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第7章 争いの種はやがて全てを巻き込んで行く

戦況の変化

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「どうやら、ルイス王子の抱える兵にリブニケの呪術師がいるね・・ブリステ公国の兵士を呪いで操ったかもしれない」

ロキは報告書を読みながらレナの表情を窺った。ブリステの兵士、と言ってもカイがその中にいるかは分からないが、恐らくカイの近い場所で起きていることなのだろうと想像がつく。すぐにでも駆け付けたいと言い出すのだろうとロキはレナが口を開くのを待っていた。

「結局、ルイス様はリブニケ王国の兵がブリステに攻め込むのを認めているのね」
レナはそう言うと、あのルイスがそんな判断をしたことに何か思うところがあるようだった。

「ルリアーナに居た頃は全然分からなかったけど、ルイス王子はかなり残虐な性格らしいね。まあ、結婚しなくて良かったんじゃない? それにしても・・団長が心配だって言うと思ったんだけど」

ロキは取り乱されるつもりで構えていたが、レナは意外に冷静だった。

「心配なのはずっとよ。でも、本当に心配なのは・・カイが人を殺めなきゃいけないことだから」
「あの人の仕事って、それが普通だけどね。まあ、確かに血は嫌いみたいだけど」
「能力として向いているとしても、本質は向いていないのよ」
「本質ねえ。戦場で目の当たりにしたら、そんなこと言えないと思うけどな・・」

ロキの知るカイは、戦いに選ばれたような男だ。長い手足は誰よりも速く動き、特殊能力が他人の攻撃を許さない。その姿は人間以外の何かを思わせる程だった。
カイを戦場で見ると、ひとりだけ返り血すら浴びずに傷ひとつ作らず立つ姿に、悪魔か死神の類が現れたと思う者が多いらしい。例え味方であっても、その姿を初めて見る者はその恐ろしさに震え上がる。

「カイは、戦場にいるところを私に見せたくなさそうだった」
「だろうね。あれはかなりトラウマになるんじゃないかなあ。一度見たら忘れられないと思うよ。夢にもみるかも」

ロキは脅かすように大袈裟に言っているようだが、半分以上本気だった。ロキは初めてカイの戦う姿を見た日、夢に見てうなされたのだ。

「相手がカイなのに、トラウマなんかにならないわ」
「あんたは知らないんだよ。殺人の現場における圧倒的な強さは、恐怖と絶望を纏う」
ロキはそう言ってレナをじっと見ると、あの姿を見せたら愛情も冷めるのだろうかと興味が沸いた。

「まあ、百聞は一見に如かずか」
「そんなこと言って、なかなかカイの情報は入ってこないみたいだけど」

レナがロキの元に身を寄せて1週間が経過し、レナは距離が近付いているロキのことも、会えないでいるカイのことも気になっていた。オーディスとは定期的に連絡を取っているが、カイからの一報はまだない。

「この情報で分かったことがあるだろ。ブリステ兵はリブニケ兵とポテンシアの地で争ってる。同時に、ルイス王子と国王の決着はつかないままだ」
「カイはリブニケ王国の兵と戦っているんでしょうね。その間もルイス様と国王は別で争っている・・」
「なんでわざわざ、ルイス王子は兵を分散させてまで、リブニケ兵をブリステうちと戦わせているのか、気になるよね」
「ブリステ人相手なら、リブニケの呪術が通用するからかしらね・・。ポテンシアの近衛兵は、呪いが効かない兵士が揃っているらしいから。精神を乗っ取れば、内部から殲滅させることだって、自分たちの都合の良い兵に加えることだって、出来るわけだし・・」

レナはその仮説を口にして、ぞっとした。カイは「気」を乱す術を読めるらしいが、周りの味方が操られていたら成す術はないのだろう。味方を手に掛けなければならない事態に、陥ってはいないのだろうか。

「私、そういう呪いに対してであれば、何かできるのに」
レナがポロっと口にした内容に、ロキは眉をひそめた。

「やだよ、そんなの。あんたがそんなことに使われるのは堪えられない」
「余計な犠牲を増やしたくないから、力を使うだけよ」
「それって、武力の一部になるってことじゃないか。どうしてそんな、自分を道具にするんだよ」

ロキは今迄で一番の拒絶反応をしていた。ロキも騎士の仕事をしているはずで、武力の一部になってきたのではないのかとレナは不思議がる。

「戦争のある国に生まれ育ったあなたでも、そんな風に思うのね」
「あんな世界に、あんたを置きたくないのは・・団長と同じ意見だ。権力者の武器になって消耗する人生なんて、どうかしてる」
「だから、ロキは商売で世界を変えるの?」
「そうだよ」

レナとロキは暫く見つめ合っていたが、レナが視線を逸らす。

「それを有言実行するのは、すごいと思うわ」
ポツリと呟くと、レナは部屋を出て行こうとした。

「世界の変え方はひとつじゃない。あんたには、こっちの方が向いてるよ」
レナの背中にロキが言い切る。

「分かってるわ。私が農業国で働いてきたことは、ロキの商売と相性もいいんでしょうね。でも、向いていなくても願うのは、あの人の隣だから」
レナは振り向いてロキにハッキリと告げ、部屋を後にした。
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