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第7章 争いの種はやがて全てを巻き込んで行く
不器用なりに誠実に
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カイは、ようやく涙の引いたレナの様子を横目に見ながら部屋に向かっていた。
気分転換がてら楽しんでもらえれば良いと思った温泉宿も、この元王女の場合は一筋縄ではいかない。
「……呆れてる?」
「いや?」
レナは、自分の姿の恥ずかしさに泣いていた。
まさかそんなことにそこまで傷つかれるとは思っていなかったため、カイは悪いことをしてしまった気分だ。
「カイが、せっかく誘ってくれたのに……」
「まあ、そもそも大衆浴場自体が初めてなら、仕方ないかもしれない」
「でも、2人きりで温泉に入れたのは、嬉しかったんだけど……」
「また、そういうことを……」
公王のアロイスがレナに恋をしたと口走ったのも、あながち分からなくもない、とカイは思った。
ブリステ公国は女性に王位や爵位の継承権がない。
そのためか、権力者の男性に物怖じしない強さを持った女性自体が珍しい。
レナの強さは王女として育った部分が大きいが、純粋さが際立ち、繊細な危うさが混じっている。
あの手の王は自然と惹かれてしまうのかもしれない。
2人は部屋に戻り、さて、と部屋の中を見回した。
到着した時には気付かなかったが、当たり前のように部屋の中央に鎮座するダブルベッド以外には、部屋用の蝋燭だけしかない部屋だった。
「こんな部屋だし、明日に備えて寝るか……」
「そ、そうね……お風呂に入って温まったことだし……」
2人は気まずさを抱えながらベッドに入ると、何となく距離を取ってお互い背を向けた。
「明日、カイが仕事をしている時、私はどうしているのがいい?」
レナが暗い部屋で向こうを向いたまま尋ねた。
「そうだな、特に何かやってもらうこともないし、好きにしてくれていて良いんだが……」
カイはそう言いながら、どうするのが良いのだろうかと悩んでいた。
「騎士団本部にいてもらう方が、何かと良いかもしれないな……。シンやサラがいるところで待っている方が、良くないか?」
カイが何気なく言ったのを、「なかなか、役に立てることって無いのね」とレナは残念そうに返した。
「そこを気負う必要はないからな」
カイが優しい口調で言ったので、レナはベッドの中で背中を向けているカイにしがみつき、「再会してからずっと、あなたが優しくて……私、感謝をしてもしきれないわ」と消え入りそうな声で言う。
「何か、あなたに返せることってない……?」
「もう、貸し借りを気にする間柄じゃないだろ。そんなことを考えるなら、次は浴室で泣いたりしないでくれればいい。見るなと言われながら泣かれるのは、なかなかキツイ」
レナは少なからず落ち込んだ。先ほど感じた自分への情けなさに追い打ちを掛けられた気分だ。
「はい……」
レナはしゅんとしながら、恥ずかしくて意気地がなくなる自分を変える方法は無いのだろうかと悲しくなる。
カイと出会ってから、レナは自分をうまくコントロールできなくなっているような気がした。
「そんなにしおらしくなるとは思わなかったな。気にし過ぎだろ」
カイは、公王のアロイスにですら啖呵を切るようなレナが、こんなことで落ち込んだり泣いたりするのが不思議で仕方がない。
背中に張り付いているレナの方を向いて、その顔を確認した。
「普段は気が強いのに、あんなことで泣くんだな」
カイはそう言ってレナの頬に触れた。落ち込んだ様子で、伏し目がちにレナは頷いた。
「私……本当はもっとちゃんとしたいんだけど……。あ、あなたが素敵すぎて、冷静でなんていられないっていうか……もう、何も考えられなくなるっていうかっ……」
レナが辛そうに話している内容を聞きながら、カイは吹き出しそうになっていた。
「また、新しい手法の愛の告白だな」
レナは、必死に伝えた内容でカイが笑っているのが不思議で、キョトンとしながらカイを見ていた。
そのうち、その頬に唇が当てられると、そっと目を閉じる。
抱きしめられながら顔に口付けを浴びると、少しずつ覚悟が生まれた。
(もしかして、今日……)
レナはその予感に、ぐっと目を瞑って身を委ねる。
(緊張する……………けど、大丈夫。だって私、カイのことが……)
恋人同士がする唇のキスも、その先の行為についても、レナはカイの求めるままに受け入れるつもりでいた。
一緒に暮らしている恋人が将来まで約束してくれているというのは、そういうことなのだろうと漠然とした理解をしている。
暗がりの中であれば、恥ずかしさにも勝てる気がした。
(……………?)
レナは急にカイの行為が止まったのが不思議で目を開けた。目の前でカイの目がこちらを見ている。
「俺も最近、レナは綺麗なんだなと、つくづく思う」
「え、ええ。って……ええ?」
「今日はもう寝るぞ」
「……………ええ」
「なんだ?」
「……別に」
カイはそっと腕枕をしてレナを抱えたが、レナの心中は複雑だった。
(薄々気付いてたけど、カイは別に私のことなんか求めてないんだわ……。そりゃ、私はそんなに大人っぽくも無いし、女性としての魅力があるわけでもないけど……。キスくらい……唇のキスくらいは……)
そんなことを考え始めたら途端に悲しくなった。
が、相変わらずカイの高めの体温が心地よくなり、レナはいつの間にか眠りに落ちていた。
「おい。相変わらず、あっさり寝てくれるな」
カイはすっかり寝息を立てているレナに言う。
身体の奥に点いた火が消えないでいるのをなんとか鎮めようと深呼吸をした。
「こういうところは、本当に悪女としか言えないな」
カイはそう言ってレナの寝顔をじっと見ながら、いつか覚えていろよとその無垢な寝顔に誓う。その後は、ひたすら天井を眺めていた。
気分転換がてら楽しんでもらえれば良いと思った温泉宿も、この元王女の場合は一筋縄ではいかない。
「……呆れてる?」
「いや?」
レナは、自分の姿の恥ずかしさに泣いていた。
まさかそんなことにそこまで傷つかれるとは思っていなかったため、カイは悪いことをしてしまった気分だ。
「カイが、せっかく誘ってくれたのに……」
「まあ、そもそも大衆浴場自体が初めてなら、仕方ないかもしれない」
「でも、2人きりで温泉に入れたのは、嬉しかったんだけど……」
「また、そういうことを……」
公王のアロイスがレナに恋をしたと口走ったのも、あながち分からなくもない、とカイは思った。
ブリステ公国は女性に王位や爵位の継承権がない。
そのためか、権力者の男性に物怖じしない強さを持った女性自体が珍しい。
レナの強さは王女として育った部分が大きいが、純粋さが際立ち、繊細な危うさが混じっている。
あの手の王は自然と惹かれてしまうのかもしれない。
2人は部屋に戻り、さて、と部屋の中を見回した。
到着した時には気付かなかったが、当たり前のように部屋の中央に鎮座するダブルベッド以外には、部屋用の蝋燭だけしかない部屋だった。
「こんな部屋だし、明日に備えて寝るか……」
「そ、そうね……お風呂に入って温まったことだし……」
2人は気まずさを抱えながらベッドに入ると、何となく距離を取ってお互い背を向けた。
「明日、カイが仕事をしている時、私はどうしているのがいい?」
レナが暗い部屋で向こうを向いたまま尋ねた。
「そうだな、特に何かやってもらうこともないし、好きにしてくれていて良いんだが……」
カイはそう言いながら、どうするのが良いのだろうかと悩んでいた。
「騎士団本部にいてもらう方が、何かと良いかもしれないな……。シンやサラがいるところで待っている方が、良くないか?」
カイが何気なく言ったのを、「なかなか、役に立てることって無いのね」とレナは残念そうに返した。
「そこを気負う必要はないからな」
カイが優しい口調で言ったので、レナはベッドの中で背中を向けているカイにしがみつき、「再会してからずっと、あなたが優しくて……私、感謝をしてもしきれないわ」と消え入りそうな声で言う。
「何か、あなたに返せることってない……?」
「もう、貸し借りを気にする間柄じゃないだろ。そんなことを考えるなら、次は浴室で泣いたりしないでくれればいい。見るなと言われながら泣かれるのは、なかなかキツイ」
レナは少なからず落ち込んだ。先ほど感じた自分への情けなさに追い打ちを掛けられた気分だ。
「はい……」
レナはしゅんとしながら、恥ずかしくて意気地がなくなる自分を変える方法は無いのだろうかと悲しくなる。
カイと出会ってから、レナは自分をうまくコントロールできなくなっているような気がした。
「そんなにしおらしくなるとは思わなかったな。気にし過ぎだろ」
カイは、公王のアロイスにですら啖呵を切るようなレナが、こんなことで落ち込んだり泣いたりするのが不思議で仕方がない。
背中に張り付いているレナの方を向いて、その顔を確認した。
「普段は気が強いのに、あんなことで泣くんだな」
カイはそう言ってレナの頬に触れた。落ち込んだ様子で、伏し目がちにレナは頷いた。
「私……本当はもっとちゃんとしたいんだけど……。あ、あなたが素敵すぎて、冷静でなんていられないっていうか……もう、何も考えられなくなるっていうかっ……」
レナが辛そうに話している内容を聞きながら、カイは吹き出しそうになっていた。
「また、新しい手法の愛の告白だな」
レナは、必死に伝えた内容でカイが笑っているのが不思議で、キョトンとしながらカイを見ていた。
そのうち、その頬に唇が当てられると、そっと目を閉じる。
抱きしめられながら顔に口付けを浴びると、少しずつ覚悟が生まれた。
(もしかして、今日……)
レナはその予感に、ぐっと目を瞑って身を委ねる。
(緊張する……………けど、大丈夫。だって私、カイのことが……)
恋人同士がする唇のキスも、その先の行為についても、レナはカイの求めるままに受け入れるつもりでいた。
一緒に暮らしている恋人が将来まで約束してくれているというのは、そういうことなのだろうと漠然とした理解をしている。
暗がりの中であれば、恥ずかしさにも勝てる気がした。
(……………?)
レナは急にカイの行為が止まったのが不思議で目を開けた。目の前でカイの目がこちらを見ている。
「俺も最近、レナは綺麗なんだなと、つくづく思う」
「え、ええ。って……ええ?」
「今日はもう寝るぞ」
「……………ええ」
「なんだ?」
「……別に」
カイはそっと腕枕をしてレナを抱えたが、レナの心中は複雑だった。
(薄々気付いてたけど、カイは別に私のことなんか求めてないんだわ……。そりゃ、私はそんなに大人っぽくも無いし、女性としての魅力があるわけでもないけど……。キスくらい……唇のキスくらいは……)
そんなことを考え始めたら途端に悲しくなった。
が、相変わらずカイの高めの体温が心地よくなり、レナはいつの間にか眠りに落ちていた。
「おい。相変わらず、あっさり寝てくれるな」
カイはすっかり寝息を立てているレナに言う。
身体の奥に点いた火が消えないでいるのをなんとか鎮めようと深呼吸をした。
「こういうところは、本当に悪女としか言えないな」
カイはそう言ってレナの寝顔をじっと見ながら、いつか覚えていろよとその無垢な寝顔に誓う。その後は、ひたすら天井を眺めていた。
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