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第5章 追われるルリアーナ元王女
2人はバール「アウル」で
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バール「アウル」で『エレナ』がステージ脇にはけると、徐々に熱気は収まり、少しずつ客が店を出て行った。
その『エレナ』はステージ脇から顔だけを出し、先ほど目の合った男の方を見る。
久しぶりに見る元護衛の男は、相変わらず背が高くよく目立ち、美しい姿をしていた。
『エレナ』は胸を高鳴らせながら、そちらに向かって行こうとした。客はまばらになっていたが、『エレナ』が店に現れたのを見つけた客が一斉に集まって来る。
小柄な『エレナ』はあっという間に人の波に飲まれた。
「あちゃ~」
ミミがステージ脇から前に進めなくなっている『エレナ』を見て声を上げる。
「あの子が囲まれるのは、盲点だったわ・・」
マーシャがハラハラしながらその様子を見ている。マリヤは店内のどこに『エレナ』の恋人がいるのか気になってキョロキョロしていた。
その人の波に向かって、何やら愉快そうに口角を上げながら歩いて来る、一人の背の高い男の姿がある。
人の波を手で強引に掻き分けると、その中から『エレナ』の腕をぐっと引いて店内の男性たちから彼女を救い出し・・その身体を抱きしめていた。
「あ・・あれ・・!」
マリヤはその男性と『エレナ』の姿に指を差す。2人も目を凝らしてみた。
そこには、ひとりの美しい男が。なんと、『エレナ』を抱きしめているではないか。
「きゃあああああ!」
マーシャは興奮してミミの背中をバシバシと叩いている。
「ちょっと待って! もっと近くで顔が見たい!」
ミミも大興奮だ。3人はステージ脇の野次馬では飽き足らず、『エレナ』の側まで行くことにした。
レナはカイのところに行こうとして、あっという間に店内の男性に囲まれて動けなくなっていた。自分より大きな男性たちに行く手を阻まれ、カイの元に辿り着けそうにない。
「ちょっと・・道をあけて・・!」
レナがそう叫んでも、人の波に声がかき消されてしまう。
「カイ!」
レナが必死に声を上げると、人の波を強引にかき分けながら、よく知ったあの男が目の前に現れた。
「呼んだか?」
そう言って笑ったカイの目が、少し濡れているように見える。
レナは、そのカイの腕に引き寄せられ、ぐっと強く抱きしめられた。
「呼んだわ・・会いたかった」
レナはカイの腕の中で涙を流す。懐かしさと共に、様々な想いが溢れた。
「迎えに来るまで、時間が掛かりすぎてしまったな」
カイはそう言って、抱きしめたレナの頭を撫でた。店内でエレナの名前を叫んだ男たちがその様子を見て喚いている。
「アウル」の歌姫は、その日、大勢の男の恋心を一斉に打ち砕いたのだった。
店内の後ろの席で、カイのグラスとレナのグラスがカチャンと音を立てる。
「そうか、酒も飲めるようになったんだな」
カイがレナを見てしみじみと言う。レナはグラスに口を付けると、
「まあ、勤め先がバールっていうのもあるわね」
と言ってカイをじっと見た。
(久しぶりに見ると・・ありえない位にかっこいいわ・・)
こんな男を護衛につけていたのかと、11ヶ月前の自分が信じられない。『エレナ』がこれまで出会ったどんな男性よりも、カイの姿形は完璧だった。
「これまでの話を、ちゃんと聞いておきたい。それを聞いて、出来ることをしたいと思っている」
カイが真剣にレナを見て言ったので、レナはまた少し泣きそうになって必死に堪えた。
「そうね、ちょっとここで話すことではないかもしれないけれど・・」
賑やかな店内で他人に聞かれることはないかもしれないが、人が居るところでする話ではない。
「今夜、この町に宿をとってある。そこではダメか?」
カイが当たり前のようにした提案にレナは大いに赤くなった。
「あ、あなたの部屋に行くの・・?」
「なんだ、そこでいまさら照れるのか?」
レナにはいわゆる「庶民の感覚」が身についていた。男性の部屋に行くことの意味については一定の認識を持っている。
「エ・レ・ナー!!」
そこに、アウルシスターズの3人がやってきた。
「ちょっと、私たちに紹介してくれないの? そこの、素敵な男性を」
マーシャがニヤニヤしながらレナを見る。マリヤはカイに視線が釘付けになり、ミミはレナとカイを交互に見ながら顎が外れそうになっていた。
「あ、そうね。カイ、この3人はさっき同じステージに立っていた『アウルシスターズ』よ。普段、一緒に共同生活をしていて。私、この3人がいたから、どんなときも寂しくなかったの」
レナがそう言ってカイにマーシャとマリヤとミミの名前を呼んで紹介する。
「そうか、彼女・・『エレナ』を支えてくれてありがとう」
カイが不器用に礼を言うと、3人は心臓が苦しくてその場に倒れそうになった。
「今日は、彼女を借りてもいいだろうか? 町に宿を取っている」
カイが何の気なしに言うと、3人は大興奮する。
「きゃあああああ!」
「エレナ! あんた! 良かったわね!!」
そう言って3人に手を握られたレナは、
(ああ・・誤解されてる・・これからカイと私が特別な関係になると思われている流れだわ・・)
と複雑な顔になった。
「明日の朝にはしっかり送り届けるつもりだ。じゃあ、行くか」
カイはそう言って早々に店内を出ようとレナの手を引いた。
「え、ええ」
レナは照れてもじもじとしながら、カイに引かれて店内を後にする。
店内の失意に満ちた男性陣と興奮が収まらないアウルシスターズの3人の間に、天と地ほどの温度差が生まれていた。
その『エレナ』はステージ脇から顔だけを出し、先ほど目の合った男の方を見る。
久しぶりに見る元護衛の男は、相変わらず背が高くよく目立ち、美しい姿をしていた。
『エレナ』は胸を高鳴らせながら、そちらに向かって行こうとした。客はまばらになっていたが、『エレナ』が店に現れたのを見つけた客が一斉に集まって来る。
小柄な『エレナ』はあっという間に人の波に飲まれた。
「あちゃ~」
ミミがステージ脇から前に進めなくなっている『エレナ』を見て声を上げる。
「あの子が囲まれるのは、盲点だったわ・・」
マーシャがハラハラしながらその様子を見ている。マリヤは店内のどこに『エレナ』の恋人がいるのか気になってキョロキョロしていた。
その人の波に向かって、何やら愉快そうに口角を上げながら歩いて来る、一人の背の高い男の姿がある。
人の波を手で強引に掻き分けると、その中から『エレナ』の腕をぐっと引いて店内の男性たちから彼女を救い出し・・その身体を抱きしめていた。
「あ・・あれ・・!」
マリヤはその男性と『エレナ』の姿に指を差す。2人も目を凝らしてみた。
そこには、ひとりの美しい男が。なんと、『エレナ』を抱きしめているではないか。
「きゃあああああ!」
マーシャは興奮してミミの背中をバシバシと叩いている。
「ちょっと待って! もっと近くで顔が見たい!」
ミミも大興奮だ。3人はステージ脇の野次馬では飽き足らず、『エレナ』の側まで行くことにした。
レナはカイのところに行こうとして、あっという間に店内の男性に囲まれて動けなくなっていた。自分より大きな男性たちに行く手を阻まれ、カイの元に辿り着けそうにない。
「ちょっと・・道をあけて・・!」
レナがそう叫んでも、人の波に声がかき消されてしまう。
「カイ!」
レナが必死に声を上げると、人の波を強引にかき分けながら、よく知ったあの男が目の前に現れた。
「呼んだか?」
そう言って笑ったカイの目が、少し濡れているように見える。
レナは、そのカイの腕に引き寄せられ、ぐっと強く抱きしめられた。
「呼んだわ・・会いたかった」
レナはカイの腕の中で涙を流す。懐かしさと共に、様々な想いが溢れた。
「迎えに来るまで、時間が掛かりすぎてしまったな」
カイはそう言って、抱きしめたレナの頭を撫でた。店内でエレナの名前を叫んだ男たちがその様子を見て喚いている。
「アウル」の歌姫は、その日、大勢の男の恋心を一斉に打ち砕いたのだった。
店内の後ろの席で、カイのグラスとレナのグラスがカチャンと音を立てる。
「そうか、酒も飲めるようになったんだな」
カイがレナを見てしみじみと言う。レナはグラスに口を付けると、
「まあ、勤め先がバールっていうのもあるわね」
と言ってカイをじっと見た。
(久しぶりに見ると・・ありえない位にかっこいいわ・・)
こんな男を護衛につけていたのかと、11ヶ月前の自分が信じられない。『エレナ』がこれまで出会ったどんな男性よりも、カイの姿形は完璧だった。
「これまでの話を、ちゃんと聞いておきたい。それを聞いて、出来ることをしたいと思っている」
カイが真剣にレナを見て言ったので、レナはまた少し泣きそうになって必死に堪えた。
「そうね、ちょっとここで話すことではないかもしれないけれど・・」
賑やかな店内で他人に聞かれることはないかもしれないが、人が居るところでする話ではない。
「今夜、この町に宿をとってある。そこではダメか?」
カイが当たり前のようにした提案にレナは大いに赤くなった。
「あ、あなたの部屋に行くの・・?」
「なんだ、そこでいまさら照れるのか?」
レナにはいわゆる「庶民の感覚」が身についていた。男性の部屋に行くことの意味については一定の認識を持っている。
「エ・レ・ナー!!」
そこに、アウルシスターズの3人がやってきた。
「ちょっと、私たちに紹介してくれないの? そこの、素敵な男性を」
マーシャがニヤニヤしながらレナを見る。マリヤはカイに視線が釘付けになり、ミミはレナとカイを交互に見ながら顎が外れそうになっていた。
「あ、そうね。カイ、この3人はさっき同じステージに立っていた『アウルシスターズ』よ。普段、一緒に共同生活をしていて。私、この3人がいたから、どんなときも寂しくなかったの」
レナがそう言ってカイにマーシャとマリヤとミミの名前を呼んで紹介する。
「そうか、彼女・・『エレナ』を支えてくれてありがとう」
カイが不器用に礼を言うと、3人は心臓が苦しくてその場に倒れそうになった。
「今日は、彼女を借りてもいいだろうか? 町に宿を取っている」
カイが何の気なしに言うと、3人は大興奮する。
「きゃあああああ!」
「エレナ! あんた! 良かったわね!!」
そう言って3人に手を握られたレナは、
(ああ・・誤解されてる・・これからカイと私が特別な関係になると思われている流れだわ・・)
と複雑な顔になった。
「明日の朝にはしっかり送り届けるつもりだ。じゃあ、行くか」
カイはそう言って早々に店内を出ようとレナの手を引いた。
「え、ええ」
レナは照れてもじもじとしながら、カイに引かれて店内を後にする。
店内の失意に満ちた男性陣と興奮が収まらないアウルシスターズの3人の間に、天と地ほどの温度差が生まれていた。
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