剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

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第9蝶 妹の想いと幼女の願い1

アマジの終点と終戦

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「こ、こんな質量を人の身でどうしろとっ!」


 アマジは巨大なスキルの落下を前に
 ダメージの残る体で広場脇に向けて逃走を開始する。

 その考えは正しい。

 ユーアやシスターズの面々、ゴマチやロアジムたちを巻き込む訳にはいかないから、必然的にそこは安全地帯になる。私がスキルを操作して巻き込まないようにするからだ。

 アマジはそれを予期してなのか、シスターズのみんなのところに体を引きずるように近づいていく。

「く、ぐぅ、はぁはぁはぁ……」

『まさか……』

 こんな状況で人質?

 なんて思わなくもない。

 人間、そして生物全般追い詰められたら
 何をするか分からない恐ろしさがあるからだ。

『窮鼠猫を嚙むってことわざもあるからね、でも違うみたい……』

 私は、私の存在をも無視して、覚束ない足取りで歩き続けるアマジを見る。

 特に広場脇に辿り着いたり、シスターズの誰かを人質の取ったからアマジの勝ちなんてルールは元々ない。

 それに後者の人質に関してはあの体では絶対に不可能だろう。

 ある意味鉄壁に近い、守り主体のナジメもいる。
 それに回復した姉妹もシルバーウルフのハラミもいる。
 後衛にはユーアやラブナだっている。

『だったら、何故?』

 息も荒く、動きも緩慢で、見るからに何の戦闘力を持たない、それでも愚鈍に歩き続ける男を再度見る。

「はぁはぁ、俺、は、今度こそ……――を……」

 その男はある一点だけを見つめ歩き続けていた。

『………………』

 私は残り1機のスキルを展開する。

 それは――

「がはぁっ!!」

 と、愚鈍に歩み続けるアマジの胸を強く打ち付け
 再び広場中央に吹っ飛ばし、歩みを振り出しに戻す。

「ぐっ、く、がぁっ!」

 それでもその男は立ち上がり、私を素通りしてまたもや広場脇を目指す。

『………………』

 シスターズの中にいるある者を目指して。
 そこがあたかもゴールでもあるかのように。

「何を今更焦ってるか知らないけど、もっと早くに何とかしなかったあなたが悪い。だから諦めてすぐに降参しなよ。それだったら何もしないから」

「はぁはぁはぁ、待っていろっ……」

 私はそんなアマジの見つめる者に視線を這わし、そう宣言をするが、

『………………』

 まるで聞こえていないかのように、端から聞く気が無いように、ただ、ただ、ある一点を目指して歩みを進めていく。

 それ以外の何も、視覚にも聴覚にも情報が入っていないかのように。


『さっき、すれ違った時にも感じたけど、もうこの男の意識は……』

「はぁ、はぁ」

 ザッ

 男は遂に目的地に到着する。

『………………』

 それを見て私はスキルの落下を停止する。

 その影の下にはシスターズのみんなとロアジム。
 向こうにはアマジの仲間たち。

 そしてもう一人

「あ、ああ、こ、今度こそ、俺はお前をまもっ…………」

 一人の娘を抱きしめる傷ついた男がいた。

「え、えっ、お、親父っ!?」

 それはゴマチの全身を包むように抱きしめる
 父親としてのアマジだった。 


『…………窮鼠猫を嚙む。なんて思ったけど、全く逆だったね』


 私はゴマチを抱きしめながら気を失ってる
 アマジを見ながらそう思った。

『ああ、もうこれは私の知ってるアマジじゃないね?』

 そこには娘のピンチに駆け寄るたった一人の父親の姿だった。
 その顔には、いつもの不愛想な表情の欠片も見当たらなかった。

「ちょ、親父っ!親父ったらぁっ!」

 パシパシッ

 抱きしめられるゴマチは、複雑な表情で手を伸ばしアマジの背中を叩いてはいるが、その手には力が入っているようには見えない。

 そしてその肝心の叩かれる本人は

 涙を浮かべていた。


 薄っすらと目尻に涙を溜めながら、穏やかな顔で眠っていた。
 


※※



 恐らくアマジは地面に落とされた時には殆ど意識がなかった。


 それでもアマジの体を動かしたのは娘の危機を感じ取ったから。
 それは私がスキルでゴマチごと潰そうとアマジが勘違いしただけ。

 きっと正しい判断が出来ないくらいのダメージだったんだと思う。

 私が反射的にユーアを守るのと同じように
 アマジも潜在的にはゴマチの守護者だったのだろう。
 あの満身創痍の体で救おうと行動したことから。

 それが限界を超えた危機的状況で表に出てきただけの事。
 それは親として本来は当たり前の事。

 その理由はきっとゴマチとアマジとの過去に関わるはず。
 それをアマジが回復したら聞き出そうと思う。
 

『だって、お互いに生きてるのに家族じゃないなんておかしいからね……してるんだったら尚更――――』


 それにシスターズのみんなにも協力してもらったからね。

 私の戦いが始まる前にみんなに頼んだことの2つ目。

 それは――――

 アマジとゴマチの仲違いの理由を知る事だ。

 だからアマジは決してゴマチを傷つけないとシスターズには伝えてあった。
 近づくゴマチにシスターズが手を出さなかったのもそんな理由があった。


※※


「それじゃ、ちょっと離れてて。多分大丈夫だけど一応ね」

「「「はいっ」」」
「あの、スミカお姉ちゃん?」

「「「………………」」」

 私はみんなにそう声を掛けて、アマジにRポーション[S]を使う。
 そんなアマジはゴマチを抱いたまま静かに眠っている。

 因みにみんなっていうのは、シスターズとロアジムの他にもアマジの仲間の3人も含まれている。その目は心配そうに眠る男を見つめている。

 何だかんだ出会った時から悪役に見えてたけど、アマジは意外にも仲間に慕われているようだった。

『あっ、でも結構仲間想いだったのはあるのかな?バサもアオウオ兄弟が負けた時にも文句も言わなかったし、高そうな回復薬使ったって言ってたし』


「う、うう。お。俺は一体?」

 そんな事を考えていると、アマジが覚醒して辺りを見渡す。

『うん、問題なさそうだねっ』

 見たところ意識はもちろん体も大丈夫そう。
 さすがこのRポーションの効き目は抜群だ。

「はっ!ゴ、ゴマチっ!」
「あっ」

 アマジは腕の中の娘のゴマチに気付いて勢いよく離れる。

 そしてアマジを囲んでいる私たちを見渡す。

「そうか、俺は負けた……か」

 現状をすぐさま理解して肩を落とすアマジ。
 そこに戦意は感じられない。

 心から敗北を認めている様子だ。


『後は詳しく話を聞いて、それから…………』


 何て考えていると――――


「あ、ああああっ!!」
「んっ、何?」

 アマジは私を見て、突如体を震わせる。

『んっあれ?私っていうか、もっと上を見ている?』

 そしてすぐさま動き出す。

 ダッ!
 ガバッ

「へっ?お、親父っ!」

 と、何故か娘のゴマチを抱いて脱兎のごとく走り去る。

「えっ?な、何でっ?」

 私はその姿を見て慌ててみんなを見る。
 何故突然に逃げだしたかの理由を知りたくて。

「あ、あのぉスミカお姉ちゃん?」
「え、な、何?ユーア」

 そう言えばさっきも私を呼んでたような?

「あ、あのぉ、アマジさんね、きっとあれを見て逃げちゃったんだとボクは思うな。びっくりしてゴマチちゃんを抱いて……」

 そう言ってユーアは人差し指を天にかざす。

『♪♪』

 おおっ!ユーアがやるとなんか神々しいねっ!
 指も小さくて短くて可愛いねっ!


 ってそれよりも――――


「暗いね?何かこの辺り」
「う、うん。そうだねっ」

「お、お姉さま、まさかお忘れに?そんなお姉さまもっ」
「さ、さすがお姉ぇだっ!細かいことも気にしないんだっ!」

「あ、あのさぁっ!スミ姉ってたまに思うけど天然入ってるよねっ!」
「ぷっくくっ!ねぇねのその豪胆さはわしも見習わなければじゃなっ!」


 アマジがゴマチを抱いて逃げて行った理由。

 それは――――


 私たちの上に展開したままの巨大なスキルのせいだった。

 あれを目の当たりにして、またゴマチを守る為に動き出したんだろう。
 今までの人生で最大の身の危機を感じて。きっとそんなところだ。

 だってあれは人間が、どうこうできる代物じゃないしね……


 
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