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第4蝶 初めての街探索編

ライバル出現とお肉屋さん

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 笑顔が戻ったユーア。

 私の手を引いて一度商業地区まで戻り商店街を目指す。

 この時間になると人通りも増えてきて、通りすがる露店やら屋台からもいい匂いが漂ってきて、そんな人々で列を作っていた。

 ユーアも眺めながらスンスンと小さい鼻を鳴らす。

「ふふ」

 余程香ばしい匂いが気になるのか
 屋台をチラチラと通りすがりみていた。

 その屋台の全部がユーアの大好きな『お肉』がウリの屋台だった。

 私はソワソワしているそんなユーアを見て、いたずら心が芽生えてしまう。


「ユーアは何の食べ物が好きなの?」
「何でも好きだよ? 嫌いなのはあまりないです。でも苦いのと辛いのはちょっと苦手ですね……」
「ふ~ん」

 まあ、そうだよね?
 見た目も味覚もまだまだ子供だし。


「違う違う、そうじゃなくて一番好きな食べ物よ」
「え? そ、そうですね果物が好きです…… よ?」
「果物? ……ねぇ」

 何で疑問形?
 なんで今更『お肉』を隠すの?

 やはり女の子でお肉が好きなんて言いずらいのだろうか。
 食いしん坊キャラみたいに思われそうだし。


「あれ? 『お肉』が一番好きだと思っていたけど違ったんだ?」
「えっ!?」

 だってこのボクっ娘は初対面の寝言で「お肉にデザートの部位」まであるって言ってたんだよ。それを知った以上、果物なんて事は絶対にない。


「う、うん、『嫌いじゃないです…… よ?」


 なんか下向いて指先絡めてモジモジしている。
 こ、これは、モジモジモードっ!?

 でも中々一番が『お肉』と認めない。
 これは何でも『お肉が一番好き』て言わせたくなる。

 私は、少しイジワルかな? って思ったけど更に続ける。

「それじゃ、今日はを一杯買おうかな? 私は『お肉』好きでもないし」

 そう言いながら、チラっと目線を送ってみる。

「え! ええええっ!? ス、スミカお姉ちゃん、キチンとバランスよく『お肉』も食べないとダメだよぉっ! ボク小さい時にそう教わったもんっ!」

「おおっ!」

 今度は頭と手を顔の横で振ってあわあわモードだっ!

 というか、キチンとバランスよくお肉って何?
 普通は野菜とかが一般的だと思うけど。
 それと小さい時って、充分今でも小さいよ?


「そう? でもユーアもあまり好きじゃないのを大量に買うのはねぇ? それにお肉は無くてもレーションで補えるし」

 「チラチラッ」とまた視線を送ってみる。

「う、うん、でもぉ、ボクぅ――――」
「ああっ!」

 それを聞いたユーアは涙目のうるうるモードになってしまった。

 さ、さすがにやり過ぎたよねっ!
 目尻に涙が堪ってるもん。

「なんて冗談。『お肉』も野菜もたくさん買いましょう。もちろん果物もね」
「えっ!?」

 「はっ」と顔を上げキラキラと目を輝かせるユーア。
 今度はキラキラモードだねっ!

「それに――――」
「それに?」
「それに本当はユーアは『お肉』が一番好きなんでしょう?」
「ううう、はい、ボク『お肉が一番好き』です…… スミカお姉ちゃんさっきから知ってて聞いたでしょう、もうっ!」
「あははっ! ごめんねっ」

 おおっ!
 最後はプンプンモードだ。

 朝からユーアの萌えモード五段活用を見れた。

 『モジモジ』『あわあわ』『うるうる』
 『キラキラ』『プンプン』 の5コンボだ。


「それじゃお勧めのお肉屋さんに行きましょう。案内よろしくね」

 プンプンモードのユーアをあやしながら提案する。

「は、はい、わかりましたっ! こっちですっ!!」

 機嫌が戻ったようで快活な返事をして、私の手を引いて小走りする。
 コロコロと表情が変わり、見ていて微笑ましい。


『無邪気っていうか、無垢っていうか子供らしいねっ』

 手を引く笑顔のユーアを見ながらそう思った。

 見た目は私も子供なんだけどね。
 とも思った。


※※


 私たちは少し歩き一軒の店の前で立ち止まる。

 ここがユーアのお勧めの店だろう。

『う~ん、それにしても――』

 なぜユーアはここを選んだのだろう?
 周りには似たような店が並んでいるというのに。


「はっ! ま、まさか」
「えっ?」

 また『ノコアシ商店』みたいな変な店ではなかろうか。

『………………』 

 ユーアが手を引き店内に向かう。
 私は繋いでいる手をキュっと握ってブレーキをかける。

「ユ、ユーアっ!ちょっと待ってっ!」
「なに、スミカお姉ちゃん?」

 私の必死の制止にのほほんとしているユーア。

「ちょっとお店の外側も見せてねっ!」
「え? はい」

 もしかしたらユーアの教育に悪いものがあるかもしれないし。


 私は立ち止まって2階建てのお店の看板を見てみる。

「………………」
「??」

『トロノ精肉店』

 まぁ、そこはいい。
 前回もそこは問題なかったから。

「トロ?」
「??」

 これ魚屋じゃないよね? 


 外観は普通の肉屋だった。
 ここも2階建てになっている。

 見たところ2階はイスとテーブルが何脚か見える。
 上は食堂みたいなところだろうか。

 よし、とりあえずは大丈夫そうかな。

「ユーア、引き留めてごめんね。結構新しいお店なのかな?」

 2階の部分は比較的新しく見える。

「ずっと前からあったと思います。いつからかは覚えてないです」
「そう、ありがとう」

 まぁそんな事はいちいち覚えてないよね。
 ユーアが生まれる前かもしれないし。


 私とユーアは一緒に店内に入っていく。

「あれ?」
「??」

 普通だ。普通の肉屋だ。

 何の肉かわからないけど、結構な種類の肉が並んでいた。
 値札を見ると一般的な家畜の名前のほかに魔物っぽい肉の名前も並んでいた。

『まあ、流石にあんな店ばっかじゃないよね。あれが特殊すぎたんだよ』

 私はホッと胸をなでおろした。

 ガラガラガラ――

 そんな事を考えていると奥の扉から誰か出てきたようだ。
 きっとお店の人だろう。

「ああ、いらっしゃい。ユーアか? 久し振り、がうっ!」
「ぎゃあぁぁぁっっっ!!」

 ま、魔物だっ! 店員の代わりに魔物が出てきたっ!!
 見た目はオオカミの魔物だっ!

 ここは店員がの店だったっ!!

「っ!!」

 すぐさまユーアに透明壁を張る。
 私は店内でも扱いやすい大きさに透明壁を展開する。


「ログマさんこんにちはっ! 今日はスミカお姉ちゃんとお肉を買いに来たのっ!」
「えっ?」

「そうか、ユーアが友達を連れてきたのか。それで俺はログマって言うんだ。ここの店主をやっている。いったい何の肉が欲しいんだ? がうっ!」

 そう言って笑顔で「がるるっ!」て私を威嚇してくる。
 ――ように見える。


「ま、魔物が私に何かようっ!」
「何かって、肉を買いに来たんだろう? がうっ!」

 ガラガラガラッ

「ユーアちゃんが来ているんだって? 久し振りだね! くぇっ!」

「いいいっ!?」

 ふ、増えたっ!?

「くっ!」
 
 今度は鳥型の魔物まで。


 私は2体の魔物と対峙し軽く分析を開始する。
 ユーアは後ろに隠したままで。

「……………」

 ゴツゴツとしてそうなグレーの毛並みと鋭い緑の眼球。
 尖った牙と切り裂くための普通の手に二足歩行。

 普通の手?
 二足歩行?

 鳥の魔物はオオカミの魔物と同じグレーの固そうな羽と、鋭く尖った嘴。
 羽根であろう箇所からは、腕が左右に伸びている。

 羽根じゃなくて腕?
 しかもまた二足歩行?


「??」
「スミカお姉ちゃん、ここのお店はダメなの?」

 2匹の魔物に違和感を感じ首を傾げていると、ユーアが私の腕を抱えて潤んだ目で見上げてくる。

「ここのお店は前にボクにお仕事をくれた事がある良いお店なんだ。お肉もいい部位がたくさんあるの。ログマさんもカジカさんもいい人だよっ?」

「………………」

 なんかつい朝方にも同じような事があったような?


「ああ、なんだ驚かせちまったんだな子供には刺激が少し強かったか」

 そう言って「スポン」と頭を取る。

「ぎゃあぁっ! ……あれっ!?」
「そうね、わたしも一度脱ぐわね」

 もう一体も簡単に鳥頭を脱いだ。

「…………………………」
「………………」
「………………」

 そこには顔だけ人間になった30歳前後の夫婦がいた。
 ただの魔物の着ぐるみを着ていただけだった。

 なに? 異世界のお店は客を驚かすのが流行ってるの?

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