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040 8月1日 私を信じて欲しかった
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バス停には私と怜央の二人だけだ。
二人で五分後にバスが到着するという表示を見つめる。話が出来る時間は残りわずかだ。
(後少ししか時間がない。怜央と頑張って話さなきゃ)
いつも時間のない私達。前に進む為には伝えるしかない。
「怜央ってさ私の話を聞くよりも、周りの人達の話を信じるんだね」
「え?」
突然話し始めた私に怜央が声を上げる。
私は俯いていた顔を上げて真っ直ぐ怜央の顔を見つめる。私の顔を見た怜央が少し困惑した顔をしていた。私の表情が何の感情も持っていなかったからだ。
(こんな時に無表情なのが役に立つなんてね)
「今日だって私が『バーテンダーっぽい男と親しそうにいた』って言う事を、誰かから聞いて信じたんでしょ? それが事実だって決めつけて私に尋ねてきたし」
「それは! 明日香はぼんやりしているから誰かに取り込まれたり騙されていたりしないか心配しているからだろ」
「本当にそうなの?」
違うと思う。怜央は心配って言葉で上手くまとめるけれども、怜央のそれは心配じゃないと思う。
「俺はお前の事が大切だから」
「大切? それならさ」
大切だと思っているのは本当だと思う。
怜央は優しくて皆を守ってくれる。昔から私の事も守ってくれた。
でも、今の怜央は違う。
怜央は私の事を自分の見える範囲に置いておきたいだけだ。
「それなら誰かに聞いた話を信じる前に私を信じてよ!」
「!」
怜央は私の大きな声に開いた口を閉じた。
(言えた! 私は初めて怜央にモヤモヤしている正体の一つをぶつける事が出来た)
心臓が早鐘を打つ。私は胸の辺りを押さえて大きく深呼吸した。
『大丈夫。ほら続けてみなよ』
黒くてモヤモヤしているもう一人の私が背中を押す。
私は怜央を真っ直ぐ見て静かに話す。
「どうして決めつけるの? 私が騙されているとか遊ばれているとか」
「あ、明日香?」
怜央が私の低い声に反応して名前を呼んだ。意外だと言わんばかりだ。
(そうよね、あまり怜央にこんなに意見した事ないもんね)
「私は必要な事は怜央にいつだって相談したよ。右膝の事だって相談……相談したかったよ。ずっと、ずっと、言いたかったよ」
そこまでは冷静に言えたのに、フラッシュバックで、私の事を馬鹿にした萌々香ちゃんの声が聞こえる。思わずした唇を噛んだ。
(もう少しでしょ私。六秒の魔法が消える前に言わないと)
「…………言いたかったのに」
お皿を洗いながら萌々香ちゃんに合わせて笑う怜央の声が聞こえる。
「言えなかったのよ……」
絞り出す様に私は声を上げた。ようやく言えた一言に私は大きく肩で息をした。
「……明日香」
私の息も絶え絶えに絞り出す声に怜央が困惑して名を呼んだ。それから私の方に手を伸ばそうとしていた。
その手を見ながら私はもう一つだけ、思い出すのも辛い事を話す。
「私ね最後の大会が終わった時に、メダル授与式の前にね。怜央に電話したんだよ」
私の声に怜央の手が止まる。それから少し間が開いて、怜央の済まなさそうな声が聞こえた。
「明日香の大会に行けなかったのは本当に悪かった。あの日はどうしてもバレーボール部の打ち上げがあって抜けられなくて」
「ううん。いいの。打ち上げの話は聞いていたし。最後の大会を見に来て欲しかったとか、そういうのを言っているんじゃないの」
私は少しだけ最後となった夏に入る前の陸上予選を思い出した。
二人で五分後にバスが到着するという表示を見つめる。話が出来る時間は残りわずかだ。
(後少ししか時間がない。怜央と頑張って話さなきゃ)
いつも時間のない私達。前に進む為には伝えるしかない。
「怜央ってさ私の話を聞くよりも、周りの人達の話を信じるんだね」
「え?」
突然話し始めた私に怜央が声を上げる。
私は俯いていた顔を上げて真っ直ぐ怜央の顔を見つめる。私の顔を見た怜央が少し困惑した顔をしていた。私の表情が何の感情も持っていなかったからだ。
(こんな時に無表情なのが役に立つなんてね)
「今日だって私が『バーテンダーっぽい男と親しそうにいた』って言う事を、誰かから聞いて信じたんでしょ? それが事実だって決めつけて私に尋ねてきたし」
「それは! 明日香はぼんやりしているから誰かに取り込まれたり騙されていたりしないか心配しているからだろ」
「本当にそうなの?」
違うと思う。怜央は心配って言葉で上手くまとめるけれども、怜央のそれは心配じゃないと思う。
「俺はお前の事が大切だから」
「大切? それならさ」
大切だと思っているのは本当だと思う。
怜央は優しくて皆を守ってくれる。昔から私の事も守ってくれた。
でも、今の怜央は違う。
怜央は私の事を自分の見える範囲に置いておきたいだけだ。
「それなら誰かに聞いた話を信じる前に私を信じてよ!」
「!」
怜央は私の大きな声に開いた口を閉じた。
(言えた! 私は初めて怜央にモヤモヤしている正体の一つをぶつける事が出来た)
心臓が早鐘を打つ。私は胸の辺りを押さえて大きく深呼吸した。
『大丈夫。ほら続けてみなよ』
黒くてモヤモヤしているもう一人の私が背中を押す。
私は怜央を真っ直ぐ見て静かに話す。
「どうして決めつけるの? 私が騙されているとか遊ばれているとか」
「あ、明日香?」
怜央が私の低い声に反応して名前を呼んだ。意外だと言わんばかりだ。
(そうよね、あまり怜央にこんなに意見した事ないもんね)
「私は必要な事は怜央にいつだって相談したよ。右膝の事だって相談……相談したかったよ。ずっと、ずっと、言いたかったよ」
そこまでは冷静に言えたのに、フラッシュバックで、私の事を馬鹿にした萌々香ちゃんの声が聞こえる。思わずした唇を噛んだ。
(もう少しでしょ私。六秒の魔法が消える前に言わないと)
「…………言いたかったのに」
お皿を洗いながら萌々香ちゃんに合わせて笑う怜央の声が聞こえる。
「言えなかったのよ……」
絞り出す様に私は声を上げた。ようやく言えた一言に私は大きく肩で息をした。
「……明日香」
私の息も絶え絶えに絞り出す声に怜央が困惑して名を呼んだ。それから私の方に手を伸ばそうとしていた。
その手を見ながら私はもう一つだけ、思い出すのも辛い事を話す。
「私ね最後の大会が終わった時に、メダル授与式の前にね。怜央に電話したんだよ」
私の声に怜央の手が止まる。それから少し間が開いて、怜央の済まなさそうな声が聞こえた。
「明日香の大会に行けなかったのは本当に悪かった。あの日はどうしてもバレーボール部の打ち上げがあって抜けられなくて」
「ううん。いいの。打ち上げの話は聞いていたし。最後の大会を見に来て欲しかったとか、そういうのを言っているんじゃないの」
私は少しだけ最後となった夏に入る前の陸上予選を思い出した。
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