亡国の王女は世界を歌う ―アメイジング・ナイト2—

碧井夢夏

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第8章 戦場に咲く一輪の花

かわいいヒト

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朝、兵士たちは駐屯地脇にある川に連れ立って入り、身を綺麗にしていた。若い男が数人集まれば、それなりに騒がしくふざけ合う者も現れ、朝から賑やかな声が周囲に響く。

「・・朝っぱらからうるさい奴らだな・・」

カイはまだ眠い目をゆっくり開き、隣にある顔に視線を移した。レナはまだ夢の中だ。レナはカイの腕に頭を載せ、静かな寝息を立てていた。

顔の半分以上が髪で隠れていたのでカイは髪を後ろに避けると、その瞼に軽く唇を当てる。

思いがけず、カイはレナと過ごしている。こんなところにレナを連れてきたくなかったはずが、結局一緒にいればどんなところでも嬉しいのだ。そして、あっという間に兵の役に立ったレナを、改めて尊敬した。

(人の上に立つ器は、隠しても隠し通せるものではないのかもしれない)

ロキがレナのために動き、レナは兵士のために歌を歌って呪いを消したらしい。やはり、レナには常人を逸した何かがある。能力の問題ではなく、人を動かす器と覚悟が、その辺の人間とは一線を画している。

眠っているレナの穏やかな顔が、時折へにゃりと顔を崩して笑ったので、何かいい夢でもみているのだろうかとカイはその顔をじっと観察していた。

(かわいい、とは、こういうものを見ている時に使う言葉だろうか?)

カイは、人生において『かわいい』という言葉を使用したことがない。何が『かわいい』のかもさっぱり分からなかった。部下のシンが女性相手に多用する言葉だが、それを使うとレナは喜ぶのだろうか。

レナが、ゆっくり目を開く。

「ん・・カイ? リンゴ・・煮詰めた? あれ、ハチミツは・・」
寝ぼけたレナの最初の一言に、カイは吹き出した。

「え・・?」

レナはまだ半分夢の中で、とろんとした顔で状況が分かっていないようだ。徐々に目が覚めていくと、レナは目の前のカイが笑っていることに戸惑う。

「『かわいい』な、レナは。そうか、これが『かわいい』なんだろうな」
「な、なによ・・そんな・・」

嬉しそうに笑っているカイに、レナは起き抜けの衝撃で、ひたすら照れて戸惑っている。その様子も、また『かわいい』のだとカイは嬉しかった。腕の中のレナを抱き寄せ、仰向けになった身体の上にレナを乗せる。

カイの胸の上でうつ伏せになったレナは、カイを見ながら顔を綻ばせた。

「あなたも、実は結構かわいいのよ、カイ」
「言われたことがないな。それは、良い事なのか?」
「かわいいカイを見ると、胸に抱きしめたくなるの」
「・・それは良い事かもしれないな」

「おはようございますー!」

その時、2人の横、テントの入口が勢いよく開かれた。

「あっ・・」

明らかに、不味いタイミングだったと開いた兵士は気付く。レナが仰向けになったカイの上に乗っているし、2人はその体制で見つめ合っていた。

無言で入口がそっと閉じられる。

「貴様・・なんだその反応は・・」

テントの内側から、鬼の出す低い声が外に漏れていた。
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