解釈違いです、公爵様!〜予見を理由に婚約破棄されたので、推しと一緒に汚名返上の旅に出ます〜

河津田 眞紀

文字の大きさ
57 / 70

48. 愚者の蛮行

しおりを挟む


「…………そんな……」

 頭の中が真っ白になり、私はその場にへたり込む。
 ピノが『テス、しっかり!』と目の前を飛ぶけれど、焦点が合わず、答えることができない。


 ……ディオニスの予見は、当たっていた。
 私は、竜の妻となり、ベルジック家に破滅を齎す者……

(ごめんなさい、お父様……私……わたし…………)


 絶望し放心する私に、ウェイドが駆け寄り、肩に手を置く。

「落ち着け、テスティア。予見には、まだ続きがある」
「……え……?」
「ベルジック家の破滅は、厳密には君のせいではない。その原因は……ディオニスの蛮行にある」

 ディオニスの、蛮行……?
 混乱し、ウェイドを見つめ返すと、ネイファさんがこう続けた。

「ディオニスが、己の欲望のために人々を欺き……そして、燃え盛る大樹の下で貴女と対峙する。そんな未来が見えました」
「燃え盛る大樹……それって……?!」
「あぁ、俺にも見えた。恐らく、アンテローズの森だろう」

 そんな……森が、大樹が燃えるって、どういうこと?
 震える私に、ウェイドが言う。

「それだけじゃない。もう一人――あの落石事故を起こそうとして逃亡した男も、ディオニスと関係していることがわかった。これが何を意味するか……わかるか?」

 そう投げかけられ……私はハッと息を飲む。
 つまり、竜華結晶を狙った一連の事件は……
 
「裏で、ディオニスが手を引いていた……?」

 掠れる私の声に、ウェイドが頷く。

「そうだ。どうにもおかしいと思っていた。オオカミの件も、落石の件も、クマの件も、すべて住民の安否に関わる非常事態……『降眼こうげんの声』だけで終わらせずに、『星詠みの儀』による詳細な予見を公示すべきだった。それなのにディオニスは曖昧な予見のまま人々に伝え、悪戯に恐怖心を煽っていた……恐らく、すべて嘘の予見だったのだろう」
「嘘……?」
「存在しない予見を人々に広め、裏で人を動かし、的中したように見せかけていたんだ。だからこそ、犯人を見つけ出そうとしていた君を襲わせた」

 それじゃあ……あの晩、私を襲った強盗も、ディオニスの差し金?
 だから、「これ以上、余計な真似をするな」と私を脅して……

 ……そうか。そう考えると、あの『竜の爪痕』で、犯人がわざわざ落石を起こそうとしたことにも説明がつく。
 すべては、ディオニスが言い渡した嘘の予見を現実にするため。
 アンブルウルフやメイプルグマの件もそう。彼らの住み処を荒らすことで、人間を襲うようにわざと仕向けていたんだ。

「でも……ディオニスは何故そんなことを……?」
「自分の予見は当たるのだということを、世間に印象付けるためだろう。奴はこれまでにも同様の手口で人々を騙してきたに違いない。そうして<星詠みの眼へルシファー>としての地位を高めてきたんだ。そして、もう一つの目的は――」
「――竜華結晶を手に入れること、でしょう」

 ネイファさんが、ウェイドの言葉を継ぐ。

「実は、ディオニスは三年前からこの祭殿に入ることを禁じられていました。つまり、正式な『星詠みの儀』をおこなうことができなかったのです」
「え……どうしてですか?」
「ディオニスに邪悪な未来が予見されたためです。彼には強すぎる野心があり、<星詠み>の力を悪用する運命が示されていた……だから、私的な理由で『星詠みの儀』をおこなうことができぬよう、一切の入山が禁じられていました。しかし……そのことが彼の邪心に拍車をかけたのでしょう。各地に残された竜華結晶を自ら集め、自分だけの祭殿を作ることを計画したようです」

 だから、動物たちの住み処に隠されていた竜華結晶を集めていたんだ……
 それによって引き起こされる動物たちの混乱を利用して、嘘の予見まででっち上げて。

 ベルジック家の破滅が、ディオニスの蛮行を暴くことで齎されるものだということはわかった。
 しかし、そうなると残る疑問は……
『燃え盛る大樹の下で、私とディオニスが対峙する』という予見についてだ。

「竜華結晶が目的なら、ディオニスは何故アンテローズの森に……? まさか、あの場所にも竜華結晶が……?」

 私の問いかけに、ウェイドが深刻な面持ちで答える。

「……大樹だ。あの樹の内部には、巨大な竜華結晶がある。昔、近くで感じたことがあるから間違いない」
「なっ……」

 あの樹――精霊獣のおさであるパルエレミア様の魂が宿るあの大樹の中に、竜華結晶が……?!

「ディオニスはそれを狙って、森に火を放つということですか……?!」
『そんなことされたら、あたしたちは何もかも失うわ! 住み処も、心の拠り所も……!!』

 ピノが、訴えるように言う。
 パルエレミア様の大樹は、森に生きるすべての動物にとって大切なもの……彼らの象徴であり、誇りであり、故郷ふるさとでもある。何があっても、絶対に護らなければならない。
 
「戻らなきゃ……早く行って、ディオニスを止めなきゃ!」

 立ち上がる私に、ウェイドが頷く。

「あぁ、予見の内容から見てもあまり時間がない。すぐに向かおう。ネイファ」

 ウェイドが言うと、ネイファさんは「えぇ」と答え、

「すぐに馬を手配します。それから、王都の<星詠みの眼へルシファー>たちに今回の予見の証書を送り、ベルジック一族の身柄を拘束するよう通達します」
「あぁ……頼んだぞ」

 互いに頷き合うと、ネイファさんはすぐに動き始めた。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

処理中です...