亡国の王女は世界を歌う ―アメイジング・ナイト2—

碧井夢夏

文字の大きさ
94 / 229
第7章 争いの種はやがて全てを巻き込んで行く

不器用なりに誠実に

しおりを挟む
 カイは、ようやく涙の引いたレナの様子を横目に見ながら部屋に向かっていた。
 気分転換がてら楽しんでもらえれば良いと思った温泉宿も、この元王女の場合は一筋縄ではいかない。

「……呆れてる?」
「いや?」

 レナは、自分の姿の恥ずかしさに泣いていた。
 まさかそんなことにそこまで傷つかれるとは思っていなかったため、カイは悪いことをしてしまった気分だ。

「カイが、せっかく誘ってくれたのに……」
「まあ、そもそも大衆浴場自体が初めてなら、仕方ないかもしれない」
「でも、2人きりで温泉に入れたのは、嬉しかったんだけど……」
「また、そういうことを……」

 公王のアロイスがレナに恋をしたと口走ったのも、あながち分からなくもない、とカイは思った。

 ブリステ公国は女性に王位や爵位の継承権がない。
 そのためか、権力者の男性に物怖じしない強さを持った女性自体が珍しい。
 レナの強さは王女として育った部分が大きいが、純粋さが際立ち、繊細な危うさが混じっている。
 あの手の王は自然と惹かれてしまうのかもしれない。

 2人は部屋に戻り、さて、と部屋の中を見回した。
 到着した時には気付かなかったが、当たり前のように部屋の中央に鎮座するダブルベッド以外には、部屋用の蝋燭だけしかない部屋だった。

「こんな部屋だし、明日に備えて寝るか……」
「そ、そうね……お風呂に入って温まったことだし……」

 2人は気まずさを抱えながらベッドに入ると、何となく距離を取ってお互い背を向けた。

「明日、カイが仕事をしている時、私はどうしているのがいい?」

 レナが暗い部屋で向こうを向いたまま尋ねた。

「そうだな、特に何かやってもらうこともないし、好きにしてくれていて良いんだが……」

 カイはそう言いながら、どうするのが良いのだろうかと悩んでいた。

「騎士団本部にいてもらう方が、何かと良いかもしれないな……。シンやサラがいるところで待っている方が、良くないか?」

 カイが何気なく言ったのを、「なかなか、役に立てることって無いのね」とレナは残念そうに返した。

「そこを気負う必要はないからな」

 カイが優しい口調で言ったので、レナはベッドの中で背中を向けているカイにしがみつき、「再会してからずっと、あなたが優しくて……私、感謝をしてもしきれないわ」と消え入りそうな声で言う。

「何か、あなたに返せることってない……?」
「もう、貸し借りを気にする間柄じゃないだろ。そんなことを考えるなら、次は浴室で泣いたりしないでくれればいい。見るなと言われながら泣かれるのは、なかなかキツイ」

 レナは少なからず落ち込んだ。先ほど感じた自分への情けなさに追い打ちを掛けられた気分だ。

「はい……」

 レナはしゅんとしながら、恥ずかしくて意気地がなくなる自分を変える方法は無いのだろうかと悲しくなる。
 カイと出会ってから、レナは自分をうまくコントロールできなくなっているような気がした。

「そんなにしおらしくなるとは思わなかったな。気にし過ぎだろ」

 カイは、公王のアロイスにですら啖呵を切るようなレナが、こんなことで落ち込んだり泣いたりするのが不思議で仕方がない。
 背中に張り付いているレナの方を向いて、その顔を確認した。

「普段は気が強いのに、あんなことで泣くんだな」

 カイはそう言ってレナの頬に触れた。落ち込んだ様子で、伏し目がちにレナは頷いた。

「私……本当はもっとちゃんとしたいんだけど……。あ、あなたが素敵すぎて、冷静でなんていられないっていうか……もう、何も考えられなくなるっていうかっ……」

 レナが辛そうに話している内容を聞きながら、カイは吹き出しそうになっていた。

「また、新しい手法の愛の告白だな」

 レナは、必死に伝えた内容でカイが笑っているのが不思議で、キョトンとしながらカイを見ていた。
 そのうち、その頬に唇が当てられると、そっと目を閉じる。
 抱きしめられながら顔に口付けを浴びると、少しずつ覚悟が生まれた。

(もしかして、今日……)

 レナはその予感に、ぐっと目を瞑って身を委ねる。

(緊張する……………けど、大丈夫。だって私、カイのことが……)

 恋人同士がする唇のキスも、その先の行為についても、レナはカイの求めるままに受け入れるつもりでいた。
 一緒に暮らしている恋人が将来まで約束してくれているというのは、そういうことなのだろうと漠然とした理解をしている。
 暗がりの中であれば、恥ずかしさにも勝てる気がした。

(……………?)

 レナは急にカイの行為が止まったのが不思議で目を開けた。目の前でカイの目がこちらを見ている。

「俺も最近、レナは綺麗なんだなと、つくづく思う」
「え、ええ。って……ええ?」
「今日はもう寝るぞ」
「……………ええ」
「なんだ?」
「……別に」

 カイはそっと腕枕をしてレナを抱えたが、レナの心中は複雑だった。

(薄々気付いてたけど、カイは別に私のことなんか求めてないんだわ……。そりゃ、私はそんなに大人っぽくも無いし、女性としての魅力があるわけでもないけど……。キスくらい……唇のキスくらいは……)

 そんなことを考え始めたら途端に悲しくなった。
 が、相変わらずカイの高めの体温が心地よくなり、レナはいつの間にか眠りに落ちていた。


「おい。相変わらず、あっさり寝てくれるな」

 カイはすっかり寝息を立てているレナに言う。
 身体の奥に点いた火が消えないでいるのをなんとか鎮めようと深呼吸をした。

「こういうところは、本当に悪女としか言えないな」

 カイはそう言ってレナの寝顔をじっと見ながら、いつか覚えていろよとその無垢な寝顔に誓う。その後は、ひたすら天井を眺めていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる

西野歌夏
恋愛
 ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー  私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

処理中です...