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ゲームの街 Ⅲ
しおりを挟む街の面積の四分の一をしめるというそのエリアには、白い建物が広がっていました。
天井部分はドーム状になっているのか、少しふくらんで見えます。しかしあまりにも巨大で、壁も屋根も端が見えない程でした。
「すごい……こんなおっきな建物、見たことない!」
「ハハッ! 中を見たらもっと驚くぞ?」
イサカさんの後ろに続いて、クロルたちは門をくぐり、建物の中へと入ります。
すると、イサカさんの言葉通り、すぐに驚くことになりました。
「た、建物の中なのに……」
「……空が、ある」
「……ニャ」
クロルとリリア、そしてずっと黙っていたポックルまでもが声を上げました。
外から見た時は、ドーム状の白い屋根があるように見えました。しかしその内部には、気持ちの良い青空が広がっていたのです。白い雲が少しずつ形を変え、流れてゆくのが見て取れます。
「ど、どうなっているの……?」
「空のように見えるが、あれは天井に映し出された映像なんだ。これのおかげで、実際の天候に左右されることなく、外にいるような開放感の中でゲームをすることができる。曇りにすることも、時間を変えて夜空にすることもできるぞ」
「なるほど。たしかにこれなら、雨の日も風の日もゲームを楽しめますね」
呆気に取られるクロルたちに、イサカさんは前方を指さして言います。
「あっちにあるのが受付カウンターだ。参加するゲーム種目を選んでエントリーできる。君たち全員、参加でいいよな?」
「えっ?」
「わ、私も?」
「せっかくならみんなでやった方が楽しいだろ? 俺としても、この街の良さをぜひ知ってもらいたいしな」
クロルとリリアが戸惑っていると、ポックルがスタスタと前に出て、
「そのゲームとやらは、猫も参加可能ニャのか? 狩りの練習にニャりそうだし、出てやってもいいぞ」
と、急にペラペラと喋り出すので、イサカさんは体をのけ反らせて驚きます。
「おぉっ。君、喋れるのか! 猫の参加者は聞いたことがないが、面白そうだし、たぶん大丈夫だろう!」
「だそうだ。お前たちはどうする? 怖いニャら、ここで待っていてもいいぞ? 怖いニャら」
なんて、ポックルが挑発するように言うので……
クロルとリリアはむっと唇を尖らせながら、
「出ます!」
「出るよ!」
声を揃えて、そう言いました。
――クロルとリリアは受付でエントリーをし、センサー付きのベストとヘッドバンドを装着しました。
手続きはすべてタッチパネルの機械でおこなえるため、スタッフの人はいませんでした。
クロルたちは練習スペースに移動し、イサカさんにレーザー銃の使い方を教わりました。
初心者向けの軽い銃をレンタルしたため、二人はすぐにコツを掴みました。
「そうそう! 上手いじゃないか、二人とも!」
練習用の的に見事命中させたクロルたちを、イサカさんは褒めます。
「この基本さえ押さえれば、初心者でも十分に戦えるぞ! 大事なのは気持ちで負けないことだ!」
「気持ちね。わかった!」
元気よく答えるリリアに、イサカさんが大きく頷きます。
「それからもう一つ。参加する上で、絶対に忘れてはならないことがある。それは――他の参加者に対する『リスペクト』だ」
「りすぺくと?」
リリアが聞き返すと、イサカさんは少し屈んで二人に目線を合わせます。
「敬意をもって相手に接する、って意味だ。ゲームの中ではみんながライバルだが、同時に、同じゲームを楽しむ仲間でもある。勝ちたいからってズルをしたり、ルールを破るようなことをしてはいけない。たとえ撃たれて悔しくても、侮辱するような言葉をぶつけてはいけない。返していいのは、賞賛と拍手だけだ」
「なぁんだ。そんなの、当たり前のことじゃない」
「その『当たり前』がむずかしいんだ。本気で勝ちたいと思ったらなおさらな」
「ふーん。そうなんだ」
「ハハッ。悪いな、いきなりこんな話をして。もちろん、君たちがそんなことをするような子だとは思っていない。ただ、俺にはこれを伝える義務があるんだ。『当たり前』だと思ってくれているなら、それでいい」
そう言って微笑むイサカさんの目が、クロルには少しだけ寂しげに見えました。
クロルは胸に手を当て、誓いを立てるように答えます。
「わかりました。楽しむ気持ちとリスペクトを忘れずに臨みます」
「ああ、ありがとう。さぁ、そろそろ開始時間だ。ゲームがおこなわれるフィールドへ向かおう」
イサカさんは頷き、クロルたちを導くように歩き出しました。
そうして三人と一匹は、『サバイバルシューティング』がおこなわれるフィールドに入りました。
しかし、ゲーム開始前だというのに他の参加者が見当たりません。リリアは首を傾げ、辺りを見回します。
「あれ? 他の人は?」
「俺たちの相手は、すでにフィールド内で待ち構えている。開始したらすぐに狙われるから、気をつけろよ?」
「もう隠れているの? どこにいるのかぜんぜんわからない……」
と、そこで、プロペラのついた小さな機械が近くに飛んできました。リリアは「わぁっ」と驚き、クロルの背中に隠れます。
「イサカさん、この機械は……?」
「撮影用のカメラだよ。ゲームの様子をライブ映像で配信しているんだ。参加しない住民たちが観戦している」
「そうなんですね」
イサカさんとクロルの話す内容がいまいちわからないリリアは、後でクロルに聞こうと思いながら、徐々に離れていくカメラを見送りました。
「おっ、あと十秒で始まるぞ。準備はいいか?」
イサカさんが言った直後、天井の一部の映像が切り替わり、カウントダウンが始まりました。
そして……数字がゼロになるのと同時に、合図のブザーが響き渡ります。
クロルたちにとって初めてのシューティングゲームが、いよいよ始まりました。
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