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ボジョレーを飲みに
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ボジョレーヌーボーの解禁日から数日。ツバキを誘って蓮に行く事にした。既に予約は入れてある。今日はCさんが居るとの事で、「女子会が楽しみね!」と言っていた。
十八時。オープンしたての蓮にツバキと連れ立って行くと、開店準備の最中なのかCさんがエプロンをつけてマスターと話をしていた。
「あら、今晩は。今日は後からYさんが来るわよ。それまで女子会楽しみましょうね」
「Cさん、俺の立場が無いですよ」
「Kさんはね、今日はキッチンだから、カウンターは女子会」
なんて、CさんとマスターのKが笑って話している。
「さあ、ボジョレーね。一杯目から行っちゃう? ノバラさんはいつものビール?」
「どうしようか。舌を慣らすのに他のワインから行ってみるかい?」
「あ、はい。お任せします」
ツバキがやっぱり固まっているので、私は適当な赤ワインをグラスで頼んで、次は今年のボジョレーをグラスで頼んだ。つまみは気に入っているオリーブのマリネが無いとの事で、悩んだ挙句に、ミックスナッツがあるとの事でそれにして貰った。
「乾杯。うふふ、私はコーヒーで失礼します」
Cさんが茶目っ気たっぷりんにウィンクして私たちのワイングラスと自分のアイスコーヒーのグラスを合わせると、こくこくと飲んで「女子会って嬉しいわ。恋バナとかしちゃうのかしら?」ときゃっきゃと張り切っていた。
「ねえねえ、ノバラさんって結婚してないのだったかしら? 私、ノバラさんがうちの娘に欲しかったわ」
「あ! ああ……」
Cさんの言葉に、なんだかツバキが変な声をあげた。
「どうしたんだい、ツバキ君」
「わ、私、ノバラさんが結婚している可能性を考慮していませんでした……」
「……私の一人暮らしの家に来ていて、結婚しているもなにもあったものじゃないよ」
ツバキは私に迷惑をかけているとでも思っているのか。既婚でも未婚でも、友人と遊びに行くのにそう大した違いは無いと思うが。それは結婚した事が無いから言えるのだろうか。
「え、じゃあノバラさん、彼氏いるの? いないのだったらYさん良いんじゃないかしら? 物書きさん同士って素敵じゃない? 私の店からカップルが生まれるなんて素敵!」
「だ、駄目です、駄目です。ノバラさんはあげません」
「あら、そう? Yさんとノバラさん、年も近くて良いと思うわ」
「だめって言ったらだめですぅ」
なんでCさんの質問にツバキが答えているのだろう。まあ、Yさんは確かに良い人だが彼氏にはしたくない。
一杯目の赤ワインを飲み干して、ボジョレーに移る。ボジョレーは軽口で良い香りがする。飲みやすくてなかなか気に入った。
「ボジョレーヌーボーは軽くて飲み応えが無いって言うけれど、飲みやすいね。でも確かに重さと言うか、足りない気がする」
「うふふ、そんな舌の肥えたノバラさんに、去年の熟成させたボジョレーヌーボーもあるわよ?」
Cさんは実に商売上手だ。「カクテル、照葉樹林で」と言うと、Cさんがにこにこして作り始める。
「ツバキ君、食事なににする?」
「わ、私!」
「うん」
「私、彼氏いません!」
「……? うん」
今言う事なのだろうか、それ。
仕方ないので、自分用にリゾットと、この前キムチを食べていたから大丈夫だろうとペペロンチーノを頼む。Cさんがキッチンに伝えてKが調理しているのに、Cさんはカクテルを出して、「もうすぐYさん来るわよ」と伝えてくれた。なんだかんだ一時間程時間が経っていた。
Yさんが自動ドアを開けてやってきた。私と同じ位の年の男性で、やや背が高い中肉中背、と言う感じで着ているものに拘りがあるのか、いつも襟のついた長袖のシャツを着ている。顔は良いとも悪いとも言えない。中の上に入るかもしれない位の中途半端な顔立ちだ。なんだか常に眠たそうな二重の垂れ目が優しげで、気弱そうな中年男性である。
Yさんが今日連れ立っているのはツバキよりやや年下の男の子。私たちと同じくカウンターに座ると、ウィスキーをロックで頼んで、辞儀をしてきた。こちらも辞儀を返す。
「ノバラさん、ノバラさん。Yさんって言う人、あの人ですか?」
「嗚呼。紹介します、Yさん。こちら、ツバキ君。ツバキ君、Yさんだ」
「どうも。あ、こっち、私の甥っ子のM君」
「ちっす」
Yさんの連れの子が挨拶してくれたので、軽く礼を返す。
「……ツバキですぅ。よろしくお願いしますぅ……」
「ツバキ君、なんか不機嫌?」
「ツバキちゃん、ノバラさんが大好きなのねぇ。Yさんに取られたくないのね。可愛いわぁ」
「Cさん、女子会の恋バナ大会は終わりじゃないかい? Yさんに失礼だ。私なんかYさんも彼女にしたくはないだろう」
苦笑いして出されたカクテルを飲むと、Yさんが「ノバラさんみたいな人にそう言われて恐縮ですよ」と、否定なんだか肯定なんだか分からない事を言っていた。
ツバキが無言でペペロンチーノを食べているので、機嫌が悪いのかと首を傾げた。こんなツバキは見た事が無い。
「ノバラさん、帰りましょう。早く帰りましょう」
「え、なに」
「なんでもです!」
ツバキが不機嫌なのに、慌てて会計を済ませると二人で蓮を出て行った。
十八時。オープンしたての蓮にツバキと連れ立って行くと、開店準備の最中なのかCさんがエプロンをつけてマスターと話をしていた。
「あら、今晩は。今日は後からYさんが来るわよ。それまで女子会楽しみましょうね」
「Cさん、俺の立場が無いですよ」
「Kさんはね、今日はキッチンだから、カウンターは女子会」
なんて、CさんとマスターのKが笑って話している。
「さあ、ボジョレーね。一杯目から行っちゃう? ノバラさんはいつものビール?」
「どうしようか。舌を慣らすのに他のワインから行ってみるかい?」
「あ、はい。お任せします」
ツバキがやっぱり固まっているので、私は適当な赤ワインをグラスで頼んで、次は今年のボジョレーをグラスで頼んだ。つまみは気に入っているオリーブのマリネが無いとの事で、悩んだ挙句に、ミックスナッツがあるとの事でそれにして貰った。
「乾杯。うふふ、私はコーヒーで失礼します」
Cさんが茶目っ気たっぷりんにウィンクして私たちのワイングラスと自分のアイスコーヒーのグラスを合わせると、こくこくと飲んで「女子会って嬉しいわ。恋バナとかしちゃうのかしら?」ときゃっきゃと張り切っていた。
「ねえねえ、ノバラさんって結婚してないのだったかしら? 私、ノバラさんがうちの娘に欲しかったわ」
「あ! ああ……」
Cさんの言葉に、なんだかツバキが変な声をあげた。
「どうしたんだい、ツバキ君」
「わ、私、ノバラさんが結婚している可能性を考慮していませんでした……」
「……私の一人暮らしの家に来ていて、結婚しているもなにもあったものじゃないよ」
ツバキは私に迷惑をかけているとでも思っているのか。既婚でも未婚でも、友人と遊びに行くのにそう大した違いは無いと思うが。それは結婚した事が無いから言えるのだろうか。
「え、じゃあノバラさん、彼氏いるの? いないのだったらYさん良いんじゃないかしら? 物書きさん同士って素敵じゃない? 私の店からカップルが生まれるなんて素敵!」
「だ、駄目です、駄目です。ノバラさんはあげません」
「あら、そう? Yさんとノバラさん、年も近くて良いと思うわ」
「だめって言ったらだめですぅ」
なんでCさんの質問にツバキが答えているのだろう。まあ、Yさんは確かに良い人だが彼氏にはしたくない。
一杯目の赤ワインを飲み干して、ボジョレーに移る。ボジョレーは軽口で良い香りがする。飲みやすくてなかなか気に入った。
「ボジョレーヌーボーは軽くて飲み応えが無いって言うけれど、飲みやすいね。でも確かに重さと言うか、足りない気がする」
「うふふ、そんな舌の肥えたノバラさんに、去年の熟成させたボジョレーヌーボーもあるわよ?」
Cさんは実に商売上手だ。「カクテル、照葉樹林で」と言うと、Cさんがにこにこして作り始める。
「ツバキ君、食事なににする?」
「わ、私!」
「うん」
「私、彼氏いません!」
「……? うん」
今言う事なのだろうか、それ。
仕方ないので、自分用にリゾットと、この前キムチを食べていたから大丈夫だろうとペペロンチーノを頼む。Cさんがキッチンに伝えてKが調理しているのに、Cさんはカクテルを出して、「もうすぐYさん来るわよ」と伝えてくれた。なんだかんだ一時間程時間が経っていた。
Yさんが自動ドアを開けてやってきた。私と同じ位の年の男性で、やや背が高い中肉中背、と言う感じで着ているものに拘りがあるのか、いつも襟のついた長袖のシャツを着ている。顔は良いとも悪いとも言えない。中の上に入るかもしれない位の中途半端な顔立ちだ。なんだか常に眠たそうな二重の垂れ目が優しげで、気弱そうな中年男性である。
Yさんが今日連れ立っているのはツバキよりやや年下の男の子。私たちと同じくカウンターに座ると、ウィスキーをロックで頼んで、辞儀をしてきた。こちらも辞儀を返す。
「ノバラさん、ノバラさん。Yさんって言う人、あの人ですか?」
「嗚呼。紹介します、Yさん。こちら、ツバキ君。ツバキ君、Yさんだ」
「どうも。あ、こっち、私の甥っ子のM君」
「ちっす」
Yさんの連れの子が挨拶してくれたので、軽く礼を返す。
「……ツバキですぅ。よろしくお願いしますぅ……」
「ツバキ君、なんか不機嫌?」
「ツバキちゃん、ノバラさんが大好きなのねぇ。Yさんに取られたくないのね。可愛いわぁ」
「Cさん、女子会の恋バナ大会は終わりじゃないかい? Yさんに失礼だ。私なんかYさんも彼女にしたくはないだろう」
苦笑いして出されたカクテルを飲むと、Yさんが「ノバラさんみたいな人にそう言われて恐縮ですよ」と、否定なんだか肯定なんだか分からない事を言っていた。
ツバキが無言でペペロンチーノを食べているので、機嫌が悪いのかと首を傾げた。こんなツバキは見た事が無い。
「ノバラさん、帰りましょう。早く帰りましょう」
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「なんでもです!」
ツバキが不機嫌なのに、慌てて会計を済ませると二人で蓮を出て行った。
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