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第7章 争いの種はやがて全てを巻き込んで行く

微妙なズレと同じモヤモヤ

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「今日は、マルセルのところに行く」
その日もカイのベッドで2人は朝を迎えた。窓辺には透明のグラスに短い茎のバラが2本、絡み合うように飾られている。

「それって・・駐屯地のこと? それとも、騎士団の方?」
「騎士団の本部だ。マルセルはポテンシアの戦況を確認しに、部下をポテンシアに派遣していた。今日はその報告を聞きに行く」
カイはそう言うと起き上がって早々に身支度を始め出す。

「私は・・?」
「いや、流石に・・ここにいて欲しいんだが・・?」
カイの言葉に、明らかに不満そうなレナがベッドからカイを睨んでいる。

「そんなに睨まれるようなことか? 集まるのはブリステ国内の騎士だけだ。レナが来て楽しい所でもなければ、同席者はむさくるしい男連中ばかりだぞ」
カイは諦めさせようとそんなこと言いながら、さっさと部屋を出て行こうとする。

「ほら観て、カイ。バラが2本よ?」
「・・・ああ、そうだな・・・」
レナは、飾られたバラを指差し、バラの持つ意味を使ってカイを説得しにかかってくる。

「そうやって、狙って人を惑わせることもできるのか」
「カイってそういう・・ちょっと間接的な方が好きなのかなと思ったのよ」
「ほう?」
「だっていつも、私がハッキリとカイに想いを伝えても、あんまり響いていないでしょ?」
「何でそういう結論になった・・」

やはり、レナは恐ろしく鈍い。レナの一言にいちいち翻弄され、自分を律しながら生活しているカイの姿は全く認識されていないらしい。

「響いていないわけがないだろうが」
「何よ、昨日の夜だって・・」
「いい、言うな。言わなくていい」

カイは慌ててレナの言葉を遮る。思い出すだけで恥ずかしかった。掘り起こされるなど耐えられない。

昨夜、舞台に刺激されたレナは急に不安になったらしい。レナはいつもよりカイに甘えたがった。
カイの庇護欲は普段以上に掻き立てられ、無性に安心させたくなった。だから、カイは優しく寄り添おうとしたのだ。それが、あろうことかレナの無意識の発言に煽られた。
レナの言葉をそのまま受け入れていたら、カイは間違いを犯していたに違いない。

「・・とにかく。甘えられても口説かれても、要望を聞く気はない。今日はここで待っていてくれ。あと、昨日のあれは響いてなかったんじゃない。誰かがものすごいことを口走るから反応に困っただけだ」
カイはそう言ってレナを自分の部屋に戻らせる。レナは口を尖らせて不満そうにしていた。ここまで分かり合えないか、とカイは朝から頭が痛い。

『赤いバラ1本は、あなた以外愛せない・・。それが2人分・・バラ2本は、この世界にふたりきり、だったわね。ねえ、ここが私とあなたしかいない世界だと思って、私だけを愛してくれる?』

カイは夜に言われた言葉を思い出し、赤面した。不安な目をするレナを思い切り甘やかそうとしたタイミングで、完全に不意打ちだった。あの問いに対する正解は何だったのだろう。あの状況で冷静でいられる者がいたら拝んでみたいものだ。

(世界にふたりきり、か。そんなことが仮にあったら、殆どの悩みはなくなるな)
カイは、レナが無意識に誘惑するようなことを口走っていても、それは言い方を誤っているだけで不安定な世界情勢に対する問いなのだろうと思っていた。だから、軽率な行動には及ぶまいと自分を律している。

実際のところ、当のレナは単なるキス待ちだった。カイの考えているような深い含みなどは、全くない。
あんな手紙まで寄越しておいて、愛しているとまで明言しておいて、行動に出してもらえていない気がして寂しかっただけだ。
狙って誘惑じみた言い方をした意識もあり、それに全く反応をしなかったカイにショックを受けた。実際のカイは動揺のあまり固まっていただけだったのに、鈍すぎるが故に察せない。

結局のところ、2人は同じような気持ちを持て余している。
恋人同士になっても、気持ちが同じでも、すれ違うことは大いにあるらしい。
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