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第1章 任務終了後の事件

全てを失うこと

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 レナが涙まみれで城門が見える場所に着いたとき、城の中から悲鳴が上がっているのが聞こえて来る。

(ごめんなさい……みんな……)

 レナは、自分の置かれた状況がまだハッキリと分かっていなかった。レオナルドが言った「国民が犠牲になる」のを避けなければという意識が身体を前に向かわせただけだった。上を見上げると、城の中から黒い煙が激しく上がっているのが見える。

(恐らくレオナルドの言ったことは正しい……私が姿を現せば、必ずポテンシア国王に狙われる……。レナ・ルリアーナを殺して別の人間にならないといけないのね……)

 レナは自らの手で涙を拭った。気配と姿を消したまま城門を通り抜けると、背に消火作業にあたる人たちの叫び声が聞こえている。

(もう……私には帰る場所がない……)

 泣くな、と自分を奮い立たせながら、なんとか一歩ずつ前に足を出す。歯を食いしばりながら城下町に向かって足を進めた。
 昨夜はカイと別れる悲しさから殆ど寝ていない。身体は重く、目の前が朦朧とする。

 レナは、城を出た場所でそのまま意識を失った。


 気が付くと、レナは城門の前で倒れていた。相変わらず呪術のお陰か、隣を通り過ぎていく人がいるのに誰にも声を掛けられない。
 レナはゆっくり立ち上がると服についた砂を払った。

(レオナルドはレジスタンスに潜入していた……。その時に何らかの関係を持ったのがアウグス家ってことなんでしょうね)

 こんな何も持たない自分を、そのアウグス家は受け入れてくれると言うのか。レナは信じがたかった。

(せめて修道女にでもなれば生きていけそうだけど……面識のある呪術師もいることだし、身元が明らかになるのはまずいでしょうね)

 姿を消したまま、レナはゆっくり歩きだした。
 お金も金目のものも持っていないとなると、食事を取ることすらできない。
 昨晩カイと歩いた時には気分が高まった城下町も、誰からも姿が見られない亡霊のように歩いてみると、人の波の中で不安に押しつぶされそうになった。

(ひとりぼっちって、こんなに不安なんだわ……私は呪術のお陰でこうやって身を守ることもできる……。でも、そうじゃなければどうなっていたことか……)

 レナは思わず身震いした。この先も、ずっと自分は亡霊のように生きていかなければならないのだろうか。
 とりあえず、どこか人の目に触れないところまで行って姿を現し、アウグス家がどこにあるか聞いてみようと歩き出す。

 こんな時、誰かの声が聴けたらどんなに心強いだろうか。
 城には離れた相手と通信ができる指輪と、ロキから託された髪がある。それをなんとか手に入れてロキに連絡を取れば、身を寄せる場所くらいは見つかるかもしれない。

(また改めて、姿を消してお城に行こう……。指輪と髪だけでも、手に入れたい……)

 レナはそう心に決めて、アウグス家を目指した。
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