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2. 精霊獣使いと星詠みの眼
しおりを挟む……えぇと。
何がどうしてこうなった?
そもそも私は、なんでこの人と婚約したんだっけ?
混乱する頭で、私はこれまでの人生を振り返った――
* * * *
古の時代。
世界には、『精霊獣』と呼ばれる生物がいた。
見た目は動物に似ているけれど、水や風、土や火など、自然界に在る力を自由に操ることのできる神聖な存在だったそうだ。
精霊獣と心を通わせ、その力を借りることのできる者を、人は<精霊獣使い>と呼んだ。
私が生まれたアスティラルダ伯爵家は、その<精霊獣使い>の血を受け継ぐ一族。
精霊獣が棲むと云われる『アンテローズの森』と、私たちが住む人里との"境界"を護る番人として、このフィンブルグ王国の西端に位置する広大な土地を代々治めてきた。
といっても、数百年前の『竜魔戦争』――竜と精霊獣との戦い以来、精霊獣は姿を消し、一族が持つ<精霊獣使い>の力も徐々に消えていったのだけれど……
だから、現代となっては、形だけの番人だ。
<精霊獣使い>同様、古の時代の不思議な力を継承している人々がいる。
未来を予見する力を持つ者――<星詠みの眼>の一族だ。
国王直属の<星詠み>であるラージウィング公爵家が有名だが、ここ数年はベルジック公爵家が次々に未来を予見し、災いを退け、大活躍しているらしい。
その躍進目覚ましいベルジック家の次男にして、優秀な<星詠み>であるディオニス・ライア・ベルジック様こそが、私の婚約者だ。
輝く金髪に、スラリとした長身。
スッと切れ長な、サファイアブルーの瞳。
誰もが目を奪われる美男子だけれど、正直私は、彼にまったく興味がなかった。
何故なら……
「――はぁ……今回のお話も、ジーク様の塩対応が最っ高に光ってた……嗚呼、氷のように冷ややかな瞳が目に浮かぶ……」
……あ。これ、私のセリフです。
私は、美男子と言われる婚約者サマにはまったく興味がない。
何故なら……小説の登場人物・ジーク様に夢中だから。
私は三歳の時に、母を病で亡くした。
兄弟や姉妹はいない。お父様は公務で不在にしがち。
加えて、とある理由により友人もいない。
そんな孤独な境遇から、私は本の世界にどっぷりとハマっていった。
本は、孤独な現実を忘れさせてくれる夢。
そして、別の人生を味わわせてくれる魔法。
いつしか私の部屋は、お父様の書斎と変わらないほどの本で埋め尽くされた。
これまでたくさんの本を読んできたけれど、今一番ハマっているのが、この『アイテール幻想記』。
竜魔戦争の時代へ時間遡行した主人公・カトリーナ伯爵令嬢が、現地で出会う様々なイケメン公爵たちに溺愛されながら元の時代へ戻る方法を探す――という幻想的なお話なのだけれど……
『だから……なんでテスは脇役のジークが好きなワケ? ここはフツー、本命公爵のリシュターにキュンとするところじゃない?』
私のセリフを聞き、呆れたようにツッコミを入れる声。
しかしそれは……鼓膜を通じて聞こえるものではない。
私の"思考"に、直接語りかけてくる声だ。
「もう、何度も言っているじゃない。主人公のカトリーナに興味なさげな、このクールなところがいいんだってば! ジーク様は簡単に人を好きになったりしないし、甘い言葉をぽんぽん安売りしたりしない。だからこそ、ジーク様のお言葉には一つ一つ重みがある! リシュターやその他イケメンたちのペラッペラな口説き文句とはワケが違うの!」
『本命ヒーローをペラッペラとこき下ろすなんて……テスってば、ほんとにこの小説が好きなの?』
そう言って、呆れたように首を振るのは……
鳥。
マルツグミという、小さな野鳥だ。
瑠璃色の綺麗な羽と黄色いくちばし。その名の通り、ふわふわとした丸い形が特徴だ。
彼女が、私の話し相手。
名前はピノ。
……そう。
私は、アスティラルダ家に数百年ぶりに生まれた、動物と心を通わせることのできる、<精霊獣使い>の能力者なのだ。
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