解釈違いです、公爵様!〜予見を理由に婚約破棄されたので、推しと一緒に汚名返上の旅に出ます〜

河津田 眞紀

文字の大きさ
2 / 70

2. 精霊獣使いと星詠みの眼

しおりを挟む


 ……えぇと。
 何がどうしてこうなった?
 そもそも私は、なんでこの人と婚約したんだっけ?

 混乱する頭で、私はこれまでの人生を振り返った――


 * * * *


 いにしえの時代。
 世界には、『精霊獣せいれいじゅう』と呼ばれる生物がいた。

 見た目は動物に似ているけれど、水や風、土や火など、自然界に在る力を自由に操ることのできる神聖な存在だったそうだ。

 精霊獣と心を通わせ、その力を借りることのできる者を、人は<精霊獣使いファミリエル>と呼んだ。

 私が生まれたアスティラルダ伯爵家は、その<精霊獣使いファミリエル>の血を受け継ぐ一族。
 精霊獣が棲むと云われる『アンテローズの森』と、私たちが住む人里との"境界"を護る番人として、このフィンブルグ王国の西端に位置する広大な土地を代々治めてきた。
 
 といっても、数百年前の『竜魔戦争』――竜と精霊獣との戦い以来、精霊獣は姿を消し、一族が持つ<精霊獣使いファミリエル>の力も徐々に消えていったのだけれど……
 だから、現代いまとなっては、形だけの番人だ。


 <精霊獣使いファミリエル>同様、古の時代の不思議な力を継承している人々がいる。
 未来を予見する力を持つ者――<星詠みの眼へルシファー>の一族だ。
 
 国王直属の<星詠み>であるラージウィング公爵家が有名だが、ここ数年はベルジック公爵家が次々に未来を予見し、災いを退け、大活躍しているらしい。
 その躍進目覚ましいベルジック家の次男にして、優秀な<星詠み>であるディオニス・ライア・ベルジック様こそが、私の婚約者だ。

 輝く金髪に、スラリとした長身。
 スッと切れ長な、サファイアブルーの瞳。

 誰もが目を奪われる美男子だけれど、正直私は、彼にまったく興味がなかった。
 何故なら……

「――はぁ……今回のお話も、ジーク様の塩対応が最っ高に光ってた……嗚呼、氷のように冷ややかな瞳が目に浮かぶ……」

 ……あ。これ、私のセリフです。

 私は、美男子と言われる婚約者サマにはまったく興味がない。
 何故なら……小説の登場人物・ジーク様に夢中だから。

 私は三歳の時に、母を病で亡くした。
 兄弟や姉妹はいない。お父様は公務で不在にしがち。
 加えて、とある理由により友人もいない。
 そんな孤独な境遇から、私は本の世界にどっぷりとハマっていった。

 本は、孤独な現実を忘れさせてくれる夢。
 そして、別の人生を味わわせてくれる魔法。
 いつしか私の部屋は、お父様の書斎と変わらないほどの本で埋め尽くされた。

 これまでたくさんの本を読んできたけれど、今一番ハマっているのが、この『アイテール幻想記』。
 竜魔戦争の時代へ時間遡行した主人公・カトリーナ伯爵令嬢が、現地で出会う様々なイケメン公爵たちに溺愛されながら元の時代へ戻る方法を探す――という幻想的なお話なのだけれど……

『だから……なんでテスは脇役のジークが好きなワケ? ここはフツー、本命公爵のリシュターにキュンとするところじゃない?』

 私のセリフを聞き、呆れたようにツッコミを入れる声。
 しかしそれは……鼓膜を通じて聞こえるものではない。

 私の"思考"に、直接語りかけてくる声だ。

「もう、何度も言っているじゃない。主人公のカトリーナに興味なさげな、このクールなところがいいんだってば! ジーク様は簡単に人を好きになったりしないし、甘い言葉をぽんぽん安売りしたりしない。だからこそ、ジーク様のお言葉には一つ一つ重みがある! リシュターやその他イケメンたちのペラッペラな口説き文句とはワケが違うの!」
『本命ヒーローをペラッペラとこき下ろすなんて……テスってば、ほんとにこの小説が好きなの?』

 そう言って、呆れたように首を振るのは……

 鳥。

 マルツグミという、小さな野鳥だ。
 瑠璃色の綺麗な羽と黄色いくちばし。その名の通り、ふわふわとした丸い形が特徴だ。

 彼女が、私の話し相手。
 名前はピノ。

 ……そう。
 私は、アスティラルダ家に数百年ぶりに生まれた、動物と心を通わせることのできる、<精霊獣使いファミリエル>の能力者なのだ。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

無自覚人たらしマシュマロ令嬢、王宮で崇拝される ――見た目はぽっちゃり、中身は只者じゃない !

恋せよ恋
ファンタジー
 富豪にして美食家、オラニエ侯爵家の長女ステファニー。  もっちり体型から「マシュマロ令嬢」と陰口を叩かれる彼女だが、  本人は今日もご機嫌に美味しいものを食べている。  ――ただし、この令嬢、人のオーラが色で見える。  その力をひけらかすこともなく、ただ「気になるから」と忠告した結果、  不正商会が摘発され、運気が上がり、気づけば周囲には信奉者が増えていく。  十五歳で王妃に乞われ、王宮へ『なんでも顧問』として迎えられたステファニー。  美食を愛し、人を疑わず、誰にでも礼を尽くすその姿勢は、  いつの間にか貴族たちの心を掴み、王子たちまで惹きつけていく。  これは、  見た目はぽっちゃり、されど中身は只者ではないマシュマロ令嬢が、  無自覚のまま王宮を掌握していく、もっちり系・人たらし王宮譚。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 エール📣いいね❤️励みになります!

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

罰として醜い辺境伯との婚約を命じられましたが、むしろ望むところです! ~私が聖女と同じ力があるからと復縁を迫っても、もう遅い~

上下左右
恋愛
「貴様のような疫病神との婚約は破棄させてもらう!」  触れた魔道具を壊す体質のせいで、三度の婚約破棄を経験した公爵令嬢エリス。家族からも見限られ、罰として鬼将軍クラウス辺境伯への嫁入りを命じられてしまう。  しかしエリスは周囲の評価など意にも介さない。 「顔なんて目と鼻と口がついていれば十分」だと縁談を受け入れる。  だが実際に嫁いでみると、鬼将軍の顔は認識阻害の魔術によって醜くなっていただけで、魔術無力化の特性を持つエリスは、彼が本当は美しい青年だと見抜いていた。  一方、エリスの特異な体質に、元婚約者の伯爵が気づく。それは伝説の聖女と同じ力で、領地の繁栄を約束するものだった。  伯爵は自分から婚約を破棄したにも関わらず、その決定を覆すために復縁するための画策を始めるのだが・・・後悔してももう遅いと、ざまぁな展開に発展していくのだった  本作は不遇だった令嬢が、最恐将軍に溺愛されて、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である ※※小説家になろうでも連載中※※

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

冷遇されている令嬢に転生したけど図太く生きていたら聖女に成り上がりました

富士山のぼり
恋愛
何処にでもいる普通のOLである私は事故にあって異世界に転生した。 転生先は入り婿の駄目な父親と後妻である母とその娘にいびられている令嬢だった。 でも現代日本育ちの図太い神経で平然と生きていたらいつの間にか聖女と呼ばれるようになっていた。 別にそんな事望んでなかったんだけど……。 「そんな口の利き方を私にしていいと思っている訳? 後悔するわよ。」 「下らない事はいい加減にしなさい。後悔する事になるのはあなたよ。」 強気で物事にあまり動じない系女子の異世界転生話。 ※小説家になろうの方にも掲載しています。あちらが修正版です。

処理中です...