亡国の王女は世界を歌う ―アメイジング・ナイト2—

碧井夢夏

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第7章 争いの種はやがて全てを巻き込んで行く

狡くなれない

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ロキとレナがライト商事の本社を出て行ったのを、秘書のカミラと営業部長のデニスが庭からじっと眺めていた。

「なんで社長は、よりによってカイ・ハウザーの恋人なんか好きになったんだろうな」
「結局、カイ・ハウザーのところへ送り届けるんだから、諦めているようなものなんでしょ」
「いや、あの社長は諦めが悪いぜ」

最後のデニスの一言に、カミラが明らかに苛ついていた。デニスはそれに気づいていたが、まあ事実なんだから仕方ないだろと意に介していない。

すぐに戻ると言って出発したが、ポテンシアでの自国軍の戦況が思わしくなさそうなのは、独自の調査で明らかになってきていた。社員たちは、ロキに何かあってはまずいとあらゆる対策を講じている。

結局、ハウザー騎士団の何名かをライト商事が雇い、ロキの護衛に当たらせるなどして厳重な体制を敷いた。

「うちって、ハウザー騎士団から社長が受け取ってる額の、何倍くらい支払ってんの?」
「それ、計算したら負けよ。10倍じゃ利かないわ」
「団長って金の亡者なんだったっけ?」

そんな噂話をしながら、2人は自分の持ち場に帰っていく。ロキがカイにいいように利用された挙句、好きな女性まで奪われたのではないかと疑っていた。

 *

レナは、ロキと共に馬車に揺られてポテンシア国境付近の駐屯地を目指していた。

「多分、2時間もかからずに着ける。団長も夜には戻って来るはずだから、今日はひとまず駐屯地から離れずにいるよ」
「ありがとう、ロキ」

ロキの本社と駐屯地は比較的近い。もうすぐカイのいる場所に着けるという気持ちからか、レナはいつになくそわそわとしているようだった。

「一応参考程度に教えて欲しいんだけど、団長って2人きりのときってどんな感じなの?」
「それ、なんでみんな聞きたがるのかしら?」
「あ、シンも気にしてた?」
「リリスさんが・・」
「うわ、あの女と被った」

ロキが嫌そうな顔を隠さないのを見ながら、レナは、
「カイは、2人の時も、みんなと一緒の時も、特に何も変わらないわよ」
と笑った。

「そんなの信じらんないよ。あの団長、相当硬いのに」
「え? そんなに硬い?」
「ほら、みんなと一緒の時ってのがもう違うんだろ・・あんたもいるからだろ、そこに。普段は笑顔すら大して見せないからな。せいぜい、口角が上がるくらいだよ」

ロキがそう言った瞬間、レナの顔がみるみる赤くなっていく。

(あ、しまった。これ・・敵に塩を送るってやつ)

ロキは気付いて後悔した。どうもレナは、カイの態度が常に変わらないことに何かしら思うところがあったらしい。

「そう・・なの・・? カイ、いつも笑ってるわ・・」
レナがそう言いながら何かに気付いたのを、ロキは苦々しく見ることしかできなかった。

(あの悪魔や死神にしか例えられないブリステきっての鬼団長が、いつも笑っていると来たか)

ロキは悔しくて、つい馬車の窓から外を見た。風景から目を離さずに、ついでに聞きたくないことを聞いてしまおうと思う。

「で? あんたは団長と2人きりだと、何か変わるの?」
「変わってるつもりなんだけど・・うまく行ってないかしらね」
「一応聞いておこうかな・・何がどう、うまく行ってないのか・・」
「全然うまく誘惑できなくて」
「・・あーそれ、聞かなかったことにしようかなー・・」

ロキは、自分の心が抉られた音を聞いた気がした。レナのようなタイプが、一生懸命誘惑をしようとするとは、どんな状況なのか。はらわたが煮えくりかえる。

「参考程度に教えて欲しいんだけど、なんでカイに誘惑してもはぐらかされるんだと思う?」
レナが純粋にロキに尋ねたのを、
「じゃあ、今それ再現してもらってもいい?」
とロキが興味本位で知りたがったが、レナは首を横に振った。

「団長がどんな反応なのか知らないけど、そんな羨ましい状況、何かの罠でも喜んでかかるよ」
ロキは呆れたように言い放つ。

「私に魅力が足りないだけだと思う」
レナは思いつめた様子でそう言った。

「飛躍したね。魅力が足りないなら、そもそも付き合ってないんじゃない?」
「・・そういうもの?」
「いや、そりゃ、そういうものだよね・・」

ロキはレナの考えに唖然としながら、当たり前のように言った。カイは不器用な男だが、まさかそんな基本的なところが彼女に伝わっていないとは、2人はちゃんと付き合えているのだろうかと疑ってしまう。

「まあ、気になることは本人に直接聞いてやれよ。あの男は・・まあ、誠実だからさ」

ロキは溜息まじりにそう言って、また外を眺めた。こう何度も敵に塩を送ってどうするのか、と馬鹿馬鹿しくなりながらも、レナが思い悩んでいるのは見当違いに違いないことは分かっていた。

ロキにとってカイは、自分の知る範囲では誰よりも信頼の置ける誠実な男で、そこだけは親友として高く評価していたからだ。
レナはロキの言葉に黙って頷き、同じように外の景色を眺めていた。
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