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151 ライフセーバー異世界へ
しおりを挟む白い石畳が夕日のオレンジ色に染まりつつある。長くなった影を見つめながらザックに手を引かれて歩く。慣れないヒールだから、時折石畳に引っかかる。
ザックがゆっくりと振り向き私の顔を見つめると優しく笑った。
その微笑みがくすぐったくて私は視線を逸らす。
「ごめんね。ヒールが慣れなくて」
格好よくジルさんの様に高いヒールで歩く日が来るだろうか。
靴も白いAラインのワンピースに合わせて、シルバーのラメが入っている装飾がシンプルなものだった。軽くて歩きやすいのにヒールが五センチある。慣れない私には扱いにくい靴だった。
そんな私の爪先から頭の先までザックは舐める様に見ると、繋いだ手の甲を親指で撫でた。
「ナツミは直ぐに謝るよな。気にしなくていいぜ。凄く可愛い似合ってる」
ザックの低くて掠れた声で呟く様に言われると、否が応でも胸が高鳴る。
ウツさんのお店から坂を上り、角を曲がると再び坂を下る。お店が並んでいる通りだが、今日は開店休業の様になっている。
皆が裏町の中心部に集まって、飲めや歌えの騒ぎとなっている。その証拠に喧騒が遠くに聞こえる。ザックが目指しているのは中心部から離れた場所、露店を出していた浜辺だった。
ザックは厚めのラグ丸めて肩に担いでいる。反対の手は私の手を引く。音楽が一段落したのか拍手や歓声が遠くで聞こえた。
「皆盛り上がっているなぁ。中心部を通り抜けようとしたら危うく揉みくちゃになるところだった」
ザックが歓声を聞いてから、ゆっくりと歩き笑った。
式典では一番上まで留めていたシャツのボタンだが今は全開だ。それにズボンにきっちり収めていた裾も外に出して随分とラフな姿になっていた。
揉みくちゃになるところだったという事は制服を引っ張られたのかも知れない。撫でつけていた髪の毛も少し乱れている。
ザックの鍛えられた胸元と長い足が目に入って私は頬を赤らめてしまう。改めて見ると本当にザックは格好いい。今更彼の姿に見とれるなんて。夕日がオレンジ色で助かった。顔が赤くなっているとザックに笑われてしまう。私は繋いだ手と反対側に持ったバスケットを持ち直した。
海が開けて見える場所に来た。夕日がゆっくりと海の向こうに沈みはじめていた。眩しくて目を細める。
「わぁ綺麗」
透明度が高いファルの海がキラキラと反射して水面が輝いていた。遠くにはいくつか島が見える。その内の一つがアルさん達のいる島だろう。
島から見える夕日は、この浜辺から見える夕日よりもっと大きいかな? もっと近くに見えるかな?
アルさんは今どんな思いで夕日を見ているのだろう。そしてその夕日は私が見ている夕日と同じ色だろうか? 違う色だろうか?
複雑な心情から見える風景が変わってくるかも知れない。出来るなら美しく綺麗な夕日をアルさんにも見てほしい。
「どんな色の夕日を見ているのかなぁ」
私の呟きを聞いたザックが足を止める。
そして海と夕日を見つめると、瞳を閉じてフッと微笑んだ。
「きっと美しさに感動しているんじゃないかな」
私の呟きの理由が分かったのか、短く答えると再び私の手を引いて歩き出した。
やがて砂浜に降りてザックは靴を脱いだ。裸足になるとズボンの裾を数回折り曲げてすねを出すと、パッとサラサラの白い砂を蹴った。私もヒールを脱ぎ裸足になってザックと同じ様に砂を蹴った。昼間の熱を蓄えた白い砂がパッと散ると私の足の裏を程よく温めた。
波の音を聞き潮風に当たり少しだけ海を眺めた後、ザックは砂浜の奥にあるヤシの木の木陰に持っていたラグを大きく広げた。
ブルーの色をしたラグはシングルサイズの毛布ほどの大きさだった。薄手だが肌触りがよくてしっかりしている。ザックはラグの上に座ると両足を投げ出す様に座った。長い足がラグからはみ出している。それからザックは隣をポンポンと叩くと私に座る様に促した。
「座れよ。ここから夕日が沈むのを見ようぜ」
「うん」
私もザックと同じ様に足を投げ出して座る。ザックと同じ位置に座ると足の長さが全く違う事に驚かされる。
初めて出会った時もザックの足の長さに驚かされたっけ。マリンを助けた翌日に、お腹が空いて食事をしているところにザックが来た。ザックは私の事を怪しい少年だと決めつけ、隣でずっと睨みつけていたっけ。足が長いから横に座る私に、膝が当たっていたっけ。
そんな出会いを思い出しながらザックの足を見つめていると、ザックがバスケットに手を伸ばして中からワインボトルを取り出した。栓を抜くと中からシュワシュワと音を立てて泡が吹きだしてきた。
「おっと」
ザックがその泡を逃さない様にボトルに直接口をつけ煽る。グラスはないから豪快に直飲みだ。中身はスパークリングワインの様だ。
ザックは一口飲むと手の甲で口を拭い、溢れた液体をバスケットに入っていた布巾で拭う。それから私にボトルを突き出した。
「そんなに度数は高くないからナツミでも酔っ払う事もないと思うぜ。少し飲んでみろよ」
「本当?」
私はおどおどしながらボトルを受け取る。
「ああ。食後のココに入れるリキュールよりずっと低い度数さ。ジュースみたいなもんだ」
ザックはニヤリと笑って私の頬をぷにぷにと触った。
「もう、あの事は言わないで。失敗だったの!」
水泳教室をしにノアの別荘に行った時、出されたエスプレッソに似た飲み物『ココ』に私は大量のリキュールを入れてしまいあっという間に酔っ払ってしまった。
ビールやワインも一杯ぐらいなら問題ないのだが、あのリキュールは相当度数が高いのかあっという間に酔っ払ってしまいノアに暴言を吐いたのだった。
「あれは傑作だったな。あの出来事もさ雨季前の話だから結構前になるのな」
ザックがバスケットの中から、生ハムを摘まんでパクリと食べ夕日を見つめた。
「そうだね。雨季前だったね……よく考えたら色々な事があったね」
私はボトルを持ち上げてザックと同じ様に直飲みでスパークリングワインを一口飲んだ。味がりんごジュースに似ている。
「凄く美味しいね。りんごの味がするね。飲み過ぎちゃいそう」
ザックが私からボトルを受け取ると再びバスケットに戻した。そして私の肩を抱き寄せた。
「りんご? よく分からないが、これはな北の国で作られたスパークリングワインなんだ。この間、北の国に新しい大隊長として事前に顔見せに行った時に買ってきたんだ。ナツミと一緒に飲みたいと思ってさ」
「北の国へ行ってたんだ。そうだったんだ」
通りでなかなか会えなかったはずだ。北の国に出向いていたのだから。ザックが顔を見せなかった数週間を思い出して私は再び落ち込んだ。そして甘える様にザックに寄り添い夕日を見つめた。
夕日はもう既に半分ぐらい海の向こうに沈みかけている。真っ赤な色とオレンジ色が海に溶ける様になっている。天には星が見えはじめていた。
「リココっていう赤い実を熟成して作るワインなんだ。リココは寒い土地にしか育たない果物でさ、赤い拳ぐらいの実でそのままでも食べる事が出来るんだ」
ザックが私の肩を抱いたままリココという果実について、自分の拳を見せて説明をしてくれる。説明をしてくれるザックの横顔を見ながら私はポケットの中の木箱をそっとスカートの上から触れた。
箱に入っているのはザックへの贈り物だ。魔法石のピアスが入っている。
私がウツさんから分割払いで手に入れた(格好悪いけれども)魔法石を、直径一センチ程度の丸い石に形を加工してもらった。ピアスは金のポストに魔法陣を彫った厚めのキャッチと、とてもシンプルな造りだった。
このピアスは私とザックのどちらかしかピアスを外す事は出来ない。つまりザックからもらったネックレスと同じ仕様だ。
ザックが私に魔法石がついたネックレスを贈ってくれた時と同じ様に、石に私の血を一滴垂らせば私の瞳の色と同じ色に輝く。
と、言う流れなのだが。
夕日と海を見ながらのシチュエーションって、ザックが私に魔法石のついたネックレスを贈ってくれた時と全く同じだし。ああ~何だか無駄に緊張してきた。
そう言えばウツさんに言われてピアスにしたけれども、私と同じネックレスがよかったかな。って言うか今更ピアスなんて欲しくないとザックに言われたらどうしよう。それにナイフで指先を傷つけて血が上手く出せるかな、手違いでざっくりとか。痛いそんなの痛すぎる。
どうしよう。どうしよう。
緊張のあまり余計な事まで考えはじめてしまいダラダラと冷や汗を流す。私の息を飲む様が当然肩を抱いているザックに伝わって、ザックが私の目の前に顔を近づけた。
「何か肩に力が入っているみたいだけど。もしかして俺の話つまらねぇ?」
「わっ! ち、違う、違うからっ! そ、そのあの。話がありまして」
私は突然眼前に現れたザックの顔に驚いて目を丸める。どもりながら首を左右に千切れるほど振って見せた。
するとザックが少し困った様に笑った。それから頬をポリポリとかいた。
「そうだよな。大事な話があるって言ったのは俺だもんな。話の内容が気になるよな」
「あ」
そう言えばザックが就任式の時に言っていた事を思い出した。ウツさんの店で待ち合わせる事になって──
──大切な話があるから一人で来るんだぞ──
ザックは私にそう囁くとキスをしたのだった。
別の理由で落ち着かなかった私だが、ザックは勘違いしてしまった様だ。しかし今更改めて話って言われても、何の話だろう?
もしかして、大隊長に就任したから何か大きく変わってしまう事があるのかな。例えば、北の国へ出向く事が多くなるとか?
それならば、こんな私の気持ちがこもりすぎた呪いの様な魔法石を贈るのはザックの負担になるかな。不安になって私は生唾を飲み込むと真横に座るザックに正座をして向き合った。
「実は私も話があるのだけど。そのザックの話を先に聞くね」
私の真剣な姿にザックもゴクリと唾を飲み込み、同じ様に方向を変えて私と向き合う。
ザックは正座をしている私の体を長い両足で囲った。
それから私の頬を両手で掬い上げ、前髪を後ろに撫でながら微笑む。
「アルや奴隷商人の事があったから『ジルの店』に泊まり込みで、と言うよりもほとんど住んでいたけれども。それも終わりだ。明日からは今まで通り軍の寮に戻る事になった」
そうだ。アルさんの事があったからジルさんの提案で住み込みで働いていたし、更にその後命令で奴隷商人を捕まえる為に軍から離れていた。
当然全てが解決したのだから一緒に同じ部屋で寝泊まりする事はなくなるのだ。
「こればかりは仕方ないよ。だって『ジルの店』は宿屋だしね。何だか今まで帰って来るのが当たり前になっていたから寂しいけれども。私はザックがお店に来てくれるのを待ってるよ」
そう言いながら胸の辺りが締めつけられる。これからはザックが訪れるのを待つだけになるのだ。だって軍の寮に一般の私が足を踏み入れる事は出来ないし。
するとザックがじっと私の瞳を覗き込み、両頬をそれぞれの親指で撫でた。
「この間、仮眠を取りに軍の寮に戻ったらさ扉を開けた途端『ただいま』とか言ってしまって。部屋に戻るとさ、ナツミがいるみたいな錯覚を起こすんだ。誰もいない部屋なのに振り向いてベッドの上にナツミがいるか確かめたりして。当然いなくて溜め息をついてさ。仕事からようやく解放されたのに。更に疲れるってヤツ」
ザックが困った様に笑って首を傾げた。撫でつけた髪の毛が少し乱れて一房目の前に垂れていた。
「私も一緒だったよ。朝起きてザックが隣にいないから確かめたりしていた」
シーツが冷たくて先に出かけたのかな? 等と寝ぼけた頭で考える。そしてザックがいない事を知って私も寂しくなってしまうのだ。
「そうかナツミも同じだったか」
ザックがコツンと私とおでこを合わせて笑う。
「うん同じだよ」
ザックの首に両手を回して私も微笑む。
この瞬間だって大切にしないと。触れ合えるのは次はいつなのか分からないのだ。そう思った時だった。ザックが今度は自分の高い鼻を私の鼻と擦り合わせてニヤリと笑い白い歯を見せた。
「よかったナツミも同じ気持ちだったのなら話は早い。俺と一緒に暮らそうぜ」
「うん。そうだね一緒に暮らそ、え?」
あまりにもサラリと言われたので頷きオウム返しをしたが、私はその言葉に驚いて目を丸めてしまった。
ザックはお尻のポケットから長さ十五センチ程の鍵を二本取り出した。持ち手の部分には凝った彫りが施されていて、二つ合わせるとバラの花の模様になった。
ザックはその内の一本を私の右手に握らせる。
「え。これ何?」
私はわけが分からず握った鍵とザックの顔を行ったり来たりする。ザックはニヤリと笑ってもう一つの鍵を自分のポケットにしまった。
「裏町にさいい感じの空き家があってな。実はその物件はウツが持っている家でさ。そこを借りたんだ」
「借りたって。ザックが一軒家を借りたの?」
「うんそう。平屋だけど二人で住むには丁度いいんだ。ナツミも裏町で顔が知れたし、裏町で暮らすのも問題ないだろ」
「う、裏町って。ふ、二人で住むって」
「小さい平屋さ。部屋は二つさ。それにキッチンと風呂場と便所がついていて快適なんだぜ」
「あの、私『ジルの店』で働いているのだけど」
「そう言うと思った。借りた家は『ジルの店』から徒歩十五分だ。帰りは『ファルの宿屋通り』の門番のヤツらが送ってくれるって事になっているから、夜遅くても心配ないぜ」
「だっ、だけど。ほら学校計画とかあるし」
「それは俺だって協力するって話だろ?」
「……」
私はそれ以上言葉を続ける事が出来なくなってポカンとしてしまった。
私がザックと一緒に住む。それって、それって。
私の反応がなくなった事にザックが笑っていた顔を真顔に戻し、つり上がり気味の眉を垂れて首を傾げた。
「もしかして嫌か? 俺と暮らすの」
口を尖らせて子供の様に拗ねて見せた。
「そんな意地悪言わないで。分かっているくせに。嫌なわけない……」
私はどんどん涙声になるのが分かった。目の前のザックが滲んで見える。
ザックが私の涙をゆっくりと親指で拭うと、あのネックレスを贈ってくれた時と同じ様に笑った。しかし少しひきつっているのが分かる。ザックも緊張しているのだ。
「ナツミのいない生活はもう俺には考えられない。ずっと側にいてほしい。俺と一生を共にしてくれ」
ザックがそう言って私の鍵を握った手をもう一度その上からきつく握った。
私はザックの首に飛びついて頭を抱きしめた。
「うん! 私もザックの側にいたい。お願いしますっ!」
そう言った途端ザックが私の背中をぎゅーっときつく抱きしめて、大きな溜め息を耳元でついた。
「ああもちろんさ。はぁ~返事をもらうまで怖いもんだなぁ」
そう言ってぐりぐりとおでこを私の肩に押しつけて笑っていた。
「もう! 突然すぎるよザック。何だかわけが分からなくて、びっくりするばかりだよ」
私も泣き笑いながらザックの頭を抱きしめる。
こんなに嬉しい事ってあるだろうか。好きな人と愛する人と一緒に暮らせる未来が来るなんて。
ザックはもう一度溜め息をついて、きつく抱きしめた私からゆっくりと離れてもう一度私の顔を見つめた。
「驚かせて悪かったよ。離れていた間、考えるのはナツミの事ばかりでさ。いても立ってもいられなくなってな、直ぐに行動だと思って。これからはナツミのいる場所が俺の帰る場所だ」
そう言ってゆっくりと顔を傾ける。ザックの頬には次第にコバルトブルーの光がかかっていた。
「うんザック」
名を呼ぶとザックがゆっくりと長い睫毛を見せて唇を近づけて来た。重ねる瞬間とても小さな声でザックが囁く。
「ナツミ。愛している」
あまりにも優しい言葉に私は驚いて目を開く。
狡いよザック。そんな切なく呼ばれたら私は全てを差し出すしかない。
私も愛している──その言葉はザックが唇を合わせた事で吸い取られてしまった。
何度も角度を変えてキスを受ける。飲み干せなかっただ液が口の端から溢れるとザックが追いかける様に舐め取った。それからは息つく暇もないぐらい舌を絡められ鼻を頬で塞がれ、クラクラとめまいがする長い長いキスをした。
ゆっくりと唇を離すと、ザックの口も私の口も少し赤く腫れ上がっていてお互いがその様子を見て笑ってしまった。
夕日は沈み、気がつくと夜の闇が訪れようとしていた。今日は大きな月が雲に隠れる事なく顔を出している。明るい夜になると感じた。
町の喧騒が遠くに聞こえる。浜辺には誰も寄りつかず、ラグの上で私とザックは肩を寄せ合って飽きる事なく海を見つめていた。涼しい海の風は髪の毛がごわつくけれども、浜にいる瞬間はそんな事微塵も感じない。
月明かりと宝石の様にちりばめられた星空を見つめて、私は一生この日を忘れないと思った。
バスケットの中に入っていた生ハムや果物を食べながら、どんな家にするか二人で話し合う。
カーテンはブルーがいいな。
お揃いのカップは白いのがいいな。
ベッドはやはり一つがいいね。
そんな他愛もない話をした時に、ザックが思い出した様に両手を叩いた。
「そう言えばナツミの話したい事って何だ?」
「あ!」
その一言で私は自分のポケットの中にしまっていた木箱を思い出した。私は葡萄を自分の口に押し込めながら布巾で手を拭うと、ポケットから木箱を取り出した。
「ザックが先に驚かせるから、すっかり忘れちゃったよ。はい」
そしてザックの掌にポンと載せる。
「木箱? 何だ俺にくれるのか。開けていい?」
ザックは木箱を見て首を傾げ私に尋ねた。
「うん。開けてみて? 私からの贈り物なの」
私はそう言いながらバスケットをたぐり寄せる。確かバスケットの中に果物ナイフがあったはず。私がナイフを探している間ザックが木箱を開けて、中身をひっくり返して自分の掌にピアスを載せていた。
「ピアスじゃないか。へぇ丸い形のピアスか。綺麗だな──え? これって」
ザックがピアスの丸い石がグレーの色をしている事を確認して驚いていたザックは丸い石が宝石様の魔法石である事を理解したのだ。
それから私が手にナイフを持っている事を見つめて息を飲んだ。
「そんな……嘘だろ」
ザックはそう呟くと口を開けたまま固まってしまった。
私はナイフを左手の薬指の先に当てる。
「私もザックに贈る魔法石に願いをかけるよ」
ゆっくりと突き刺すと、小さな傷の先から血の風船が出来た。それをザックの掌にあるピアスの魔法石の部分に血を垂らす。
すると一瞬で、黒くて丸い石に輝いた。
「ああ~真っ黒。やっぱり宝石って言うよりも、呪いの石みたい」
「呪いだなんて……ナツミの美しい瞳の色だ」
ザックが掠れた声で呟いた。
色の変わった石を濃いグリーンの瞳がじっと捉えて放さない。私は人指し指を布巾で拭って血を止めると、ピアスのキャチを外してゆっくりとザックの左の耳朶にある小さな穴に差し込んだ。久しぶりにピアスを刺すからなのか、少し薄い皮の様な引っかかりがあった。しかし、ザックが私の指の上から勢いよく握りしめてピアスを通した。
「痛くない?」
「痛くないさ。こんな、こんな事って」
ザックは私の顔を見ながら瞳を細めた。涙が少し目の縁に溜まっている。すっかり暗くなったが月明かりがザックの顔の輪郭を映し出していた。
私はキャッチを装着しながらゆっくりとザックの瞳を見て呟いた。
「私の願いはザックと同じ『ずっと側にいてほしい』……年老いてもずっと」
キャッチがカチリと音を立てた。
「私とザックしかこのピアスは外せないよ。ザックが送ってくれたネックレスと一緒だね」
そう言って笑うとザックがスッと頬に涙を一筋流して私を抱きしめた。
「魔法石を男がもらったのは俺がきっとこの世界で初めてだろうな」
「そうかな。世の中には沢山の人がいるから分からないよ?」
「いいや。俺が初めてなんだ。こんなに嬉しい事はない。このピアスは俺の宝物だ。俺だって……年老いてもナツミとずっと一緒だ」
そう言うとザックは私を抱きしめたままふわりと浮かせると自分に跨がらせて座らせる。
ザックがおでこ、瞼、頬、鼻先、そして指先に順番にキスをしていく。そして最後に唇を親指でスッと撫でると小さく呟く。ヤシの木の陰に隠れているが、ザックの濃いグリーンの瞳がギラギラと光る。
「いいか?」
「何が?」
「外だし浜辺だけど」
「うん」
「直ぐに抱きたい」
「……うん」
そう答えた途端ザックが私の背中にあるドレスのファスナーを一気に下げるそして剥き出しになった胸の先にかぶりついた。
「うっ、ん!」
肌が粟立つ。勢いよくかぶりついた割りに、肉厚の舌がやたら乳首を口の中で転がす。
まるで子供みたいに必死に吸いついて離れない。
「ザック……あっ」
声を抑える事が出来ず胸を突き出す様になってしまう。舐られる先が否応なく尖っていく。更に、ザックは私のお尻を両手で握りしめて、跨いだ足の付け根に自分の大きく膨れた股間を擦りつける。固くて熱いザック自身をズボン越しに感じる。
私はザックの両胸に手をついた。既に町から浜辺に向かって歩いてくる時からシャツの前は全開だったが、触れるのは今日は初めてだった。日焼けした肌が月明かりに青く浮かび上がる。
私は後ろに引っ張る様にザックのシャツを脱がしにかかる。モタモタしていると、ザックが口を外して私を下から覗き込む。
「シャツはいい。ズボンのベルトを外して前を開いてくれ」
苦しそうに熱い吐息で私の唇の前で呟く。瞳が濡れていて艶っぽい。私はシャツにかけていた指を止めて、ドレスのレースが重なったスカート下に手を忍ばせる。
その下にある、ザックのベルトを外しにかかる。ガチャガチャと忙しない音を当てて慌ててバックルを外し、ズボンの一番上にあるボタンを外す。
「うっ、はぁ」
ザックの熱い杭がズボンの前を貼っている。バックルを外す時、私の指が掠めてしまいザックが小さく呻いた。その声がやたら艶っぽくてもっと聞きたくなる。
私はファスナーを下げず、その突っ張った前の部分をゆっくりと掌で撫で上げる。下から上に、上から下にと繰り返すと、ザックは腰を揺らして唾を飲み込んだ。ニヤリと笑い上目遣いで私を見つめる。
「焦らすのかよ。後でどうなっても知らないぜ、っっ」
半ば脅す様な言葉を呟くけれども今は私が主導権を握っている。
「そんな事を言うの?」
私がギュッと突っ張りを握りしめると息をつめたのはザックだった。
スカートの重なったレースの下で私は、ザックの大きく張り詰めた杭を何度も撫でる。ザックはズボンの上から触れられるのがもどかしいのか顔をしかめて首を左右に振った。
「悪かったよ俺の負けだ。頼むから早く俺を出してくれ。ナツミと一つになりたい」
ザックが左右に顔を振る度に、左耳のピアスが月の光を浴びて光っていた。
「ふふ」
私は満足して跨がったザックの上で一度立ち上がる。その私の姿を下から見上げながらザックが肩で息をしていた。
ザックに下げられた背中のファスナーは腰のところまでで止まっていて、上半身だけだらしなく剥き出しになっている。私はそのままスカートの下、ショーツに手をかけて右足、左足と抜いて脱ぐ。その様子をザックが自分の唇を舐めながら見つめていた。
もう一度ザックの上に跨がって座る。スカートの下は何もつけていない。スカートの下に隠れたズボンのファスナーをゆっくりと下げた。
「んっ」
ザックが勢いよく飛び出てきた自分自身に息を飲んだ。スカートの前に山を作ったザック自身が見えたので、私は腰を上げてその上に跨がった。
「あっ」
「何だよ……もう濡れてるじゃないか」
「恥ずかしいから、言わないで」
「ほらっ早く腰を落とせよ」
ザックが片手をスカートの下に忍ばせて自分の杭を固定する。その上にゆっくりと腰を落とす様にもう片方の手で腰を押さえた。
「んっ! あっ、はぁ……」
数週間ぶりのザックの高ぶりは驚く程大きくて固く、結構な衝撃を受ける。私は思わず頬をひきつらせた。
「ああっ入った。痛いか?」
ザックが溜め息をつくと私の頬を撫でて心配そうに覗き込んだ。動かずじっとしてくれているとじわじわとザックの形に私の膣内が馴染んでいく。
「大丈夫。ねぇ気持ちよくして?」
ザックの両頬を包み込んで微笑むと、ザックがゆっくりと顔を傾けてキスをしてきた。
「ゆっくり動くから、な?」
そう一言呟くと舌で私の唇をベロリと舐めた。それから触れるだけのキスを繰り返しゆっくりと腰を動かす。私のお尻を両手で握りしめると、ゆっくりと持ち上げ下げてを繰り返す。時には前後に腰を揺する様な動きを加えて私を酔わせていく。
「あっ、んっ、いい。凄く、気持ちいいっ」
揺らされると全身から汗が噴き出してくる。気持ちよさでお腹の奥がキュンとなる度にザックが顔をしかめて歯を食いしばる。
「久しぶりだから余計かな。膣内が凄く動いて搾り取られる。ヤバイいつも以上に早いかも」
ザックがキスを繰り返しながら熱い息を吹きかける。前髪は乱れていつもの様に額にかかっている。汗がじわりと湧いてきてザックの太い首を流れていく。
近くに波の音遠くに町の喧騒。砂浜には誰もいない。私とザックだけで、この海を独り占めしている。月明かりの中、波に漂う様に抱き合う。
やがてザックが動きを早めると私の目の前にも火花が散りはじめる。
「ザック、イッちゃうっ」
「ああ」
「一緒に、一緒に、ああっ!」
「分かってる一緒に、なっ!」
ザックが動きを止めて腰を大きく数回動かした。私の中でザックが精を吐き出したのを感じたのと同時に、私も内太股を震わせて喉を反らせて達した。
ゆっくりと息を吐き出し、大きく肩で息をする。
「は、あ。凄く気持ちよかった」
「ああ。俺も」
ザックは私の唇をじっと見つめて再び優しいキスを繰り返す。私の中から一向に去る気配のないザックは再び勢力を取り戻して大きく固く力を持つ。
「なぁもう一度」
「うんザック」
静かな浜辺、見ているのは月だけ。
私とザックはそれから何度も体を重ねた。
「まだ遠くで騒いでいるのが聞こえるね。何時頃だろ」
「さぁな。夜中だろうけどまだ続くんじゃないかな」
「みんな元気だね、ふぁ……眠くなってきた」
「少し寝ようぜ。まだいいだろ」
散々抱き合った後ラグの上でザックと二人横になる。
身なりを適当に正した私達二人は重なったまま、ぼんやりと会話を続ける。
ザックは私を抱き寄せ私を自分の体の上に載せる。ザックの胸に頭を乗せてぼんやりと心音を聞いていると眠くなってきた。
「なぁナツミは学校を作ったらどうしたいんだ?」
ザックが私の髪の毛を優しく撫でながら尋ねてきた。
「もうだから学校は──まぁいいか。えーとね。まずはね……そうだ、私も文字を覚えたいなぁ。そうしたら日記とか記録が書けるし。ふぁ」
私は再びあくびをしてしまう。
「日記と記録?」
「うん。今までの事もちゃんと記録して残しておきたいな。ザック達との出会いも全部……私の素敵な宝物だから」
「記録かぁ。そうだなぁ俺の人生でも驚くぐらいの事が短期間で起こったしなぁ。くぁっ……」
ザックが私の背中をポンポンと叩きながら眠りに誘う。そしてザック自身も大きくあくびをしていた。
「うんそうなの……」
失恋をした私がライフセーバーの仕事中、まさかの異世界へ。全てはここからはじまった。
これからも未来はどうなるか分からないけれども、はっきりしている事が一つだけある。
私は愛する人を見つけた。こんな素晴らしい事はない。
「書き出しはね」
そう呟くと、私はザックの心音を聞いて眠りに落ちていった。
ライフセーバー異世界へ──そこから私達の物語がはじまるの。
── 完 ──
3
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これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
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私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
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転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
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このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
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─完─って…終わってしまったのですね。寂しくなります。
あっ、でも、マリンの先生っぷりとか、ザックとの同棲生活の感じとか、ノアの領主就任はなるのかとか、色々と続きが読みたいのですが、如何でしょう。
なんにせよ、続きとか、そう言った物を書くかどうかは作者様の構想次第ですので無理は申せませんが。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。読みにくいところも沢山あったと思います。完、と書けてよかった…
また短編などはかけたらなぁと思っています。何せ登場人物だけは多いので(^_^;)
本当にありがとうございました。
おわっちゃった〜!
とっても面白かったです!
おつかれさまです!
毎朝起きて続きを読むのがたのしみでした!
ありがとうございました!
でも、続編を希望します!
よろしくお願いいたします!
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
色々誤字もある中で読みにくいところも多々あったと思います。
短編などはまた思いついたらなぁと思っています。感想を頂けるとまた次の話を頑張ろうと思いました。とてもうれしかったです、本当にありがとう。
明けましておめでとう…には
ちょっと遅いですね
今年も楽しみにしてます!
自分が一昨年足を骨折しているので、
登場の仕方にびっくり!
物語もスケールがドンドン広がりそうですね!
おめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
物語も佳境です。長くお付き合い頂きありがとうございます。
上から登場して海に落ちるという(^-^)
一番書きたかったシーンでした!
感想ありがとうございました。
こちらにお返事をまとめさせて頂きますね(*^_^*)