天使の住む街、知りませんか?

河津田 眞紀

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ゲームの街 Ⅳ

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 ――『サバイバルシューティング』のフィールドは、荒れ果てた街のような造りをしていました。

 崩れかけの建物に、ボロボロになった木の塀。
 不規則に生えた木々に、無造作に置かれたドラム缶。

 そうした身を隠すための場所が至る所にあります。


 イサカさんの忠告通り、クロルとリリアはゲーム開始後すぐに他のプレイヤーから狙われました。
 物陰から銃を向けられていることに気づいたクロルが、「危ない!」とリリアを建物の中に引き込みます。
 同時にイサカさんが撃ち返し、相手にレーザーを命中させました。素早く正確な射撃テクニックに、クロルは口を開けて感動します。


「すごい……あんな遠くの相手を一発で仕留めるなんて!」
「ハハッ、これくらい大したことねぇよ! それより、一つの場所に長く留まるのは危険だ。みんなで前後左右を確認しながら、少しずつ移動しよう」


 三人と一匹は周囲を警戒しながらフィールドを進みます。
 途中、他のプレイヤーに何度か狙われましたが、イサカさんが撃退してくれました。そしてクロルも、ドラム缶の陰に潜むプレイヤーを一名撃つことに成功しました。


「わ、当たった……!」
「クロル、すごいすごい! 上手だね!」
「本当に初めてか? お世辞じゃなく才能があると思うぜ!」


 リリアとイサカさんに褒められ、クロルは照れながら頭を掻きます。その表情がとても嬉しそうで、リリアは胸が温かくなりました。
 しかし、その直後……


「…………! 危ニャいっ!!」


 ポックルが叫びました。
 三人が咄嗟にその場を飛び退くと、直前まで立っていた場所にレーザー光線が飛んできました。誰かに狙われているようです。

 クロルとポックル、そしてリリアとイサカさんに分かれ、物陰に隠れます。


「この遠距離射撃は、もしかして……」


 イサカさんが呟きながら顔を覗かせると、その頬を掠めるようにまたレーザー光線が飛んできました。
 それほど正確に狙いを定めているのに、狙撃手がどこにいるのかわかりません。こちらからは見えない、遠くの位置にいるようです。


「間違いない……『王者』だ」
「お、おうじゃ?」
「これまで一番多く優勝しているプレイヤーだよ。誰にも見つからない遠い場所から正確に狙ってくるんだ。先月はなんとか勝てたが、もう何度も負けている」
「えぇーっ! そんな強い人に狙われるなんて……すぐに負けちゃうかも」


 リリアが不安げな声を上げますが、クロルは覚悟を決めたように眉を引き締め、言います。


「イサカさん。このまま二手に分かれて、その『王者』を狙いませんか?」
「え……?」
「僕たちで挟み撃ちにするんです。一人では無理でも、三人と一匹がいればきっと倒せますよ」


 クロルの目は真剣そのものでした。
 その熱意に、イサカさんはニッと笑って、


「……ああ、やってみるか! 恐らく『王者』はあっちの方角にいる。俺たちはこっちから回り込むから、クロルくんたちは反対側から回ってくれ」


 そう言って、クロルに背を向けて歩き出しました。
 リリアは不安そうにクロルの方を振り向いてから、イサカさんを追いかけて行きました。


「ポックル、僕たちも行こう」


 銃を構え、クロルも歩き出します。
『王者』に狙われないよう姿勢を低くし、建物や塀に隠れながらしばらく進むと、


「……待て。いる」


 ポックルが足を止めました。
 それに合わせてクロルも動きを止め、崩れた塀の陰に屈みます。

 ポックルの視線の先を見ると、少し離れた建物の中に人影が見えました。


「あの人が『王者』かな?」
「さぁニャ。どうする?」
「どっちにしろあの人がいると先へ進めない。倒そう」
「どうやって?」


 クロルは周囲を見渡します。と、その人がいる場所の近くにドラム缶が転がっているのが見えました。


「……ポックル。お願いがあるんだけど」
「ニャんだ?」
「あそこにあるドラム缶を軽く叩いてくれないかな? 不審に思って顔を覗かせたところを、僕が撃つよ」
「そんニャにうまくいくか?」
「わからない。でも、やれるだけやってみよう」


 クロルは迷いなく答えます。
 その目を、ポックルはじっと見つめて、


「ニャんか……お前、イキイキしているニャ」
「へっ? そうかな」
「ああ。好きニャのか? こういうの」


 そう問われ、クロルは一度口を閉ざします。
 そして、少し考えた後……こう答えました。


「……うん、好きなのかも。昔、テレビゲームをやっていたから……ちょっとだけ憧れていたんだ」
「昔って、運転手にニャる前か?」
「まぁね」


 短く答えた後、クロルは口を閉ざしました。それ以上は語るつもりがないようです。そのことを悟り、ポックルも何も聞かないことにしました。
 代わりに、今度はクロルからポックルに投げかけます。


「そういうポックルも、意外とやる気だよね」
「ん? ニャにが?」
「このゲーム。てっきり参加しないのかと思ったけれど、真っ先に出ることを決めたから驚いたよ。ニンゲンとは馴れ合わないんじゃなかったの?」
「にゃ、ニャれ合うつもりはニャい。これはあくまで狩りの練習だ! 猫は単独で行動するものだが、ライオンは群れで狩りをするらしいからニャ! 今日はたまたまライオンの血が騒いだだけだ!」
「群れで狩りをするのは、主にライオンのだったはずだけど?」
「うるさいッ! そんニャこと言うニャら協力してやらニャいぞ?!」
「ごめんごめん。それじゃあライオンさん。ドラム缶を鳴らして、あの人を引きつけてくれる? 出てきたところを、僕が狙う」
「ふん……仕方ニャいニャ」


 ポックルは頷き、慎重にドラム缶へ近づきました。
 気づかれないよう、死角となる位置にうまく回り込み……

 ――カン、カン。

 爪を立て、ドラム缶に軽く猫パンチをしました。

 すると、音に気付いたその人が警戒を強めます。
 しばらくじっとしていましたが、音が鳴り止んだことを不審に思ったのか、建物から頭を出しました。

 クロルはレーザー銃を構え、照準を合わせます。
 距離の離れた相手。向こうはこちらに気づいていません。
 当て損なえばこちらの居場所がばれ、すぐに返り討ちに遭うでしょう。

 ……失敗はできない。外せば終わり。

 そんな緊張感が、クロルの鼓動を加速させます。
 しかし同時に、クロルはその緊張を心地よく感じていました。
 夢中で楽しんでいるからこそのドキドキに、なんだかとても『生きている』かんじがしたのです。


 クロルが狙いを定める先で、相手はドラム缶に近づこうと動きます。
 その瞬間……クロルは、銃の引き金を引きました。

 ――ピーッ! ピーッ!

 相手のヘッドバンドから、電子音が鳴りました。クロルの撃ったレーザーが命中した音です。
 その人は銃を下ろし、静かに退場していきました。


「ふう……よかった。ちゃんと当てられた」
「ふん、ニャかニャかやるじゃニャいか」
「ありがとう。ポックルのおかげだよ」


 戻って来たポックルに、クロルはお礼を述べます。
 しかしポックルはそれに答えず、クロルが隠れている塀の向こう側に目を向けて、


「安心するのはまだ早いぞ。お前らが探している『王者』ってヤツを見つけたかもしれニャい」
「えっ、ほんと?」
「ああ。今の音に反応して、一瞬だけ頭を出したのが見えた」
「どの辺り?」


 クロルの問いに、ポックルは顎を動かして、


「あの広い場所の真んニャかにある――井戸のニャかだ」


 そう言って、周りに隠れる場所のない、丸い井戸を見つめました。


 
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