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第6章 新生活は、甘めに
同伴出勤の朝
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レナが仕事休みの日、カイは朝から落ち着かない様子で屋敷内をウロウロしていた。
団員には何と言って紹介しよう、元ルリアーナ王女だとは口が裂けても言えない。自分との関係を聞かれたらどう答えるのが良いのか、サラとシンに何の情報も与えずにレナを目の前に出して良いのか……。
考えれば考えるほど、正解が分からない。カイは普段の仕事以上に悩み、唸っていた。
暫くカイが廊下で考え込んでいると、レナが部屋から出てきて不思議そうな顔でカイを見る。
「おはよう、どうしたの?」
レナがカイを覗き込んだので、いつも以上にカイは驚いて後ずさりした。レナは、町に仕事に向かう時は違う、仕立ての良いドレスを着ている。色は薄いベージュ系、手編みらしいレースの生地はそれなりに値が張りそうだ。
「その格好は、初めて見るな」
カイがそんな服も持っていたのかと驚いていると、「あら、ここの使用人の方が用意してくれたのよ? 今日着ていく用にって……」とレナが言ったので、カイはオーディスかメイド長が気を利かせたのかと何となく理解した。
「最近、こういうドレスは着ていなかったから……ちょっと恥ずかしいわね」
そう言って苦笑するレナが、カイは不思議だった。
「恥ずかしい……? 前はもっと派手なドレスも着ていたのにか?」
カイが意外に思って尋ねると、「もう……ドレスが要る立場じゃないもの」とレナは笑った。
「立場どうこうじゃないだろう」
カイはそう言ってレナをじっと見た。
「レナはもう、着たいものを着て、行きたいところに行ける。大丈夫だ、そのために俺が……」
カイはそこまで言うと何か視線を感じてレナの向こう側を見る。
じっとその様子を見守っていたメイド長が、カイを見てウインクを飛ばしてきた。
「……? そのために、カイがなあに?」
無邪気に尋ねるレナに、向こう側の視線が痛い。
「…………俺は一応騎士団長で領主だからな……その位は気にせず頼れ…………」
「もう、カイってば、そんなやせ我慢しなくても良いのに! 私もちゃんとお給料を貰うのよ?」
レナはそう言ってカイの腕を叩きながら笑った。この時ばかりは、レナの無垢な言葉がカイの心を抉る。
(金が惜しくて言葉に詰まったと思われるとか、最悪だ)
恐らく、レナはカイに甘えて服を欲しがったり、どこかに行きたがったりはしてくれないのだろう。
つくづく、金の亡者だとしか思われていない事実が痛い。事実だとしても痛い。
先程まで、あんなに嬉しそうだったメイド長が、苦虫を嚙み潰したような顔でカイを見ていた。
このままでは、ハウザー家の主人としての尊厳までもが危うい。
カイとレナは連れ立ってクロノスに乗り、騎士団本部に出掛けて行った。
屋敷の使用人達が頭を下げて2人の出発を見送っていたが、それぞれに不満を抱え、主人に説教をしたい気持ちが湧いていた。
何故、レナのドレスを褒めなかったのか、何故、彼女のことが特別だということを伝えないのか、これから騎士団本部に連れて行くというのに、主人はどこかレナに対して消極的だ。
ハウザー騎士団の本部は、領地の中でも比較的僻地とされる場所にある。
周りには特に何もなく、岩石の切り立った山と森しかなかった。
木の生い茂った道を暫く走ると、それは突然山の前に現れる。高い壁が特徴的な、城塞として建てられたものだった。
外側からは建物が全く見えず、20メートル近い高さのある石の壁が、客を拒絶するように立っている。
「なんだか、防御が完璧な建物ね……」
レナは、建物大きさに圧倒され、これが騎士団の本部なのだと初めて見る建物に心を躍らせる。
「戦争が起きたら、民間人を収容するために出来ているからな」
カイがさらりと言った言葉に、なるほどそういったことも考えて建物を建てなければならないのかと、レナは他国の事情を知った。
頑丈そうな石造りの門を通るために、濠を渡る跳ね橋をクロノスに乗ったまま渡った。
恐らく戦時中はこの橋を上げて籠城するのだろうと、レナは本で読んだ世界に来た気分で周りを見る。
城門をくぐると、甲冑に身を包んだ団員らしき男性がカイとクロノスの姿を見て頭を下げかけたが、そこにレナの姿を見つけると完全に視線がレナを見たまま止まっていた。
「おい、何でそこで突っ立っている」
カイが戸惑って業務を全うできていない部下に大きめの声で言ったので、慌てて団員は頭を下げてカイを中に通した。
「おはようございます」
団員はそれだけ言うと顔を上げてまたレナに視線を移す。都合よく身に着けていた甲冑のお陰で、隙間から盗み見るようにして団長の連れを目に焼き付けた。
「おはようございます。ねえ、カイ、あとで皆さんのことも紹介してね?」
レナがそう言って笑ったので、団員はレナに見惚れた。
(か……かわいい……団長と一緒ということは、どこかの要人なのかな……)
団員は、どこの誰なのだろうと興味津々でレナを観察している。
「おい、じろじろ見ていないで持ち場に戻れ」
そこへカイの冷たい声が響くと、姿勢を正してレナから目線を外した。
「全く……たるんでいるな……」
カイがウンザリしたように団員の態度に溜息をつくと、レナはやはりカイは仕事に厳しい団長なのだなと思う。
「カイ、眉間に皺が寄ってるわよ?」
レナがそう言って至近距離で笑ったので、カイは表情を緩めて「そうか」とレナに微笑む。
それが部下には見せたことのない穏やかな表情だったことに、本人も全く気付いていなかった。
団員には何と言って紹介しよう、元ルリアーナ王女だとは口が裂けても言えない。自分との関係を聞かれたらどう答えるのが良いのか、サラとシンに何の情報も与えずにレナを目の前に出して良いのか……。
考えれば考えるほど、正解が分からない。カイは普段の仕事以上に悩み、唸っていた。
暫くカイが廊下で考え込んでいると、レナが部屋から出てきて不思議そうな顔でカイを見る。
「おはよう、どうしたの?」
レナがカイを覗き込んだので、いつも以上にカイは驚いて後ずさりした。レナは、町に仕事に向かう時は違う、仕立ての良いドレスを着ている。色は薄いベージュ系、手編みらしいレースの生地はそれなりに値が張りそうだ。
「その格好は、初めて見るな」
カイがそんな服も持っていたのかと驚いていると、「あら、ここの使用人の方が用意してくれたのよ? 今日着ていく用にって……」とレナが言ったので、カイはオーディスかメイド長が気を利かせたのかと何となく理解した。
「最近、こういうドレスは着ていなかったから……ちょっと恥ずかしいわね」
そう言って苦笑するレナが、カイは不思議だった。
「恥ずかしい……? 前はもっと派手なドレスも着ていたのにか?」
カイが意外に思って尋ねると、「もう……ドレスが要る立場じゃないもの」とレナは笑った。
「立場どうこうじゃないだろう」
カイはそう言ってレナをじっと見た。
「レナはもう、着たいものを着て、行きたいところに行ける。大丈夫だ、そのために俺が……」
カイはそこまで言うと何か視線を感じてレナの向こう側を見る。
じっとその様子を見守っていたメイド長が、カイを見てウインクを飛ばしてきた。
「……? そのために、カイがなあに?」
無邪気に尋ねるレナに、向こう側の視線が痛い。
「…………俺は一応騎士団長で領主だからな……その位は気にせず頼れ…………」
「もう、カイってば、そんなやせ我慢しなくても良いのに! 私もちゃんとお給料を貰うのよ?」
レナはそう言ってカイの腕を叩きながら笑った。この時ばかりは、レナの無垢な言葉がカイの心を抉る。
(金が惜しくて言葉に詰まったと思われるとか、最悪だ)
恐らく、レナはカイに甘えて服を欲しがったり、どこかに行きたがったりはしてくれないのだろう。
つくづく、金の亡者だとしか思われていない事実が痛い。事実だとしても痛い。
先程まで、あんなに嬉しそうだったメイド長が、苦虫を嚙み潰したような顔でカイを見ていた。
このままでは、ハウザー家の主人としての尊厳までもが危うい。
カイとレナは連れ立ってクロノスに乗り、騎士団本部に出掛けて行った。
屋敷の使用人達が頭を下げて2人の出発を見送っていたが、それぞれに不満を抱え、主人に説教をしたい気持ちが湧いていた。
何故、レナのドレスを褒めなかったのか、何故、彼女のことが特別だということを伝えないのか、これから騎士団本部に連れて行くというのに、主人はどこかレナに対して消極的だ。
ハウザー騎士団の本部は、領地の中でも比較的僻地とされる場所にある。
周りには特に何もなく、岩石の切り立った山と森しかなかった。
木の生い茂った道を暫く走ると、それは突然山の前に現れる。高い壁が特徴的な、城塞として建てられたものだった。
外側からは建物が全く見えず、20メートル近い高さのある石の壁が、客を拒絶するように立っている。
「なんだか、防御が完璧な建物ね……」
レナは、建物大きさに圧倒され、これが騎士団の本部なのだと初めて見る建物に心を躍らせる。
「戦争が起きたら、民間人を収容するために出来ているからな」
カイがさらりと言った言葉に、なるほどそういったことも考えて建物を建てなければならないのかと、レナは他国の事情を知った。
頑丈そうな石造りの門を通るために、濠を渡る跳ね橋をクロノスに乗ったまま渡った。
恐らく戦時中はこの橋を上げて籠城するのだろうと、レナは本で読んだ世界に来た気分で周りを見る。
城門をくぐると、甲冑に身を包んだ団員らしき男性がカイとクロノスの姿を見て頭を下げかけたが、そこにレナの姿を見つけると完全に視線がレナを見たまま止まっていた。
「おい、何でそこで突っ立っている」
カイが戸惑って業務を全うできていない部下に大きめの声で言ったので、慌てて団員は頭を下げてカイを中に通した。
「おはようございます」
団員はそれだけ言うと顔を上げてまたレナに視線を移す。都合よく身に着けていた甲冑のお陰で、隙間から盗み見るようにして団長の連れを目に焼き付けた。
「おはようございます。ねえ、カイ、あとで皆さんのことも紹介してね?」
レナがそう言って笑ったので、団員はレナに見惚れた。
(か……かわいい……団長と一緒ということは、どこかの要人なのかな……)
団員は、どこの誰なのだろうと興味津々でレナを観察している。
「おい、じろじろ見ていないで持ち場に戻れ」
そこへカイの冷たい声が響くと、姿勢を正してレナから目線を外した。
「全く……たるんでいるな……」
カイがウンザリしたように団員の態度に溜息をつくと、レナはやはりカイは仕事に厳しい団長なのだなと思う。
「カイ、眉間に皺が寄ってるわよ?」
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