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033 7月31日 人との距離
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それから私と七緖くんはソファに隣同士に座ったままチョコレートケーキを食べた。博さんが淹れてくれたコーヒーはとてもチョコレートケーキに合っていて美味しかった。
でもさすがに私は本日ケーキが三つ目なので食べる事に抵抗していたら、隣で七緖くんが自分の分をあっという間に平らげて物欲しそうにしていたので私の分も勧めてみた。
「ほっ、ほんまに僕が二つも食べてええの?」
「うんいいよ。私今日は紗理奈の家でタルトを二個食べているから」
「ほっ、ほんまに? 食べたらもう返品出来んよ?」
「うん。分かってるよ」
「ほんまやね? 僕のお腹に入るんよ?」
「分かってるってば」
よほど私がチョコレートケーキに未練があると思っているらしい。
七緖くんの前髪は輪ゴムが何処かに行ったので瞳を隠したままだが、チョコレートケーキがとても嬉しいのか頬がほんのり赤かった。
それから、私と七緖くんとゆっくりと話をした。
七緖くんが珍しく自分の事をポツポツと話し始める。
甘いものは大好きで特にチョコレートが好きなのだとか。チョコレートは板チョコが大好きでついつい食べ過ぎてしまうんだって。紗理奈が言う様に頭を使って考え事をした後は特に食べたくなるそうで、同じ事を博さんもする事があるんだって。
チョコレート以外にも甘いお菓子は大歓迎だけど、たまにポテトチップスみたいな塩っぽいものも食べたくなるのだとか。
「それでそんなに細いのは反則だよ」
「巽さんやって細いし」
「油断すると太るよ?」
「全然や。ほんなん気にする必要ないない」
そんなたわいもない会話をしていると、少しだけ間があいた。
すると七緖くんが静かに話し始めた。
「僕の両親、二人共カメラマンやねん」
「カメラマン! そうなんだ」
「うん。おかんは人を撮るのが専門で、おとんは動物。猫とか犬とかよう撮るよ。写真集もいくつか出しとる」
お父さんの名前は輝明さんと言うそうだ。
私も聞いた事がある。七緖 輝明──猫の写真を撮らせるとナンバーワンだと言われている動物写真家だ。写真集のみならず動物の動画も有名だし、カレンダーなんかも毎年販売されている。お母さんの名前は純子さん。
(あれ? そういえば純子さんという名前を聞いた事がある。何処だっただろう)
思い出せずにいると、七緖くんは話を続ける。
「両親共に場所を変えて写真を撮るのもあって、引っ越しは当たり前なんよね。長ごうて一年、早いと三ヶ月みたいなスパンで日本各地を転々とするんが当たり前やって。何か僕が小さい時は中国地方に関西地方、四国に瀬戸内海の島、北信越地方が二人のブームやったみたいで。土地に慣れるのも、友達を作るのも毎回やり直しになんねん」
「うん。転勤族だね」
「転勤族って、まぁフリーのカメラマンが『族』なんかはよう分からんけど。ほやけど転校するん『嫌やなぁ』と思い始めたら、明日から学校に通う事も出来ん。ほれに僕この容姿やん? 子供の頃はほれこそ外人、外人言われて。けど残念な事に、格好良いからはほど遠いやん? 背ばっかり高いだけの子供で」
「いや──そんな事は」
(七緖くん、かなり格好良い方に入ると思うけど。猫背だったり前髪が長いから分かりにくいけれども。小さい頃は分からなかったと言うか、違ったのかな)
場合によって、いじめや仲間はずれはあったと──七緖くんは話してくれた。
「いじめって言うても、大層なもんではなかったから。ちょっと我慢すればすぐ転校やし。ほやけど小学校六年の時に、昔住んでいた同じ土地に引っ越す事があって。小学校一年の時に通うた学校に、小学校六年生になってまた通う事になってな。ほの小学校で一年生の時ちょっとあって……」
聞くと、あまり転校生が訪れない学校で七緖くんの存在は珍しかったそうだ。更に、たまたま一緒に転校してきた男の子がいた。二人一緒にからかわれ仲間はずれになったそうだ。
やがて仲間はずれは終わり地元の仲間となんとか一緒には過ごせる様になった。それもあってその男の子と親友と呼べるほど仲良くなったそうだが、七緖くんは再び転校する事になった。
「ほん時だけは、別れが辛いって思うたよ。メールとかあっても会えるのとはちゃうしね。初めて出来た親友みたいに思うてたから。ほやから小学校六年生になってその学校に再び通える様になったのは嬉しかったん」
七緖くんは優しく微笑みながらも少し寂しい表情をしていた。
「うん」
私は静かに相づちを打った。
「ほの頃、僕は身長確か百七十はあったと思う。顔ももう今とあまり変わらんし。ただひょろたかい少年がこましになった? ぐらいの感じやと思うてくれたらええと思う」
「ひょろたかい、ね」
「ほうなんやけど、瞳はこんな色やし、金髪で相変わらず目立つ感じやって。ほんなんもあって……」
七緖くんは話を続ける。
最初はその男の子と再会を喜んだ。一緒に過ごす様になったが、一つだけ前とは違う事が起こる。あれほど仲間はずれにした地元の子、女の子が今度は七緖くんに好意を持つ様になって行ったのだ。
(ああ分かるかも。多分、七緖くんは身体が大きくなり格好良くなったんだ。七緖くんは控えめに言っているけれども、背は高くても綺麗な顔をした男の子だし。小学校六年生と言えば年頃になる入り口だろうし)
「あんなに外人外人って、からかっていた容姿が今度は格好良いやって……ほんまに皆いい加減やね。昔、言った事が全くなかった事みたいな態度になって。コロッと変わるっていうのん? ほれで最悪な事に、僕の事格好良いとか言い出した女の子の事を、仲良かった友達が好きやってな」
「あ……」
「男の友情とか思うてたんに薄っぺらいもんや」
唯一親友だと思っていた男友達からは決別を告げられ、再び七緖くんは一人過ごす事になったそうだ。
でもさすがに私は本日ケーキが三つ目なので食べる事に抵抗していたら、隣で七緖くんが自分の分をあっという間に平らげて物欲しそうにしていたので私の分も勧めてみた。
「ほっ、ほんまに僕が二つも食べてええの?」
「うんいいよ。私今日は紗理奈の家でタルトを二個食べているから」
「ほっ、ほんまに? 食べたらもう返品出来んよ?」
「うん。分かってるよ」
「ほんまやね? 僕のお腹に入るんよ?」
「分かってるってば」
よほど私がチョコレートケーキに未練があると思っているらしい。
七緖くんの前髪は輪ゴムが何処かに行ったので瞳を隠したままだが、チョコレートケーキがとても嬉しいのか頬がほんのり赤かった。
それから、私と七緖くんとゆっくりと話をした。
七緖くんが珍しく自分の事をポツポツと話し始める。
甘いものは大好きで特にチョコレートが好きなのだとか。チョコレートは板チョコが大好きでついつい食べ過ぎてしまうんだって。紗理奈が言う様に頭を使って考え事をした後は特に食べたくなるそうで、同じ事を博さんもする事があるんだって。
チョコレート以外にも甘いお菓子は大歓迎だけど、たまにポテトチップスみたいな塩っぽいものも食べたくなるのだとか。
「それでそんなに細いのは反則だよ」
「巽さんやって細いし」
「油断すると太るよ?」
「全然や。ほんなん気にする必要ないない」
そんなたわいもない会話をしていると、少しだけ間があいた。
すると七緖くんが静かに話し始めた。
「僕の両親、二人共カメラマンやねん」
「カメラマン! そうなんだ」
「うん。おかんは人を撮るのが専門で、おとんは動物。猫とか犬とかよう撮るよ。写真集もいくつか出しとる」
お父さんの名前は輝明さんと言うそうだ。
私も聞いた事がある。七緖 輝明──猫の写真を撮らせるとナンバーワンだと言われている動物写真家だ。写真集のみならず動物の動画も有名だし、カレンダーなんかも毎年販売されている。お母さんの名前は純子さん。
(あれ? そういえば純子さんという名前を聞いた事がある。何処だっただろう)
思い出せずにいると、七緖くんは話を続ける。
「両親共に場所を変えて写真を撮るのもあって、引っ越しは当たり前なんよね。長ごうて一年、早いと三ヶ月みたいなスパンで日本各地を転々とするんが当たり前やって。何か僕が小さい時は中国地方に関西地方、四国に瀬戸内海の島、北信越地方が二人のブームやったみたいで。土地に慣れるのも、友達を作るのも毎回やり直しになんねん」
「うん。転勤族だね」
「転勤族って、まぁフリーのカメラマンが『族』なんかはよう分からんけど。ほやけど転校するん『嫌やなぁ』と思い始めたら、明日から学校に通う事も出来ん。ほれに僕この容姿やん? 子供の頃はほれこそ外人、外人言われて。けど残念な事に、格好良いからはほど遠いやん? 背ばっかり高いだけの子供で」
「いや──そんな事は」
(七緖くん、かなり格好良い方に入ると思うけど。猫背だったり前髪が長いから分かりにくいけれども。小さい頃は分からなかったと言うか、違ったのかな)
場合によって、いじめや仲間はずれはあったと──七緖くんは話してくれた。
「いじめって言うても、大層なもんではなかったから。ちょっと我慢すればすぐ転校やし。ほやけど小学校六年の時に、昔住んでいた同じ土地に引っ越す事があって。小学校一年の時に通うた学校に、小学校六年生になってまた通う事になってな。ほの小学校で一年生の時ちょっとあって……」
聞くと、あまり転校生が訪れない学校で七緖くんの存在は珍しかったそうだ。更に、たまたま一緒に転校してきた男の子がいた。二人一緒にからかわれ仲間はずれになったそうだ。
やがて仲間はずれは終わり地元の仲間となんとか一緒には過ごせる様になった。それもあってその男の子と親友と呼べるほど仲良くなったそうだが、七緖くんは再び転校する事になった。
「ほん時だけは、別れが辛いって思うたよ。メールとかあっても会えるのとはちゃうしね。初めて出来た親友みたいに思うてたから。ほやから小学校六年生になってその学校に再び通える様になったのは嬉しかったん」
七緖くんは優しく微笑みながらも少し寂しい表情をしていた。
「うん」
私は静かに相づちを打った。
「ほの頃、僕は身長確か百七十はあったと思う。顔ももう今とあまり変わらんし。ただひょろたかい少年がこましになった? ぐらいの感じやと思うてくれたらええと思う」
「ひょろたかい、ね」
「ほうなんやけど、瞳はこんな色やし、金髪で相変わらず目立つ感じやって。ほんなんもあって……」
七緖くんは話を続ける。
最初はその男の子と再会を喜んだ。一緒に過ごす様になったが、一つだけ前とは違う事が起こる。あれほど仲間はずれにした地元の子、女の子が今度は七緖くんに好意を持つ様になって行ったのだ。
(ああ分かるかも。多分、七緖くんは身体が大きくなり格好良くなったんだ。七緖くんは控えめに言っているけれども、背は高くても綺麗な顔をした男の子だし。小学校六年生と言えば年頃になる入り口だろうし)
「あんなに外人外人って、からかっていた容姿が今度は格好良いやって……ほんまに皆いい加減やね。昔、言った事が全くなかった事みたいな態度になって。コロッと変わるっていうのん? ほれで最悪な事に、僕の事格好良いとか言い出した女の子の事を、仲良かった友達が好きやってな」
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