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ゲームの街 Ⅱ
しおりを挟む――翌日の、朝の八時。
列車は次の街に到着しました。
ガラス窓の四角い建物が建ち並ぶ、整然とした雰囲気の街です。"鏡の街"と少し似ていますが、もっと背の高いビルがひしめき合っています。
駅に降りたリリアとポックルはめいっぱい首を反らし、そびえ立つ建物を見上げました。
「すっごい大きいね……これ、家なの?」
「住居もありそうだけど……お店や仕事場なんかも混ざっているんじゃないかな」
リリアの問いに、クロルがガイドブックを開きながら答えます。
ちょうどその時、目の前の建物から一人の男性が出てきました。
黒い短髪にバンダナを巻いた、体の大きな人です。筋肉質な肩には黒く光る銃器を背負っています。
クロルたちに気付いた男性が、手を上げて近づいて来ました。
「やぁ、こんにちは! よその人が来るなんて久しぶりだなぁ。ようこそ。見学かい?」
怖そうな装いとは対照的に、親しげな雰囲気で声をかけてくれました。
リリアは少しほっとして、挨拶をします。
「こんにちは。クレイダーに乗ってきました。ここはどんな街なの?」
すると男性は、「よくぞ聞いてくれた」と言わんばかりにニカッと笑い、こう言いました。
「ここは――"ゲームの街"だよ」
男性はこれから『ゲームエリア』という場所に行くと言うので、リリアたちもついて行くことにしました。
歩きながら男性は、この街の決まりについて話してくれました。
この街では、月・火・木・金曜日は仕事をしたり学校に行ったりと、普通の生活を送ります。
しかし、水・土・日曜日はお店も会社も学校も全てお休み。
代わりに、街の四分の一程の面積を占めるゲームエリアで試合をおこなうのだそうです。
「しあい?」
「そう。いろんな種目があるんだが、俺が出場しているのはシューティングゲーム――こういう銃での撃ち合いだ」
「えぇっ? それって……怪我したり、死んじゃったりしないの……?」
「ハッハッハ! 大丈夫だよ。これはただのレーザー銃だから」
「れーざー?」
「実弾じゃなく、光だけが出るんだ。ほら」
リリアが聞き返すと、男性が試しに銃の引き金を引いてみせます。すると、銃口から赤い光がまっすぐに伸びました。
「わ、ほんとだ!」
「プレイヤーは体にセンサーを付けていて、この光に撃たれると音が鳴る仕組みになっている。ゲームエリアには身を隠せる場所がたくさんあるから、撃たれないよう隠れながら他のプレイヤーを狙うんだ。一度でも撃たれたら負け。生き残った最後の一人がその月の優勝者になれる」
「じゃあ、最初の試合で撃たれちゃったら次の月までは試合に参加できないってこと?」
「その通り。今日はまさに今月最初の試合だから、一番プレイヤーが多い。撃たれないよう、気合いを入れて臨む必要があるんだ」
男性は銃を背負い直すと、白い歯を見せながら笑います。
「自己紹介が遅れたな。俺はイサカ。いちおう先月の優勝者だ」
「えっ?! すごいね!」
「ハッハッハ! まぁな!」
「私はリリア。新しく住む街を探して旅をしているの」
「僕はクレイダーの運転手のクロルです。こちらは猫のポックル」
「リリアちゃんにクロルくんにポックルか。よろしくな!」
イサカさんが言った後、クロルが遠慮がちに尋ねます。
「あの……ゲームって、何人くらい参加するんですか?」
「そうだなぁ。俺が出る『サバイバルシューティング』は、多い時では三十人くらいが出場していたかな。この街には他にも『レーシングカート』や『格闘バトルスマッシュ』といった人気種目があって、みんな月ごとに参加したいゲームにエントリーするんだ」
「レースに格闘バトル……おもしろそうですね。画面を見ながらやるテレビゲームと違って、この街のゲームは自分自身がプレイヤーになって参加するんですね」
「その通り。クロルくんはテレビゲームをやったことがあるのか?」
「はい。前に、少しだけ」
「だったらこの街のゲームにも興味が持てるかもな。なにせ、『テレビゲームのようなバトルを実際にやってみたい!』って気持ちから生まれた街だから。テレビゲーム好きの移住者も、昔はけっこういたんだぜ?」
イサカさんの説明を聞くクロルの目は、いつになく輝いていました。そのことに気づいたリリアは、こう尋ねてみます。
「クロル……もしかして、試合に参加したいの?」
「へっ?」
「なんか、すっごく興味を持ってるみたいだから。クロルのこんな顔、初めて見た」
「き、気のせいだよ。すごいなぁって思っただけ。それに、住民以外は参加できないだろうし……」
「いや、できるぞ?」
そこで、イサカさんがニッと笑って、
「さっきも言った通り、今日は今月の第一試合日なんだ。初出場でも、よその街から来た人でも、誰でもエントリーできる」
「わぁ、よかったねクロル! ラッキーだよ!」
「べ、別に僕は……第一、これはリリアとポックルのための見学なんだし……」
「いいじゃない。クロルはいつも私に付き合ってくれているんだし、たまには自分のやりたいことをやりなよ!」
「でも……」
「そうこう言ってる内に着いたぜ。ここがゲームエリア――『シャングリラ』だ」
イサカさんの言葉に、クロルたちは足を止め、目の前を見上げます。
そして……すぐに「わぁ」と、感嘆をもらしました。
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