【R18】ライフセーバー異世界へ

成子

文字の大きさ
2 / 168

002 海へ

しおりを挟む
 おおなき海岸は今日も大盛況。ビーチにはパラソルが並ぶ。色とりどりの金魚の様な可愛い水着を着た女の子達、日焼けした男の子達で一杯だ。

 夏休み真っ最中で花火大会も一週間後に迫っているので、ナンパなどで新しい彼氏・彼女をゲットしようと勤しんでいる輩は多い。
 羽目を外すせいか、貸し出しのボートで入ってはいけない区域や危ない遊び方をして間違って溺れてしまう人達もいる。私達ライフセーバーの出番がなければいいのだけれども。

 そうではなくてもこの大無海岸は所々突然海が深くなり、流れが変わる場所がある。何年かに一度は行方不明になる人もいて油断のならない海水浴場なのだ。そこで、私達ライフセーバーも常駐している。

「休憩終わりか? お帰り。何だニヤニヤして。休憩中何か良い事あったか?」

 おおがき先輩という筋肉ムキムキのリーダーが、監視である高椅子に座っている。上から真っ黒に日焼けした頬に白い歯を煌めかせ、眩しい太陽をバックに私と遙ちゃんに声をかけてきた。

「なーんにも良い事なんてないですけれども。ニヤニヤしてませんよ、ニコニコって言ってくださいよ! 笑っている方がいいでしょ? 怒り顔のライフセーバーなんて怖いだけだし」

 考えれば考えるほど惨めになっていく。心の触れたくない奥深くの闇に体が沈んでいくのを止めなければ。いつもの私ではいられなくなる。だから無理して笑っていなくては。

 そう思う度に心が軋むけれどもどうしようもない。どれほど耐えたらこの辛さはなくなるだろうか。遙ちゃんが言う様に、お姉ちゃんとしゆうの二人を責めれば消えるのかな。どうしていいのか分からない今は、無理にでもこの気持ちに蓋をしなくてはならない。

「あはは。悪かった悪かった。あっ、またあいつら~! あそこはボートで出かけるのはダメだって午前中指摘したばっかりだってのに!」

 双眼鏡を覗きながら、白い歯をむき出しにして大垣先輩は溜め息と共に強い力で呟いた。目視でも、沖の方まで出ている四人のカップルが乗ったゴムボートが見える。

 ボートの上でイチャイチャしていたから沖まで出た事に気が付かなかったと、午前中は言っていたけれども。怖がる彼女達をからかうためにやっているフシがあると、大垣先輩は言っていた。

 午前中大分お灸を据えたはずなのに結局同じ遊びをして危ない事になっている。あの辺りはよく人が行方不明になるポイントだ。数年前、行方不明なった人も確か同じ辺りだったと聞いている。

「あっホントだ。あそこはボートでも危ないからダメだって教えたばっかりなのに。私、夏見と行って来ますね」

 遙ちゃんに促され、ボートで随分と遠くまで行ってしまったカップル達に向かって注意をするために沖まで出ようとした。

 だが私の目に映ったのはそのボートの隣で飛沫を上げて溺れている一人の女性だった。やたら白い腕が、深い海を映し出している海の表層をたたいているのが分かる。

 顔の細かい造形まで認識できないが女性の様に見える。とうてい声が聞こえる距離ではないはずなのに、私にはハッキリと『助けて』と聞こえた気がした。

「大垣先輩、あそこで溺れています! 私達そっちに行きます! 遙ちゃん行くよ!」

 『助けて』その声に反応する様に私は熱くなった砂浜を蹴った。

 近くの救助用の浮き輪を手にすると、彼女に向かって一直線に海に入っていく。

「えっ? 山田。何を言っているんだ?」

 大垣先輩が少し驚いた様な声を上げていた様な気がする。

なつ! 待ってよ! 溺れている人なんて何処に?」

 遙ちゃんが大きな声を上げながら私を追いかけているのが分かる。私の体は勝手に動いていた。

「何処ですか? 大垣先輩。私には溺れてる人なんて見えないんですけれども」

「ああ俺にも見えない。何処なんだ?!」
 遙と大垣はボート周辺に目をこらしてみるが、溺れている人を見つけられず焦っていた。

 夏見以外に溺れている人が見えている事はなかったのだ。

 そして、今後誰もその事を知る事はなかった。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜

文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。 花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。 堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。 帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは? 異世界婚活ファンタジー、開幕。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

処理中です...