一刻センリの時案内記

田沼あげたか

文字の大きさ
2 / 5

アピール

しおりを挟む
 「それじゃあね、出席番号1番の人から自己紹介してもらおうかな。」
 いよいよこの時がやってきた。入学式後のホームルーム、担任は美術担当の吉田というおばさん先生だった。先生は自分の経歴と美術の素晴らしさについて大いに語ってくれ、さて次は俺達の番というわけだ。
 こういう時に出席番号が早いのは少し困る。クラスに慣れてしばらく経つと、割といい事ずくめなのだが最初のうちは少し頂けない。いかにも日本人的なことを言うが、何かあった時に前の人達の立ち振る舞いをじっくり見てから行動出来ないのは同調圧力国家日本に住む者としてなかなかの不利益だと言えるだろう。まあ1番じゃないだけましか。なんて考えているうちに自分の番となり、ここ10年くらい変わっていないんじゃないかと思われる無難な自己紹介をパパっと終わらせた。
 とりあえず問題なく終わり、俺は半分振り向いた状態で自分の後ろのやつの自己紹介を聞くことにした。自分のことにしか気が回っていなくて気がつかなかったが後ろは女子だった。
 「一刻いっこくセンリです。よろしくお願いします。」
 無表情ではないけれど満面の笑みという言葉が似合わなそうな少しおとなしい少女。そんなかんじ。それにしても地味な自己紹介だな女子高生らしくねぇ、さあ次のやつは…と再度クラスメイトの自己紹介に注意力を戻す。
 「ん?」 
 俺は思わず小さく声を出した。なぜなら、俺はたった今一刻センリさんとやらの自己紹介を聞き終わったばかりのはずなのだが、現在進行形で自己紹介をしているのは彼女から10人ほど後の2列目の最後の奴だ。まぁ余計な事を考えていると時は早くたつもんだが、10人も聞き逃すとはな。これがよく噂に聞く「高校生なんてあっという間だよ」というやつだろうか。それはちょっと意味が違うだろと心の中で軽くノリツッコミをいれ特に気にすることもなく自己紹介の続きを聞くことにした。
高遠こうえんレイです!部活はまだ決めてないけどスポーツをするのが好きです。これから一年よろしくお願いします!」
 ボーイッシュなショートヘアにいかにも明るくて活発そうなこのスタイル!いやぁ第一印象ってのはすごいもんだなぁ。あらゆる学園モノの自己紹介シーンが物語の重要なキーになるのもよく分かるってもんだ。
 彼女は自己紹介を終え自分の席に座った。その一瞬の間にこちらに向きウィンクをしてきた気がした。当然自分に向かってではないだろうと思ったが、周りにその子と目を合わせている人はいないように見えた。もしかして高校生活に心躍らせるあまり幻覚でも見てしまったんだろうか。いくら彼女が俺のタイプだからといって幻覚まで見てしまうようではまずい。とそんなアホなことを一生懸命考えていると、皆の自己紹介はあっという間に終わっていた。
 しばらくすると先生から解散の号令があり俺は家路についた。あのウィンクは一体なんだったんだ。その事ばかりを家までずっと考えていた。まぁいい高校生活初日は無事に終わった。あとはあのウィンクが俺に向けてのものだったのなら俺の高校生活はポールポジションでスタートだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...