【R18】普通じゃないぜ!

成子

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28 四日目

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「そういえばランチミーティングだったんでしょ?」
「おう。那波は一人で食ったのか?」
「今日は舞子と食べたのよ。それで和馬はどうだったの? 誰とのミーティングだったのか分からないけれど、お弁当は大丈夫だった?」
 私は和馬のお弁当箱がピンク色だった事を思い出し尋ねた。

(あれは恥ずかしかったわよね。だってキャラクターもついているし)

 なのに和馬は私が尋ねるなり破顔して、後頭部をポリポリかいた。
「弁当が大丈夫って? 別に何もなかったぜ。むしろ皆にうらやましがられたぐらいだ。みんな早速、那波が彼女になった事知っていて『弁当箱がピンクなんて。彼女の手作りか。へぇ~気が利くな』ってさ。もう、何かこう付き合い始めたって感じってやつ」
 頬もほんのり染めてデレデレと話をする。

(付き合い始めたって感じって、嘘の恋人だってのに。どうしてそこまで照れるのよ。こっちまで照れるし……でも、思った通り、和馬はピンクでキャラクターがついている弁当箱でも何も気にしないみたいね)

 私は「それなら良かった」と軽く返事をしながら鯖の味噌煮を頬張った。そんな私を目の前にしながら和馬は更に続ける。

「新しいプロジェクトの話と今のプロジェクトの中間報告を軽くする為のランチミーティングだったんだ。周りはほとんど年上だらけだけどな。えーと参加していたのは、販促部のリーダーの桂馬けいまと販促部の部長。社長室からはきゅうだったなぁ。あいついつもうるせぇけど今回はうるさくなかったな。だけど、俺の弁当をまじまじ見ていたぜ。多分羨ましいんだろ。後は、俺のいる一課のプロジェクトリーダーと──」

 販促部の桂馬とは、和馬の五つ上のお兄さん。つまり次男さんだ。社長室の久馬とは、和馬の八つ上のお兄さん。つまり長男さんだ。なんでも長男の久馬さんは和馬の食生活にうるさいのだとか。お弁当をじっと見つめただけで今回は何も言われなかったと言う事は、及第点だったのかな。

「へぇ」
 何その早坂ファミリーで構成されている豪華メンバー。三兄弟集結の会議とは。男前揃いで女性社員からのぞき見されそう。『凄い~格好いいわね』とはミーハーっぽいから絶対言わないけど。

 私は何の興味もない振りをして食べ進めるが、次の登場人物を聞いて思わず箸が止まった。

「それに企画部だな。企画部からは最近企画が通った長谷部っていう男と、部長が参加していたな」

 最近企画が通った長谷部という男性社員は、恐らく舞子が争っていた相手だろう。そして今私を考えの渦に巻き込んでいる企画部の部長──

 メンバーを聞いて、ふと思う。部長クラスや会社の幹部候補の顔見せミーティングだったのだろう。

(本当だったらその会議には舞子が出席していたかもしれないのにね。だけど、ランチミーティングは見事に男性ばかりね)

「ふーん。そうなんだ。男性ばかりのランチミーティングだったのね」
 私は溜め息をつきながら特に反応しない様に努めて返事をした。もし、和馬に何か気取られたとしても、とっちらかった考えだ。話しても仕方がない事だ。

 そう思い、私は新たな鯖の身をお箸でつまみ肩をすくめた。

「そうなんだよ今日は男ばっかでさ。そんなこんなで手作り弁当は俺だけで、みーんな仕出し弁当を頼んでたな。俺の弁当が一番美味そうだった。紅生姜が入った卵焼きって美味いんだな」
 ハハハと軽く笑いながら和馬は話を続けている。

 やっぱり高級弁当だったか。それでも和馬は嫌みではなく心底お弁当が嬉しかった様に語り続ける。

(ふふ。何かそこまで喜んでもらえたら作りがいがあるわね。それに今日のお弁当は和馬も作ったものね)
 私は和馬と一緒に笑い合った。でも、最後に和馬が気になる事を言っていた。
 
「そういえばさ、企画部の部長って二課の池谷課長と仲がいいんだぜ。よく飲みに行っているみたいだ。年齢差はあるけれども、同じ大学の先輩と後輩っていう繋がりらしいぜ」
「へ、へぇ。そうなんだ」
 意外だ。池谷課長が差別をする企画部の部長と仲良しなんて。池谷課長はどっちかって言うとそんな男尊女卑をする様なタイプじゃないのに──

 そこで私は少し引っかかった。

(本当にそうなのかな……って何を言っているの。尊敬する池谷課長よ? それこそ女の私に、仕事を教えてくれた人なのに。そんなはずは)

 まだ形のはっきりしないが浮かび上がった様な気分になった。だけど和馬の言葉にかき消される。

「池谷課長酒が好きだもんなぁ。俺も二課にいた時、那波と一緒によく飲みに連れて行ってもらったよなぁ」
「そうだね……」
 私は池谷課長に限ってそんな事はないと首を振って、考えを切り替える。とにかく、目の前の鯖の味噌煮に意識を集中する事にした。


 ◇◆◇

 食事の片付けと明日のお弁当の準備を終えると私と和馬はそれぞれお風呂に入った。和馬は狭い私の部屋をずっとひっついて来て、あれやこれや手伝いをしてくれる。

 和馬は大学時代から一人暮らしをしているのに何故か家事という家事をした事がないそうなのだ。

(それでお手伝いさんか。もう庶民じゃないわよ全然違うし。大体一人暮らしの部屋を掃除してくれるって、どんな坊ちゃんよ。お金持ちはさすがに違う)
 
 そう思えるけれども、和馬は私だけに作業をさせる事はなかった。気を遣っているのかどうかは分からないけれども、興味があると言い私にあれこれ聞いてくる。

 お皿の洗い方に下準備の仕方。どれも真剣に話を聞きながら手伝ってくれる。しかも腹がたつ事に(?)一度教えた事はすぐに出来る。

(何なんだろうこの手際の良さ。本当に家事をした事がないのかしら)

 出来る男は元々のポテンシャルが違うのか。私はあれこれ失敗を繰り返し、何とか出来る様になったのに。何なのだろう人としてのこの差って。世の中いつも不公平だ。

 とはいうものの、皿洗いもお弁当の下準備もいつもの倍以上のスピードで終える事が出来た。私と和馬がそれぞれ、ゆっくりとお風呂でくつろいでも、まだ日は変わっていなかった。

 一日の終わりのニュースを横目で見ながら、和馬はベッドの上で軽くストレッチをしていた。私もラグの上で見よう見まねでやってみる。

 色んなところが伸びて気持ちがいい。でも無理をすると足やら手やらあらゆるところがつりそうだった。

 お風呂に入る前には腕立て伏せと腹筋もしていた和馬だ。毎週木曜日は会社の帰りにジムで一汗かいているそうだ。通りでお腹が六つに割れているはずだ。ボディメンテナンスもきっちりしている。

(くっ。何もかも完璧なのは悔しい。顔が整って体つきも完璧で仕事が出来るなんて。それにしても……やっぱり定期的に運動する事がストレス発散なのかなぁ。和馬を見習って何か始めた方がいいかしら。そうしたら私もストレス発散してボン、キュッ、ボンって……ならないか)

 私のストレス発散はアダルト動画を見る事だったりするわけで。とても人に言えるものではない。だから和馬とこんな事になっているんだけどさ。

(まー、いつもなら今日みたいなモヤモヤ、悶々と考えてしまう日は、週末を待たずにアダルト鑑賞会しちゃうところだけど。和馬がいるからそれも出来ないし。変な趣味だと思うけどアダルト動画を見ながらの……は、ちょっと気持ちよかったりするのよね)

 等と、到底口には出せない事をストレッチをしながら考える。すると和馬がベッドの上から突然尋ねてきた。

「なぁ那波。俺とエッチしてからもう四日経つぞ」
「ぶっ……何を突然。それはそうだけど」
 私はストレッチしながら思わす吹き出してしまった。

 和馬がベッドの縁に腰掛けて足を組んだ。どうやらストレッチは終わった様だ。和馬はシャンプーで綺麗に洗い、乾かしたふわふわの髪の毛をかき上げると、やたら熱っぽく私を見る。

「四日経ったら俺、結構溜まるんだけど。那波はそんな事ないか?」
「は!?」
 思わず頭の天辺から声が出た。そんな私はそっちのけで和馬が首を傾げる。

「だからさ、那波は一人エッチとかしねぇの? するよな? そろそろしたくなったりしないか?」
「!!!」
 さらりと和馬は言うけど、びっくりする恥ずかしい問いかけに、私は思わず伸ばしていた太ももがつって、声なき悲鳴を上げた。
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