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普通の街 Ⅰ
しおりを挟む――"ゲームの街"を出発してから一週間。
クロルとリリアとポックルは、さらに三つの街を廻りました。
みんな仕事が大好きで、どこも人手が足りすぎているため、常に新しい仕事を開拓している"労働の街"。
身の回りのほとんどをロボットがしてくれて、人間がロボットからの指示を待っている"機械仕掛けの街"。
住民全員がバーチャルリアリティの中で暮らし、好きな性別・年齢・容姿を選択して生きることができる"電脳の街"。
どの街も、そこに暮らす人々は生き生きとしていましたが、リリアとポックルには合いそうにありませんでした。
「――明日着く街は、どんなところなの?」
"電脳の街"を出発した、その晩。
二人と一匹はいつものように、クレイダーの一両目で夕食を共にしていました。
お決まりになりつつあるリリアの質問に、いつもならすぐに答えてくれるクロルですが、今日は何故か口を閉ざしていました。
リリアはクロルを心配そうに見つめ、ポックルも返事を待ちます。
そして……クロルはしばらく沈黙してから、真剣な表情でこう言いました。
「……前に言ったこと、覚えているかな。リリアが気に入るんじゃないかなって思う街が一つある、って」
「もちろん、覚えているけど……もしかして」
「うん……明日着くのは、その街なんだ」
リリアが気にいるかもしれない街。
つまり、リリアはそこで列車を降りるかもしれない、ということです。
リリアは戸惑います。住むための街を探しているはずなのに、クロルやポックルと別れるかもしれないと思うと……まだまだ着かなければいいのに、だなんて思ってしまうのです。
「そっか……もう着いちゃうんだね。それで、その街はどんな場所なの?」
リリアが再び尋ねると、クロルは言葉を探すように俯いてから、
「…………"有翼人の街"」
「……え…………」
「リリアと同じ……羽が生えた人たちが住む街だよ」
困ったような笑みを浮かべて、そう答えました。
リリアは呆然とします。しかし、その横でポックルは呑気な声で言います。
「ほー、そんニャ街があるのか。よかったじゃニャいか、リリア。仲間だぞ、仲間」
「な……仲間……」
リリアは混乱しました。
だって、考えたことすらなかったのです。
自分と同じ、羽の生えた人だけが住む街があるだなんて――
* * * *
――翌日の、朝八時。
列車は、その街に到着しました。
朝食を済ませた二人と一匹は、緊張しながら列車を降ります。
駅からまっすぐに伸びるメインストリートの両脇には木製の建物が並んでいて、ほとんどが小さなお店になっているようです。開店の準備をしている人や、走り回る子どもたちで賑わっています。
そして――その人たち全員に、真っ白な羽が生えていました。
「本当に……私と、同じだ」
リリアは掠れた声で呟きながら、道行く人々を見つめます。
すると、駅に一番近いお店から、鞄を持った男の子が出てきました。
少し癖のある赤毛に、緑色の瞳。歳はリリアたちと同じくらいです。その背中にもやはり、白い羽が生えていました。
その子が「いってきまーす!」と元気な声を出してお店の扉を閉め、歩き出そうとしたその時。ちょうどこちらと目が合いました。
「あっ! ひょっとして、新しくこの街へ来た人?」
男の子は一直線にこちらへ走って来ます。
「はじめまして! 僕はキリク。そこの店の子どもだよ。君たちは?」
「え……あ、あの……」
突然、自分と同じ羽を持つ子に話しかけられ、リリアは言葉を詰まらせました。
なので、クロルが代わりに答えます。
「この子はリリア。住む街を探しているんだ。自分以外に羽を持つ人を初めて見たから、びっくりしているんだよ。僕はクレイダーの運転手クロル。こっちは猫のポックル」
「よろしくニャ」
キリクと名乗った少年が、「うわぁ、猫が喋った!」と嬉しそうに驚きます。そして、
「住む街を探しているってことは、まだここに決めたわけじゃないんだね。それなら、僕についておいでよ! 今から学校へ行くんだ。先生に話して見学させてもらおう!」
「がっこう?」
「子どもたちが昼間通う、勉強を習う場所だよ」
首を傾げるリリアに、クロルがいつものようにこっそり教えます。
「この街には、大人と子ども合わせても百人くらいしかいないんだ。その内、僕らみたいな初等学校の生徒は十人。人数が少ないから、すぐに仲良くなれるよ!」
「い、いきなり行って大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫! この街は羽が生えている仲間ならいつでも大歓迎だから。ほら、行こう!」
そう言ってキリクは、リリアの手を引いて走り出します。
それを見たクロルとポックルも、顔を見合わせてから、それについて行きました。
――キリクの通う学校は、街の中心部にありました。
木製の、二階建ての建物です。
運動をするための広い庭があり、遊具があり、その周りには様々な植物が植わっていました。
その庭の真ん中を通って、三人と一匹は校舎の中へと入ります。
途中、キリクは何人かの友だちに挨拶を交わしながら、入ってすぐの一部屋へとリリアを招き入れました。
「ここが僕たちの教室だよ」
リリアは中を見回します。
壁に掲げられた大きな黒板。その正面には木製の椅子と机が並んでいます。奥には庭が見える窓があり、後ろには本棚とロッカーがありました。
教室には、既に子どもたちがいました。リリアたちと同い年くらいの子もいれば、もっと幼い子もいます。もちろん、みんな背中に真っ白な羽を生やしています。
その子たちが、リリアを見るなり一斉に集まってきて、
「えーっ! 君だぁれ?」
「初めて見る子だねー」
「猫もいる! 君の猫?」
「どこから来たの?」
などと口々に尋ねるので、リリアは困惑しました。
クロルが助け舟を出そうとした、ちょうどその時。
「おはようみんなー。席に着いて……って、あら?」
後ろから、そんな声がしました。
クロルとリリアが振り返ると、女の人が立っていました。黒いショートヘアの、若い女性です。
その女性が、リリアとクロルに目線を合わせるように屈んで、
「はじめましての子たち、よね? こんにちは。私はこのクラスの担任よ。あなたたちは……もしかして、他の街から来たのかしら?」
優しく尋ねられ、リリアはやっと落ち着いて言葉を選ぶことができました。
「あの、私、リリアって言います。住む街を探して、クレイダーに乗って来ました。こっちは運転手のクロルと、猫のポックル」
それに続けるように、キリクが身を乗り出し、
「列車から降りて来たところを見つけて連れて来たんだ。ねぇ、ジーナ先生。学校を見学してもらってもいいでしょ?」
「うーん。でも、お家の人に断りもなしにいいのかしら?」
女性――ジーナ先生が腕を組みながら首を傾げます。
すると、リリアが、
「『家の人』はいません。私たちだけでこの街へ来ました」
と、しっかりした声で言うので、先生も子どもたちも驚きました。
「……そう。それじゃあ、詳しい事情は後で教えてもらうとして……もう始業時間だから、ホームルームを始めましょう。リリアとクロルも好きな席に座って。ポックルくんは……」
ジーナ先生が言いかけると、ポックルは日当たりの良い窓際の棚にぴょんと飛び乗り、
「ここで昼寝させてもらう。お構いニャく」
と言うので、子どもたちは「喋ったー!」と一斉に叫びました。
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