翼の民

天秤座

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只今謹慎中

251 炎上する盗賊ギルド

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 目隠しされ、拘束されたままのティコは反響しながら届く声に耳を傾ける。

 後ろ手に縛られているロープはいつでも切れるように、右手の小指の爪へ気を込めて刃物化させた。

 ティコがいつでも反撃に転じる態勢を整えている事も知らず、ひとりの男が背後から覆い被さってくる。

 両手でティコの胸を揉みしだきながら、盗賊の男は話す。

「なぁ、お嬢ちゃん? その若さでまだ死にたくねぇだろ?」
「…………」
「お? 乳首おっ起ってきてんじゃねぇか」
「…………」
「もしかして、興奮とかしてんのかぁ?」
「…………」
「口にゃ出来ねぇか。じゃあ、下の口に聞いてみっかな」

 男は右手をティコの股間へと伸ばし、下着の中へスルリと差し込んだ。

「…………やめろ」
「なんだ、まだ湿ってもいねぇな」
「ソコを触ってもいいのは……カーソン様だけだっ」
「じゃあ今から、俺も触っていい事になったよな?」
「やめろ、へたっぴ」
「……あぁん?」
「そんな下手くそな指使いで、気持ちよくなるもんかっ」


 ドカッ


 前戯が下手と挑発したティコは、男に背中を蹴り倒される。

 突き出された形となったティコの尻をパァンと叩きながら、男は話す。

「じゃあ、これからブチ込んで気持ちよくさせてやるよ」
「お前の粗末なチンポなんかで、気持ちよくなるもんかっ」
「ほざけクソガキ」
「カーソン様のなんて、お前の腕よりもおっきいんだからっ」
「…………は?」
「ひと突きでイカされて、後はもうイキっぱなしになるんだからっ」

 ティコの虚言で、周囲からどよめきの声があがる。

 声質の違いを聞き取り、盗賊にも女の比率が意外とあるのかとティコは思った。



 別の部屋に潜んでいると思われる、盗賊ギルドのマスターは反響する声でティコへ話す。

「竿の数は多いから問題ない。好きなだけ愉しめばいい」
「…………」
「どうだティコ? 我等と穴兄弟・・・竿姉妹・・・にならないか?」
「…………」
「そうすれば、その手足とさようならしなくても済むのだが?」
「もし、断れば?」
「お前さんが狂人となるまで、慰み者となって貰う」
「じゃあ、仲間になったなら?」
「歓迎する。但し、仲間になる為には条件がある」
「条件とは?」
「今の仲間達と決別。皆殺しにしてこい」
「カーソン様達を……殺してこい、と?」
「今すぐにとは言わないし、手を汚したくなければ我等がやる」
「寝込みを襲う、手引きでも構わない……と?」
「その通りだ。そうすれば、お前さんの未来は保証する」

 盗賊ギルドのマスターが要求してきたのは、カーソン達をティコの手で殺してくる事。

 もしくは薬を盛り、無力化したところへ盗賊達を招き入れ、寝首をかく手引きをする事。


 自分を拉致監禁し、脅迫と屈服の手を使ってでもカーソン達を殺害しようとする盗賊ギルド。

 ティコは姑息で稚拙な最低の連中だと思いながら話す。

「生き地獄からわたしを救って下さったのは、お前達じゃなくあの方達」
「これからは我等が、お前さんを救ってやろう。奴等を殺せたらな」
「わたしの命の恩人様達に向ける刃など、持ってません」
「ならば仕方が無い。奴等に殺された同胞の、鎮魂の役目を果たせ」
「そうですね。外道になるくらいなら、ここで殺されたほうがマシです」
「良かろう、交渉決裂だ。死ぬまで皆より、慰み者として扱って貰え」

 周囲より、鞘から抜かれる剣の音が聞こえる。

 拘束されているフリをするのはもういいだろうと、ティコは右手の小指で縛られていたロープを切った。


 両手が自由となったティコにどよめく盗賊達。 

 ティコは目隠しされていた布を外すと、ほどいて気を込め振り回す。

 気が込められた布はピンと伸び、白いオーラを纏った剣状の武器へと変わった。


 盗賊ギルドの本拠地と思われる場で、たったひとりで戦いを挑むティコ。

 何人居るのかも数えきれない敵相手に、ティコは死を意識する。

 ここに居る奴等は全て、敬愛してやまないカーソンに仇なす敵。

 ひとりでも多く道連れにし、カーソンご主人様の未来を切り開いてから死のうと覚悟を決めた。



 まずは背後を取られぬよう、壁際へと後退するティコ。

 じりじりと近付いてくる盗賊達。

 一定の距離で立ち止まった盗賊達の動きから、ハッと気付いたティコは上を見上げる。

 ギルド内の上層部分より大勢の盗賊達に、弓で狙いをつけられていた。

 どれくらい防げるかと覚悟しながら、ティコは全身に気を張り巡らせて防御態勢をとる。

 致命傷を負わなければこれ幸い、反撃する為に目だけはと両腕で顔を遮る。



 一斉に放たれた矢の風切り音が、ティコへと襲いかかる。

「ぐわっ」
「ぎゃっ」
「うげっ」

 身体の何処からも痛みを訴えられないティコ。

 足元に転がる矢と、前方から聞こえてきた盗賊達の悲鳴。

 何が起きたのかと両腕を上下に動かし視界を確保すると、前方の様子を覗うティコ。

 そこには誤射され、矢を刺された盗賊達が床へと倒れていた。


 動揺しながらティコへ2射目を放つ、盗賊達。

 放たれた矢はいびつな弧を描き、再び目の前に居る盗賊達の肩や背中を刺し貫いた。

 背中から撃たれた盗賊達は振り返り、矢を放った連中へ向けて怒鳴る。

「やめろこの下手くそが!」
「味方に当てんなこのヘボ共がっ!」
「ちっ、ちげぇよちゃんと狙ったんだよ!」
「狙ったのに矢が真っすぐ飛んでかねぇんだよ!」
「ほれ、この通りだ…………あっ!?」

 ひとりの盗賊が、ティコを狙って矢を放つ。

 放たれた矢は急激に角度を変え、ティコより前に立つ盗賊の眉間を刺し貫いた。

 頭を撃ち抜かれた盗賊は、糸の切れた操り人形のように床へと崩れ落ちていった。



 この娘は得体の知れない力で、弓矢の軌道を捻じ曲げている。

 ティコを異様な化け物と錯覚し、盗賊達は恐怖し始める。



 ティコは、こんな事が出来る人物をひとり知っている。

 まさか? 何故この場所を? どうして? わたしを守る為に?

 情報の整理が追いつかず、混乱するティコ。

 それでも今、カーソンが自分を守ってくれているという事実に感激し、鳥肌が立ち身体をブルッと震わせた。



 照明用に灯されている篝火かがりびのひとつから、炎で出来た龍がニュッと現れる。

 気付いたティコと目が合った炎の龍はニコッと微笑み、その小さな右手を振る。

 間違いない、カーソンご主人様が助けに来てくれているんだと悟ったティコ。

 顔をくしゃくしゃにほころばせながら、カーソンが送り込んできた火の精霊サラマンダーへ手を振り返した。


 あの小娘は何に手を振ったのだと、振り返る盗賊達。

 篝火かがりびの炎が龍の姿となって、今にも自分達へ襲いかかろうとしている光景を目の当たりにする。

「ヒィッ!?」
「なっ…なによアレ……」
「お、おいっ! 他のからも出てきてるぞ!」

 他の篝火かがりびや壁に掛けられている松明からも、サラマンダーがニョキニョキと現れる。

 メラメラと揺らめく炎の龍に恐怖し、焼き殺されては堪らないと後退する盗賊達。


 サラマンダーはティコへ、その小さな両手で何かの合図を送っている。

 広間の片隅にある酒場のような場所を指差すサラマンダー。

 何かを飲むようなそぶりをし、手を振り下ろす。

 そして火を吹く仕草をして見せるサラマンダーに、ティコは順序を追って考える。

(えっと…あそこの酒場みたいなトコ行って、酒瓶叩き割れって事かな?)


 自分に何をして欲しいのか漠然と察したティコは、盗賊達がサラマンダーに気を取られている隙に酒場のような場所へと駆け込んだ。

 酒瓶を手にすると、飲む仕草よりも手を振り下ろした仕草のほうに意味を感じ、次々と床に投げつけて叩き割る。


 酒浸しとなった床へ、待ってましたといわんばかりにサラマンダーが松明から飛んできた。


 ボッ ゴォゥッ


 酒に引火し、ティコの周囲に火柱が立ち上がる。

 酒が燃える炎の大きさに比例し、サラマンダーも巨大化した炎の龍となった。

 成る程そういう事かと理解したティコは、次々と盗賊達目掛けて酒瓶を投げつける。


 撒き散らかされた酒に、巨大化したサラマンダーは火を吹く。

 引火して燃え上がった酒からは、次々とサラマンダーが分身となって現れる。

 次々と出没するサラマンダーに、盗賊達は逃げ惑い恐怖した。



 右手に酒瓶を持つティコは、サラマンダーへ聞く。

「サラマンダーさんっ! おっぱい揉んだ奴って誰だか分かりますかっ?」

 複数のサラマンダーが、ひとりの男を指差した。

 次の瞬間、指差された男に酒瓶が3本飛んでいく。

 直撃した男は酒浸しとなり、間髪入れずにサラマンダーから炎を吹きかけられた。

「うぎゃぁぁっ!? 消してっ! 消してくれぇぇ!」
「女の敵なんて燃えちゃえっ! 焼け死んじゃえっ!」

 全身火だるまとなった男は転げながらのたうち回り、周りの盗賊達から消火活動をされる。

 ティコは万死に値するとでもいわんばかりに、追撃の酒瓶をどんどん投げつけた。



 ボジュッ

 ボジュゥ…


 あちらこちらで猛威を振るっていたサラマンダーが、盗賊達から水をかけられ消滅してゆく。

 ティコの乳を揉んで焼き殺されそうになっていた男も水をかけられ、一命を取り留めていた。

 火元に水をかけられてしまっては、サラマンダーもその場へ留まれない。

 盗賊達の人海戦術によって、サラマンダーは次々と消されていった。



 それぞれ手に水の貯められたバケツを持ち、ジリジリとティコへと迫る盗賊達。

 燃え上がる酒溜まりに君臨し、盗賊達から背後に居るティコを護るサラマンダー。

 炎のブレスで盗賊達を薙ぎ払おうとしたが、一瞬の躊躇を見せて踏み止まる。


 この炎の龍は見せかけだけのコケ脅しだったのかと、薄ら笑いし始める盗賊達。

 さっさと消火してやろうと、それぞれ手にしたバケツをサラマンダーに向けて身構えた。


 その時、水で濡れた足元から無数の植物が次々と芽生え始める。

 芽生えた植物はみるみると成長し、伸びた蔦は盗賊達の足を絡めとる。

 常識では到底考えられない植物の大量発生に盗賊達は悲鳴を上げ、次々とバケツを落とす。

 落としたバケツよりこぼれ出た水は、植物の更なる大量発生に拍車をかけた。


 辺り一面植物だらけとなり、人の手が加えられていない原野のような様相と化した。

 盗賊達の腰まで伸びた雑草に紛れ込み、キュウリやナスが実をつけている。

 イチゴやスイカまで実り、ありとあらゆる野菜や果物の蔦や茎が盗賊達の行動を阻害した。


 酒に火が引火すれば炎の龍が増殖する、その現象までならどうにか苦しみながらも理解出来た盗賊達。

 水が撒かれた床から植物が大量発生し、果てにはカボチャやスイカまで実る自分達の本拠地。

 全く理解が出来ない超常現象に、ここが何処なのかやティコとサラマンダーの事など忘れ、喜び勇んで実った野菜や果物の収穫を始めた。



 ティコはこの現象を初めて見たが、クリスから聞いていた事がこれかと思い出す。

 2人でカーソンと添い寝する際、クリスがたまに話す昔の思い出話。

 カーソンは水の精霊魔法で、作物を瞬時に育てて収穫出来る魔法を使える。

 但し、効果対象を指定しないと雑草や樹木まで勝手に育ってしまう為、普段は制限をかけて使う。

 もし生育する種子に制限無しで魔法を使ってしまうと、あっという間に森がひとつ出来てしまう。

 ありとあらゆる種子が発芽する為、靴の裏に種が付着したままだと、ヒトも添え木のような役割となって巻き添えを喰らう。

 ヒノモトでは飢饉に苦しむ集落の救済は勿論の事、不毛な地の森林化や戦場での砦作りに必要な木材の現地調達にと、大変感謝された魔法だった。

 だがしかし、たまに使った後でその場に居合わせた誰かが行方不明となり、成長した大木の上で発見されるなど騒ぎを起こした魔法でもあった、と。
 


 ほぼ全員が収穫に夢中となっている盗賊達。

 サラマンダーは今のうちに逃げろと、連れ込まれてきた鉄扉を指差す。

 ティコはコクリとうなずき、念の為にと投げつけた中で一番激しく燃えた銘柄の酒瓶を探す。

 探している途中、酒場の壁に貼られている指名手配書に気付いた。

 その中には自分を含めた、6人の似顔絵もある。

「ふんっ! こんなものっ!」

 ティコは自分達パーティの似顔絵指名手配書を次々と破り捨てる。

 最後の1枚、カーソンの手配書に手をかけ破ろうとした手を止めると、似顔絵をじっと見つめる。



「……上手く書けてるし、かっこいい。これだけ持って帰ろっと」

 ティコはカーソンの指名手配書を丁寧に剥がし、折り畳むと胸のポケットへとしまい込んだ。



 たわわに実る作物に夢中な盗賊達に気取られないよう、姿勢を屈めて藪をかき分け移動するティコ。

 誰からも逃げている事に気付かれないまま鉄扉へやってきたティコは、振り向いてサラマンダーを見る。

 サラマンダーはその小さな両手を目いっぱい振り回し、ティコの脱出を見届けると、フッと姿を消した。



 鉄扉を開け、連れ去られてきた道順を逆走し、駆け抜けるティコ。

 確かこの通路にも誰か居たハズだと警戒しながら、出口を目指し逃げる。

 誰とも遭遇しないまま下りてきた階段を駆け上がり、外から光の漏れる扉を足で蹴破った。


 暗い地下から明るい地上へ出たティコは陽の光に目が眩み、左手で太陽を遮りながらこの場に待ち伏せしているかも知れない盗賊達の襲撃に警戒する。

 まだ目が慣れていないが、前方にはぼんやりとヒトらしき集団の山が見えた。

 やっぱり待ち伏せされていると思い、身構えるティコ。

「くっ、やっぱり居る……って……山?」
「おかえり」
「おつかれ」
「!?」

 左右から男女に声をかけられたティコ。

 ようやく目が慣れ、話しかけてきた2人の男女の声と姿を照合する。

「カーソン様……クリス様……」
「大変な目に遭ったなぁ?」
「ホント、ふざけた連中よね」

 カーソンとクリスは建物入り口の左右に別れ、壁に寄りかかり両腕を組んだまま、ティコを見ている。

 その傍には、血にまみれた鉄の棒も壁に寄りかかっていた。

 光に目が慣れたティコは、先程山と思ったのは何だったのだろうと正面を見る。

 山と思われたのは、確かに山。

 山は山でも、殴り倒されて積み上げられた盗賊達の山であった。


 更に周囲をよく見ると、カーソンやクリスのように血まみれの鉄の棒を持つ男や女が4人居る。

 4人の男女の向こうには、いかにも貧しそうな服装の老若男女が大勢、座り込んで頭をうなだれていた。


 加勢したと思われる4人の男女と、謝罪しているように見受ける貧民達が何故居るのか分からずに、ティコは2人へ聞く。

「あ、あのっ…こっちはどうなっていたのですか?」
「お前を連れ去ったのは盗賊ギルド。ここが本部だそうだ」
「鉄棒渡してくれて、加勢もしてくれたのは暗殺ギルドの人達よ」
「あ、暗殺ギルド……詩音さんのですか?」
「今はな、諜報ギルドって名乗ってるそうだ」
「ギルド名がアレだもんね。改名して正解よね」
「あの人達……は?」
「ドラツェンの白地区って言ったら、お前にも分かるか?」
盗賊ギルドあいつらの本拠地として、この場所を提供してるんだって。
 見返りとして、食べ物やお金を融通して貰って暮らしてるんだってよ」
「んでな? 盗賊ギルドあいつら潰さないでくれって今、お願いされてんだ」
「はぇっ……あ、変な声でちゃいました」
「まあ、あんたの身柄さえ帰してくれれば、皆殺しになんかしないけどさ」
「ウソつくなよ。さっきまで殺せ殺せって俺に言ってたクセに」
「ウソは言ってないよ? 殺せっていうのは皆殺しって事じゃないもん。
 あたしらに盾突くような真似しないように、人を減らせって事だもん」
「いやそれを俺にやらせようとするなんて酷い」

 2人の会話に、諜報ギルドの男女はクスクスと笑っている。

 暗殺対象としてこの2人を狙い、自分達も壊滅的な被害を受けた過去がある4人。

 チラッと見たクリスは、ギルド違いとはいえ昔とほぼ同じ状況の今を、向こうが笑える程度には此方への怨恨が消えたのかと微笑んだ。


 カーソンは左手で頭を掻きながら、ティコへ話す。

「いや俺も実はな? ディザードで埋めてやろうかと思ってたんだ」
「生き埋めにですかっ!?」
「んにゃ、半分くらい埋めて無力化させようってな?」
「でも、しなかったのは何故ですか?」
「いやぁ…あんな楽しそうにトマトとかスイカ採り始めたらなぁ……」
「あっ……そうですっ。わたしの事まで忘れてそうでしたっ」

 つい先程まで殺意剥き出しだった盗賊達が、野菜や果物の収穫に夢中となっていた事を振り返るティコ。

 風の目で見ていたカーソンも、落とし穴に落とさなかった経緯を語る。

「ふと思ってな。ああいう連中も好きで盗賊なんかやってないよな。
 どっかの村で、ああやって作物作っては収穫してたのかなって。
 それがさ、どっかで何かが狂って今、盗賊になってるのかなって。
 そんな昔を思い出したのか、全員が楽しそうな顔しててなぁ……。
 埋めたら可哀想だなって……お前が逃げれたらそれでいいかなって」
「カーソン様……」
「サラマンダーも出来れば殺すなって俺が言ったの、守ってくれたし」
「あっ。サラマンダーさん、やっぱり手加減してくれてたんですね?」
「ああ。おかげで今、俺の頭ん中で大喧嘩してるよ」
「えぇっ!?」

 カーソンは今、頭の中で精霊達が騒いでいる状況をティコへ伝える。

「シルフは『アタチがティコたん見つけたし一番役に立った!』って。
 ウンディーネは『ティコさん逃がしたワタチが最強っ!』って。
 サラマンダーは『オイラ誰も殺さなかったから一番忠実!』って。
 ディザードは……うん、出して貰えなかったからちょっと拗ねてる」
「ディザードさん……」
「あ。ディザードが今、全員黙らせた」
「えっ? 何て言ったのですか?」

 精霊達を黙らせたディザードの発言を、ティコへ伝えるカーソン。

「『ティコさんが気になって探させたクリスさん凄い』
 『躊躇わずに助けに向かったご主人様とクリスさん凄い』
 『助太刀に来た諜報ギルドの人達凄い』
 『弓矢で狙ってるのに気付いて教えたシルフ偉い』
 『殺さないって命令守ったサラマンダー偉い』
 『あいつらの足止めさせたウンディーネ偉い』
 『ワシだけ出なかったけど、ご主人様の優しさが凄い』
 『全員凄くて偉かったから、ティコさんが助かった』
 こう言ったら、最初バカにしてたあいつらも全員納得したぞ」
「ディザードさんって……素敵ですねっ」
「全員が俺の性格の一部を切り取って、人格にしてるそうだ」
「じゃあ全員、カーソン様の分身みたいなものですね?」
「ああ。けど俺は、ディザードの性格が一番好きだ」

 カーソンがディザードを褒めた次の瞬間。


 ズゴゴゴゴ……


 突然地面から石像が突き上がってきた。

 石像は、ディザードが右拳を天に突き上げて凛々しい姿をしている。

 丁寧にも土台付きで、カーソン達も見上げる3m程の高さで止まった。



 勝手にオドを使い、自分の石像を作ったディザード。

 カーソンは尊大な姿のディザード像を見上げながら、ボソリと呟く。

「……そういう目立ちたがりなトコは俺、嫌いだな」


 カーソンの一言で、ディザード像は音も静かにサラサラと崩れ落ちていった。

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