【R18】さよならシルバー

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<回想> 6月30日 七緖 英数科にて

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 夏休みに入る一ヶ月前。

 七緖と同じクラスメイトである松本 紗理奈が自分の友達の成績が芳しくない事を悩んでいた。その友人の名が巽 明日香というスポーツ科の生徒である事は聞かなくても七緖は知っていた。



 ◇◆◇

 その頃七緖は、学校から帰るバスでよく巽 明日香と一緒だった。右膝の手術をしたそうで、総合病院に通っている。松葉杖をついている時もあった。とても痛々しかった。

 バスの中で七緖はいつもぼんやりと巽 明日香を見つめる。幸いな事に見つめても前髪で瞳が隠れている為、視線が何処にあるかだなんて誰も気にしていない。

(やっぱり何を考えているのか分からない、無表情な巽さんやなぁ)

 だけど七緖は知っていた。足を故障した最後の大会で、彼女は大声で泣いていた事を。丁度母親の撮影の手伝いで陸上競技場を訪れていたのだ。

 いつもの様に二位に終わった巽 明日香は無表情で表彰台に上がるのだろうか。そんな事を考えていたが違った。突然大雨が降り出したから彼女の泣き声はかき消されたけれども。

(あの泣き顔が凄くいいやなんて、僕は頭がわいとんかな)

 そんな事を感じていた。



 ◇◆◇
 
 松本は巽さんの為に家庭教師や塾で良いものがないか検討をしていた。大抵松本は自分で考え結果を出すのだが、この時は流石に良い考えが浮かばなかったらしく、自分の彼氏である力也に相談し始めた。

 しかも、クラスの中で七緖と力也が話をしているところでだ。

「意見が欲しいんだけどさぁ──」
 詳しく話をしてくれた松本に不意に七緖は思い出して、自分の鞄の中からチラシを取り出した。それは自分の伯父である博に薦められた塾だった。

 七緖自身は博に勉強を教わりたいのに時間がないからと言って代替案で出された塾だった。

「ほなココの塾を薦めてあげたらええんちゃう? 無料体験も五日間あるし」
 七緖が差し出したチラシを松本がじっと見つめて首を左右に振った。

「七緖ってば話を聞いていた? この塾は私の友達にはレベルが高すぎるわよ。むしろ七緖ぐらい教えるのが上手い家庭教師を探したいのに」

 家庭教師か──七緖は松本の呟いた言葉を反芻する。

「ほの塾は成績に応じて相談してくれるって、小さいけど書いてあるやろ?」
 七緖は米印の小さな注釈を指さした。これだけ小さい注釈だ。相談というのはとってつけた様なものだろうと思いながらも指を指す。

「ちっさ! こんな文字見逃すじゃない。えー本当に相談に乗ってくれるのかなぁこの塾」
 松本は身を乗り出して目を見開き七緖が指した米印の説明を凝視する。

 多分そんな相談はしてもらえるかもしれないが、本当に相談だけだろうと七緖は思った。だが、松本に対して魅力的な言葉を伝える。
 
「無料の体験もあるし結構ええと僕は思うけどなぁ」
 いつもののろのろした口調で七緖は話した。無料の体験が魅力的なのは無駄だと思えばいつでもやめる事が出来る。何事もチャレンジしてみなければ分からんやろ? ──と、続けると松本は食いついてきた。

「そうよね。七緖が珍しく薦めてくれるんだから無料体験してみる様に私も明日香に言ってみるわ」
 松本がチラシを貰っても良いかと尋ねてきた。だから七緖はそのチラシを松本に二枚渡した。松本の分と友達である巽さんの分だ。

「珍しくって……一言多いなぁ。とにかく、合わんかったらすぐにやめたらええねん」
 気楽にいけばええとつけ足した。七緖は前向きに話をする。

「そうよね。相談もしてくれる訳だし。無料体験に行くのは夏休み入ってすぐがいいわよね。もし合わなかった場合別の手を考えたらいいのだし」

 別の手とは恐らくさっき検討に上げていた家庭教師という事だろう。七緖はそう考えた。

 その時、七緖の自分の中でカチリと何かが音を立ててた。かみ合わない歯車が珍しく上手くかみ合った音だ。

 七緖は前髪に隠れている瞳を細めて笑った。

「ほうやね。体験入学は夏休み入ったすぐ、行ったらええよ」

 七緖の言葉に松本は素直に頷いていた。
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