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お酉様
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食べ終わってごみを片付けてもツバキがなんだか浮かない顔をしている。
まだ明るいうちに解散になりそうだったので、「じゃあ、大鳥神社行ってみるかい?」と話しかけると、ぱああ、と顔色が明るくなり、こくこく頷いていたので、本当は神社を見てみたかったのだろう。
「でも、神社の場所知らないから多分迷うよ」
私がそういうと、ツバキはきょとん、とした顔をしてスマホを取り出した。
「なんていう神社ですか?」
「知らない。お酉様はお酉様だよ。大鳥神社だ」
「え。大鳥神社が名前なんじゃないんですか?」
「さあね」
八王子の人間にとって、お酉さまは大鳥神社であって、それ以上深く突っ込んだことは無い。正確に言うと興味が無い。クリスマスのサンタクロースが、本来は煙突から来るんだろうが煙突が無いからって何処から来るかとか知らないのと一緒だ。
「『八王子 大鳥神社』で検索すれば出るよ。多分」
「あ、出ました出ました! 市守大鳥神社です」
「へえ、あの神社そういう名前だったんだ」
「ええと、甲州街道ってところを西に行くんだそうです」
「西ってどっち」
「へあ?」
「いや、わかるよ。左だよね」
「……ノバラさんて、北の事を上っていうタイプですか?」
「なんでバレたの」
「ふふっ、ふふふ。ノバラさんの事ならなんでも知ってるんですよぉ、なんて。可愛いノバラさん」
なんだか馬鹿にされた気がして部屋を出た。甲州街道は多分あっち。多分。東西を真っ直ぐに走っている大きな道路だろう。一旦京王八王子駅まで出ていく必要がある。
「ノバラさん、ノバラさぁん」
「……なに、ツバキ君」
「手、繋ぎましょう」
「ん、良いよ」
「やったぁ」
大鳥神社の近くは混み合うし、手を繋いでいた方が良いだろう。私の家の近くはぎりぎり秋薔薇が咲いていて、そこら辺のご近所さんの庭から様々な色の薔薇が見える。駅からは割りと離れたところにあるので、閑静な住宅街、と言う感じだ。
ツバキと手を握っていると、少し冷える位の温度に体温が程よく温かい。無言でも心地よい空気感が出て、これはこれで悪くない。
そのまま京王八王子駅から甲州街道に出てのんびり歩いていく。神社に近付くにつれて次第に人が増えていって、神社の周囲は人だかりが出来ている。
「わ、わ。すごぉい」
「八王子の人は祭り好きだからね。ところで熊手買うの?」
「? 熊手?」
いきなり熊手と言う単語を聞いたツバキはきょと、としていた。嗚呼、そう言えば説明していなかったか、と髪をかきあげて頷いた。
「お酉様では熊手を売っているんだよ。福を掻き込む、って言う縁起物でね」
「へえ、へえへえ……」
神社は盛況のようで、熊手の屋台以外に切り山椒なんかも売られていて、ツバキがいちいち興味深そうにふらふらしていたので、手を繋いでいて良かったと思った。切り山椒をじっと見て、「お餅? お菓子?」と呟いているツバキは子供みたいで可愛らしい。
「熊手買う? 御朱印も置いてあるけど」
「御朱印ってなんですか? あ、いやいや自分で調べます」
「神社や仏閣に参拝した証みたいなものだよ。御朱印は昔集めていたけれど、今は御朱印帳も持ってないしね。熊手は一人暮らしにはかさばるし、どうしたものかな」
「あ。ノバラさん、あの熊手大きいです! すごい!」
「ん、大きいね」
そんな話をして、ツバキは結局小さな熊手を買って大事にしまっていた。
「なんだかお腹が空いたな。焼き鳥でも売ってないかな」
「ふ、ふふ。お腹空いてるノバラさん可愛い……」
「太るとでも言いたいのかい?」
「いえ! そんな事ないですよ!?」
「……我慢する」
「いえそんな! なにか食べましょう!? あー、私なんだかお腹空いたなー! 甘いものでも食べませんか?」
「……そろそろ冬季限定のコンビニチョコレートが売っているはず……」
「いや、あの。ケーキ食べましょう、ケーキ! パフェでも良いですよ! 奢りますから!」
結局駅前のカフェで美味しいチョコレートパフェを食べて解散となった。
まだ明るいうちに解散になりそうだったので、「じゃあ、大鳥神社行ってみるかい?」と話しかけると、ぱああ、と顔色が明るくなり、こくこく頷いていたので、本当は神社を見てみたかったのだろう。
「でも、神社の場所知らないから多分迷うよ」
私がそういうと、ツバキはきょとん、とした顔をしてスマホを取り出した。
「なんていう神社ですか?」
「知らない。お酉様はお酉様だよ。大鳥神社だ」
「え。大鳥神社が名前なんじゃないんですか?」
「さあね」
八王子の人間にとって、お酉さまは大鳥神社であって、それ以上深く突っ込んだことは無い。正確に言うと興味が無い。クリスマスのサンタクロースが、本来は煙突から来るんだろうが煙突が無いからって何処から来るかとか知らないのと一緒だ。
「『八王子 大鳥神社』で検索すれば出るよ。多分」
「あ、出ました出ました! 市守大鳥神社です」
「へえ、あの神社そういう名前だったんだ」
「ええと、甲州街道ってところを西に行くんだそうです」
「西ってどっち」
「へあ?」
「いや、わかるよ。左だよね」
「……ノバラさんて、北の事を上っていうタイプですか?」
「なんでバレたの」
「ふふっ、ふふふ。ノバラさんの事ならなんでも知ってるんですよぉ、なんて。可愛いノバラさん」
なんだか馬鹿にされた気がして部屋を出た。甲州街道は多分あっち。多分。東西を真っ直ぐに走っている大きな道路だろう。一旦京王八王子駅まで出ていく必要がある。
「ノバラさん、ノバラさぁん」
「……なに、ツバキ君」
「手、繋ぎましょう」
「ん、良いよ」
「やったぁ」
大鳥神社の近くは混み合うし、手を繋いでいた方が良いだろう。私の家の近くはぎりぎり秋薔薇が咲いていて、そこら辺のご近所さんの庭から様々な色の薔薇が見える。駅からは割りと離れたところにあるので、閑静な住宅街、と言う感じだ。
ツバキと手を握っていると、少し冷える位の温度に体温が程よく温かい。無言でも心地よい空気感が出て、これはこれで悪くない。
そのまま京王八王子駅から甲州街道に出てのんびり歩いていく。神社に近付くにつれて次第に人が増えていって、神社の周囲は人だかりが出来ている。
「わ、わ。すごぉい」
「八王子の人は祭り好きだからね。ところで熊手買うの?」
「? 熊手?」
いきなり熊手と言う単語を聞いたツバキはきょと、としていた。嗚呼、そう言えば説明していなかったか、と髪をかきあげて頷いた。
「お酉様では熊手を売っているんだよ。福を掻き込む、って言う縁起物でね」
「へえ、へえへえ……」
神社は盛況のようで、熊手の屋台以外に切り山椒なんかも売られていて、ツバキがいちいち興味深そうにふらふらしていたので、手を繋いでいて良かったと思った。切り山椒をじっと見て、「お餅? お菓子?」と呟いているツバキは子供みたいで可愛らしい。
「熊手買う? 御朱印も置いてあるけど」
「御朱印ってなんですか? あ、いやいや自分で調べます」
「神社や仏閣に参拝した証みたいなものだよ。御朱印は昔集めていたけれど、今は御朱印帳も持ってないしね。熊手は一人暮らしにはかさばるし、どうしたものかな」
「あ。ノバラさん、あの熊手大きいです! すごい!」
「ん、大きいね」
そんな話をして、ツバキは結局小さな熊手を買って大事にしまっていた。
「なんだかお腹が空いたな。焼き鳥でも売ってないかな」
「ふ、ふふ。お腹空いてるノバラさん可愛い……」
「太るとでも言いたいのかい?」
「いえ! そんな事ないですよ!?」
「……我慢する」
「いえそんな! なにか食べましょう!? あー、私なんだかお腹空いたなー! 甘いものでも食べませんか?」
「……そろそろ冬季限定のコンビニチョコレートが売っているはず……」
「いや、あの。ケーキ食べましょう、ケーキ! パフェでも良いですよ! 奢りますから!」
結局駅前のカフェで美味しいチョコレートパフェを食べて解散となった。
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