滅私な有能剣士は食いしん坊な魔導少女のため、今日からメシに生きる。〜散々仕えた国の金でグルメ旅満喫します〜

河津田 眞紀

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29 ずっと貴女を見ていました

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 それから。
 五人は洞窟を後にし、ブルーノの家へと戻ってきた。

 エリスはようやく手錠を外された手をぶらぶらさせながら、

「こんないい剣が手に入るなら、新しいのを買う必要なかったわね」

 と、クレアが座る椅子の横に立てかけられた『元・風別かぜわかつるぎ』に目を向けた。

 数百年前に創られ、二十五年もの間シュプーフの喉に刺さっていたというのに、その劔は錆どころか刃こぼれ一つしていなかった。

 クレアもつられるように劔を見つめながら答える。

「えぇ。風の魔法の力はなくなりましたが、剣としてもかなりの上物です。"中央セントラル"に持ち帰った後は魔法研究所に回収されるでしょうから、それまでは好きに使わせていただきましょう」
「あ、それなら昨日買った剣、返品しない? まだ一回も使っていないんだし、もったいないよ」
「それもそうですね。って、あれ。領収書どこにしまったかな。今探すので、暫しお待ちを……」
「じゃなぁぁあああいっ!!」

 ダンッ!!
 と、シルフィーが拳をテーブルに叩きつける。

「あの! お二人の中では完結しているのかもしれませんが、私たちまっったく状況が飲み込めていないんですけど!? あの時、お二人は何を見たのですか?! どうして劔は抜けたんですか?! ちゃんと説明してください!!」

 そう鼻息を荒らげて捲し立てるので……
 エリスとクレアは一度顔を見合わせてから、あの時見た精霊の記憶を、シルフィーたちに話した。


 ──精霊を肉眼で認識できていた時代が存在したこと。
 精霊たちをべる"王"がいたこと。
 彼らは、人間による『いてほしい』という想いを糧にしていること。
 そして、人間と精霊を繋ぎ、正しく導こうとする『巫女』がいたこと。

 そんな時代の最中さなか、古の権力者たちは戦に精霊を使うようになり……
 精霊をすり潰し、『風別かぜわかつるぎ』をはじめとする七つの呪われた武器を創った。

 人間と精霊の行く末を案じた『巫女』は、死の淵で"精霊の王"に「精霊たちを隠して」と願った。
 精霊が突然姿を消したことで権力者たちは激昂し、"精霊の王"に戦いを挑み……

 結果、七つの武器は世界のどこかに飛ばされ、"王"は井戸の底に封印されてしまった。


「──で。その成れの果てが、あの"水瓶男ヴァッサーマン"ってわけ」
「それじゃあ、儂らが『封魔伝説』として聞かされてきた話は……『悪い首領たちに封印された"精霊の王"』という真実を隠すためのものだった、ということか」
「そういうこと。"水瓶男ヴァッサーマン"の寓話も、封印された井戸に近寄らせないために創られたものだったんでしょうね」
「だから"水瓶男ヴァッサーマン"は伝説の武器を探していたんですね。大昔に閉じ込められた精霊たちを助け出すために……」
「私たちに直接攻撃をしかけてこなかったのも、そういう理由だったのね」

 シルフィーとチェロが、納得したように頷く。
 そして、チェロは身に纏っていた白衣の内側から"精霊封じの小瓶"をバラバラと取り出し……
 その栓を開け、中の精霊を解き放った。

「……まさか精霊に、意志があっただなんてね。酸素と同じ、空気中を漂うただの物質だと思ってた。こんな話を聞いてしまったら……もう閉じ込めておくことなんてできないわ」
「チェロ……」

 自身の研究成果を否定するような口ぶりに、エリスは少し複雑な表情を浮かべる。
 しかし、チェロは微笑んで、

「そんな顔しないで、エリス。知っての通り、私は天才にして秀才なエリート教師なの。またすぐに新しい技術を開発するわ。今度はもっと、精霊の存在を尊重できるようなものをね」

 迷いなくそう言うので、エリスも「うん」と笑顔を返した。

「それで……エリスが最後に"水瓶男ヴァッサーマン"と交わした会話は、一体どういう意味だったの?」
「確かに。『見つけた』とかなんとか……以前からの知り合いみたいな口ぶりでしたよね?」

 瓶をひとつずつ開けながら、チェロとシルフィーが続けて尋ねる。
 するとエリスは、「あぁ」と思い出したように、

「どうやらその『巫女』の生まれ変わりが、あたしみたいなのよ」

 なんて、他人事ひとごとのようなトーンで言うので……チェロたちは「え?」と固まる。
 それに、エリスは肩を竦め、

「記憶の中で見た彼女は、声も顔も性格もあたしにそっくりだったの。その『巫女』が『生まれ変わっても精霊を見つけたい』って願ったからこそ、特異体質を持つあたしが生まれたのかな、って。ま、前世の記憶なんて全っ然ないけどね」
「って、記憶はないのですね。最後に"王"へ伝えたセリフ的に、てっきり記憶があるものと思っていました」

 と、クレアが驚き混じりに言う。
 エリスはパタパタと手を振り、

「ないない。あの時はああでも言わなきゃ言いくるめられなかったでしょ? またヘンな人間捕まえて、手荒な手段で武器探しされても困るしさぁ。演技よ、演技」

 その軽い口調に、シルフィーはぽかんと口を開け、

「記憶もないのに、前世の責任を感じて、伝説の武器を全て見つけて解放する約束をしちゃった、ってことですか……?」

 と、戦慄しながら尋ねる。
 クレアも、チェロもブルーノも、深刻な表情でエリスを見つめる。
 その視線を、エリスは困ったように受け止め、

「そういうことになるわね。さすがのあたしも、あんな歴史見せられたら『なんとかしなきゃ』って思うわよ。精霊への干渉があたしにしか出来ないっていうなら、やるしかないかなって」
「エリス……」

 クレアが、悲痛な眼差しで彼女を見つめる。
 しかしエリスは、明るい表情で息を吐き、

「……ということで。『風別ツ劔』も無事に抜けて、シュプーフをただのイシャナに戻すことができたわけだけど。おじいさん、今の気持ちは?」

 そう、ブルーノに尋ねた。
 ブルーノは静かに瞼を閉じ……声を震わせながら答える。

「……まだ夢を見ているようじゃ。まさか本当に、あいつを自由にしてやれる日が来るとは。ありがとう……本当に、ありがとう」

 しみじみと噛み締めるようなその言葉に、四人は微笑みながら顔を見合わせた。
 そして、エリスはブルーノの方にずいっと身を乗り出し、

「ね。こんなめでたい日なんだし……やることは一つじゃない?」

 言葉の真意がわからず、ブルーノが不思議そうに彼女を見返すと……エリスは、ニタッと笑って、

「お祝い、しましょ? 美味しいご飯とお酒で!」

 悪戯っぽく、そう言った。
 その腹の内を見透かし、ブルーノは苦笑いする。

「……その『美味しいご飯』とやらは、一体誰が作るんじゃ?」
「もちろん、"一端いっぱしの漁師さん"に決まってるじゃない。またあのスープ作ってよ」
「ったく、しょうがない娘じゃな。わかった。とびきり美味いのをこさえてやる」

 清々しい笑みを浮かべながら、ぐいっと腕まくりをした。


 
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