【R18】ライフセーバー異世界へ

成子

文字の大きさ
18 / 168

017 踊りとキス

しおりを挟む
 ゆっくりフロアは暗くなっていく。反して奥に設置している舞台が照らされ明るくなってくる。

 そこには淡いブルーの光の中、輝くプラチナブロンドが浮かび上がった。
 マリン一人が舞台に立っている。衣装はベリーダンス風で、ショーツの回りにオーガンジー素材のチュチュの様なひらひらしたスカートをはいている。
 スカートの前側は短くて下のショーツが見えているけれども、お尻から後ろにかけては孔雀の尻尾みたいにくるぶしまで布が垂れている。

 濃いブルーの衣装は、マリンの白い肌を更に際立たせ、否応なく体のラインが浮かび上がる。セクシーな衣装だが、私には芸術の様に見えた。

 マリンは背中を反らせ両腕を頭の上にして、ゆっくりと後ろに倒れ体を反る。
 再びゆっくりと倒れた体を起こすと、銀のピンヒールをはいている左足をバレリーナの様にゆっくりと頭上と同じ高さに上げる。

 オーガンジー素材のチュチュが肌をかすめてハラリとはだける。
 
 ギターが軽快なリズムに変わり、鈴や太鼓も速いリズムに変わる。舞台袖で赤髪の小麦色をした肌の女性が歌いはじめた。赤い口紅を引いた唇から凜とした声が聞こえる。

 それを合図に、マリンは腰を左右に小刻みに動かし、両手で髪の毛をかき上げる。

 瞳を細めて唇を薄く開ける。とてもなまめかしい。
 ゆっくりと舞台の右の端まで移動すると、今度は舞台中央に向かって百八十度開脚してのジャンプを決める。

 バレエとフラメンコを混ぜた踊りの様だった。妖しくなまめかしいだけではなく、女性から見ても憧れるとても綺麗な踊りだ。

「……」
 言葉を忘れ、水を飲むのも忘れて見入る。
 変なところから空気が入って気管がヒュッと音を立てた。
 瞬きを忘れてしまい目が乾いてくるのに逸らす事が出来ない。

 私が憧れる全てがにある。
 マリンにうっとりすると共に、自分がなる事が出来ない女性像が目の前にあり切ない。

 まるで姉のはるの様。
 全てが私の反対に位置している。
 私が持っている全てのものが意味のない様に思えてしまう。
 憧れ続け焦がれ続けるのに手に入らないもの。
 羨望の眼差しでうっとりと見つめるが、それが自分でも悲しくて仕方ない。

 私、失恋したんだよね。姉の春見はマリン程セクシーではないが、きっとしゆうには月とすっぽんに見えたのだろうな。

 腑に落ちない事もある。秋は会う度に私の体を求めてきた。今思えば最低だ。姉の春見も抱きながら、私も抱いていた。二股をかけていた時間があるはずなのだ。私の体を求めるのに、心は春見の元へといってしまった。
 好きでもないのに抱く事が出来るのは男の性なのだろうか……秋は私の事を好きで抱いているのだと思っていたのだから。なんて空しいのだろう。時が経てば忘れられるのかな……

 忘れようとしていた事を思いだし、胸が締めつけられる。



 ノア達も久しぶりにマリンの踊りを見る。
 以前よりも活発に動けている様にも見えて驚く。溺れた翌日だというのに元気だと言っていたのは嘘ではない様だ。誘う様なマリンの腰つきを眺めてノアは目を細める。

 シンも開いた口を塞ぐ事なくポカンとしている。間抜けな顔になっているのも忘れるぐらい魅入っている。

 ジルもマリンの踊りを見て安心し、ノアとシンの見とれる姿に微笑した。

(ノアもうっとり魅入っているわね。今日はマリンと時間泊を申し出てくるかしら? それにしてもシンのしまりのない顔っていったらないわね。しまりのない顔といえばザックはどうかしら?)
 そう思いザックを流し目で見るが──意外な事にマリンを見るのではなくナツミを見つめていた。

 ジルは顔を動かさず視線だけずらすと、何かに耐える様なナツミの横顔がある。

 可愛くて、切なげな感じが不思議と色っぽい。

(ふーん。ナツミったらこんな顔が出来るのね。それにしても……ザックのあの顔は何なの? 穴が空くほど真面目に見つめているわね)
 ザックはナツミに目を奪われている。中々分かりやすい男だ。

 ジルの海賊時代から磨かれた第六感が何か予感めいた事を伝えてくる。

(これは面白くなるわね。ナツミが何者か分からないけど、引き止めてよかったわ)
 ジルは唇にうっすら微笑を浮かべた。



 ザックは、なまめかしく今まで以上に激しく踊るマリンを見て溜め息をついた。
 それからノアを見て、うっとりとマリンを見つめる姿を見て安心する。

(ノア、お前は本当にとマリンを愛しいと思っているんだよな?)

 ノア、マリン、ザックはファルの町で育った幼なじみだ。それぞれ事情があり、出会った時期は少しずつ異なるが、気がつけばいつも一緒にいた。

 ノアとマリンは同じ年だが、ザックは彼らよりも三歳年上だった。
 昔から知っているだけに、兄貴分として二人の今後についても気になるところだ。

(早く二人が一緒になって幸せになればいいのに……)

 そう思っていた時、ザックの隣でヒュッと息をのんだ妙な音が聞こえた。
 変な声をあげたのはナツミの様だ。

(何変な音を出しているんだ。笑わせるな。もしかして、マリンの踊りに驚いて恥ずかしがってるんじゃないか? お子様なのは外見だけではなく中身もか?)
 少しからかってやろうと視線を隣のナツミに合わせた時だった。

 少年に見えていたが、この瞬間はその面影が全くない。
 黒い瞳が宝石みたいに輝いている。
 口を真一文字にし何故か両手を顎の下で二つの握りこぶしを作って小さく震えている。
 今にも泣き出しそうな笑いそうな微妙な感じの顔が、可愛くて切なく感じる。

 心臓の辺りをギュッと握られる感じがする。思わず生唾を飲み込む。

(何でそんな顔をしているんだ。俺はお前を少年だと思っていたのに)
 心臓が早鐘を打ちどんどん大きな音を立てていき、遂に歌や音楽が聞こえなくなる。
 瞬間、ナツミの瞳が細められたと思うと、ポロッと一筋の涙がこぼれた。

 途端にザックはカッと体温があがって思わずナツミの頬に手を伸ばした──



 音楽も佳境に入ると激しいリズムになっていく。
 ピンヒールでも地面を構わず蹴るステップに心臓が高鳴る。

 マリンから目を逸らす事が出来ずに、どのぐらい経ったのだろう?
 マリンの体に汗が流れているのが分かる。それがキラキラ反射して美しい宝石の様だ。
 純粋に美しい芸術を見る感動が沸き起こる。

 最後クルクルと回転してみんなの目の前にピタッと、音楽と共に止まった。

 私は涙が頬を伝ったのを感じた。

 私もこういう女性に産まれたかった……
 妬んだり僻んだりしたところでどうしようもない。
 失恋の切なさはまだ心に突き刺さったままだ。
 
 フロア全てが大きな歓声で包まれ、みんながマリンの名前を口にする。少しずつ光量が元の明るさに戻りつつある、そんな時だった

 本当に突然だった。

 ふわっとベルガモットの香りがした。
 隣のザックが私の頬に親指を這わせて、こぼれた涙を拭ってくれた。

 横を見ると、真顔のザックが近づいてきて──
 それは本当に一瞬で、数秒の事だった。

 ザックの唇が私の唇に軽く触れた。

 優しく唇を合わせるだけのキスだった。



 私達を見ていたのは誰もいなかっただろう。
 私自身も何が起こったのか分からなかった。



 マリンの踊りが終わってフロア全体が明るくなる。

 ハッと気がついてザックを振り返るがザックは何事もなかった様にマリンに向かって称賛の拍手を立ち上がって送っていた。もちろんジルさんもノアもシンも。

 私は拍手喝采の中、放心状態でマリンを見つめる事しか出来なかった。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーレムです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

蝋梅
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

処理中です...