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119 再び 海へ! その1
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ザックは灰になってしまったノアを横目に、ザームとエッバ達と話が終わり去る為に片手を上げた。そんなザックを見つめ無言で頷くザームとエッバだった。私もザームとエッバに向かって、一礼する。その姿を見たエッバが優しく微笑んでくれた。
それからザックが私の横で肩を叩いた。
「さて、ナツミこれから海に行こうぜ。折角水着を着ているんだしな」
私には嬉しい一言だった。待ちに待った言葉だったので、私は思わず飛び上がった。するとザックはジャンプした私の太股をガッチリと両手で囲み着地する私をキャッチした。
「ぎゃぁ」
驚いてザックの肩に両手を置いて悲鳴を上げた。ザックに子供の様に抱き上げられる。
「何だよそりゃ。そこはもっと可愛い悲鳴を上げろよ」
「だって驚くよ。いきなりこんな子供みたいな」
「三分程歩けば海だからこのまま抱き上げて歩いて行こうか?」
ザックがグリーンの瞳が眩しそうに細めて下から私を見上げる。少し口角を上げて悪戯をする子供の様に笑いながら、私の太股の上で手を滑らせて内太股に触れようとする。
「もう。歩いて行けるし歩きたいからっ」
私は慌ててザックの内太股に滑ってくる手を押さえて足をジタバタと振った。
ザックの馬鹿。本当に油断も隙もないのだから。
「おっと。ハハハッ」
ザックは笑いながら暴れた私をストンとおろしその場に立たせてくれた。そして、ザームやエッバそして子供達やら沢山のギャラリーがいる中、私の肩を抱き寄せこめかみにキスをした。
「え。も、もう!」
驚いてキスをされたところを手で押さえて真っ赤になってしまう。
ザックを睨みつけながら見上げるが、ザックは何処吹く風で私を自分の方に抱き寄せたまま離れようとしなかった。実に満足そうに笑う。
そこで、エッバのよく通る不機嫌な声が聞こえた。
「ちょっとぉ、どうでもいいけどイチャイチャしないでよね。こっちはこれから店に戻って仕事をするって言うのにさ。海なんて何しに行くか知らないけれども、さっさと行けば? ほら、ほら。マリンも灰になっているノアを連れて。はいはい行った行った!」
シッシッと手を払い私達に行く様に言った。
「うん。さぁノア、行きましょう」
マリンはノアの手を引いて私とザックの方に歩き出す。
「酷い芝居……新人役者……」
ブツブツと呟いて白い顔を更に白くしていたノアがマリンに引きずられていた。どうも相当自分の演技に自信があった様で、マリンに言われた一言にかなりショックを受けている。
その様子に私とザックは苦笑いをしたが、何故かマリンは満面の笑みで嬉しそうに笑っていた。何だかほっぺたがほんのり桃色だ。
そして私達は海に向かって歩き出した。
ザックとナツミに文句を言いながら見送ったエッバが、大きく溜め息をついた。
「はぁ。何かもう拍子抜けって感じ」
「む。何がだ?」
ザームが再びデッキチェアーに横たわり、エッバの呟きに尋ね返していた。エッバはスカートを翻しザームが横たわった腰辺りに座り込んだ。
ザームは腰の部分だけ横に押し出される形になったが、小さく丸まったエッバの背中を見ると何も言えなくなった。エッバの僅かな落ち込みを感じとったからだ。
「単に体でザックを繋ぎとめている女だったらさ、私もまだイケるんじゃないかなって。もう一度ザックを誘惑出来るかなって。そう思っていたのに」
エッバは両膝に自分の肘を添える。それから両手で頬杖をつく。
「む。確かに体だけなら誰でもいいのだからな」
エッバの言葉を聞きながら、ザームは再び扇ぐ様に側に控えていた二人の女性に指示を出す。
「そうよね。ザックは誰でもよかったのよね。そして私も……そんなザックでいると思っていたし、そのままでいいと思っていたのよ」
来る者拒まず。『ファルの町』の女達を取っかえ引っかえ。裏町の女も、山の別荘に住まう貴族の女も皆がザックに抱かれた。
ノアがマリンという恋人を決めた時ですら、ザックはそうならないと思っていた。
誰もがザックの一番になりたいと思っても、彼はそういう男ではない。一人では満足出来ない。そう、沢山の女性を一度に愛してくれると思っていた。多分あの時ザックは私達を愛していた。
しかしザックは見つけたのだ。この世界の中から、たった一人を。
大きなパラソルの陰から空を見上げる。
嫌になるほど青い空。何処までも突き抜ける爽やかさ。
「私はさ、何が出来るわけでもない。容姿も体も『ファルの町』の女の中ではいい方だろうけれども。頭も口も悪いし。唯一出来る事と言えばクプレプを作る事ぐらい。だってこの仕事はザック達が紹介してくれたから。頑張って、それだけはやってみようって」
エッバはそこまで言って声が掠れてしまった。
「クプレプもたいした食事じゃないのにさ……美味しいって」
嫌味だったのに本気にして落ち込むんだものナツミって。本当に馬鹿みたい。
綺麗に着飾って男にチヤホヤされる踊り子達は皆が笑って『そんな事しか出来ないのね』って言うのに。
踊り子だって踊るだけでしょ。私だって少しなら踊れるのよ。踊れるけれども。踊りに比べればさ、汗水垂らしてクプレプ作る仕事は華やかじゃないし。
なのに、ナツミとマリンは二人して「もっと教えてね」って言っていた。全く食い意地が張っているのかしらね二人してさ。クプレプを食べ過ぎてもっと太ればいいのにさ。
エッバは自分の頬が濡れているのが分かった。
「ナツミが……普通の嫌な女だったらよかったのに」
そうしたら、怒りと怨みに燃えていられたのに。
悲しいって、苦しいって思わなくてよかったのに。
「む。今更失恋を自覚か」
「うるさいなぁ。これっぽっちも望みがないって分かったら何だか急に。もうっ!」
エッバはザームに拳を振り上げる。しかし力が入らない。ザームの割れた腹筋の上にぽてんと力なく左手が下ろされた。
「自分の為に少し泣くぐらいさ……っっ」
いいじゃない。
それからエッバは俯くと白い石畳にパタパタと染みを作った。
「む。そんな拳は快楽にもならんぞ」
ザームはエッバの背中を撫でて子供をあやす様に優しく叩いていた。
相変わらずノアが灰になったままだ。なのにマリンはニコニコしながら手を引いていた。
マリンがいつもより凄く振り切っているというか。言いたい事をノアに言っている様な気がする。そしてそのせいなのか、天然具合が尖っているというか。私はザックに肩を抱かれてあれこれ考えながら歩く。ザックは今まで奴隷商人に跡をつけられていた時とは異なり、裏町の路地をまっすぐ歩いて行く。
道があっという間に開けて広くなり、観光客が多い通りに入った。建物も、白壁の建物が多くなりオレンジ色の屋根がほとんどになった。エッバの店があった裏町よりも、お土産屋さんや少し高めのレストラン風の店が多い。空を見上げると、雲一つない青空が見える。太陽が眩しいが頬を撫でる風は乾いているのが分かる。
少し暑くなってきたかもしれない。私の肩を抱くザックの掌も熱を帯びている。ザックも暑いと思っているのかなぁ。
そう感じてザックを見上げた時だった。ザックが歩く横に、ボロボロの建物が目に入った。
大きな木造作りの平屋だ。朽ちているのか所々壁に穴が開いている。高い天井の建物で斜めになった屋根の上には明かり取りの窓に見事なステンドグラスが見える。
今にも建物は崩れそうなのに、ステンドグラスは美しく二つの危ういバランスに私は口を半開きにして建物を見つめてしまった。
「そこはな集会所だったんだ」
「集会所?」
ザックが私の視線を追いかけて歩きながら説明をしてくれた。言われてみれば集会所という言葉がぴったりかも。何かの施設と言うよりも、人が沢山収容出来る場所という印象だった。窓という窓が壊れているのと、隙間から見える建物内も木の長机や椅子が散乱している。
そんな中、明かり取りのステンドグラスから差し込む七色の光が美しかった。
「この間あった花火大会がある様な祭りの時に使われていたのさ。今は宿屋があったり食事をする店があったりするから使われなくなったのだけれどもな。俺達が子供の頃にはもう使われていなかったな。だけど、ここまで酷くはなかったなぁ。今にも崩れそうだよな」
「へぇ……向こうには森が見えるね」
よく観察すると、この集会所と呼ばれる朽ちかけの建物は『ファルの町』の一番端、森側にあった。整備された港の端を乗り越え、石畳や砂浜ではなく岩が土を覆い始めた場所にポツンと立っている。
「そうだな。建物の奥は森になっていて山が始まる。その奥にはこの間訪れたノアの別荘があったり、更にその奥には北の国へ向かう山道につながっている。その山道の手前に北の国から来ている役人達の居住区域になるんだ。そして更に奥には『ファルの町』の役人や領主がいる城、そして軍の施設があるんだ」
「ふぅん……」
海を目の前にして今までいた裏町と私が今留まっている『ファルの宿屋通り』がある。これらをひっくるめて『ファルの町』であり、その後方は森で山道を越えて行けば北の国に通じていると言う事か。
その建物の真正面に出る。足元は土に埋もれた岩が所々ゴツゴツしていた。数十メートル先は崖だ。
と言う事は──
「うわぁ~海!」
私は肩に置かれたザックの手を握りしめて彼を引っ張りながら走り出した。
「お、おい。こらナツミ。ハハッ」
私に突然引っ張られたザックはつんのめりながら長い足で私を追いかける。
「ナツミ、ザック! 待ってよぉ。急に走り出すのは危ないわよ~」
後ろからノアを引きずるマリンの声が聞こえる。だけれど振り向いていられない。だって、ほら、そこには──
崖の先まで一気に走りピタリと止まる。目の前には『ファルの町』の玄関口である、海が見えた。海水の透明度は高い。
私は自分の両膝に手を添えて崖から下を覗き込んだ。海はかなり深いのか、透明度が高い海でも真っ青だった。岩肌に打ち付ける波も今日は穏やかだ。それでも白い飛沫を上げる波。音と同時に潮の香りがする。日本の海とはまた違う、異国の海の匂いだった。
例えると、日本の海は濃い磯の香りだが、ファルの町の海は爽やかな潮の香りだ。
「おお~深い。波も今日はあまり高くなさそうだね。本当に透明度が高い海だね。よく見ると海の底が見える様な……」
黒い岩はあまり飛び出していないし、崖の高さは十メートルもない。水泳の高飛び込みより低いと感じる。
「おいおい、そんなに上半身を倒すなよ」
ザックが笑いながら私の両肩を押さえてのめりこむ様に海を覗き込む私を後方に引っ張る。
「何て素敵なの。もしかしてここから飛び込めたりする?!」
私は前のめりになったまま隣のザックの顔を見つめる。飛び込めるのならこんなに楽しい事はない。海にダイブ出来るならさぞ気持ちがいいだろう。
するとザックが目を丸めて驚く。それからニヤリと笑って口の端を上げる。
「素敵とくるか。あーあ驚かせようと思ったのに。怖がるナツミが見たかったなぁ。もちろん下はかなり深い海でな、下にある岩にぶつかる事もなく飛び込む事が出来るぜ」
「本当?! うわぁ今から飛び込みたい!」
「そう言うと思った。だが今日の気温では水温が低いと思うから止めとけ。もっと本格的に暑くなってきてからの方がいい。びっくりするぐらい冷たい海なんだ。心臓が凍りつくぜ」
「え~そうなの……残念だなぁ」
私は首をかくんと下げてうな垂れる。
海水が冷たいのは理解出来る。深い海であればあるほど突然冷たい海水で体が固まってしまう場合もあるから注意が必要だ。
ザックの言う事に素直に従い、それから覗き込む為に倒した体を起こしてザックと向き合う。ザックは両手で私の二の腕を掴んで向かい合って笑う。
風が一瞬強く吹いてザックの髪の毛をなびかせた。
金髪が日に透けてキラキラと光る。垂れ気味の二重を眩しそうに細めて、笑うと視線を私から海に戻した。
「ここはさ、俺達が子供の頃の遊び場だったのさ。度胸試しでここから飛び込むんだ」
ザックは海を見つめて遠い日を思い出している様だった。
「度胸試しだったんだね。私は楽しくて仕方ないから何度も飛び込みたいと思うけど」
私はザックと同じ様に海を見つめながら呟く。
「ぷっ。ナツミにかかれば楽しくて仕方ないになるのか。はぁ~並大抵じゃないのは分かっていたけれども。少し怖がる様子も見たかったな。子供の時さ、分かっているヤツにはたいした崖じゃないって感じるんだがな。なんせ泳げないヤツにはなぁ、地獄の崖っていうかさ、命を落とすんじゃないかって感じるみたいでな」
「え」
それは当たり前だろう。
泳げなければ飛び込むどころではない。それに、高さは問題ないと思うがおかしな落ち方をしたら体を水面に打ち付け大変だろう。そのせいで怪我をするかもしれない。
そうしてザックはゆっくりと海側から陸側に視線を移す。私もつられて視線を移すと、その先にマリンと手をつないで青白い顔をしたノアが立っていた。
ノアは真一文字に口を結ぶと肩に力を入れていた。それからマリンの手を今度は強引に引きながら、一歩、一歩崖に近づいてきた。そうして私とザックの一メートルほど先で立ち止まる。
ノアは少し背伸びをして、私の先にある崖を覗き込んで鼻の頭に皺を寄せた。
「ザックは当時本当に粗暴だったんだ。海に一度も入った事がない子供がそこから突き飛ばされてみろよ。どんな気持ちになるか」
先程は灰になっていたノアだが、崖を目の前にザックに向かって唸る様に声を上げた。それから肩で大きく息をして脱力する。
「水面に体を打ち付けて痛いのなんの。しかも海はしょっぱいし冷たいし死んだと思ったんだ。俺はそのせいで水が海が怖くて泳げなくなったんだよ」
ノアはガックリ肩を落とした。
そういえばザックと付き合う事になった翌日にノアが私を締め上げに来た事があった。あの時噴水の水ですら大騒ぎだったし。あの時確か『昔ザックが海に突き落とした事が原因で泳げなくなった』と言っていた。確かザックは『泳げる様にしようとした』と言っていたけれどもこの崖から突き飛ばすとは乱暴な事極まりない。
ノアの様子を見てから私は無言でザックを見つめる。するとザックはバツが悪そうにして小さく「ごめん」と呟いていた。口を尖らせて酷く言いにくそうにしている。そう、子供が謝っている様だ。
そんなザックの言葉にノアは少し目を丸めて驚いていた。ザックが素直に謝ったのが意外だと言わんばかりに。ノアは優しく微笑んでザックを見つめると、手を挙げて左の方向を指差した。
「何だか最近は些末な事だと思う様になったぜ。そんな事もあってな、この崖に留まるのはまだ苦手なんだ。全く、こんな弱味みたいな事は言いたくないのに。その内克服してみせるがな。とにかく、今はそこの崖を降りる坂道があるから。さっさと下に降りて浜辺に行こうぜ」
「え、浜があるの?」
私は驚いて改めて崖から海を見つめると、ノアが指差した方向、左手に小さな砂浜があるのが見えた。
崖がジグザグに階段の様な道が出来ている。そしてその下には、崖に囲まれて丸く半円になった白い砂浜が見えた。綺麗な浜辺なのに人は誰もいない。
「人が誰もいないなんてもったいない。ここからでも白い砂っていうのが見える。とっても綺麗だね。プライベートビーチみたい!」
私が興奮してザックを見上げるとザックが聞き慣れない言葉に目を丸めた。
「ぷ、ぷらいべ? 何だそりゃ。まぁいいか。そうだな人も来なくて丁度いいしな。ゆっくり海に入ってみようぜ」
ザックが気を取り直してウインクをしてくれた。私の手を引いて改めて砂浜に降りる道に向かって歩き出す。
「うふふ、ノアと一緒に海に入れるのは夢みたい。ねぇ、ノアは知ってる? 海水って水みたいに透明なのに凄くしょっぱいのよ。私この間溺れた時に改めて感じたわ~ふふ」
マリンが溺れた時の事を思い出しても平気に笑う。
精神が強いのか、それとも暢気なのか全く分からないけれどもノアとは違いすっかりトラウマは克服しているマリンだった。
ノアの手を引きながら嬉しそうにはしゃいでいる。そんなマリンに苦笑いしながらノアが呟く。
「ハハハ……マリンは、強いなぁ。俺も知ってるよ。だって溺れたからな」
「そうね、私達溺れた仲間ねっ」
「……」
返す言葉が出なくなったノアはひきつった笑みのまま再びマリンに引きずられている。
なので、私は思わず尋ねてしまった。
「マリンさぁ。何だか本当に嬉しそうだね。何かノアに対して、ズバズバ──じゃないや、えぇと、沢山意見しているというかさ」
意見なのか、感想なのかは謎だが、大分グイグイ話をしている様に思う。
「うん。今までノアに嫌われるかなぁとか、馬鹿にされるかなぁとか思ってね、なかなか言えなかったけれども。少しだけ話が出来る様になって嬉しいなって」
「す、少し?!」
アレで少しなのか? いやいや、マリン少し直球過ぎる様な気もするけれども。
私が目を丸めて坂道を下りながらマリンに振り向いた。
マリンは振り向いた私の顔を見て舌を出した。
「ふふ。ちょっと強引な事は分かっているけれども。さっきもお芝居の事を聞かれた時に『あっ言えた』って思う自分もいてね。ごめんねノア、ちょっと意地悪だったわね」
マリンは引きずるノアをそっと見上げて両肩を上げた。頬を桃色に染めて悪戯がバレた女の子みたいに可愛く笑う。
可愛すぎる! 私はゴクンと生唾を飲み込んだ。
当然ノアもマリンの言葉に驚いていたが笑顔を見て頬を染めた。それからニヤリと笑ってマリンを後ろから抱きしめる。
「結構傷ついたんだからなぁ。マリン、海に入ったら覚悟しておけよ~」
まだ完璧には泳げないのにノアが格好つけて笑っていた。突然抱きしめられたマリンはキャッキャと声を上げて笑う。
「この間一緒に泣いたのが嘘みたいだね。凄い仲良しカップルになってしまった。そういえば、こう言うのって『雨降って地固まる』って言うんだよね」
私が呟いた言葉にザックが笑い声を上げた。
「何だよそりゃ。聞いた事ないぞ。変な言葉をナツミは知っているなぁ。さて、ついたぜ。ここは子供達の遊び場なんだが今日は誰もいないな」
崖からジグザグの坂道を下り、白い砂浜にたどり着く。
目の前には幅十メートル程のビーチがある。砂浜の砂は白くてサラサラだった。日が照りつけて砂も熱くなっている。砂浜には二メートルほどの黒い岩が左右に二つそびえ立っている。丁度荷物置き場の目印で丁度いい。
そして波の音──
「~~!! ザック、ほら一緒に」
私は嬉しくなってザックを引っ張って海に飛び込もうとした。
「待て待て。服を脱ぐから」
そう言って砂浜に降り立ったザックは腰にぶら下げていた剣を外し、黒いシャツを勢いよく脱ぎ捨てた。
それからザックが私の横で肩を叩いた。
「さて、ナツミこれから海に行こうぜ。折角水着を着ているんだしな」
私には嬉しい一言だった。待ちに待った言葉だったので、私は思わず飛び上がった。するとザックはジャンプした私の太股をガッチリと両手で囲み着地する私をキャッチした。
「ぎゃぁ」
驚いてザックの肩に両手を置いて悲鳴を上げた。ザックに子供の様に抱き上げられる。
「何だよそりゃ。そこはもっと可愛い悲鳴を上げろよ」
「だって驚くよ。いきなりこんな子供みたいな」
「三分程歩けば海だからこのまま抱き上げて歩いて行こうか?」
ザックがグリーンの瞳が眩しそうに細めて下から私を見上げる。少し口角を上げて悪戯をする子供の様に笑いながら、私の太股の上で手を滑らせて内太股に触れようとする。
「もう。歩いて行けるし歩きたいからっ」
私は慌ててザックの内太股に滑ってくる手を押さえて足をジタバタと振った。
ザックの馬鹿。本当に油断も隙もないのだから。
「おっと。ハハハッ」
ザックは笑いながら暴れた私をストンとおろしその場に立たせてくれた。そして、ザームやエッバそして子供達やら沢山のギャラリーがいる中、私の肩を抱き寄せこめかみにキスをした。
「え。も、もう!」
驚いてキスをされたところを手で押さえて真っ赤になってしまう。
ザックを睨みつけながら見上げるが、ザックは何処吹く風で私を自分の方に抱き寄せたまま離れようとしなかった。実に満足そうに笑う。
そこで、エッバのよく通る不機嫌な声が聞こえた。
「ちょっとぉ、どうでもいいけどイチャイチャしないでよね。こっちはこれから店に戻って仕事をするって言うのにさ。海なんて何しに行くか知らないけれども、さっさと行けば? ほら、ほら。マリンも灰になっているノアを連れて。はいはい行った行った!」
シッシッと手を払い私達に行く様に言った。
「うん。さぁノア、行きましょう」
マリンはノアの手を引いて私とザックの方に歩き出す。
「酷い芝居……新人役者……」
ブツブツと呟いて白い顔を更に白くしていたノアがマリンに引きずられていた。どうも相当自分の演技に自信があった様で、マリンに言われた一言にかなりショックを受けている。
その様子に私とザックは苦笑いをしたが、何故かマリンは満面の笑みで嬉しそうに笑っていた。何だかほっぺたがほんのり桃色だ。
そして私達は海に向かって歩き出した。
ザックとナツミに文句を言いながら見送ったエッバが、大きく溜め息をついた。
「はぁ。何かもう拍子抜けって感じ」
「む。何がだ?」
ザームが再びデッキチェアーに横たわり、エッバの呟きに尋ね返していた。エッバはスカートを翻しザームが横たわった腰辺りに座り込んだ。
ザームは腰の部分だけ横に押し出される形になったが、小さく丸まったエッバの背中を見ると何も言えなくなった。エッバの僅かな落ち込みを感じとったからだ。
「単に体でザックを繋ぎとめている女だったらさ、私もまだイケるんじゃないかなって。もう一度ザックを誘惑出来るかなって。そう思っていたのに」
エッバは両膝に自分の肘を添える。それから両手で頬杖をつく。
「む。確かに体だけなら誰でもいいのだからな」
エッバの言葉を聞きながら、ザームは再び扇ぐ様に側に控えていた二人の女性に指示を出す。
「そうよね。ザックは誰でもよかったのよね。そして私も……そんなザックでいると思っていたし、そのままでいいと思っていたのよ」
来る者拒まず。『ファルの町』の女達を取っかえ引っかえ。裏町の女も、山の別荘に住まう貴族の女も皆がザックに抱かれた。
ノアがマリンという恋人を決めた時ですら、ザックはそうならないと思っていた。
誰もがザックの一番になりたいと思っても、彼はそういう男ではない。一人では満足出来ない。そう、沢山の女性を一度に愛してくれると思っていた。多分あの時ザックは私達を愛していた。
しかしザックは見つけたのだ。この世界の中から、たった一人を。
大きなパラソルの陰から空を見上げる。
嫌になるほど青い空。何処までも突き抜ける爽やかさ。
「私はさ、何が出来るわけでもない。容姿も体も『ファルの町』の女の中ではいい方だろうけれども。頭も口も悪いし。唯一出来る事と言えばクプレプを作る事ぐらい。だってこの仕事はザック達が紹介してくれたから。頑張って、それだけはやってみようって」
エッバはそこまで言って声が掠れてしまった。
「クプレプもたいした食事じゃないのにさ……美味しいって」
嫌味だったのに本気にして落ち込むんだものナツミって。本当に馬鹿みたい。
綺麗に着飾って男にチヤホヤされる踊り子達は皆が笑って『そんな事しか出来ないのね』って言うのに。
踊り子だって踊るだけでしょ。私だって少しなら踊れるのよ。踊れるけれども。踊りに比べればさ、汗水垂らしてクプレプ作る仕事は華やかじゃないし。
なのに、ナツミとマリンは二人して「もっと教えてね」って言っていた。全く食い意地が張っているのかしらね二人してさ。クプレプを食べ過ぎてもっと太ればいいのにさ。
エッバは自分の頬が濡れているのが分かった。
「ナツミが……普通の嫌な女だったらよかったのに」
そうしたら、怒りと怨みに燃えていられたのに。
悲しいって、苦しいって思わなくてよかったのに。
「む。今更失恋を自覚か」
「うるさいなぁ。これっぽっちも望みがないって分かったら何だか急に。もうっ!」
エッバはザームに拳を振り上げる。しかし力が入らない。ザームの割れた腹筋の上にぽてんと力なく左手が下ろされた。
「自分の為に少し泣くぐらいさ……っっ」
いいじゃない。
それからエッバは俯くと白い石畳にパタパタと染みを作った。
「む。そんな拳は快楽にもならんぞ」
ザームはエッバの背中を撫でて子供をあやす様に優しく叩いていた。
相変わらずノアが灰になったままだ。なのにマリンはニコニコしながら手を引いていた。
マリンがいつもより凄く振り切っているというか。言いたい事をノアに言っている様な気がする。そしてそのせいなのか、天然具合が尖っているというか。私はザックに肩を抱かれてあれこれ考えながら歩く。ザックは今まで奴隷商人に跡をつけられていた時とは異なり、裏町の路地をまっすぐ歩いて行く。
道があっという間に開けて広くなり、観光客が多い通りに入った。建物も、白壁の建物が多くなりオレンジ色の屋根がほとんどになった。エッバの店があった裏町よりも、お土産屋さんや少し高めのレストラン風の店が多い。空を見上げると、雲一つない青空が見える。太陽が眩しいが頬を撫でる風は乾いているのが分かる。
少し暑くなってきたかもしれない。私の肩を抱くザックの掌も熱を帯びている。ザックも暑いと思っているのかなぁ。
そう感じてザックを見上げた時だった。ザックが歩く横に、ボロボロの建物が目に入った。
大きな木造作りの平屋だ。朽ちているのか所々壁に穴が開いている。高い天井の建物で斜めになった屋根の上には明かり取りの窓に見事なステンドグラスが見える。
今にも建物は崩れそうなのに、ステンドグラスは美しく二つの危ういバランスに私は口を半開きにして建物を見つめてしまった。
「そこはな集会所だったんだ」
「集会所?」
ザックが私の視線を追いかけて歩きながら説明をしてくれた。言われてみれば集会所という言葉がぴったりかも。何かの施設と言うよりも、人が沢山収容出来る場所という印象だった。窓という窓が壊れているのと、隙間から見える建物内も木の長机や椅子が散乱している。
そんな中、明かり取りのステンドグラスから差し込む七色の光が美しかった。
「この間あった花火大会がある様な祭りの時に使われていたのさ。今は宿屋があったり食事をする店があったりするから使われなくなったのだけれどもな。俺達が子供の頃にはもう使われていなかったな。だけど、ここまで酷くはなかったなぁ。今にも崩れそうだよな」
「へぇ……向こうには森が見えるね」
よく観察すると、この集会所と呼ばれる朽ちかけの建物は『ファルの町』の一番端、森側にあった。整備された港の端を乗り越え、石畳や砂浜ではなく岩が土を覆い始めた場所にポツンと立っている。
「そうだな。建物の奥は森になっていて山が始まる。その奥にはこの間訪れたノアの別荘があったり、更にその奥には北の国へ向かう山道につながっている。その山道の手前に北の国から来ている役人達の居住区域になるんだ。そして更に奥には『ファルの町』の役人や領主がいる城、そして軍の施設があるんだ」
「ふぅん……」
海を目の前にして今までいた裏町と私が今留まっている『ファルの宿屋通り』がある。これらをひっくるめて『ファルの町』であり、その後方は森で山道を越えて行けば北の国に通じていると言う事か。
その建物の真正面に出る。足元は土に埋もれた岩が所々ゴツゴツしていた。数十メートル先は崖だ。
と言う事は──
「うわぁ~海!」
私は肩に置かれたザックの手を握りしめて彼を引っ張りながら走り出した。
「お、おい。こらナツミ。ハハッ」
私に突然引っ張られたザックはつんのめりながら長い足で私を追いかける。
「ナツミ、ザック! 待ってよぉ。急に走り出すのは危ないわよ~」
後ろからノアを引きずるマリンの声が聞こえる。だけれど振り向いていられない。だって、ほら、そこには──
崖の先まで一気に走りピタリと止まる。目の前には『ファルの町』の玄関口である、海が見えた。海水の透明度は高い。
私は自分の両膝に手を添えて崖から下を覗き込んだ。海はかなり深いのか、透明度が高い海でも真っ青だった。岩肌に打ち付ける波も今日は穏やかだ。それでも白い飛沫を上げる波。音と同時に潮の香りがする。日本の海とはまた違う、異国の海の匂いだった。
例えると、日本の海は濃い磯の香りだが、ファルの町の海は爽やかな潮の香りだ。
「おお~深い。波も今日はあまり高くなさそうだね。本当に透明度が高い海だね。よく見ると海の底が見える様な……」
黒い岩はあまり飛び出していないし、崖の高さは十メートルもない。水泳の高飛び込みより低いと感じる。
「おいおい、そんなに上半身を倒すなよ」
ザックが笑いながら私の両肩を押さえてのめりこむ様に海を覗き込む私を後方に引っ張る。
「何て素敵なの。もしかしてここから飛び込めたりする?!」
私は前のめりになったまま隣のザックの顔を見つめる。飛び込めるのならこんなに楽しい事はない。海にダイブ出来るならさぞ気持ちがいいだろう。
するとザックが目を丸めて驚く。それからニヤリと笑って口の端を上げる。
「素敵とくるか。あーあ驚かせようと思ったのに。怖がるナツミが見たかったなぁ。もちろん下はかなり深い海でな、下にある岩にぶつかる事もなく飛び込む事が出来るぜ」
「本当?! うわぁ今から飛び込みたい!」
「そう言うと思った。だが今日の気温では水温が低いと思うから止めとけ。もっと本格的に暑くなってきてからの方がいい。びっくりするぐらい冷たい海なんだ。心臓が凍りつくぜ」
「え~そうなの……残念だなぁ」
私は首をかくんと下げてうな垂れる。
海水が冷たいのは理解出来る。深い海であればあるほど突然冷たい海水で体が固まってしまう場合もあるから注意が必要だ。
ザックの言う事に素直に従い、それから覗き込む為に倒した体を起こしてザックと向き合う。ザックは両手で私の二の腕を掴んで向かい合って笑う。
風が一瞬強く吹いてザックの髪の毛をなびかせた。
金髪が日に透けてキラキラと光る。垂れ気味の二重を眩しそうに細めて、笑うと視線を私から海に戻した。
「ここはさ、俺達が子供の頃の遊び場だったのさ。度胸試しでここから飛び込むんだ」
ザックは海を見つめて遠い日を思い出している様だった。
「度胸試しだったんだね。私は楽しくて仕方ないから何度も飛び込みたいと思うけど」
私はザックと同じ様に海を見つめながら呟く。
「ぷっ。ナツミにかかれば楽しくて仕方ないになるのか。はぁ~並大抵じゃないのは分かっていたけれども。少し怖がる様子も見たかったな。子供の時さ、分かっているヤツにはたいした崖じゃないって感じるんだがな。なんせ泳げないヤツにはなぁ、地獄の崖っていうかさ、命を落とすんじゃないかって感じるみたいでな」
「え」
それは当たり前だろう。
泳げなければ飛び込むどころではない。それに、高さは問題ないと思うがおかしな落ち方をしたら体を水面に打ち付け大変だろう。そのせいで怪我をするかもしれない。
そうしてザックはゆっくりと海側から陸側に視線を移す。私もつられて視線を移すと、その先にマリンと手をつないで青白い顔をしたノアが立っていた。
ノアは真一文字に口を結ぶと肩に力を入れていた。それからマリンの手を今度は強引に引きながら、一歩、一歩崖に近づいてきた。そうして私とザックの一メートルほど先で立ち止まる。
ノアは少し背伸びをして、私の先にある崖を覗き込んで鼻の頭に皺を寄せた。
「ザックは当時本当に粗暴だったんだ。海に一度も入った事がない子供がそこから突き飛ばされてみろよ。どんな気持ちになるか」
先程は灰になっていたノアだが、崖を目の前にザックに向かって唸る様に声を上げた。それから肩で大きく息をして脱力する。
「水面に体を打ち付けて痛いのなんの。しかも海はしょっぱいし冷たいし死んだと思ったんだ。俺はそのせいで水が海が怖くて泳げなくなったんだよ」
ノアはガックリ肩を落とした。
そういえばザックと付き合う事になった翌日にノアが私を締め上げに来た事があった。あの時噴水の水ですら大騒ぎだったし。あの時確か『昔ザックが海に突き落とした事が原因で泳げなくなった』と言っていた。確かザックは『泳げる様にしようとした』と言っていたけれどもこの崖から突き飛ばすとは乱暴な事極まりない。
ノアの様子を見てから私は無言でザックを見つめる。するとザックはバツが悪そうにして小さく「ごめん」と呟いていた。口を尖らせて酷く言いにくそうにしている。そう、子供が謝っている様だ。
そんなザックの言葉にノアは少し目を丸めて驚いていた。ザックが素直に謝ったのが意外だと言わんばかりに。ノアは優しく微笑んでザックを見つめると、手を挙げて左の方向を指差した。
「何だか最近は些末な事だと思う様になったぜ。そんな事もあってな、この崖に留まるのはまだ苦手なんだ。全く、こんな弱味みたいな事は言いたくないのに。その内克服してみせるがな。とにかく、今はそこの崖を降りる坂道があるから。さっさと下に降りて浜辺に行こうぜ」
「え、浜があるの?」
私は驚いて改めて崖から海を見つめると、ノアが指差した方向、左手に小さな砂浜があるのが見えた。
崖がジグザグに階段の様な道が出来ている。そしてその下には、崖に囲まれて丸く半円になった白い砂浜が見えた。綺麗な浜辺なのに人は誰もいない。
「人が誰もいないなんてもったいない。ここからでも白い砂っていうのが見える。とっても綺麗だね。プライベートビーチみたい!」
私が興奮してザックを見上げるとザックが聞き慣れない言葉に目を丸めた。
「ぷ、ぷらいべ? 何だそりゃ。まぁいいか。そうだな人も来なくて丁度いいしな。ゆっくり海に入ってみようぜ」
ザックが気を取り直してウインクをしてくれた。私の手を引いて改めて砂浜に降りる道に向かって歩き出す。
「うふふ、ノアと一緒に海に入れるのは夢みたい。ねぇ、ノアは知ってる? 海水って水みたいに透明なのに凄くしょっぱいのよ。私この間溺れた時に改めて感じたわ~ふふ」
マリンが溺れた時の事を思い出しても平気に笑う。
精神が強いのか、それとも暢気なのか全く分からないけれどもノアとは違いすっかりトラウマは克服しているマリンだった。
ノアの手を引きながら嬉しそうにはしゃいでいる。そんなマリンに苦笑いしながらノアが呟く。
「ハハハ……マリンは、強いなぁ。俺も知ってるよ。だって溺れたからな」
「そうね、私達溺れた仲間ねっ」
「……」
返す言葉が出なくなったノアはひきつった笑みのまま再びマリンに引きずられている。
なので、私は思わず尋ねてしまった。
「マリンさぁ。何だか本当に嬉しそうだね。何かノアに対して、ズバズバ──じゃないや、えぇと、沢山意見しているというかさ」
意見なのか、感想なのかは謎だが、大分グイグイ話をしている様に思う。
「うん。今までノアに嫌われるかなぁとか、馬鹿にされるかなぁとか思ってね、なかなか言えなかったけれども。少しだけ話が出来る様になって嬉しいなって」
「す、少し?!」
アレで少しなのか? いやいや、マリン少し直球過ぎる様な気もするけれども。
私が目を丸めて坂道を下りながらマリンに振り向いた。
マリンは振り向いた私の顔を見て舌を出した。
「ふふ。ちょっと強引な事は分かっているけれども。さっきもお芝居の事を聞かれた時に『あっ言えた』って思う自分もいてね。ごめんねノア、ちょっと意地悪だったわね」
マリンは引きずるノアをそっと見上げて両肩を上げた。頬を桃色に染めて悪戯がバレた女の子みたいに可愛く笑う。
可愛すぎる! 私はゴクンと生唾を飲み込んだ。
当然ノアもマリンの言葉に驚いていたが笑顔を見て頬を染めた。それからニヤリと笑ってマリンを後ろから抱きしめる。
「結構傷ついたんだからなぁ。マリン、海に入ったら覚悟しておけよ~」
まだ完璧には泳げないのにノアが格好つけて笑っていた。突然抱きしめられたマリンはキャッキャと声を上げて笑う。
「この間一緒に泣いたのが嘘みたいだね。凄い仲良しカップルになってしまった。そういえば、こう言うのって『雨降って地固まる』って言うんだよね」
私が呟いた言葉にザックが笑い声を上げた。
「何だよそりゃ。聞いた事ないぞ。変な言葉をナツミは知っているなぁ。さて、ついたぜ。ここは子供達の遊び場なんだが今日は誰もいないな」
崖からジグザグの坂道を下り、白い砂浜にたどり着く。
目の前には幅十メートル程のビーチがある。砂浜の砂は白くてサラサラだった。日が照りつけて砂も熱くなっている。砂浜には二メートルほどの黒い岩が左右に二つそびえ立っている。丁度荷物置き場の目印で丁度いい。
そして波の音──
「~~!! ザック、ほら一緒に」
私は嬉しくなってザックを引っ張って海に飛び込もうとした。
「待て待て。服を脱ぐから」
そう言って砂浜に降り立ったザックは腰にぶら下げていた剣を外し、黒いシャツを勢いよく脱ぎ捨てた。
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