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48. 愚者の蛮行
しおりを挟む「…………そんな……」
頭の中が真っ白になり、私はその場にへたり込む。
ピノが『テス、しっかり!』と目の前を飛ぶけれど、焦点が合わず、答えることができない。
……ディオニスの予見は、当たっていた。
私は、竜の妻となり、ベルジック家に破滅を齎す者……
(ごめんなさい、お父様……私……わたし…………)
絶望し放心する私に、ウェイドが駆け寄り、肩に手を置く。
「落ち着け、テスティア。予見には、まだ続きがある」
「……え……?」
「ベルジック家の破滅は、厳密には君のせいではない。その原因は……ディオニスの蛮行にある」
ディオニスの、蛮行……?
混乱し、ウェイドを見つめ返すと、ネイファさんがこう続けた。
「ディオニスが、己の欲望のために人々を欺き……そして、燃え盛る大樹の下で貴女と対峙する。そんな未来が見えました」
「燃え盛る大樹……それって……?!」
「あぁ、俺にも見えた。恐らく、アンテローズの森だろう」
そんな……森が、大樹が燃えるって、どういうこと?
震える私に、ウェイドが言う。
「それだけじゃない。もう一人――あの落石事故を起こそうとして逃亡した男も、ディオニスと関係していることがわかった。これが何を意味するか……わかるか?」
そう投げかけられ……私はハッと息を飲む。
つまり、竜華結晶を狙った一連の事件は……
「裏で、ディオニスが手を引いていた……?」
掠れる私の声に、ウェイドが頷く。
「そうだ。どうにもおかしいと思っていた。オオカミの件も、落石の件も、クマの件も、すべて住民の安否に関わる非常事態……『降眼の声』だけで終わらせずに、『星詠みの儀』による詳細な予見を公示すべきだった。それなのにディオニスは曖昧な予見のまま人々に伝え、悪戯に恐怖心を煽っていた……恐らく、すべて嘘の予見だったのだろう」
「嘘……?」
「存在しない予見を人々に広め、裏で人を動かし、的中したように見せかけていたんだ。だからこそ、犯人を見つけ出そうとしていた君を襲わせた」
それじゃあ……あの晩、私を襲った強盗も、ディオニスの差し金?
だから、「これ以上、余計な真似をするな」と私を脅して……
……そうか。そう考えると、あの『竜の爪痕』で、犯人がわざわざ落石を起こそうとしたことにも説明がつく。
すべては、ディオニスが言い渡した嘘の予見を現実にするため。
アンブルウルフやメイプルグマの件もそう。彼らの住み処を荒らすことで、人間を襲うようにわざと仕向けていたんだ。
「でも……ディオニスは何故そんなことを……?」
「自分の予見は当たるのだということを、世間に印象付けるためだろう。奴はこれまでにも同様の手口で人々を騙してきたに違いない。そうして<星詠みの眼>としての地位を高めてきたんだ。そして、もう一つの目的は――」
「――竜華結晶を手に入れること、でしょう」
ネイファさんが、ウェイドの言葉を継ぐ。
「実は、ディオニスは三年前からこの祭殿に入ることを禁じられていました。つまり、正式な『星詠みの儀』をおこなうことができなかったのです」
「え……どうしてですか?」
「ディオニスに邪悪な未来が予見されたためです。彼には強すぎる野心があり、<星詠み>の力を悪用する運命が示されていた……だから、私的な理由で『星詠みの儀』をおこなうことができぬよう、一切の入山が禁じられていました。しかし……そのことが彼の邪心に拍車をかけたのでしょう。各地に残された竜華結晶を自ら集め、自分だけの祭殿を作ることを計画したようです」
だから、動物たちの住み処に隠されていた竜華結晶を集めていたんだ……
それによって引き起こされる動物たちの混乱を利用して、嘘の予見まででっち上げて。
ベルジック家の破滅が、ディオニスの蛮行を暴くことで齎されるものだということはわかった。
しかし、そうなると残る疑問は……
『燃え盛る大樹の下で、私とディオニスが対峙する』という予見についてだ。
「竜華結晶が目的なら、ディオニスは何故アンテローズの森に……? まさか、あの場所にも竜華結晶が……?」
私の問いかけに、ウェイドが深刻な面持ちで答える。
「……大樹だ。あの樹の内部には、巨大な竜華結晶がある。昔、近くで感じたことがあるから間違いない」
「なっ……」
あの樹――精霊獣の長であるパルエレミア様の魂が宿るあの大樹の中に、竜華結晶が……?!
「ディオニスはそれを狙って、森に火を放つということですか……?!」
『そんなことされたら、あたしたちは何もかも失うわ! 住み処も、心の拠り所も……!!』
ピノが、訴えるように言う。
パルエレミア様の大樹は、森に生きるすべての動物にとって大切なもの……彼らの象徴であり、誇りであり、故郷でもある。何があっても、絶対に護らなければならない。
「戻らなきゃ……早く行って、ディオニスを止めなきゃ!」
立ち上がる私に、ウェイドが頷く。
「あぁ、予見の内容から見てもあまり時間がない。すぐに向かおう。ネイファ」
ウェイドが言うと、ネイファさんは「えぇ」と答え、
「すぐに馬を手配します。それから、王都の<星詠みの眼>たちに今回の予見の証書を送り、ベルジック一族の身柄を拘束するよう通達します」
「あぁ……頼んだぞ」
互いに頷き合うと、ネイファさんはすぐに動き始めた。
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