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011 7月23日 喫茶店 銀河
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博さんという七緖くんの伯父さんは、歓楽街手前の大通りで小さな小さな喫茶店を営んでいた。喫茶店の窓は木枠の格子。手前の窓の下の花壇にはツツジが植えてあった。入り口の側には、角が丸い長方形の高さ一メートルもない内照式の看板。
看板には白地に青色の習字書体でこう書かれていた。
「銀河?」
銀河とだけしか記載がない。そう「喫茶店」という文字が何処にもない。だからどんなお店なのか外見からは分からない。
「本当に喫茶店の名前なの?」
純喫茶風だと思うけれども何だか歓楽街の側だけに雰囲気がスナック? っていうのかな。お酒を飲めるお店に見える。
「何でもそれがひらめいたらしくてなぁ。何かカラオケ喫茶風やん? せめて英語にでもしたらって。いや、それはそれでやな」
「そ、そうかも」
英語にしても「銀河」って何って言うんだっけ? うーん。
立地としては悪くないと思う。私が知る限り二十代から三十代の女性をターゲットにしているカフェが近くに何件がある。高校生の私には少し背伸びをする感じのカフェだ。
歓楽街で飲んだ帰りにパフェ等を食べるという特集をテレビで見た事がある。だけどこの「銀河」というお店はテレビで紹介されていたカフェとは異なる……と、感じた。
ずぶ濡れになった七緖くんの隣で、濡れなかった私はその看板をじっと見つめた。
七緖くんがとうとうぽつりと呟く。
「見ての通り全然お客が来んの」
「それは喫茶店と思われていないからじゃないのかな」
「そうやと僕も思うんやけど。博は頑固で『銀河って名前でコーヒーとカレーを売っていく』って言うて聞かんの」
「えっ、カレー??」
喫茶店と言えばコーヒー以外にもパンケーキとかパフェとかサンドイッチとか。軽食かと思っていたのに、カレーって?! 私がそう尋ねると同時に七緖くんはカランとドアベル音を立てて喫茶店「銀河」のドアを開ける。
開けた途端スパイスの良い香りがする。カレーの香りだが優しくて良い匂いがする。そう感じる香りだった。店に客は一人もいなかった。
「いらっしゃいませ。って、何だ駿じゃないか。今日は塾の体験だったんだろ? って、何で濡れてんだ。雨やんだはずだよな」
ウェーブした黒い髪を後ろで一つに縛った白いシャツに黒いエプロンをした中年男性が声を上げる。客だと思って振り向いた男性はコーヒーカップを棚に片付けていた。私より数センチほど高い男性は痩せ型で整った顎髭が印象的だった。銀縁のスクエア型の眼鏡をかけている。
床板をきしませて七緖くんが喫茶店の中に入り、ドアを大きく開けて私に入る様に促す。
「濡れたんは降ってる雨のせいちゃうし。バスに泥水をかけられたん。ほな巽さん、ちょう入って待っといてくれる?」
「ま、待つって?」
つられて喫茶店に入るも、七緖くんはゆったり話しながら入ったばかりの喫茶店を出て行こうとする。
「僕の家、喫茶店の隣なん。服を着替えてくるし、待っといてな?」
七緖くんはゆっくりと話すと喫茶店のドアを閉めて出て行ってしまった。
「えっ、家は隣なの? あの、ちょっと、七緖くん?」
私の声も空しく七緖くんがドアの向こうで手を振り、隣の家に入って行ってしまった。
ついてきたのは私だけれども。意思に反して入った喫茶店「銀河」の店内に一人残されてしまう。喫茶店からすぐに出てい行く事も出来ず私は、仕方なく振り返ってカウンターにいる七緖くんの伯父さんに頭を下げる。
「す、すみません……」
何が「すみません」なのだろう。ひとまず私は謝るが気まずい。
伯父さん、博さんは首をかしげて笑うと、お手拭きを出しながらカウンターに座る様に促した。
「何で謝るの? どうぞこちらへ。雨で大変な一日だったね。あ、コーヒーは飲めるかい?」
流れる様に話す博さん。ごく自然に私をカウンターに座る様に促した。
「は、はい。大丈夫デス」
私はもごもごと返事をした。
お客は私一人だけだ。小さな店で純喫茶といった感じだ。使い古されたテーブルと椅子。小さなカウンターと、狭いフロアには四人で座れるテーブルが三台。あまり広いとは言えない。コーヒーを楽しむだけなら落ち着いた空間だが、七緖くん確かカレーって言ったよね。カレーの香りもする。
看板には白地に青色の習字書体でこう書かれていた。
「銀河?」
銀河とだけしか記載がない。そう「喫茶店」という文字が何処にもない。だからどんなお店なのか外見からは分からない。
「本当に喫茶店の名前なの?」
純喫茶風だと思うけれども何だか歓楽街の側だけに雰囲気がスナック? っていうのかな。お酒を飲めるお店に見える。
「何でもそれがひらめいたらしくてなぁ。何かカラオケ喫茶風やん? せめて英語にでもしたらって。いや、それはそれでやな」
「そ、そうかも」
英語にしても「銀河」って何って言うんだっけ? うーん。
立地としては悪くないと思う。私が知る限り二十代から三十代の女性をターゲットにしているカフェが近くに何件がある。高校生の私には少し背伸びをする感じのカフェだ。
歓楽街で飲んだ帰りにパフェ等を食べるという特集をテレビで見た事がある。だけどこの「銀河」というお店はテレビで紹介されていたカフェとは異なる……と、感じた。
ずぶ濡れになった七緖くんの隣で、濡れなかった私はその看板をじっと見つめた。
七緖くんがとうとうぽつりと呟く。
「見ての通り全然お客が来んの」
「それは喫茶店と思われていないからじゃないのかな」
「そうやと僕も思うんやけど。博は頑固で『銀河って名前でコーヒーとカレーを売っていく』って言うて聞かんの」
「えっ、カレー??」
喫茶店と言えばコーヒー以外にもパンケーキとかパフェとかサンドイッチとか。軽食かと思っていたのに、カレーって?! 私がそう尋ねると同時に七緖くんはカランとドアベル音を立てて喫茶店「銀河」のドアを開ける。
開けた途端スパイスの良い香りがする。カレーの香りだが優しくて良い匂いがする。そう感じる香りだった。店に客は一人もいなかった。
「いらっしゃいませ。って、何だ駿じゃないか。今日は塾の体験だったんだろ? って、何で濡れてんだ。雨やんだはずだよな」
ウェーブした黒い髪を後ろで一つに縛った白いシャツに黒いエプロンをした中年男性が声を上げる。客だと思って振り向いた男性はコーヒーカップを棚に片付けていた。私より数センチほど高い男性は痩せ型で整った顎髭が印象的だった。銀縁のスクエア型の眼鏡をかけている。
床板をきしませて七緖くんが喫茶店の中に入り、ドアを大きく開けて私に入る様に促す。
「濡れたんは降ってる雨のせいちゃうし。バスに泥水をかけられたん。ほな巽さん、ちょう入って待っといてくれる?」
「ま、待つって?」
つられて喫茶店に入るも、七緖くんはゆったり話しながら入ったばかりの喫茶店を出て行こうとする。
「僕の家、喫茶店の隣なん。服を着替えてくるし、待っといてな?」
七緖くんはゆっくりと話すと喫茶店のドアを閉めて出て行ってしまった。
「えっ、家は隣なの? あの、ちょっと、七緖くん?」
私の声も空しく七緖くんがドアの向こうで手を振り、隣の家に入って行ってしまった。
ついてきたのは私だけれども。意思に反して入った喫茶店「銀河」の店内に一人残されてしまう。喫茶店からすぐに出てい行く事も出来ず私は、仕方なく振り返ってカウンターにいる七緖くんの伯父さんに頭を下げる。
「す、すみません……」
何が「すみません」なのだろう。ひとまず私は謝るが気まずい。
伯父さん、博さんは首をかしげて笑うと、お手拭きを出しながらカウンターに座る様に促した。
「何で謝るの? どうぞこちらへ。雨で大変な一日だったね。あ、コーヒーは飲めるかい?」
流れる様に話す博さん。ごく自然に私をカウンターに座る様に促した。
「は、はい。大丈夫デス」
私はもごもごと返事をした。
お客は私一人だけだ。小さな店で純喫茶といった感じだ。使い古されたテーブルと椅子。小さなカウンターと、狭いフロアには四人で座れるテーブルが三台。あまり広いとは言えない。コーヒーを楽しむだけなら落ち着いた空間だが、七緖くん確かカレーって言ったよね。カレーの香りもする。
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