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ゲームの街 Ⅴ
しおりを挟む――一方、イサカさんとリリアは、クロルたちと反対方向から回り込むように進んでいました。
しばらく走った後、他のプレイヤーの姿を見つけ、近くの壁に身を隠しました。
「あ、あれが『王者』?」
「いや、違う」
「なんでわかるの?」
「持っている武器が違う。何より、あいつはあんなわかりやすいところに隠れるような真似はしない」
「へぇ。詳しいんだね、『王者』のこと」
「まぁ、良きライバルだったからな」
そして、イサカさんは銃を構えて、
「バレないように近づいて倒してくる。リリアちゃんはここに隠れていてくれ」
そう言って、足音を消しながらリリアの側を離れました。
気づかれぬよう慎重に近づき……相手を背後から撃ち、命中させました。リリアは手を叩いて喜びます。
「イサカさんすごい! さすが!」
思わず声を上げた、その時――リリアのすぐ後ろに、別のプレイヤーが近づいてきました。
「リリアちゃん! 後ろ!」
イサカさんの声にリリアは振り返り、ようやく狙われていることに気づきます。
「き……きゃあああっ!」
リリアは尻もちをつきながら、無我夢中で銃を撃ちました。すると、その内の一発が運良く当たり、相手を負かすことができました。
「あ、当たった……?」
「やるじゃねぇか、リリアちゃん!」
イサカさんが嬉しそうに駆け寄ります。リリアはドキドキしながらも、「やった……!」と小さく呟きました。
そして地面に尻もちをついたまま、自分が撃ったプレイヤー――マスクで顔を覆った男性を見つめます。
その人は何も言わずに背を向け、静かに退場していきました。
その雰囲気に、リリアは少し違和感を覚えます。
思い返せばこれまでに遭遇した人たちも、みな顔を隠していました。そして、イサカさんやクロルに撃たれた後、一言も声を発さずに退場していました。
もしリリアが撃たれたのなら、「やられたー!」とか、「悔しいー!」などと叫んでしまいそうですが、ここにいるプレイヤーは誰も感情を出すことなく、静かに去っていくのです。
そのことを不思議に思いながらも、これがイサカさんの言っていた『リスペクト』の姿勢なのかな、とリリアは思いました。
「ん、どうした? 急に黙り込んで」
何も言わないリリアを、イサカさんが心配そうに見つめます。
リリアは首を横に振り、それに答えます。
「ううん。イサカさんが教えてくれた『リスペクト』を思い出していただけ。ゲームって楽しいね。まだちょっと怖いけど、今ので面白さがわかったよ。真剣だからこそドキドキするし、勝てると嬉しい!」
「おぉっ。そう言ってもらえると俺も嬉しいぜ!」
「うんっ! クロルがゲームを好きな理由もわかるよ。あんなにワクワクした顔、初めて見たもん」
「ほう。そうなのか?」
「うん。クロルって、何が好きとかあんまり教えてくれないから……楽しそうな顔が見られてよかった」
そして、リリアは困ったように微笑みます。
「私と同い年なのに、すごく大人っぽいんだ。冷静で、いろんなことを知ってて、いつも私を助けてくれる。だから、余計に気になるの。今までどんな経験をしてきたんだろう、って。どうしてクレイダーの運転手になったのか、その前はどんな生活をしていたのか……聞いてみたいけど、なかなか話してもらえなくて」
クロルの過去について、リリアは何度か聞いてみたことがありました。しかしその度に「僕のことはいいから」とはぐらかされるので、リリアはそれ以上聞けずにいました。
この街で、楽しそうにしているクロルを見て……リリアはあらためて、クロルのことをもっと知りたいと思いました。
「だったら、根気よく向き合うしかねぇな」
俯くリリアに、イサカさんが言います。
「優しくて親切な人ほど、自分のことを話すのが苦手だったりするんだ。俺の親友もそうだった。だから……クロルくんのことが知りたいなら、まずは自分から心を開くことだ」
「私から?」
「そう。なんでもまずは自分からだ。何故なら……他人は自分を映す鏡だからな」
その言葉の意味を、リリアは考えます。
そして……うんっと頷き、
「そうかも。だってクロルが私を助けてくれたから、私もクロルの力になりたいって思うんだもん。人と人って、鏡なんだね。だったら、私から心を開けば、クロルもきっと気持ちを話してくれるよね?」
「そういうことだ。リリアちゃんは賢いな!」
イサカさんに褒められ、リリアは「えへへ」と照れ笑いします。
「私、やってみる! クロルともっと仲良くなれるよう、心を開いてみるよ!」
「おうっ、その意気だ!」
「ありがとう! って、こんなこと話してる場合じゃなかったね。早くクロルと合流して、『王者』を倒さなきゃ!」
リリアが現在の状況を思い出した、その時。
――カン、カン。
遠くの方で、そんな音がしました。
物陰からそっと覗くと、ちょうど一人のプレイヤーが退場していくのが見えました。
「今のは……たぶん、クロルくんが撃ったんだ」
「『王者』をやっつけたの?」
「いや、あれも『王者』じゃない。しかし、この近くにはいるはずだ」
イサカさんとリリアがしばらく様子を窺っていると、ポックルがこっそり近づいて来ました。
「ポックル! クロルは一緒じゃないの?」
「まだあっちにいる。おれはあいつが考えた作戦を伝えに来たニャ」
「作戦?」
「『王者』は、あそこにある井戸の中だ。物音に反応して一瞬顔を出すけど、またすぐにひっこむニャ」
リリアとイサカさんはポックルが言う方を見ます。
周囲に隠れる物のない、円形の広場……その真ん中に、石で造られた井戸があるのが見えました。
「なるほど……確かに、あの中にいれば覗かれない限り見つからないし、360°どこでも狙うことができる。アイツが考えそうなやり方だ」
「それで、クロルが考えた作戦っていうのは?」
リリアに尋ねられ、ポックルは「こほん」と咳払いをしてから――二人に作戦を伝えました。
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