亡国の王女は世界を歌う ―アメイジング・ナイト2—

碧井夢夏

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第4章 ポテンシア王国に走る衝撃

パースの英雄カイ・ハウザー

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 ブリステ公国の騎士団長であるカイ・ハウザーは、雇われているブライアン・バンクスの元でルイスと鷹を使った書簡のやり取りをするようになっていた。

 鷹は、いつの間にブライアンの屋敷を覚えたのだろうか。近衛兵の誰かが連れてやってきたのかもしれない。疑問に思うことはあったが、カイはルイスと頻繁にやり取りをするようになっていた。

 ルイスの元には、リブニケ王国の兵士たちが集まっているらしい。
 その事実を知った時、カイはリブニケ人の気質などからルイスを心配した。今は一時的にルイスの味方だとしても、リブニケ人たちは領土を広げる機会を虎視眈々と狙っているはずだ。いつルイスの寝首を搔くか分からないような者たちを、側に置くのは危険すぎる。

 だが、ルイスにとってそういったことはあまり重要では無いらしい。ルイスはルリアーナの地さえ守ることが出来れば、ポテンシア国王を討った後はポテンシアがリブニケに支配されようが、そのために自分が利用されようが気にならないのだという。

 それもポテンシアにとってどうなのかと、カイはルイスの考え方に反対意見を述べたが、ルイスの耳には届かなかった。

(もしも王女殿下が生きていたとして、それをルイス王子に伝えるのは、やはり誰のためにもならないのだろうな)

 カイは、今もどこかで生きているのではないかと、レナのことを思い出す。
 何とかしてレナを見つけなければと思う度、見つけたらどうしようというのか、その先のことが分からなかった。

 ロキに引き渡すのが良いのだろうかと、何度か考えた。先日会ったロキは、少なくともまだレナに気持ちが残っているようだった。

(あいつの元に渡すのが、正解とも思えん……)

 ロキは若くして成功した青年実業家だけあって、嫉妬から敵も多い。カイ以上にロキはブリステ公国では有名人だった。
 そして、何よりも問題なのはその女性遍歴だった。レナの心がロキにあるのであれば、ロキの元に行くことで、レナが余計なことに頭を悩ませて傷付くのは明らかだ。

 かといって、カイはハンに言われたような感情をレナに対して持ってはいない。少なくとも自分ではそう思っていた。レナは一緒にいてストレスを感じずに済む唯一の女性だったが、それが恋愛感情によるものだと結論付けるには、カイの中にある主従関係の意識が邪魔をする。


「カイ、お客さんが君あてにって、また上質なお酒を置いて行ったよー!」

 遠くでブライアン・バンクスの声がする。カイは返事をして部屋を出ると、リビングにいるブライアンを尋ねた。

「ほら、小説に君がお酒に強いことを書いたからね。差し入れだって」

 そう言ってブライアンがカイに差し出したのは、ルリアーナ産の果実酒で、特に上等なものだった。

「差し入れですか……もらっていいものなんでしょうか……?」

 カイが戸惑いながら果実酒のボトルを見ていると、「受け取っておきなよ。私もこの銘柄はいただいたことがあるんだが、一度は飲んだ方がいいと薦めたいお酒だ」と、ブライアンはカイに果実酒のボトルを差し出した。

「君は市民の希望だよ、カイ・ハウザー。以前の内戦時も思ったが……君は単純な強さ以上に、華がある。私も含めて、みんな君の働きを見ていると救われるんだ」

 ブライアンが改めてカイにそう言うと、「まだ全ての任務が片付いたわけでもないのに、そんなに褒められると、この先が思いやられますね」と、カイはブライアンから果実酒のボトルを受け取りながら、軽く笑った。

「ところで、君はそろそろいい歳になってくるわけだが……浮いた話が聞こえてこないな」

 ブライアンが心配そうにカイを見ている。恐らく、外国の任務ばかりで恋人を作る暇もないのだろうと哀れまれているのだろうなと、カイはブライアンの表情を読んだ。

「ご心配には及びません」

 カイがそう言って穏やかに微笑むと、ブライアンは何を勘違いしたのか、「そうか、じゃあ、次回作は恋愛物にもなるかもしれないね」と喜んでいる。

 次回作の企画もあるのか……とカイは初めての事実にブライアンの商魂を見た気がした。
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