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枢機卿との戦闘2
「――神通力?」
「おや、知りませんか」
目を合わせて頷く。
魔法でも魔法具でもない、第三の力だろうか。
「それにしても、お前のようなみなしごが人語を一丁前に操るのは、いったいどういう理屈なんでしょうねぇ。いや、人の親がいないんですから、知性なき獣として野に帰って然るべきではないかと。そう思いましてね」
間接的な問いかけは無視された。何か目的あってのことというより、ベルクナーという男の底意地の悪さによるもののように見える。あるいは大人げなさか。
やはり暴力で解決するより仕方がない。今さら和平を結ぼうなどと考えていたわけでもないが。
「――答えてもらおう」
俺は水面下に進めていた攻勢に転ずる準備を、完成させる。
「神通力とは、何だ?」
光が炸裂した。
聖なる光線は結界の表面から、三叉に分かれ、空を走る。一本は神官魔法師の頭部、もう一本は神官剣士二人の胴へと吸い込まれ、通過し、背後の石壁を焼いた。瞬き一つの間に三つの生命が失われ、大穴の空いた身体がそれぞれに崩れ落ちる。
「ぐ……ッ」
三本目は、生かして捕らえる目的でベルクナーとその陰にいる魔法師の足元に弾着したが、彼らは咄嗟に防御魔法を展開し被弾を防いだ。
「ふふふ……ついに使いましたか。しかしこの程度の攻撃、私の防御魔法具の前には」
重ねて、二発目の光が障壁に突き刺さった。神官二人を守る盾は魔力を大気へと還元し、散逸する。
「……っ、連射……!?」
三発、四発、五、六――。強光の余韻の消えやらぬうちに、砲撃はひたすら畳みかけるように烈しさを増す。彼らの目の前に土やら岩やら氷やら光やらと防壁が現れては、そのすぐそばから打ち砕かれ消えていく。
「ッ……あ……ッ、ぐっ、馬鹿な……いくらなんでも、これは……!?」
前回の教訓に学び威力を抑えつつ、相手に立て直しの時間を与えない怒涛の連射。一度逆転した攻守は、形勢を先手と後手に固定化し、ついぞ覆ることはなかった。防御魔法を行使していた黒衣の骸が宙に溶けるように消滅し、相殺しきれなかった衝撃波がベルクナーと神官を吹き飛ばしたのだ。
「《与奪の代行者》……墓場でストックを切らしているというのに、この役立たずが……!」
「墓? 神通力の次はそれについて教えろ」
周囲にまとわりつく《木葬呪縛》とやらを焼き切って、結界を解除する。代わりに聖職者二人を光の壁で囲む。半球の中に男らは閉じ込められた。
「貴様、我らに対するかような仕打ち、到底許されると思うな。神官への反逆はカアウラス神への反逆、すぐさま天誅が下るであろう。貴様に明日はない! ……ぅぎゃッ」
厳然として怯まない神官魔法師の右手を光が撃ち抜く。
「裁きか。それは神通力によって人が下すのか? それともカアウラスが超常的な力をもって下すのか?」
「あくちも切れぬガキが、利口ぶってるつもりですかねぇ。強力な遺物を得て相当に増長していると見える。貴き御名を呼び捨てにしたこと、後悔しますよ?」
「こちらには疑問が山積みなんだ。さっさと答えて欲しいんだが」
今度はベルクナーの太ももを光が貫く。
声にならない声をあげて、彼は表情を歪ませる。しかし、額に脂汗がにじみながらも、金眼鏡の奥の目にはむしろ冷然とした趣がたゆたっていた。
「答えなければ、どうなるんです?」
「あいにく拷問吏の経験がないもので、うっかり殺してしまうかもしれんな」
「私の口もうっかり黙ったままのようですから、お互い様というやつですねぇ」
「……何故そこまで意地を張る? 無意味な黙秘と引き換えに、命を捨てるつもりか?」
ベルクナーの口元が歪な形に歪んだ。
「不自然に感じたのなら、質問ばかりしていないで、少しは頭で考えてみてはいかがです?」
突然の衝撃。
それと知覚したときには、身体は既に宙にあった。
「な」
背で薄い板が砕ける音がして、世界が回転する。視野は漂白と暗転を繰り返す。暗闇の中、固形の人造物の側面や角に身体をしたたかに打ちつけながら、俺は転がる。
「に――」
最後に首から上を硬い壁に強打して、投げ捨てられた人形のように停止した。ひどくうるさい耳鳴りと、響くような鈍痛とが同時に襲いくる。
攻撃を受けたらしい。
理解したのはただその一事のみで、凍結した思考は一切の仕事を拒否した。視点が揺れて定まらない。意識を手放しこそしていないが、脳震盪は悟性の働きを著しく削いだ。
「……ごはっ」
せぐり上げる血の赤が半身を染める。反射的に喉を抑えようとして、腕の感覚のないことに気づく。頬を滴るぬらぬらした感触が妙に生温かい。
「ひっ……」
横から、怯えの成分を多分に含む息が漏れた。
相当量の気力を消費して、右隣に朦朧とした意識を向ける。
「だ、だれ……? なに……?」
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