る物体を見つけ、拾い上げるとカーソンへ聞く。
「ねえカーソン。こんなの落ちてたけど、これって何?」
「お姉様。私も同じようなものを拾いました」
「あ、それお金ですよ。イザベラ様が拾ったのは5ゴールド、ローラ様のは1ゴールドです」
「え? これもお金なの?」
「何故、ここに落ちていたのですか?」
「ギルドと冒険者の交流場だったようですし、誰かが落としてたみたいですね」
「このお金って、貰ってもいいの?」
「私達が頂いても、宜しいのですか?」
「いいと思いますよ?」
「やった! もっと落ちてないかしら?」
「どんどん刈って、探しましょう!」
イザベラとローラは、次々と手刀を飛ばし雑草を刈る。
刈れば刈る程、落ちていたゴールドが目の前に現れた。
「またゴールド拾っちゃった! お宝探してるみたいで楽しいわ!」
「ですわねお姉様! あっ、私もゴールド見つけましたわ!」
「よーしローラっ! どっちが多くゴールドを見つけるか勝負よ!」
「ええ! 負けませんわよお姉様! あっ、また見つけましたわ!」
「あはははは! 草刈りって楽しいわ!」
イザベラとローラは競い合いながら雑草を刈り、次々とゴールドを拾う。
カーソン達はキャーキャー騒ぐ2人を見ながら話す。
「これさ、谷のみんなに知られたら……あたし達怒られるんじゃない?」
「女王を働かせてるんだ……そりゃもう、怒られるってもんじゃないぞ」
「幼少の頃から封印の任に就かれていらっしゃったのだ。何をするにも新鮮に感じていらっしゃるのだろう」
「ほらほらあなた達! 刈った草集めて集めて!」
「見落としていたゴールドがありましたら、拾って下さいね!」
「ここからこっちにあったら、私のゴールドよ!」
「此方側でしたら私のですわよ!」
「はい……よっこらしょ……っと」
「お2人とも刈るのが早すぎて、追いつかねえ……」
「陛下、あまり無理をなさらずに……」
「それそれーっ! あははは!」
「ゴールドゴールドぉーっ!」
イザベラとローラは歓声を上げながら、草刈りを続ける。
カーソン達3人が集める刈り取られた草は、どんどんと山のように積み重なっていった。
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