【R18】さよならシルバー

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076 9月7日 七緖と才川 4/5

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「七緖、お前はやっぱりストーカーだよ」
 才川がチラシを七緖の膝にポトリと落としてそう呟いた。
「……僕がストーカーねぇ」
 七緖はぽつりと呟いて自分の膝に落とされたチラシに手を伸ばした。

 しかし瞬間風がザーッと吹いて、チラシを舞い上げて飛ばしてしまう。気がつくと手の届かないところに風が連れて行ってしまった。

 そのチラシを七緖は見つめて、才川はそんな七緖をじっと黒い瞳で見つめていた。
 風がチラシを運んで消えてしまった後で、ゆっくりと七緖は才川に振り向いてニヤリと笑う。

「才川くんが言う様に僕はストーカーかもしれんね。でもひどいポンコツなストーカーや」
 薄気味悪い笑い方だ。白い頬が歪んでいる。

「何がポンコツだ。何処までもとぼけやがって」
 才川は七緖と視線を逸らさないまま強く言った。

「よう考えてみ? 松本さんに薦められても巽さんが必ず塾に通うとは限らんやろ。しかも初日にばったり会うなんて。ほんなん奇跡やん」
 七緖は笑いながら呟いた。しかし才川は首を左右に振った。

「お前は松本に初日から通う様にとアドバイスをしたはずだ。クソ真面目な松本は、明日香に強く伝えたはずだ。馬鹿素直な明日香は松本の言う通りにした。そしてお前は明日香と出会う」
 松本と明日香の性格を利用したのではないかと才川は思う。

 才川の言葉を聞いて、七緖は首を振って否定した。
「ほら奇跡的に出会うて、塾の帰り道で話し込んで勉強を教える事になったけど。僕はほの時、盛大に泥水をかぶったんやで。格好悪いだけの男やん」
 七緖は身振り手振りで泥水をかぶったと言う。才川は溜め息をついてぽつりと呟いた。

「格好悪いねぇ……それは七緖の『不良』という噂話を打ち消す為の作戦だったんだろ?」
 才川は静かに答えた。

 七緖は元々不良だと誤解されていた。七緖の事をよく知らない明日香も噂を耳にしているはずだ。だからあえて格好悪い姿を見せるという、演出だったのではないだろうか?

 才川の言葉を聞いて七緖は綺麗なおでこに片手を当てて苦笑した。
「作戦ってほんなんが作戦になるかいな。大体ほん時の巽さんの心の中は、才川くんの事で一杯や。君が恋しくて恋しくて仕方ない。だから辛いと泣いていた巽さんやのに。何処に僕が入り込む隙があるん?」
 七緖はグッと才川との距離を詰めて視線を合わせる。七緖は動揺している様子は全くない。

 才川は距離を詰められても静かに話した。
「お前は明日香に『そんな事があって可哀相だな』とは一言も言わなかったんだってな。普通はそうやって近づきそうなのに。むしろとまで言ったんだってな?」
 才川がチラシの件と合わせて松本から聞いたのは『穴の日』という言葉だった。

 松本は『そんな男子の事情なんて知ったこっちゃいないのにさ。よくそんな事を落ち込んでいる明日香に七緖は話したわよ。それじゃぁ、まるで才川を擁護している様なものじゃない』と呆れていた。

「あら~巽さんも松本さんもおしゃべりやねぇ。僕の恥ずかしい話せんでも」
 七緖が頬をポリポリと指でかいて、照れた様な仕草を見せる。

「お前なぁ。照れてもないくせに」
 才川は七緖の照れて見せる演技に呆れる。

 穴に入れたくなる事があるだなんて、才川が下半身だけ男みたいな言い草だったので腹が立った。しかし、七緖が才川の行動には理由があると説明しようとしている事を理解した。

 それと同時にこうも思った。

「七緖。お前はそうやって明日香に考えさせる様に仕向けたんだよな?」

 少しずつ幼なじみという呪縛から解き放つ為に。今までの明日香のままなら、才川と萌々香の真相を聞いて泣いて苦しんでも、最後は才川の元に戻ってきたはず。才川が「ごめん」と謝って「好きだ」と明日香に伝えれば、結ばれたのではないかと思う。

 才川は二股や浮気はしていない。きちんと萌々香との関係は清算したのだ。その関係がセフレだったとしてもだ。それの何が駄目なんだ。明日香は「二番が嫌だった」と言っていた「心が広くなくてごめん」とも言った。

(そんな事を言う明日香だっただろうか?)

 ずっと手を出してはいけないと思っていた美しい隣人。輝いていた明日香と結ばれたかった。その願いと思いが叶うはずだったのに。

 明日香が自分の意志を持ち、考え方を変えた。幼なじみの関係を飛び越えてしまった。

(変わったのは俺じゃない明日香の方だ。そして、そういう風に変えてしまったのは他でもない七緖が原因だ)
 才川は口を真一文字に結んだ。
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