滅私な有能剣士は食いしん坊な魔導少女のため、今日からメシに生きる。〜散々仕えた国の金でグルメ旅満喫します〜

河津田 眞紀

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29 ずっと貴女を見ていました

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 ──オレンジ色の明かりが灯る窓から、賑やかな笑い声が漏れる。


「ぎゃははは! 金髪のお嬢ちゃん、なかなかイケる口じゃの!」
「あったり前でしょ? こちとら仕事のストレスで毎日飲んでるんだから!」
「やっぱりストレスの捌け口って大事ですよねぇ。私なんてお酒は弱いし運動もできないし、一体何で発散すればいいのやら……」

 ……と、まだ日が高い内から飲み始めたブルーノとチェロとシルフィーは、既に酔っていた。泣いたり笑ったりして騒ぎながら、なんともご機嫌な様子である。

 それを眺めながら、エリスが何杯目かのスープを飲み干した時、

「──エリス」

 向かいに座るクレアが、こそっと彼女を呼んだ。
 そして、小さく手招きをし、

「ちょっと、来てもらえますか?」

 そのまま席を立ち、賑やかな酔っ払いたちを置いて外へ出て行くので……
 エリスは疑問に思いながらも、その後を追った。


「……どうしたの?」
「お食事中にすみません。実は……エリスに、お話したいことがありまして」

 少しあらたまった様子で言うクレアに、エリスは小首を傾げる。

「話したいこと?」
「はい。とても大事な話なので……場所を変えてもいいですか?」

 いつになく真剣な表情をするクレアを不審に思いながらも……
 エリスは、彼の後ろを歩き始めた。



 * * * *



 ──夕日が沈んだばかりの、いちばん星が輝く空の下。

 先日、ステーキを食べた帰りに立ち寄ったのと同じ港まで、二人は歩いた。今日も海は穏やかな波音を立てている。

 二人は、あの時と同じように堤防の上に腰を下ろし……
 打ち付ける波の音を何度か聞いた後、クレアが口を開いた。

「……"風の精霊"の存在は、チェロさんたちにも内緒にしたのですね」
「うん……約束しちゃったからね、誰にも言わないって。あたしも認識したことがない精霊ってことは、たぶんもうほとんどが消えちゃってるはずだから……話したところで誰にも見つけられはしないと思うけれど」
「人に……忘れられたからでしょうか」
「そう。きっと"風の精霊"を上手く呼び出す呪文が完成しないまま、数百年の時が流れて……誰からも必要とされなくなって、あの劔に封じられたコたちしかいなくなっちゃったんだと思う」
「そこまで見抜いて精霊を説得するとは……本当にエリスはすごいです。貴女のおかげで、何もかも解決しました。ありがとうございます」
「いや、あたし一人じゃ無理だったよ。劔の呪いに心が飲まれそうだったし……あんたが半分請け負ってくれたから、なんとか干渉できたってだけ。ていうかあんた、あの呪い大丈夫だったの?」
「呪い?」
「そう。こう、胸の中の暗ーい部分が引きずり出されるような、いやーな呪い。あんたも感じたでしょ?」
「いえ……特になんともありませんでしたが」
「……劔の呪いより、あんたの闇の方がデカいってことかしら」
「あはは。そうかもしれませんね」
「『あはは』じゃないわよ、まったく……そんなことより」

 エリスは、少しだけ居住まいを正し、

「……こんなことを話すために抜け出したんじゃないでしょ? なぁに? 話って」

 そう、尋ねた。
 クレアは俯き……言葉を探すように沈黙してから、

「実は……貴女に、嘘をついていることがあるのです」

 彼女の目を見つめながら、そう切り出した。
 エリスは、僅かに目を見開く。

「うそ?」
「はい。全てが解決したので、きちんとお話しなければと思いまして。と言っても、何から話せば良いか……」

 クレアは、星が散らばる夜空を仰ぎ……
 一つひとつ、言葉を紡ぎ出すように、語り始めた。


 
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