滅私な有能剣士は食いしん坊な魔導少女のため、今日からメシに生きる。〜散々仕えた国の金でグルメ旅満喫します〜

河津田 眞紀

文字の大きさ
125 / 166
23 その番犬、猛獣につき

2

しおりを挟む



 シルフィーの答えに、クレアは思わず目を見開く。

「領主の、弟……?」
「はい。数年前に前領主が亡くなって、長男が後を継いだそうですが……ジーファはその弟。つまり、先代領主の次男です」

 各領地を治める領主は、基本的に世襲制だ。
 王族と同じように、親から子へと代々引き継いでゆく。

『ジーファ』は、現領主の弟……
 それならば、イリオンの海を占拠するような要求も、多額の金を積むことも可能。何せ、自らの一族が治める領地なのだから。

「と言うことは、シルフィーさんはジーファという男に会ったことがあるのですか?」
「いえ、実際お見合いは私も向こうも拒否して破談になったので……社交パーティーでチラッと見かけたことがあるくらいです。その時は特に、何の印象もなかったですね」
「その一族に関する噂など、何か聞いたことはありませんか? 兄弟仲が悪い、とか……」
「うーん……悪い噂はあまり記憶にないですね。私が耳にしたのは、長男が領主になってすぐに男の赤ちゃんが生まれて、これで跡取りには困らないって喜んでいたことと……あ、強いて言えば」

 シルフィーは、人差し指をピッと立て、

「亡くなった前領主……つまり、ジーファのお父さんにも弟がいて、その人は海難事故が原因で早くに亡くなったそうです」
「海難事故……?」
「はい。私が知っている情報はこれくらいです。すみません、あまりお役に立てなくて」
「とんでもない。ジーファが何者なのかがわかっただけでも非常に大きな収穫です。私はこの地方の貴族事情には明るくないので……やはりシルフィーさんがいてくれてよかった」
「えへへ。こんな形で役に立てるなら、お見合い話も無駄ではなかったですね。にしても……領地を治めるべき一族の者が、山賊を使って民をおとしめているだなんて。本当、呆れちゃいますね」

 そう言って、シルフィーは肩を竦める。

 明確な動機まではわからないが……領主の弟という立場を利用し、何か大きな事を企んでいるに違いない。その辺りは、後でしっかり調査すればいい。
 とにかく、今は……

 ……と、クレアはエリスが残した『魔導大全』に目を落とす。

 千切れた紐を結び、普段エリスがしていたように肩から掛けているのだが……
 雨に濡れたページをいくつかめくると、そこにはクレアとの食事の記録が、楽しげに書き連ねてあった。
 自分との思い出を一つ一つ、こうして残してくれていたことを知り……クレアの胸に喜びと、それ以上の怒りが押し寄せてくる。


 ジーファの動機がどうであれ、エリスを傷付け誘拐したことを、許すわけにはいかない。

 もしもエリスの身に何かあったら、その時は……領主の血族であろうとも、容赦はしない。


「……クレアさんも、そんな顔をすることがあるんですね」

 そうシルフィーに言われ、クレアはハッとなる。

「……私、どんな顔していました?」
「すっごく恐い顔です」
「……すみません。エリスの身にもしものことがあったらと考えると、冷静ではいられなくて」
「当たり前ですよ。私だってこう見えて、腹わた煮えくり返っていますから。だって……」

 ぎゅっ、と……
 シルフィーは、自分の拳を握りしめ、

「……エリスさん、クレアさんのために、一生懸命モノイワズを釣り上げたんですよ? 『喜んでくれるかな』って、あなたに食べてもらうのをあんなに楽しみにしていたのに……」

 悔しげな声で紡がれたその言葉に……クレアの心臓が、一際強く脈を打つ。

「エリスが、私のために……?」
「そうですよ! 身一つで海に飛び込んで、ようやく釣ったんです! なのに、こんなことになるなんて……私、本当に許せません!」

 それを聞き、クレアは、昨晩エリスと過ごした夜のことを思い出す。

(……そうか。俺がまだモノイワズをまだ食べていないと言ったから、エリスは……俺に食べさせるために……)

 クレアは、エリスへの愛しさで胸がいっぱいになるのと同時に……
 彼女を誘拐した連中への殺意が、臓腑の中で煮えたぎるのを感じ、

「…………」

 馬車の外に見えてきたカライヤ山を鋭く見上げ……
 剣の柄を、強く握りしめた。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

無才能で孤独な王子は辺境の島で優雅なスローライフを送りたい〜愛され王子は愉快なもふもふと友達になる才能があったようです〜

k-ing /きんぐ★商業5作品
ファンタジー
2023/5/26 男性向けホトラン1位になりました!  読みやすくするために一話の文字数少なめです!  頭を空っぽにして読んで頂けると楽しめます笑  王族は英才教育によって才能を開花する。そんな王族に生まれたアドルは成人しても才能が開花しなかった。  そんなアドルには友達と言える人は誰もおらず、孤独な日々を送っていた。  ある日、王である父親に好きに生きるようにと、王族から追放される。  ただ、才能に気づいていないのは王のみだった。  地図で一番奥にある辺境の島から、王国に戻りながら旅をしたら才能に気づくだろう。  そんなつもりで旅をしたが、着いた島は地図上にない島だった。  そこには存在しないと思われるもふもふ達が住む島だった。  帰ることもできないアドルはもふもふ達と暮らすことを決意する。  あれ?  こいつらも少し頭がおかしいぞ?

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。 父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。 多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。 オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。 それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。 この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界に転生したけどトラブル体質なので心配です

小鳥遊 ソラ(著者名:小鳥遊渉)
ファンタジー
 元々、トラブルに遭いやすい体質だった男の異世界転生記。  トラブルに巻き込まれたり、自分から飛び込んだり、たまに自分で作ったり、魔物と魔法や剣のある異世界での転生物語。余り期待せずに読んで頂ければありがたいです。    戦闘は少な目です。アルフレッドが強すぎて一方的な戦いが多くなっています。  身内には優しく頼れる存在ですが、家族の幸せの為なら、魔物と悪人限定で無慈悲で引くくらい冷酷になれます。  転生した村は辺境過ぎて、お店もありません。(隣町にはあります)魔法の練習をしたり、魔狼に襲われ討伐したり、日照り解消のために用水路を整備したり、井戸の改良をしたり、猪被害から村に柵を作ったり、盗賊・熊・ゴブリンに襲われたり、水車に風車に手押しポンプ、色々と前世の記憶で作ったりして、段々と発展させて行きます。一部の人達からは神の使いと思われ始めています。………etc そんな日々、アルフレッドの忙しい日常をお楽しみいただければ!  知識チート、魔法チート、剣術チート、アルは無自覚ですが、強制的に出世?させられ、婚約申込者も増えていきます。6歳である事や身分の違いなどもある為、なかなか正式に婚約者が決まりません。女難あり。(メダリオン王国は一夫一妻制)  戦闘は短めを心掛けていますが、時にシリアスパートがあります。ご都合主義です。  基本は、登場人物達のズレた思考により、このお話は成り立っております。コメディーの域にはまったく届いていませんが、偶に、クスッと笑ってもらえる作品になればと考えております。コメディー要素多めを目指しております。女神と神獣も出てきます。 ※舞台のイメージは中世ヨーロッパを少し過去に遡った感じにしています。魔法がある為に、産業、医療などは発展が遅れている感じだと思っていただければ。  中世ヨーロッパの史実に出来るだけ近い状態にしたいと考えていますが、婚姻、出産、平均寿命などは現代と余りにも違い過ぎて適用は困難と判断しました。ご理解くださいますようお願いします。    俺はアラサーのシステムエンジニアだったはずだが、取引先のシステムがウイルスに感染、復旧作業した後に睡魔に襲われ、自前のシュラフで仮眠したところまで覚えているが、どうも過労死して、辺境騎士の3男のアルフレッド6歳児に転生? 前世では早くに両親を亡くし、最愛の妹を残して過労死した社畜ブラックどっぷりの幸薄な人生だった男が、今度こそ家族と幸せに暮らしたいと願い、日々、努力する日常。 ※最後になりますが、作者のスキル不足により、不快な思いをなされる方がおられましたら、申し訳なく思っております。何卒、お許しくださいますようお願い申し上げます。   この作品は、空想の産物であり、現実世界とは一切無関係です。

処理中です...